アドレイドの話を聞いて俺は学園のベンチに座って考えていた。この世界にやってきて正直わけのわからないままいろんなことがあった。正直にいって楽しいことも多くあった。
アドレイドをころ……いや、あんまり物騒な言葉は使いたくない。あんなにいい人そうなのに……魔王と戦うといっても全然実感もない。そういえば王様を助けにいかないといけないって話でここに来ただけだった。
「はぁ」
悩ましい。両腕で頬杖をつきながら俺はぼんやりと座っている。
「ここにいたか」
どんと横に誰か座ってきた。見れば赤の髪、赤い瞳の少女。褐色の肌をしたファルブラウだった。探していたんだろうか。
「あ、起きられるようになったんだ。頭大丈夫?」
「当然だ。我は無敵だからな」
「ある意味無敵だよね」
いつも元気。俺なんて少しブルーなのに……。それにしてもどうすればいいんだろうか。
「何を考えている」
「……ファルブラウは人間のことをどう思っているの?」
「弱い」
「いや、そうじゃなくて。戦いたいとかそういうのあるの?」
「ない」
すごい端的に答えてくるなこいつ……。面接とか好かれる人には好かれそう。
「じゃあ、魔王が今攻めてくるって話があるけど……ファルブラウはどうするの?」
「どうもこうもない」
ファルブラウは立ちあがった。旅の中でボロボロになったコートをはたきながら彼女は言う。
「我は我の思うように行動する。魔王とは仲良しだから手伝うかもしれないが、我はお前の友達でもあるから聖天使のことも考えてやる」
う、うーん。なんかふわっとしている気もするけど、ファルブラウらしいといえばらしい。俺を友達って言ってくれるのは普通に嬉しいかも。
「それより我の用事だ」
「うん?」
「我がヴェリエールに後れを取ったのは我の力が中途半端にしか戻らなかったためだ」
「うん」
「だから、完全な力を取り戻せばヴェリエールごときこてんぱんよ……」
こてんぱんって言い方が少しかわいいな……。
「そこでだ聖天使。我の力を取り戻すためにお前の力をくれ」
「……うんうん……うん?」
「数秒だけ力をもらおうとするから中途半端なのだ……力を取り戻すまでお前から力をもらえば、我は無敵だ!!」
ふふんという顔をしているファルブラウが腰に手を当てて胸を逸らす。
「それってつまり」
……こいつが力を取り戻す時俺とキスをする。力を取り戻すまでキスをするって話になる……、つまり数分か数十分キスをし続けるって話か?
ファルブラウの唇の感触を思い出す。柔らかいって……思った瞬間、頭の中がぽんとなって顔が熱くなる。
俺は逃げ出した。
「待て! 聖天使!!」
ファルブラウが追ってくる。追ってこないで!
「その理屈はおかしいですよ~!!」
なんか涙が出てきた。俺は逃げる! 後ろから追ってくる竜の少女に捕まったら俺の、俺の貞操が危ない!
学園内を逃げ回る。廊下を走り回り、教室に突入しては出るを繰り返す。
だけどファルブラウは全然あきらめない。はあはあ、ぜえぜえ。普通にわき腹が痛い。持久走とか俺苦手、苦手なんですよ。
学生たちも俺たちの追いかけっこに注目している。見慣れない金髪の少女を追い回す歯のギザギザしたファルブラウ。すごい珍しいだろうな。何人かは追いかけてくるし。
そうだ図書館だ! ファルブラウは本とか読まなそうだからきっと撒けるぞ! よく考えたら変な理屈かもしれないけど、掴まるわけにはいかない。
そう思って俺は廊下を急カーブする。
わっ、女子生徒がいる。グリーンの瞳を大きく見開いたおさげの少女だ。ぶつかるわけにはいかない! 桃色の髪をしたかわいらしい女の子に激突しないように俺は必死に止まる。そのままの勢いでその少女を抱きしめた。
何やってんだ俺は。わ、わぁ、ごめん。壁際だったから俺は少女を壁に押し付けるような形になって、手を突くと壁ドンしてるみたいな構図になった。なんで、なんでこうなったんだ。
「だ、大丈夫? けがはない?」
「は、あい」
あいってすごい混乱している。この子すごく柔らかかった……。
「待て!! 聖天使!!」
やばい、奴が来る!!
「ほんとごめんね!」
俺はそれだけ言って走り始める。ほんとごめん今は俺は捕まるわけには絶対いかないんだ。ずっとファルブラウとキスをし続けるとか考えるだけでとてもじゃないけど恥ずかしすぎて死ぬ。
図書室のドアが見えた! 俺はそこを開いて中に入る。本棚の間に身を隠した、中の生徒たちが何事かと俺を見るけどすぐに『奴』は来た。まるでホラー映画だ。
本棚の間に身を隠す。
「どこだぁ~聖天使ぃ~」
声だけして怖い。本棚の間を抜けて俺は移動する。ちらりと見ればファルブラウは一般生徒の胸倉をつかんで尋問してる。何してんの!? 仮にも四天王でしょ!?
くっ。だけど許してほしい。俺は見つかればすごいことになるんだから……。あ! あの生徒俺の方を指さしてやがる! 裏切り者!!! 誰か知らんけどさ!!!
「そこかぁ~」
目が紅く光って怖いよおまえ。俺は慌てて逃げ出そうとする。
「にがすかぁ~!!」
うげぇ! 厚めの本を投げてきやがった、すこーんと頭に直撃する。イてぇ~、勢い余って仰向きに倒れた。お、起き上がらないと。と思った瞬間に体重を感じた。俺の上にファルブラウがのしかかってきた。
「何で逃げるのだ。お前」
俺を見下ろすファルブラウ。
「だ、誰だって逃げるでしょ!?」
「我はただお前の力を分けてもらおうとしているだけだ」
「方法が問題なんですよ!」
「ほうほう? ああ、なんだ」
「わ、わかってくれるの?」
「目をつぶっていろ」
「そ、そんなセリフを望んでたんじゃない~」
わあ、両手首をつかんできた! や、やめろぉ。逃げられない。
「そ、そこまでです!」
声がした。みれば図書室の入り口にあの桃色の髪の少女が立っている。
「が、学園内で暴れるのは許可できません! 勇者であるアイリス・ナージ・ヴァルトがは、破廉恥なのは許しませんよ」
勇者? さっきアドレイドの言ってた……。ファルブラウもそっちを見ている。いまだ! 体を起こして立ち上がろうとして普通に抑え込まれた、お、おれ力ない~。通常状態ならスライムにすら負けるからなぁ。
「や、やめなさい!」
アイリスがたたたっと走ってくる。そして足を滑らせてこけて、俺に頭突きをするような形で倒れこんでくる! ひええ!!で、でも避けたらあの子が頭から地面に~。
その瞬間俺の唇に何かが当たった気がした、柔らかいそれはファルブラウのものじゃない。俺の目の前に大きく見開かれたグリーンの瞳。すぐに彼女は体を離して俺にびんたした。
ふげぇ! いたい、のうがぐわんぐわんする~。……意識がぁ。