どうすればいいのかわからない!
いろいろと考えてたらもう夜になった。
アドレイドに最初にあてがわれた部屋に戻ってきた。ファルブラウといちど学食でご飯を食べながら考えたけどそれでも全然いい考えが浮かばない。
俺っていつもなんかすごい物事にいきなり叩き込まれている気がする。
それに……う~。俺を子供と思って説明されてない気もする。でも……ううーー。戦うってことになりそうな気もするけど……。でもファルブラウもラムも戦ったけど、結局なんか友達になれたし……アドレイドだって。
はっ!
俺は気が付いた。部屋のドアを慌てて開ける。
「お、おなか減った」
ベッドの上でぬいぐるみを抱いて唸っているラムがいた。わ、忘れていた。青い髪の彼女は俺を恨めし気に見てくる。
「か帰ってきた!! ……このぼ、僕を……忘れていたでしょ」
「そそそそそんなことないよね! ファルブラウ」
「んあ?」
ファルブラウはおなかをなでながらふぁああと欠伸をした。
「忘れたことなどない。……ねむ」
「ぜぇええたいうそでしょ!!!!」
ラムが起き上がった。髪に片目が隠れてている。右手でぬいぐるみを抱いて、左手で俺を指さす! ファルブラウはもぞもぞとベッドに入っていく。
「僕はこの部屋で一人でいたんだよ! おなか減った!」
「ううう」
その時ラムがはっとした顔をする。俺とファルブラウを見る。
「あんたたち、まさか僕を放っておいて食事してきたんじゃないよね?」
「まままままさか」
「目が泳いでんだよ! 聖天使!!」
ラムが立ち上がって俺をぽかぽか殴ってくる。俺は部屋を逃げまどう。ごめん~。いろいろあって本当に忘れていたんだって。ああ、ぬいぐるみでぼふぼふしてこないでぇ。
「僕がこんなにさびし……暇しているって言うのにあんたら帰ってこないし! それにご飯まで食べて来たとか。この聖天使~」
「ごめんごめん~」
俺は頭を押さえてうずくまり、謝るしかない。
「アドレイドといろいろあったんだって……大変で考え事してたら……」
「アドレイド? ……何があったか知らないけど僕には関係ないね」
「そ、そんなこと言わないで。ほんとに悩んでいるんだから」
「それよりも僕はご飯食べたいんだ!」
「……仕方ない、じゃあ食堂に行こって……そういえばさっき閉まってたな」
「…………ううう!!!」
ぼふんとラムがベッドに倒れこんで足をバタバタさせる。
「おなかへったおなかへった! おなかへった! おなかへった!! おなかと背中がくっつく!! 聖天使にころされる! がしする!」
ごろんごろんベッドで転がる。ばたつく。……四天王の恐ろしい攻撃に俺は右往左往した。あわあわと言葉が出ない。どうすればいいんだ! お、おれはぴこんと何かが思いついた顔をした、特に何も思いついてないけど現実から逃避したかった。
「そ、そうだいいこと考えた!」
なんも思いついてない。だけどラムが俺をじろりと見てくる。
「どんなこと?」
すごい! 冷や汗が出る。なんも思いついてないけど空気を読んでなんか思いついたことにしたけどなんもない。つらい。だらだら汗が流れる。
そうだ! 旅の荷物に干し肉がある!
だめだ! 今それを言ったらラムに殺される気がする!
「何だまってんの?」
ラムが責めるような眼で俺を見てくる。俺の脳細胞が過去一番活性化する。……なんも思いつかない。俺、限界まで脳みそ使ってもこの程度なのか……!
そうだ!!
さっきファルブラウはアイリスの漏れ出した魔力を食べていた。もしかしたらラムだってそうやってエネルギーの補充ができるかもしれない。俺が魔力を放出する! それをラムに与えることで元気になるかも!
