うう、なんか眠れない。明日のことを考えたら当たり前だけど……。もう一つ理由があって……ベッドが2つしかないってことがおかしいよね。
ファルブラウは大の字になってベッドをひとつ占領してる。あいつ……寝顔だけをみるとすごい幸せそうでお腹を搔いている。
「もう……我は食べられない……わけない……」
え? まじ? 今すごいべたな寝言を言わなかった? すごい。あと、それを否定してるってことは多分夢の中でごはんを詰め込んでいるのかな。起きてても寝てても変わらないなぁ。
ふふ。
ちょっとわらっちゃった。でも最近ファルブラウは俺のことを友達って言ってくれるちょっとうれしい。もちろん本人には言わないけどさ。
アドレイドともそんな感じで関係を作れたら一番いいんだろうけど。あの人は俺よりもずっと人生経験を歩んでいる気がする。魔王への忠誠かぁ。魔王と話し合いができればいいんだろうけど、それにしてもぐるぐるぐるぐる考えてたら目が覚めるなぁ。
スマフォかテレビでもあればなんか暇つぶしができるんだろうけど。それにしても夜って長いなぁ。
現実逃避しているけど俺の横にはラムが寝ている。少しいいにおいがする……。し、しかし今の俺も美少女……か、体だけ。心はまだ……まだだからな!
「すうすう」
ぬいぐるみを抱きかかえてラムが寝息を立てている。寝巻に着替えている。結局首輪は取れなかった。トンカチじゃダメだろうね。わかってはいたんだけどファルブラウの勢いに押されてしまった。
「…………」
しかし身じろぎができない。ラムがこちらに体を寄せてくる気がする。気のせいというか、寝ているから無意識なんだろうけどかわいい女の子とベッドで寝ているってどうなんだろう。……す、すこしだけどきどきする。だから寝れないってのもある。
しかし、ヴァルドランドに来てからずっと気になることがある。時計がないんだよなぁ。今夜何時なんだろうか? ほんとにわからないから、窓から月を見て時間を計ってみるか寝てるうちに朝になるのを待つ。
「そういえばラムは吸血鬼だけど夜も普通に寝るんだ」
なんとなく疑問を口にしてみるとラムが少し動いた。
ん? なんだ今の動き。
「……ラム。実は起きてる?」
くうくう、なんか寝息を立て始めた。怪しい。こいつ起きてるんじゃないか……?
正直言おう。
全然眠くないからラムと暇つぶしできるならそれがいい。俺は少しだけ顔を寄せてみる。ぴくってラムが動いた気がする。まてよ、これはこれで面白い気がする。なんで寝たふりをしているかはわからないけど。
「……よし、よく寝ているね。夜食にとっておいたクッキーを食べよっかな」
「……」
う、うあああ。ぎんぎんに目を開けてきた!
「なんですって?」
こ、こわぁ。四天王としてラムと戦ったこともあるけど一番怖い。殺気すら感じる! クッキーって単語だけでここまで……く、くいものの恨みは恐ろしい。
「う、うそだって。持っているわけないよ。ラムが起きているみたいだからちょっとからかっただけ」
「からかった?」
わぁ。失言した。俺はだらだら汗が出てくる。し、仕方ない正直に言おう。
「全然眠れないからラムと暇つぶしができればなぁって思って」
「……」
ラムは身を起こす。寝巻はかわいいピンクのパジャマ……ネグリジェっていうらしい。ふわっとした服でいい感じがする。
「眠れないのは僕もだよ」
「あ、ラムもそうだったんだ。じゃあ、なんか暇つぶししよう?」
「暇つぶしってなにをするんだよ」
ラムはぬいぐるみを抱いたまま俺をジトっと見てくる。そうだなぁ。何をしようかな。うーん。マジで暇つぶしって何をするべきだろうか、トランプすらこの世界にあるのかわからない。オセロ……将棋。実際ゲーム機があればいいんだけどないしなぁ。
まじ何をしよう。なやむ~
「うーん」
「何考えているんだよ聖天使。僕はさっきファルブラウに殺されかけたから興奮して眠れないんだ。だから特別に付き合ってやるよ」
そういえばあんな目に合えば興奮するよなぁ。興奮って変な言い方になったけど、まあ命の危険を感じたらドキドキするよね。それにしても本当に何もない。
「じゃあしりとりする?」
「しり……? なにそれ」
「『り』から始まる言葉を言ってそれから一番最後の文字の言葉をどんどん言っていくの。『リンゴ』だったら『ゴリラ』とかさ。それで最後が『ん』で終わる言葉を言ったら負け」
「ごりらって何?」
そっかー。この世界にはゴリラはいないよなぁ。
「ま、まあ例えだから。ラムが言って。リンゴ」
「ご……から始まればいいのゴランティアス・ホウディリック……」
「なにそれ」
「はあ? 有名でしょ」
まじなにそれ。ま、まあいいや。『く』か……。異世界人にもわかる言葉を使おう。
「串カツ……」
「何それ?」
なんで俺は串カツって言ったんだ。ラムにわかるわけないだろ。ラそれでもムは少し考えていった。
「つ、つね。ツランディン……あ」
「あー! 『ん』で終わった! ラムの負け―!」
お互い単語の意味が全然分からんしりとりは俺の勝利、ぐへぇ。ぬいぐるみでたたくのやめて。そもそもツランディンってなに? 人名??
「何この遊び! あんた意味不明なことばかり言うし、なによ『ゴリラ』とか『串カツ』って! 説明しなさいよ」
「ご、ごりらは動物だよ。うほうほ言って筋肉質なやつ」
「ゴブリンの一種なの?」
「ち、違うかなぁ。あ、あと串カツは食べ物だよ。鶏肉とか卵とかを油で揚げて……たれをいっぱいつけて食べるやつ。おいしいんだ」
「……お、おまえぇ~」
はっ! ラムはさっきご飯が食べられないから怒ったんだった。ああ。やめてぇ。ぬいぐるみでたたかないでぇ。わ、わかった、次のゲームをしよっ。
それからいろんなゲームをした。
といっても遊ぶための道具もなんもないから、冊子に線を引いて〇×ゲームをしてみたり、『ゆびすま』って手遊びをしてみたり……。小学生みたいだけど、まじで暇なんだもん! なんもないんだもん!!
ラムはなんだかんだ言っても遊びに付き合ってくれた。だいたい怒っていた気もするけど少しだけ楽しそうにしていた気もする。
それでも夜は長い。まだ外は暗い。月は綺麗だ。
「はあ、少し散歩に行くわ。あんたも来なさい」
ラムがそういうと部屋から出ていく。確かに外の空気を吸いたい気もする。逆に遊んで頭がはっきりして目がぱっちりしている。ていうかファルブラウは起きないなぁ。とみてみるとお腹を出して寝ている。
小さなおへそがみえ……俺はふとんをかけて隠す。
「何してんの? はやくいくわよ」
「あ、まってまって」
俺とラムは夜の散歩に出た。