ヴェリエールはアドレイドを見て距離を取った。それから肩をすくめて笑った。
「なーに? あんたも裏切るわけ? 四天王の3人が聖天使側につくなんて……笑えない話ね」
アドレイドと名乗った女性は静かに返す。巨大なハルバードを包む禍々しい魔力とは裏腹に穏やかさを感じる。
「ここを任せられているのは私でござるな。お前の出る幕はない」
「相変わらず変なしゃべり方……まあ」
心底バカにしたような顔でヴェリエールが笑った。
「醜い化物が本性なら仕方ないかな」
「…………。稚拙な挑発はやめるのだな。いずれにせよ、魔王様を裏切ることなどありえない。私はこの地にいる人間たちを支配して、それを邪魔するなら聖天使を倒すだけでござる」
「まあ……いいわ。聖天使にあんた、あとおまけでファルブラウと戦って怪我でもしたら面白くないもの。ここは退いてあげる、ねえ、聖天使『様』」
俺にヴェリエールが声をかけてきた俺はなんといって反応していいのかわからない。だけど彼女はそんなことはお構いなし話をしてきた。
「もうすぐこの世界の人間たちは滅びるわ。もしも止めたかったら早くやってくることね。その時は今度こそ本気で戦ってあげる。真の姿でね……ああ、そうそう。ファルブラウが竜の化身のようにそこのアドレイドも人間じゃないわ。間違えないようにね」
それじゃあばいばい、と手をぐーぱーしてヴェリエールの姿が闇に消えていく。それを見て俺ははあと思わず息を吐いた。緊張がゆるんだからか、ふらっと倒れそうになる。
「大丈夫でござるか」
俺をアドレイドが抱きかかえてくれる。この人本当に四天王なのだろうか。俺は流れるように変身が解けて裸になった。変身の限界がここできたのだ。このタイミングで来る?
「…………あの、服を着るでござるよ」
…………はいぃ。
☆
アドレイドの案内でファルブラウとラムを街に連れていくことになった。
この街は学園都市シャルトルというらしい。
王都をはじめ各地から来た学生たちが勉強をしてる場所ってことだ。街全体が学生街みたいなものだって。そこにある学園にアドレイドは俺たちを招きいれてくれた。
大きな尖塔のある赤レンガの校舎。
へー学園ものかぁって思った。そのあと自分の頭を抱えた。学園ものってなんだよ。
学園は赤レンガでできている。大勢の生徒がいる。俺はそこの女生徒の征服を借りた。紺のブレザーのような服装に膝まであるスカート。それに胸元に赤いネクタイ。すごい学生の様だ! 女の子の制服を着て俺は鏡の前でスカートの端をつまんでみたりする。
何やってんだ俺は! 最近心が女の子に汚染されていないか!? 元に戻らんとほんとひどいことになる気がする。
アドレイドから借りた部屋にはベッドが2つある、ラムがそのひとつで膝を抱えて座っている。なんか元気がないな……。もうひとつのベッドには包帯を頭に巻いたファルブラウが寝ている。
「……それにしてもアドレイドはなんでこんなところにいるんだろう」
「……」
ラムに聞いてみるけど返事がない。空気が重いな。どうすればいいんだろうか。あとベッドが占領されているから俺がいる場所がない。だけどヴェリエールがいきなり襲ってきて、人間が滅ぶとか言われても……。どうすればいいんだろうか。
「ちょっと散歩してくる」
俺はそう言って部屋を出た。学園の中は広い。大勢の生徒がいた。結構年齢にばらつきもあって大人もいる。先生かな? そういえば俺もこんなことになってなければ高校に通っていたんだよな……。
なんかいいにおいがする。そっち側にいってみると……大きな部屋に出た。奥に調理場のようなものが見えて大勢の生徒が食事をとっている。ここは学食!? へー、木製の長机に生徒たちが大勢座ってなんかパンとかスープとか食べてる。
そういえばお昼時なのかな。
「さっき、外で何があったんだろ」
「すごい光ってたよね」
学生たちの声を聴くと……俺たちの戦いはみられていたみたいだけど遠すぎてよくわからないみたいだった。そういえば俺もなんか変えるのだろうか。ポケットに手を入れてみたらほこりが出てきた。お金がない。
「変身するたびに持ち物が消し飛ぶのどうにかなんないかなぁ~」
全裸になるのも
ほんと!
まじで
めちゃくちゃ恥ずかしいから何とかしてほしい。そのせいで毎回違う服に着替えないといけなくなるし……。でも、変身のたびにいちいち自分で脱いでから『変身!』みたいなのもわけわからないし。
お金もないし、そんなことを考えながら散歩を続ける。立ち並ぶ教室を見ながら進むと今度は大きな図書室があった。吹き抜けの天井に2階建ての部屋には大きな本棚が立ち並んでいて、独特のにおいがする。
「本かぁ」
漫画ねぇかな。おお、活字ばっかり。よく眠れそう。
子供のころからあんまり本は読んでない。メロスが激怒したことくらいしか覚えてない。そのあと処刑されたんだっけか……?
そういえば旅の途中でなんとなくファルブラウにごんぎつねの話をしたらあいつ「ごん……」とか言ってたな。俺の語れる物語ってそれくらいしかない。あとは桃太郎とか……金太郎……いや金太郎は斧持って熊を退治した後何したか知らん。
「聖天使はやはり、本が好きでござるか?」
不意に声がした俺が振り返ると、片目に刀傷のあるアドレイドがいた。何度かすれ違った教員らしき人たちの制服の赤いローブを着ている。胸元には学園の紋章があった。
「いや……眺めていただけで」
「本を眺める……くく。どことなく知的な感じがあるでござるな」
ないんだよなぁ。
「……そういえばアドレイド……さん? さっきは助けてくれてありがとう」
「……助けたわけではござらん。私と君は敵同士なのだら気にすることはない」
「敵って」
「まあ、そういう建付けというものでござる」
アドレイドはふふと笑った。大人の女性のそんな表情にどきっとした。だけどすぐに彼女は俺を見た。
「少し話がしたいのでござるが良いだろうか?」
「……はい」
俺も話をしたいことが結構ある。聞きたいことも……ぐう~~。俺のおなかがなったぁ~。ひどい。俺の体、ひどい!
「く、くくく。まさかおなかの音で返事をするとは思わなかったでござるな。何か食べながら話をしよう。人目があるから何か買ってくるでござるよ」
うう。面目ない。