落ち着けセナ。……いつも碌な目に合わないのを何とかしてきたじゃないか。今は剣を持っているけどたぶんまともに使えない女の子……目の前には巨大な斧を振り回す勇者の子孫とかいう女の子。
うーん。死ぬなぁ。変身をしないといけないかもしれない。すべての服がはじけ飛ぶデメリットがなければもう少し楽に使えるんだけど……。
「そろそろ私も本気で行きます。聖天使様」
アイリス……手加減してくれ。
「何を笑っているのですか? 余裕ですね」
アイリスに言われて気が付くけど俺は笑っているらしい。人間どうしようもなくなると笑うしかなくなるってことを俺は学んだ。アイリスには悪いけど勝手に表情がそうなっているだけなんだ。
「……貴方は……いつもそうです」
アイリスは俯いて肩を震わせる。何の話だろうか……。
「いきなり壁にどんって私を押し付けたり……、涼しい顔で私の唇を奪ったり……。私の心をどれだけ弄べば気が済むんですか……。ちょ、ちょっと顔がかっこいいイケメンだからって! 今も余裕のある大人の態度! 私を馬鹿にして!」
話がへんな方向にコロコロ転がりだした。イケメン……!? だ、誰の事。アイリスは俺をまっすぐに見て涙を目にためている。えぇ、この子には俺がそんな風に見えているの? 完全に勘違いですよ……!?
「ご、誤解だよ。私はそんなつもりはないけど」
「私とは……私とは遊びなんですか?」
こんな……こんなふうに女の子に言われる日が来るとは思ったこともなかった……。人とのコミュニケーションって難しい。……難しすぎるだろっ!!
俺はおそらくこの世界に来てから結構正直に生きていると思うけど、でもたいてい変な解釈をされる。どういえばいいのかわからない。ファルブラウ達を見れば生徒に観戦している。ファルブラウは「やれー!」って応援してるけどなにをやるんだよ。
ふう、し、しかたない。俺はアイリスに向いあった。よくわからんけどこの勝負に負けたらどうなるかわからん。ルールも商品もなんも理解できない。
「いいでしょう。そこまで言われてたら私も本気を出します」
できるだけ気取った口調で話す。頭の中でいろいろと考える時間が欲しい、この場をどうやって乗り切るか……考えろ……考えるんだ。アイリスは武器を握りなおしている。いや、肩の力を抜いてよ。
「天使として私も本気を出します」
あ、本気を出すって2回言っちゃった。語彙が少ないって国語の授業で言われたことがあるけどもう少し勉強してればよかった。俺はできるだけかっこよくたつ。背筋を伸ばしてアイリスにきりっとした顔を向ける。
「確かに半分こルールもいいですが」
何がいいかわからんけど。
「天界には天界のルールがあります。これは3ペタンに相当します」
ペタンって結局なんだ。周りからは「……さ、さんぺたん」「むちゃだ」「死ぬぞ」とか聞こえてくる。死ぬの? 誰か説明をしてくれ。アイリスもそんな深刻そうな顔をしないで。
と、とりあえず俺のペースに持っていけている気がする。よし……ここで俺に有利なルールを言えば……勝機はある。このまま戦ってもどう考えても負ける。俺はすうと息を吐く。そして言った。
「じゃんけんです」
…………勢いのままいっちゃった。どや顔で言っちゃった! 恥ずかしいんだけど。だけどこの世界にはじゃんけんはないはずだ。結局何も思いつかなかったよぉおお。
「じゃんけん……ですか? そ、それはいったい。
手遊びですよぉ。でもそんなことを言ったら殺されそう……。く、くぅ。こ、こうなったら話を盛ってやる! 天界のルールってことにしてやる。押し切ってやるぞ!!
アイリスに俺はふっと微笑みかける。
「ルールは簡単。こう手でグーを作る」
空に向けて手を固める。グーだ。
「これが大地を表します」
だいち……?
「次にパー。これは母なる海です」
母なる海……? 指を開いてぱーを作る。おれは何を言っているんだ。頭がおかしくなったのか。
「そしてチョキ。これが……天です」
チョキをつくった2つの指が空を指す……! 気取ったことを言おうとして意味不明なことを言っている。周りが「おおお」と声を上げる。俺は手を上げたまま目を閉じる。やめて、ほんとに恥ずかしいから。みんな俺を忘れて。
「大地と海そして天を表す儀式。それがじゃんけん……」
「てんち……天地創造……聖天使の勝負」
アイリスが驚いている。俺も驚いてる。何だこの話。さらに俺はルールを説明する。グーはパーにパーはチョキに負け、お互いに掛け声とともに『大地』『海』『天』を手で示すことによつて勝敗を決める……。同じなら『あいこ』だ。引き分けってこと。
イケメンって言われたから余裕のあるふりをして俺は説明した。
「そ、それじゃあ、決闘じゃないじゃないですか!」
「ふふふ。だからこそタタイテカブッテジャンケンポンがある」
「タタイテ……?」
わかったか……俺の気持ちが。わけわからんことを言われると頭にハテナが浮かんで困るだろ……。『叩いてかぶってジャンケンポン』だ。本当ならぴこぴこハンマーとかでやるあれだ。
俺はアイリスの前に歩いていき地面に剣を刺して。重かった。
「アイリスも武器を下ろして。ここに」
「え、ええ」
どすーんと斧を下ろす。俺の剣と交差するように斧が地面に刺さる。
「ジャンケンで勝った方が武器を取り相手をたたく。そして負けた方も武器を取って防御する……この距離なら外さない」
「……な。なんて非情なルール……」
アイリスは汗をだらだら流している。ふふふ。自分で言っておいて俺もすごい怖い。でもこれなら負けた瞬間に全力で逃げれば生き残れる可能性がある……! 普通に勝負しても勝てないし!
アイリスは決意したように顔を上げる。
「いいでしょう。この勝負受けます。アイリス・ナージ・ヴァルトの名において。天地創造のじゃんけん……」
「ふふ」
俺は手をグーにして前に突き出す。なんでそんなことをしたかわからないけど、アイリスも同じようにこつんとグーで手をあててくる。テンションがおかしくなってる。
互いの武器を交差させて俺たちは向かい合う。
じゃあ、いくぞ!! 命を懸けたじゃんけん!