TS美少女聖天使、俺 作:薄汚いメトロン星人
泣いている少女が過去のアイリスだとしたら、やっぱりさっきのことから考えてここはアイリスの過去なんだろうか。
「天使様……ここってもしかして」
「い、今さアイリスの過去にいるんじゃないかな」
「私の過去……。でもどうしてそんなことに」
「やっぱり勇者のアイリスと私の天使の力がこうなんか、反応したのかな。酸化鉄みたいに」
「サンカテツ……?」
中学生の理科の知識しかなくて……ごめんなさい。うまいこと言おうとして全然意味の通らないこと言ってしまった。俺は慌てて首を振った。
「と、とりあえず今は外に出ることを考えないといけないと思う。それにここがアイリスの中の過去の世界だとしたら……どうやって出ればいいんだろう」
どうやって入ったのかもわからないんだから出方もわからない。とりあえず物陰に隠れて過去のアイリスとたぶん過去のアドレイドさんの様子をうかがった。ここで今のアイリスが見つかってもどうなるのかよくわからない。
過去のアイリスは泣き顔のままアドレイドさんを見上げている。
「せんせい……わたし、ゆうしゃのしそんって言われてもなんにも……えぐ、できないから、みんなにばかにされて……」
「ふむ」
アドレイドさんはアイリスに目線を合わせるようにしゃがみ込む。アドレイドさんの表情はここからは見えない。ただ声だけがした。
「アイリス」
「……?」
「もしも自分が勇者の子孫じゃなかったらどうでござるか?」
「…………そうだったら……」
幼いアイリスは少し考えているようだった。それからたどたどしくいう。
「そうだったら……もっと……今でも何もできないから……もっと誰にも役にたてない……役立たず……」
アドレイドさんはそれを聞いて、しばらく止まっていた。表情は見えない。でも、彼女の腕がゆっくりとアイリスを抱いて、ぎゅっとした。
「君は周りを気にしすぎているでござる。誰かの役に立つなんてことは自分に余裕があるときに考えればいいことでござるよ」
彼女はそのまま続けた。
「覚えておくでござる。勇者の子孫だったとしてもそうでなかったとしてもアイリスはアイリスでござるよ」
……この人はやっぱり優しい。俺はそう思った。なんとなく横のアイリスを見ると少しだけ涙ぐんでいるようにみえる。
「アイリス」
「え? あ? あ? は、はい! 元気です!!」
!?
「誰でござるか?」
て、てんぱりすぎ! アイリスが大声を出したからアドレイドさんに気付かれた。こ、ここは過去の世界。逆に今の俺とかアイリスがアドレイドさんに話をしたらどうなるんだろう?
あれか、タイムパラドクスとかああいう、なんかこうアニメみたいなことが起こるのかもしれない。そう思ったら俺はアイリスの手を握っていた。そのまま走り出す。
「て、てんしさま」
「とりあえず逃げよう! 過去のアイリスたちに話しかけたらどうなるかわからないし!」
そういって俺とアイリスは校舎を駆け抜ける。長い廊下を抜けるとそこは雪国だった……。え?
校舎の外は雪景色。しんしんと雪が降り積もっている。寒いっ、い、いきなり。この変身した姿すごい薄着だからなおさら寒い。さむ、さむい。マジ寒い。
「さ、さむいですぅ!? なんでいきなり……」
アイリスもかちかちと歯を鳴らしている。さっき迄の陽気はどこに行ったんですか!? 俺は慌ててあたりを見ればまた笑い声が聞こえる。
白い雪が降っている。
広い校庭は厚い雪で覆われていた。歩くたびにざくざくと雪を踏みしめる音がする。
いつの間にかそこの俺たちはいた。そして俺の頭に雪玉が直撃した。
「いたいっ!?」
見れば大勢の子供たちが雪合戦をしてる。その中にアドレイドさんも参加して笑いながら逃げている。というか背中にアイリスを背負っている。さっきよりも少し大きなアイリスは笑っていた。
これも過去の光景なのか。
「懐かしい……です」」
両手で体を抱くようにしているアイリスは言った。彼女の息は白い。
「すごい寒い日だったんですけどみんなと遊ぶとあったかくなるって、先生がみんなで遊ぼうって言ってくれたんです」
「そそそ、そうなんだ。こんな寒い日に……」
冗談じゃないくらいに寒い。ただアイリスは俺を見た。
「あの、天使様。外に出ないといけないのは間違いないんですが、少しだけここを見て回ってもいいですか?」
見て回る時間があるとは思えない。外ではどうなっているのか全然わからない。
