美少女聖天使、俺   作:ほりぃー

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VS 馬車

 

 

 村の中央にみんなを集めて、必死に俺は訴えた。

 

「もちろん私は皆さんのために生贄になる覚悟です。……しかし! 考えてみてください。私が死んでも、次の生贄を求められたらどうするのですか?」

 

 生贄になんかなりたくねぇ! それ以外本音はない。ぺらぺらと口から出まかせがとそれっぽいことが出る。俺はこういう才能があるのかもしれない。

 

 村人たちはお互いに顔を見あって頷いている。俺は必死だ。この説得が失敗したら竜のご飯として出されることになる。怖い。涙が出てくる。俺は両の掌を組み合わせて祈るようにポーズをする。

 

「今戦わないで、いつ戦うのですか? 今で……。今こそ立ち上がる時です!」

 

 今でしょって言いそうになった……。しかし、村人たちはまだ不安そうだ。俺はそれに言った。

 

「私には策があります。まず――」

 

 ――そんな感じでなんとか村人を説得した俺。

 

  正直いって死ぬかもしれない……。

 

 さっき死んだらしいけど、今度は竜に喰われて死ぬかもしれない。うう、なんで俺がこんな目に。女の子にされたのもおかしい……。

 

 村人達に案内されて小屋に入ると俺はさすがに床に手をついて嘆いた。自分のものとは思えないほどきれいな金髪と妙にいいにおいがするのがすごい……こう、複雑なんだけど……。

 

「はあ、とりあえず風呂に入ろう」

 

 私は、あ、いや、俺は立ち上がって腰に手をついてはあぁあと息を吐く。

 

 これから俺は竜の生贄にされる。言葉にするとわけわからんくらい理不尽だ。だけど俺は死ぬ気はない。ついさっきまで竜を退治する秘策を村の真ん中で演説した。秘策っていうか、昔話のやつで知っていることを言っただけだ。うまくいくかなんて知らん。うまくいかないなら逃げる。

 

 ただ、形だけでも生贄のふりをする必要がある……身を清めるために小屋の中に用意された大きな風呂。脱衣所の先、布で仕切られた奥から湯気が立っているのが見える。……ちゃっちゃっと入って……。

 

 いやまて。

 

 俺は止まった。

 

 自分の体。女の子の体になっている。

 

「……」

 

 俺はハーフパンツに手をかけて。固まった。細いふとももがふるふると震えているのが見える。自分のものとは思えないくらい白い脚。

 

「……」

 

 考えないようにしたけど、この中どうなっているんだ。

 

 顔が熱くなっていくのを感じる。唇をかんで、手をハーフパンツから離して、その場でぐるぐる歩く。

 

「いやいやいや、だって別に。でも、いや。おかしい。俺の体だし、でも、えっと」

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

☆☆

 

 両手で顔を抑えたまま小屋から出た。

 

「どうしたのんですか? 耳まで赤くなって。のぼせたんですか天使様」

「…………」

 

 村のおばさんがなんか聞いてきたけど、俺は恥ずかしなってたたたと逃げる。いや。お前らにはわからないだろぉ……。この気持ち。

 

 はあはあ。走ったら汗をかいてしまう。とりあえず息を整える。すると遠くから声がした。見れば村長だ。

 

「天使セナ様、馬車の用意ができました」

「ああ、ありがとうございます」

 

 にこりと笑う。こいつらに裏切られると俺は死ぬから機嫌を取る行為が勝手に体を動かす。村長は顔を赤くしている。やめてくれ。

 

「しかし、天使様。さっきのお話の通り村にあるありったけのあれも用意しました」

「……わかりました。私はきっと皆さまを救って見せます」

 

 なんか自然と私って言ってしまう。これはあれだよ。学校の先生には「俺」じゃなくて「僕」とかいうだろ? それと一緒。一緒だからな!

 

 村長はうるうると感動した瞳で俺を見る。俺はなんとなく祈るように手のひらを合わせる。

 

「神の御加護がありますように」

 

 何言ってんだ俺は。

 

 村長も一緒に祈り始める。二人で一緒になにかしらに祈る。俺は気まずくなり、にこっと笑って一歩下がった。

 

「なんと優しい顔をなされるのか、まさにセナ様は天使なのですね」

 

 こいつなんでもいいように解釈するなぁ……。ちょろいんじゃないか?

 

「ああ、そうだ。セナ様これを」

「これは?」

 

 村長は青い小さなビンを俺に渡してきた。そこには何か水が入っている……。

 

「これは村に伝わる秘薬ですぞ。体の痛みを和らげる効果のある魔法の飲み物ですぞ」

「へえ」

 

 魔法! そっかここは異世界だもんな。痛みを和らげるってことは防御力が上がるってことかな。

 

「飲んでもいいですか?」

「どうぞどうぞ。それは……」

 

 ビンを開けておれはグイっと飲み干す。普通に甘くておいしい。薬っていうから苦いのかと思った。俺は唇についた残りもぺろっと舌で舐める。

 

「それは村に伝わる媚薬ですじゃ」

「……へぁ?」

「痛みをできるだけ気持ちよく和らげる薬はこれくらいしかなくて……普通は少しだけ飲むのですが……」

 

 あ、

 

 あ

 

 あ

 

 

 ああ

 

 頭おかしいのかくそ爺! 全部飲んだぞ!! 

 

「な、なんでこんなものを」

「許してくだされセナ様」

 

 そういうとじじいがはいつくばって謝罪をし始めた。

 

「村の者たちはみなセナ様に協力するといっておるが、竜を怒らせるわけにはいきません。その薬を飲んだ上はセナ様はまともには動けませぬ。ここは潔く生贄に……」

 

 う、うおおおお! こいつ全然ちょろくない!! 一番俺の命を狙ってやがった!!

 

「はあはあはへぇ」

 

 心なしか体が熱くなってきた。くそ、ま、負けるか。俺は村長に言う。

 

「わ、私は負けません」

 

 なんか負けそうなことを言ってしまう。

 

「皆さんのためです」

 

 俺の命のためだ! 

 

 俺は村長の横を歩いて去る。村長の爺が振り返った。

 

「私を責めないのですがセナ様」

 

 俺は振り返らない。服がこすれる感じがするから。

 

「村のことを思う気持ちはわかりました。私もあなたの立場なら同じことをしたかもしれません……」

 

 いや、やっぱりねぇわ。村を救ってくれる女の子に媚薬を飲ませることはしねぇわ。じじいのオリジナルだよ。

 

「セナ様ぁ。ふぐうぅ、私はなんてことぉ。なんと愚かなことを」

 

 感動しているところ悪いけど……愚か……ほんとだよ。ほんとにそうだよ!!

 

 

 北の廃城に竜はいる。そこまで馬車に乗っていくことになった。

 

 俺とそしていろんな供え物を満載した馬車が街道を進む。馬がゆっくりと進み、いい天気だ。俺は白いケープを頭にかぶせてもらった。

 

 がたんがたん。馬車が揺れる。

 

「ひっ、ひぃ」

 

 声が出そうになる。場所を操る村人に声を聴かせるわけにはいかないぃ。

 

 な、なんで俺がこんな目にぃ。

 

 竜の前に馬車に負けそうになるなんておかしいだろぉ

 

 

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