アドレイドについていくと、そこは中庭。
学園の中庭は様々な花に彩られていた。丁寧に手入れされた花壇には名前はわからないけど色んな色の花が植えられている。俺とアドレイドはその間に作られた道を歩く。彼女は手にバスケットを持っている。
「いいところでござろう? 学園の職員の中に花を愛でるものがいて……数年でこのようになったでござる」
「ふーん」
普通に綺麗だ。それにいいにおいがする。俺は屈んで花を見てみる。その姿をアドレイドが見ていた。
「やはり聖天使は乙女でござるな」
「なっ!」
俺は、
乙女ではない!!
しかしそんなことを言うのはおかしい。だから俺は余裕を持ってゆっくり立ち上がって言ってやった。
「生きとし生けるもの……すべてが愛おしいのです」
何言ってんだ俺は。
何言ってんだ俺は!
「ほう」
アドレイドもなんか感心するのをやめてくれ。こっぱずかしいコメントをしてしまって。俺は恥ずかしくてふんとそっぽを向いてしまう。
「まあ、一応我らは敵同士であるから」
アドレイドの後ろに花々が舞う。黒髪を一つにまとめた美人な彼女に不思議と似合う。俺と彼女は少し歩いて花壇の真ん中にあるガーデンハウスに入った。ガラスの覆われた建物だ。外の景色がみえるけど、中庭の真ん中だから話は聞こえないだろう。
「ガラス……」
「これも最新の技術を使ってなんとかとか言っていたのだが。とんと、私にはわからないでな。所詮オーク上がりの無学者には難しいものだ。はっはっは」
オーク? アドレイドの言葉に俺の反応の前にガーデンハウスにある木製のテーブルに着くように促した。そこに俺は座ると彼女も座った。
「サンドイッチを用意したでござるよ」
バスケットはそれか……! おなか減った……。
「ただ、その前に少し話をしたくて……聖天使殿。単刀直入に言おう。私を殺してくれ」
「……はぁ!?? な、なにを言うんですか!?」
「いきなりで驚いたかもしれない。でも、特に難しいことではない。私は魔王様に忠誠を誓う四天王の一人だ。もともと聖天使の敵でござるよ」
「……敵っていうか」
四天王が敵って言われても俺には何の恨みもない。はっきり言って魔王という人とも何にも恨みはない。アドレイドは俺のことを見ながら言った。
「まあ、話をしたいといったのはゆっくりとそのことを聞いてもらおうと思ったまでのこと。知っての通りこの世界が生まれて120年程度でござるが……」
「120年!?」
短っ! ま、まあ俺の年齢から比べたら長いけどそれがすさまじく短いとはいうことはわかる。逆にアドレイドが驚いている。
「し、知らなかったのでござるか? この世界である『ヴァルドランド』が生まれてその程度しか経っていないのでござる」
「で、でも街とか城とかいっぱいあるし、さすがに文明の発展とかに120年じゃ」
縄文時代とか弥生時代とか確かすごく長かったよな。それに比べたら異常なほどの成長スピードじゃないのか?
「文明の発展? 聖天使殿は難しい言葉を使うな。ははは。流石でござる。しかし、この世界の成り立ちを説明する方が速いかもしれぬ。私は120年前にこの世界にやってきたものでござるよ」
「120歳……?」
「そういわれるとおばあちゃんみたいでいやでござるが……。この世界は別の世界の迫害された者のために作られた世界だった、空っぽの世界に外からいろんな者がやってきたということでござるな。だから文明の発展という形というよりは、技術が入ってきた」
「……迫害?」
「うむ。私はもともとオークという種族の出身で、本来の姿は大きな巨大で豚のような顔の化物でござるよ。それを100年前くらいに魔王様に今の姿と力をもらったのでござる。本気を出せば今でも元の姿に戻ることが出来はする……まあ、ファルブラウとは逆でござるな」
「オーク……」
「私たちは120年前に別の世界で人間に滅ぼされかけたところをこの世界に受け入れてもらったのござる。この口調……少し変であろう?」
「あ、いやそんなことは」
「あははは、気を遣う必要はない。単に古い言い回しなのとこの姿になった時は流石に文字も書けぬ言葉もわからぬではと必死に勉強したら妙な訛りになっただけでござるよ。……この世界には私たち以外にも多くのものが来た。別々の世界から、竜も吸血鬼も……負けた人間たちもやってきた。聖天使殿。負けた者たちがそれぞれ集まったらどうなると思う?」
「どうなる……といわれても」
「簡単でござるよ。その中で新たな支配者をめぐって戦いが起こるだけでござる。そうして魔物や人間が争う今の世界になったのでござる。私も多くの戦場を駆けた、人間を憎みもした……さて。本題でござる」
アドレイドは柔らかく笑った。
「私は人間を好きになってしまったのでござる」
その言葉がすごく優しくて俺は彼女の顔を見て固まってしまう。
「この学園に入ったのはいずれ現れる魔王様を打倒する『勇者』を見つけ出してむしろ魔王様のために戦うために指導すること。あるいは別に未来有望な若者たちを操るためであった」
アドレイドは花畑を見ながら言う。少し寂しそうだった。
「最初はその気があった。だが、子供たちが競い合うこと、学び合うことを見ているとだんだんと愛おしいと思ってしまった……子供は……人間は本当にいろんな表情を見せる。泣いたり、笑ったり、怒ったり。時にはむしろこの私が激怒したこともあるが……それでも子供達がかわいいと思うのは間違いない」
アドレイドは俺を見た。
「しかし、魔王様を裏切るわけにもいかぬ。だからこそ私は使命を果たし、聖天使を倒さねばならぬ。そして聖天使に負けてしまった時は仕方がない……死力を尽くしても倒せぬ時は、子供たちは残る」
ふふふとアドレイドは笑った。
「さて、年寄りの長話はここらにしておこう。そろそろサンドイッチを食べるでござるよ。……聖天使セナ。私とはどうせ戦わないといけない。魔王様も軍勢を率いて戦争をするならどうしても私も参加することになる。その前に……少し考えていてほしいのでござる」
…………俺には言葉がなかった。
そもそもこの世界にやってきて、この世界がどういう成り立ちなのかなんて思いも至らなかったし。興味がないというより発想がなかった気がする。だけどこの優し気な女性……俺から見たらおばあちゃんってことだよな。
「そ、そういえばファルブラウ達も結構歳……?」
その言葉にきょとんとした顔でアドレイド見てきた、そしてあっはっはと笑った。
「あの子たちは子供でござるよ。私と魔王様が最古参なだけでござるな」
「そ、そう」
なんとなくほっとしてしまった。で、でもこんな重要話を聞いてそこから気になった俺が自分がどうしようもなく子供だって思った。
「さあさ、年寄りはな。若者が食べているのを見るのが好きでござる。どうやら聖天使殿もお若いのではないか? おいくつかな」
「……16……」
「……え?……思ったより若い。そう……か」
アドレイドは俺の傍によってきて頭に手を載せた。そのままよしよしとなでてくれる。
「いろいろと大変な役目ではあるが、頑張るでござるよ」