何でもはしたくない……。そんなネットミームみたいなことを言われるとは思ってなかった。しかも俺が言われるとは……。
決闘を申し込んできたアイリスについていくとそこは校舎裏の開けた場所だった。少しくらい暴れても問題ないってことだろうか。……なんか結構ギャラリーがいる。学生たちが集まってきている。
俺は後ろにいたファルブラウとラムに助けを求めるように視線を送る。ファルブラウは大きな欠伸をしている、ラムは微妙に笑っている。ラムは楽しんでいるでしょ!!
「準備はいいですか?」
アイリスが振り向く。桃色の髪が揺れてグリーンの瞳がまっすぐに俺を見る。
「ま、まってよ。アイリス。本当に誤解で……それに決闘なんて…」
「安心してください……王国古来の決闘方式に則って半分こルールでいきます……」
「……? ……???」
半分こルールって言った? 半分こって何? ……真っ二つにするってこと?? それとも半殺しにするってこと??? 怖いんだけど。
「もちろん、天使様はこのルールは知っていると思いますが」
知りませんが!? 何の話をしているんですか。こちとら小中高と喧嘩もしたことありませんよ!
「待ってください。そ、その半分こルールをもう一度確認しましょう」
そう、俺は言った。ふふ、結構いい聞き方だろ。俺が知らないっていうのはなんか恥ずかしいから知っている体でもう一度確認してやるぜ。
「問答無用ですっ!」
ちくしょう! 俺の目論見はアイリスの言葉で真っ二つ! 半分こにされた!
「もちろんペタンを賭けます」
「ぺ……たん」
「天使様も賭けてもらいますよ!」
「は、はい」
よくわからないけど、よくわからないルールでよくわからんものを賭けさせられた。負けた時俺はどうなるのだろうか? 全然わからない。周りも「おおおー」って言っている。そんな驚くようなものを俺は賭けたのか……?
「死んだな……聖天使」
ファルブラウが両手を組んで怖いこと言っている。俺は……俺は何を賭けたんだ。
し、しかたない。俺はアイリスに向かい合う。彼女は俺を睨んでいる。勇者の末裔……華奢な体つきの彼女は強いのだろうか。よくわからないけど、何か武器を使うのだろうか。勇者……たぶん剣とかか。いや、変身して剣を呼ばないと俺死ぬね。
「行きますよ。天使様……『今、悠久の時の中を旅する勇者の心が呼ぶ――来て、グランドアクス!』」
アイリスの周りの魔法陣が展開される。すさまじい魔力が暴風のように吹き荒れる。俺は思わず下がりそうになった。なんとか手で体を庇い、彼女を見る。地面から姿を現したのは巨大な斧。
その刀身は俺の身長ほどありそう。煌びやかな装飾を施した、金の文様に飾られた大きな斧だ。彼女はそれを片手で掴むと肩に乗せた。そして片手で俺を指さす。
「昨日……貴方にキスをされて……勇者の装備を呼びだせるようになりました……。でも、容赦はしませんよ。聖なる斧グランドアクスがあなたの破廉恥な心を打倒します」
……斧。
怖い。
え?
こわっ。あれと戦うの? 剣とかじゃないの? こっちの武器を平気で圧し折りそうじゃない。
「わかりました。アイリス」
怖すぎて逆に冷静になってきた。現実を受け入れたくない。なんとなく笑ってみる。
「余裕ですね……天使様」
「ふふ」
俺の心のコップは水が溢れているよ。余裕があるわけないでしょ。
「戦いの前にお祈りをしましょう」
助けてキュリオ! 俺はお祈りのポーズをする。すると頭の中に映像が浮かぶ。キュリオは手にコミック本を持って、ちゅーっって感じでクリームソーダをストローで飲んでいる。俺を見て「ちっ」って舌打ちした。
『なに? 忙しいんだけど』
『どう考えてもいそがしくないですよね?! 助けてくれ』
『ファルブラウとかラムを倒したあんたならアイリスくらい倒せるでしょ。何が聞きたいのよ』
『……できれば変身したくないんだよ! アイリスを傷つけたくないし……あと全裸になりたくないです!』
キュリオははあとため息をついた。
『そう、じゃあ、力の一部だけを使える方法を教えてあげる。いい――?』
キュリオの説明は短かった。そして俺は現実に戻ってくる。
「お祈りは終わりましたか? 天使様」
アイリスに微笑みかける。俺はお祈りのポーズをゆっくりと解く。そして両手を伸ばして言う。
「これだけは約束してください。戦いをするとしても愛を忘れないで」
なんでこんなこと言わないといけないんですかね。これ呪文なんですよ。
「私……聖天使セナの名において命じる。希望を胸に……世界の光とならんことを欲する……。その心は剣となり……」
あ、えっとなんだっけ。呪文忘れた……。えっと、ああえっと。あ、そうだ!
「世界を照らす愛をここに!」
みーんなが見ている前で俺はそう言った。唇を噛んでめちゃくちゃ恥ずかしい。俺の手に光が集まり、白い剣になる。それは変身した時に使える『ラブ・ソード』だ、俺は制服の姿のまま剣を振るう。
光の粒子が弾ける。ぱあとハートの形をした魔力が光って消える。
「それがあなたの武器ということですね。天使様。でも私は負けません」
「……ふふ」
「その余裕、いつまでもちますかね!」
アイリスが飛んだ。巨大な斧を手に空に浮かぶ。俺は……剣を手にしたけどいつものような力がわいてこない。これもしかしてあれか、セナの力のまま剣だけ持っているってことか?
猫に小判!
豚に真珠!
俺に剣!
身体能力を上げてくれないと死ぬだろ!! うおおおお! 空からアイリスが落ちてくる。彼女の強烈な一撃。俺の間の前の地面をたたき割った。斧の刀身が地面に刺さり、アイリスが顔を上げる。
「流石ですね。微動だにしないとは」
おし……と、トイレに行きたくなりそう……。微動だにしなかったんじゃなくて怖くて動けません。なんでいっつも俺の力は微妙に……微妙なの!
「ふふふ。避けるまでもありません」
言いながら俺はゆっくりとアイリスから離れる。まじやばい。微笑が張り付いている。顔の筋肉が硬直して表情が変わらねぇ。ゆっくりと離れるのはあれだよ。逃げているんだ。頼む、気づかないでくれ。
アイリスは斧を手に立ち上がる。
「まだ、私の力が足りないようですね……。私は貴方にどうしても勝たないといけません」
じゃんけんとかにしない……? ほんと。