TS美少女聖天使、俺 作:薄汚いメトロン星人
「わはははははははは!!!!!」
巨大なファルブラウが右手を振るって、左手も振り回す。
そして火を吐く。巨大な口から真っ赤な炎が世界を焼き尽くすように広がっていく。俺はファルブラウの肩にしがみつきながら、まじで振り回されて怖くて泣いてる。アイリスはそんな俺にしがみついている……というか噛みついている。痛い!
「うおおおお!!! 我は強い!」
うおおおおじゃあねえぇよ! こっちのことも少しは気にしろ! 肩にしがみつくの大変なんだぞ。
そんなこっちのことは全然気にせず炎の中で気持ちよさそうに笑うファルブラウ。両手を組んでギザギザの歯を見せて空を見上げながら笑っている。う、うるさい……。でかすぎるから空気が笑っているだけで振動する。
「……あ、アドレイドさんは大丈夫なのかな?」
俺がそう言った瞬間に世界を覆っていた炎が切り裂かれた。ごおっと空気が切断される。
オレンジの火がハルバードの刃に裂かれる、その中から黒髪の女性が姿を見せる。
灼熱の炎にその表情が照らされる。
アドレイドさん。
そこにはなんの感情も見えない。だけど照らされる彼女の姿がきれいだと思ってしまった。
「踏みつぶすか」
ファルブラウが足を上げた、おおおおい! 容赦なさすぎだろ! 俺はきれいだって思ったんだぞ!
山のようなファルブラウの足がアドレイドさんを踏み潰すように動いた……!
ファルブラウの足で踏みつける。どぉおんと音がした。また、空気が振動する。……も、もしかして倒してしまった?
「ぐ?」
ファルブラウがうなる。踏みつぶしたはずの足が浮いた。ファルブラウが体勢を崩す。俺は落ちないようにする。この巨大な竜の少女が後ろに下がるとどぉんどぉおんと音がする。地面を踏みしめるだけですさまじい音がする。
いつの間にか目の前にアドレイドさんが浮いていた。ハルバードに黒い魔力を灯していた。それはだんだんと大きくなっていく。空間がゆがむ、ばちばちと黒い雷が鳴る。
「ファルブラウ、私は手加減をせんでござるよ」
「我に手加減だと! 1億年早いわ!」
ファルブラウが口を開く。すさまじい魔力がそこに収束していく。そして、ごおおおおおっと炎を吐いた。
そしてアドレイドさんがハルバードを振るう。黒い魔力をまとった一撃だった。
炎と黒い斬撃がぶつかり合う。光がはじけて、世界に火と黒い光が散っていく。次の瞬間にはすさまじい衝撃が来た。ファルブラウが踏ん張る。
「ふん、やる。さすがは最年長」
……盛り上がっているところ悪いんだけどこんなことに巻き込まれていたら俺たちそのうち死ぬんじゃないだろうか。……いってぇ!! アイリスは俺の頭にかじりついてきている! いたいたい! 驚くところが多すぎる!
「ラム、らむぅ助けて」
俺は外の世界にいるであろうラムに助けを求めた! まじで助けてほしい。
『わ、わかっているよ。でも僕の力だけじゃ干渉しきれないんだ。言っただろ、この世界はその頭にかじりついている女の子の世界だから、その子が目を覚まさないとどうしようもないんだよ』
「そ、そんなぁ、アイリス、正気に戻って」
「う、うが」
「うああああ、白目剝いている! そ、そうかファルブラウがめちゃくちゃに暴れたし炎を吐いたから!! ここはこの子の心の世界なんだっ」
助けに来てくれたのはいいけどファルブラウはむしろピンチを作ってないか! 人の心中ってことで好き勝手巨大化しやがってよぉ。どう考えても巨大化したかっただけだろ、絶対! こいつはそういうやつだ!!
「アドレイドぉ!」
どすんどすんアイリスの心を踏みしめながらダッシュするファルブラウ。や、やめろぉ! もっとそおっと歩いて!