よーし。
「ラム……私を、食べて?」
何言ってんだ俺は。
何言ってんだ俺ぁあああああ! 言葉足らずもほどがあるだろ。ラムは目を見開いて真っ赤になる。
「な、何言ってんの!? あんた!?」
「ち、違うの! ファルブラウみたいにって」
「ファルブラウ……? 聖天使とキスをして魔力を補給しろって言ってんの!!??? 僕がお前にキスをするの?????? それを食事って……、あ、あ頭おかしいんじゃないの!?」
ちーがーいーまーすー!! どういえば説明できるんだ。確かにアイリスとのいざこざをラムはみてなかった。だから勘違いすることもあるかもしれない。だけど俺はそんな変なことを考えてなんかいない。
わーわーわーとそれから言い争って、誤解が解けたとき。俺もおなかが減って、ラムはさらにそうだった。
☆
「フーンそんなことがあったのね。でもやっぱり僕には関係ないけど」
結局旅の荷物から出した食料を部屋で食べた。干し肉をラムは嚙みながら俺を睨んでいる。朝になったら奢るからさぁ。勘弁してよぉ。
ラムはベッドの上で靴下を脱いで素足になっている。小さな足という印象だった。俺もシャツとスカートになってリボンを緩めている。
「そもそも勇者って何?」
俺の質問にラムは「はぁ?」という顔をして、それから肉をかみちぎった。なんかこの旅で結構ラムはたくましくなった気がする。しみじみ。
「なんかむかつくんだけど……失礼なこと考えてない?」
「そ、そんなことないよ」
危ない。顔色で思考を読まれるのか……? ラムはジトっとした目で俺を見てからため息をつく。
「勇者というのは聖天使と同じく魔王様の敵で人間のために働く伝説の存在だって。120年前の魔王様と戦ったのね……結局そのアイリスとかいう女の子はその血をひいているのが覚醒したんだろうね。アドレイドが始末するのは当然だよ」
「当然って?!」
「何驚いているんだよ聖天使。僕たちは魔王様のためにそれくらいするさ。僕だって」
ラムは自分の魔力を抑え込む首輪を指さす。
「こんなものがなければそうするだろ。最初から言っているけど僕はお前を裏切るんだから」
「……せっかく友達になったのに」
「と、とも……ま、まあ。この首輪が取れない限りは別に急ぐことはないし」
「……そんなものなくてもラムは助けてくれそうな気もするけどなぁ」
ラムは俺の言葉にぎらりと睨みつけてくる。
「うぬぼれるなよ聖天使……。……ああ、そうだ。そこまで言うなら僕はお前がアドレイドを倒すことを手伝ってやろう」
「え? で、でも倒すつもりは」
「だからお前の望む通りに手伝ってあげるよ。その代わり――」
ラムは口の端を釣り上げ嗤った。
「この首輪をお前の力で外して? できるよね?」
「……それをやってくれたら手伝ってくれるってこと?」
「もちろん。くくく、僕は嘘をついたりしないよ」
挑戦的な目だった。ラムの瞳が俺を見ている。試しているかのようだった。その首輪を外せばラムの力が復活するだろう。あれだけ強いラムがもしもまた貴族たちを操ったら……。
俺は一度目を閉じた。少し考えて言う。
「いいよ」
「……」
ラムは目を見開いて俺を見た。
「バカなの?」
「友達が言ってるし……」
「バカなの?」
同じこと言われる。もしも騙されたとしても、この短い旅の間に見てきた彼女はどことなく子供っぽくて、計算高いようでそうじゃない。俺をだましたとしてもきっとなんか考えがあるんじゃないかってふわっとした思いがある。
俺は笑って言う。
「ラムなら大丈夫でしょ」
「………………じゃ、じゃあ、さっさと外しなさいよ」
「うん」
それにしてもこれどうやって外すんだ? 俺はラムの後ろに回って首輪を引っ張る。
「ぐえええ」
ラムが唸った。
「ほ、本当に外そうとしている?」
「う、うん」
どうやって外すんだ……?
「ふぁあああ」
そこに大きな欠伸をしながら起き上がったファルブラウ。俺たちを見ている。
「あ、ファルブラウ。ラムの首輪を外したいんだけど、どうすればいいかな?」
「……ああ、そんなの簡単だ」
ファルブラウが起き上がってどこかに出て行った。相変わらずよく行動が分からない。しばらくするとトンカチを片手に持ってきた。どこから持ってきたんだ。
「ラムを抑えていろ、聖天使」
「……いやいや、僕。それ違うと思う」
「大丈夫だ。我に任せろ」
ファルブラウはトンカチを片手に近づいてくる。こ、これ大丈夫なのか? ファルブラウに任せていいのか? 俺は混乱してしまう。硬直してしまう。ファルブラウが近づく。
「ひっ」
ラムはベッドの上で逃げようとして背を向けた、そこにファルブラウがのしかかる。
「ぐわっ、ど、どけこのバカ竜」
「暴れたら痛いぞ!」
「やめろぉ! 絶対違うだろ! 普通こう、魔法的な力で外すでしょ!! 力業で壊すなんておかしい」
じたばたしている……ファルブラウがトンカチを首筋に狙いすませて振り上げる。
「おとなしくしろ」
「え? これ、現実? うそでしょ? 僕、ここで死ぬの?」
ラムが俺をすがるような眼で見てくる。俺も目の前の光景が信じられない。はっとしてファルブラウを止める……! まにあえええ!