TS美少女聖天使、俺 作:薄汚いメトロン星人
ぐぐぐ、アイリスが首を後ろからしめてくる。はがいじめにしてくる。う、うう。少しいい匂いがす……変なことを考えるな俺!
そうだ、目の前には突然現れたアドレイドさんがいる……! この人はたぶん過去の……アイリスの記憶の中の人じゃない。
「あ、アドレイドさん……これは、いったい」
「……聖天使殿。この世界はアイリスの心の中、あるいは夢の中のようなものでござる。過去の学園の楽しい思い出の詰まったそういう世界」
「それは、私も、みました」
「……聖天使殿もアイリスに聞いた通り、私は偽名を使っているわけではござらん。『黒のアドレイド』の名前のままこの学園にいるのでござる」
そうだ……! これが違和感の正体! そういえばこの世界では人と魔王はなんかこう、仲が悪いんだった……! なのに普通に名前を名乗っていた。
「覚えているでござるか。私がこの学園にいるのは勇者の子を洗脳するか……あるいは……」
アイリスをちらりとアドレイドさんは見た。
「魔王様に逆らえない状態にするかということ以外にも、この学園にいる有意な子供たちを操ることが任務なのでござる」
「あ、あやつ、ぐ、ぐええ」
すごい力でアイリスが締め上げてくる。
「あ、アイリス、正気に戻って」
「その子のように」
アドレイドさんは顔を上げた。その眼には光がない。
「長い時間をかけて私は彼らの心の中に潜んだ。『黒のアドレイド』を調べると彼らはその相手を敵として認識するように、魔法を施した……心を塗りつぶすように……それが私の『黒』の異名でござる」
「ま、魔法」
「この法衣」
アドレイドさんは赤いローブの端を上げる。赤色のなぜか視線がひきつけられるような気がした。
「そ、それは学校の先生の服」
「……聖天使殿」
アドレイドさんの鋭い眼光。
「これをなぜそのように思うか考えたことがあるでござるか? この学園の生徒でもないあなたが何の疑いもなくこれを『そう』思える。不思議に思わないか? ……そう、これは魔道具『誘因の法衣』、魔王様からあずかった洗脳をするためのものでござるよ」
「……!」
そういえばあの服を最初からそういう風に見ていた。無意識に。
目を凝らす、するとアドレイドさんのまとっている赤のローブが強い魔力を帯びているのが分かった。というか今まで気が付かなかったのはあれの力なのか……!
「これの近くにいればいるほどに私の術中にはまっていくのでござる。数年一緒にいればもう抜け出すことはない。アイリスは私の掌の上」
アドレイドさんが右手を伸ばして掌を開く。
「アイリスだけじゃない。この学園のすべての人間は私が操ることができる。たとえ非道な命令でも、私は下せる」
光のない目でアドレイドさんは言う……。俺はそれを見て思う。首を絞められるのがきつい。でもそれでも、思った。
「そんなの、あなたは望んでない……」
「…………」
「アイリスの過去を見てきてわかった。アドレイドさんは最初はそのつもりだったかもしれないけど……どんな場面でも生徒の輪の中にあなたがいたのを見た……、ぐ、ぐぐぐ」
ぎりぎりと閉められる。
「アイリスもそう思うはず! アイリス!」
「……無駄でござるよ。アイリスに語り掛けても彼女は答えない」
「……やってみないとわからない……!」
俺は必死に声を張り上げる。
「アイリス! 私の声を聞いて」
「…………」
アイリスの反応はない。アドレイドさんが言った。
「……確かに君に打ち明けた通りこのようなことを望んではいない。だが私は魔王様に恩義がある。悪いが聖天使殿」
ハルバードを手にアドレイドさんが近づいてくる。
「勇者の血筋ともども、ここで果ててもらう」
「……っ! アイリス!」
その時だった。
――ばりばりばりばりばりと雷鳴が響く。
世界のすべてが揺れ動くような振動に俺とアイリスは倒れてしまう。な、なんだ!? 何が起こっているんだ。アドレイドさんも何が起こったのかわからないようだった。じゃあなん……。
空。
空の一転に『二本の指』が出てきた。
なんだあれ? その指は空間を曲げる、なんかこうポテトチップスの袋を開けるように空間をばりばりと開けていく。
その空間の切れ目から顔を出したのは、ぎざぎざの歯をした角をはやした女の子だった。て、ていうかファルブラウだ! でかい!! なんだあれ!?