「ごめん……ファルブラウたちがどうなっているのかわからないから……。見て回りたいってのはわかるけど……ごめん」
そうとしか言えない。アイリスは悲しそうな顔をした。
「私こそごめんなさい。そう、ですよね。そうです。戦いの最中のなのに私は何を言っているんでしょうか……」
……ただ、俺は思った。彼女の手をつかむ。つめた! 小さな手、細い指は冷たく冷えている。俺の手をそこに重ね合わせる。
「でもどっちにしろ出口はわからないんだから。走って回ろう! 出口を探しながら」
「あ、あ? 天使様」
俺とアイリスは走り出す。
走るたびに景色が変わっていく。
廊下を走ると教室で楽し気に授業をしている生徒たちの姿が見える。
体育館みたいなところで木の武器を持ってアドレイドさんがみんなに教えているところ、男子がふざけているのを怒っているところ。それをアイリスたち女子が少し怒りながら見ているところ。
どうやったら出られるのかわからない。時間も全部バラバラ、走っていくと廊下を曲がったと思ったら教室の中にいたりする。まるで本当に夢の中みたいだ。よくあるよね、なんか夢みていたら普段よく知っている場所が変な迷路みたいになっていること。
ただ、アイリスはその過去を見るたびに立ち止まりそうになる。俺は少し申し訳ないけど軽く手を引く。彼女はそれだけでちょっぴり微笑んで「すみません」という。本当ならここでしばらくいさせてあげたい。
優しい時間が俺たちのそばを流れていく。アドレイドさんはどこでも子供たちに優しくていつも真剣な表情をしてる。アイリスを通してみるこれがアドレイドさんの先生とのしての姿なんだって、わかった。
それはそうとして。
「で、出られない、ぜ、ぜえぜえ」
「はあはあ、天使様これ、どうやったら出られるんですかね」
走って校門をぬけるといつの間にか女子更衣室にいて俺だけが焦り散らかしたりした……そりゃあアイリスからすれば俺は聖天使の女の子なんだから別になんにも思わないだろうけど……ドキドキするわ! 心臓にも悪いよ!
「でも、ここから出ないとアドレイドさんもファルブラウもラムもどうしているか」
「あの、天使様」
「何?」
「さっきから言われている『ファルブラウ』というのはもしかして『赤のファルブラウ』に関係あるんですか?」
「あか?」
……そういえばあいつそんなあだ名だったな。
「も、もしかして魔王軍の四天王のファルブラウがここに?」
「いや、さっきからいたあの」
俺は口を開けてジェスチャーをする。
「歯がギザギザで、背の小さい。炎を吐いている女の子がその……あれ?」
なんか違和感がある。あ、四天王なんていったらだめだよな。やってしまったかもしれない……でも、なんか引っかかることはそれじゃない気がするんだよな。なんだろ。何が気になるんだろ。
「え? あ、あの四天王があの女の子って……あの」
「あ、悪い子じゃないよ。いっぱい食べるけど」
「ひ、ひとを」
「人は食べない……と思う! 目を離したらすーぐいろんなところで飯を食べている」
ファルブラウのせいで何が気になるのかわからない。
「で、でも本当に四天王なんですか? 魔王軍の……私の敵」
「敵?」
そうか……アドレイドさんも確か『黒のアドレイド』とか言われたはずだ。よく考えたら偽名とかじゃなくて普通に名乗っていたな。あれ、もしかしてアイリスは正体を知っているのか?
「あのさ……アイリスはアドレイドさんをどう思うの?」
「先生が……どうしたんですか?」
「だって……黒のアドレイドと同じ名前だし」
直接的に聞こうとして少しぼやかしてしまった。アイリスはきょとんとしている。
「くろのあどれいど? アドレイド先生がどうしたんですか?」
「は?」
「アドレイド先生は別に何もないですよ」
「ど、どうしたのアイリス」
「アドレイド先生は別に何もないですよ」
目から光が消えて––アイリスが俺にとびかかってきた。俺の両手を抑えてくる。
「あ、アイリス。すごい力……!」
後ろから抱き着かれるように拘束される。なんだ、なんだこれ!
その瞬間に世界はぐにゃりとゆがんだ。黒い闇が空から水滴のように降りてくる。その黒の中から髪をまとめた赤い法衣を着た女性が出てきた。
その手には巨大なハルバードを持っている。赤い目をした彼女は『黒のアドレイド』だった。
「聖天使殿。この世界が私の『黒』でござるよ」
何を言っているんだ。