「う、ぐぐぐぐ」
アイリスがうなっているし、そんな中でさらにファルブラウが炎をめちゃくちゃに吐いている、気持ちよさそうな顔をしている。アドレイドさんそれを避けては黒い斬撃で反撃してくる。
斬撃が飛んでくる。
俺とアイリスに向けて、その瞬間にファルブラウが後ろを向いた。
「ぐっ」
赤い血が飛ぶ。ファルブラウが顔をゆがめてからアドレイドさんをにらむ。
「我が相手だろう!」
「……何を甘いことを。私の目的はもともとアイリスでござる……それに聖天使殿はおぬしにとっても敵であろう?」
「…………我の敵は我が決める! 聖天使なぞ我がその気になったらけちょんけちょんだ!」
……ファルブラウ…。こいつはすごく口下手というかすぐ思ったことを口にするから訳が分からないことばかりだけど、少し旅をしてどういうやつかは分かった気がする。こういうことを言ってる時のこいつは、こいつなりのやさしさなんだ。
俺は叫んだ。
「ファルブラウ! 私たちをかばって……、そんな」
「かばってなどいない! 勘違いするな!」
「めちゃくちゃかばって……いや、わかったよ」
そうだ、わかった。……ファルブラウが頑張ってくれているうちにこの空間から出ないといけない。
「ラム!」
『なに!?』
「アイリスが目を覚ましてくれないとこの空間から出られないんだよね。どうすれば目を覚ます?」
『わ、わかんないよ。びんたとか』
「物理!?」
ともかくやるしかない。俺は頭にかじりついたアイリスを何とか引きはがす、いってぇ。彼女が暴れないように両手を抑えてファルブラウの肩の上で押さえつけようとした。
「ぐぐぐ、ううう」
すごい弱っている。ま、まあこれだけ心の中で暴れられたらね。と、とにかく目を覚ましてもらわないといけない。
その時影が見えた、俺が見上げるとハルバードを構えたアドレイドさんがいた。いつの間にこんなに近くに––。俺は剣を構えてそれを迎え撃つ。
ハルバードと俺の剣がぶつかりあう、すさまじい衝撃。何とか防いだけど俺の手から剣が飛んでいく。まずい。アドレイドさんの二撃目が来る!
『ブラッド・スピア!』
目の前に黒い闇が広がり、そこからラムが出てきた。最初にあったようなゴスロリの服にぬいぐるみを抱いて彼女は蝙蝠の羽を広げる。
「……はあはあ、やっと入ることができた、まったく世話の焼ける聖天使だね」
振り向かずにラムが言う。うう、ありがとう。マジでラムのほうが天使に見える。ファルブラウみたいに無駄に巨大化もしてないし。
ラムはそのまま右手を空に掲げた。
「悪いけどアドレイドあんたの相手なら手加減はできないよ」
ラムの周りに無数の赤い槍が浮かんだ。血のような魔力が広がって黒と赤の槍に代わっていく。ラムは右手を下ろした瞬間にそれは一斉にアドレイドに降り注いだ。
ハルバードが舞う。アドレイドさんは自分を襲うラムの攻撃を全て叩き落した。。あまりにきれいで見とれてしまった。砕けた槍の残骸が舞う。
「くっ、流石は年寄りさん……無理やりこちらに来た僕じゃ、こいつを止められない。聖天使! さっさとそいつを起こして」
ラムがどうやってこの世界に入ってきたのかはわからない。でも確かにアイリスの目を覚まさせないとまずい。この世界というか心の世界じゃ現実とは離れた動きをしている。
「させると思うでござるか。ラム」
「させるかだって? 誰に口をきいているんだよ! 僕は。ラム・ダンピールはだぞっ!」
赤い魔力でさらに作られた槍と黒い斬撃が交差する。ファルブラウの大きな瞳がそれを見ている、だけどどうしようもない、今あいつがここを攻撃したら全員巻き込まれる。でかすぎるんだよ! やっぱり! いや、そんなことを言っている場合じゃない。
「アイリス、アイリス」
「うぐぐ」
俺はアイリスの肩をゆする。目を覚ましてくれ。