「ワハハハハハハ、我にひれ伏すがいい!」
くそでかい声で笑うファルブラウ。
……超巨大ファルブラウが空間を破いて世界に顔を出した。空に浮かぶ巨大なファルブラウの顔……しゅ、シュールすぎる。何だこれは。それどころか空間の裂け目はさらに大きくなって、ファルブラウの体がこの世界に入ってくる。
巨大なファルブラウのあんよ! 空を覆って落ちてくる!!! 踏みつける気かっ!!!!?
俺はアイリスを抱きしめると必死に羽を動かして飛んだ。数秒遅れてどしーんとすさまじい音が響く。それだけでアイリスが口元を抑えている。あ、ここはアイリスの心の中でもあるから暴れたらやばいことになるんだった!
「ファルブラウ!!」
「あぁ? ああ、聖天使か。ハエかと思った」
「聖天使かじゃない! なにしているの!?」
「くくくく。みよ。この巨大な体を」
見上げるほどの大きなファルブラウのそばを俺は飛ぶ。確かにハエみたいだけど、ひどい言い草!! い、いいたくないけど一応天使ですよ。……天使って認めたくないけど。
「ふふふん」
きらきらした瞳でなんかすごい自慢げにファルブラウは両手を組んでいる。こ、こいつなんかうれしそうだな。ぐ、ぐえ。アイリスが俺の首を絞めてきた。い、今は飛んでいるから少し待って。俺は必死に羽を動かす。ていうかアイリスが抱き着くように抱きしめてくる、むねがあたる。う、うう。
『何やってんのよセナ』
「あ、頭の中でラムの声がする!」
ラムを探すけどどこにもいない。アイリスがかみついてくる。ぎゃあああ。ほっぺたかまないでぇ。
『とにかくさっさと目を覚ませよ! 僕の魔法で外から干渉してファルブラウのあほを送り込んでやったんだから。その世界は夢みたいなもんだから、無駄に巨大化しちゃったけど……これならアドレイドにも負けないよ』
「そ、そうなんだ。さ、さすがら、ラム」
『人の精神を入り込むなんてのは僕のほうがアドレイドよりも得意なんだよ。あんな奴に魔法で負けるわけないでしょうが』
俺は巨大なファルブラウの肩に乗った。すごい、高い。いでででで、アイリスがまだ噛んでくるし。
「ぐるるるる」
わ、わんこみたいにうなっている。
「ラム! アイリスを正気に戻すにはどうすればいいの!」
『その子はアドレイドの魔道具にあてられているのね、うーん、諦めたら?』
「あ、諦めたらそこで試合はダメになるよ!?」
『しあい……? でも、僕だって何でもわかるわけじゃないし』
そうしているとファルブラウが言った。
「かゆい」
かゆいとかいいながら顔を掻きだした、肩のってんだから腕を動かすな、お、落ちる! アイリスも涙目でしがみついてくる。あああ、スカートにしがみつかないで! 脱げるから! 脱げるから!!
「はあはあ」
なんとか俺はファルブラウの方に這い上がってスカートをはきなおす。アイリスもはあはあ言いながら息を吐いている。うう。なんでこんな感じなんだいつも。ていうか、すぐそばでくそでかいファルブラウが見ているの怖いな。
そのファルブラウの目が鋭くなった。彼女の視線の先を見れば空中に魔力が集まっていく。
そこには空中に浮かぶ一人の女性、それはハルバードを構えたアドレイドさんだった。
「まったく。この世界に干渉をしてくるとは思わなかったでござるよ。だが、ファルブラウ、ただ大きくなっただけで私に勝てると思わないほうがいい……」
アドレイドさんの体が黒い文様に染まっていく……空間が歪むほどの魔力が突風のように吹き荒れた。