TS美少女聖天使、俺 作:薄汚いメトロン星人
アイリスはうなっている。俺はその肩をゆすぶり続けた、この子が起きてくれればこの世界から出る方法があるかもしれない。だけど、起きない……いや、さっきまで俺に噛みついてたんだから起きてはいるけど正気に戻らない。
俺の後ろでラムとアドレイドさんがぶつかる音がする。俺の手にはもう剣はない、どっかにいったままだ。
「……起きて、アイリス」
「うう、ううう。いや」
「……い、いやって」
アイリスぅそんなこと言わずに……って実は目を覚ましているのか。俺の言葉に反応している。アイリスは目を閉じたままだ、でも……その閉じた瞼の裏から一筋の涙がこぼれた。
「!……」
俺はそれをみてなぜか止まってしまった。アイリスは目を閉じたままいう。
「私が、勇者の子孫とか……いや、いやだよ」
「アイリス……」
「みんなの目が怖い……こわい」
これは俺に話をしているわけじゃない……と思う。この世界は心の中だからこれがアイリスの本当の声なのかもしれない。普通の男子高校生をやっていた俺はのほほんと生きていたけど、この子はたぶんいろんなことが辛かったんだって思った。
「魔王とたたかうなんてこわい……
勇者なんて私はわからない……
そんなことを口に出したら気われるのが怖い、こわい、こわい」
閃光が奔った。俺が慌てて振り向くとラムが吹き飛ばされて倒れている。
「くっ、聖天使! 自分のことは自分で守って、すぐ僕がそこに、いくから!」
ラムが倒れたまま叫ぶのが聞こえる。ただ、俺の目の前にハルバードを携えたアドレイドさんが立っている。冷たい目で俺を見下ろしている。
「それがその子の本音でござるよ。聖天使セナ殿。過去の因縁にかかわりのない子供には重たいものを心の奥に秘していたのでござる」
「アドレイドさん……」
「……そう、私は『黒』のアドレイド。魔王軍の四天王が一人、聖天使……そして勇者の子孫を抹殺する」
アドレイドさんがそういったとき俺はアイリスを抱いて羽を動かした。避けるしかないと飛び立つ一瞬にアドレイドさんがハルバードを振るう。
間一髪だった。斬撃を何とかよけることができた……そう思ったとき体に痛みが走った。
「うあああ」
黒い魔力の衝撃波が襲ってきたなんとかアイリスを抱きかかえてかばう。ファルブラウの肩から落ちる……!
バランスが取れない! 俺とアイリスは抱き合ったまま落ちていく。なんとかアイリスは助けないといけない。それだけを考えていた。
「うう、うう」
落ちていく。だけど……なんか怖いくらいに逆に冷静になっていた。
世界がゆっくりと見えた。学園があってそれ以外は森が広がっている。空は暗い、遠くの景色がゆがんで見える。これがアイリスの心の風景なのかな。
俺は、無意識にアイリスの泣き声に反応して抱きしめていた。
それにファルブラウが暴れまわったせいで炎が世界を包んでいる。やりすぎだろ……。そのファルブラウが俺が落ちていくのを見て何か叫びながら言っている。慌てた顔をしているあいつは珍しい。
上から何かが落ちてくる。
それはアドレイドさんだった。ハルバード片手に俺にとどめを刺す気だろう。アイリスも含めて。
ああ、もうなんでこの世界の人間は全員素直じゃないんだ。アイリスとアドレイドさんもそうだけどラムもファルブラウももっとこう仲良くできるんじゃないのか?
「というかそうしてほしい」
完全に俺の希望だけどさ! でも、いろんなことがあるかもしれないけど! 俺は誰にも喧嘩してほしくない。俺はアイリスを抱きしめながら言う。というかアドレイドさんにも聞かせてやる!
「アイリス! 苦しいの私が全部聞いたから! 勇者の子孫とか魔王の四天王とか私にはなんにも関係ないから! どうせ大変なことは私がやることになるんだから全部、この」
ああ、言いたくない、言いたくない! 『自分で』「自分を』をそういうのは嫌だ、でも……ええい! いってやれ!
「この『聖天使セナ』に任せておいて!」
そしてもう一つ!
「アイリス、私が一緒だから!」
その言葉を放った瞬間に心の奥に温かい何かを感じた。胸元が光ってその光は俺とアイリスを包んだ。な、なんだこれ。体に力が溢れていく。これは前にキュリオが言っていた誰かを想うときに力が溢れるということ……!?
「何でござるか、これは」
アドレイドさんが空中で片手で顔をかばう。ただ光の中で『彼女』が目を覚ました。
「聖天使様……?」
グリーンの瞳に映る俺の姿。アイリスはしっかりと目を開けて俺を見ている。俺はそれに少し恥ずかしさもあったけどふっと、できるだけ優しい感じで笑ってあげる。ぎ、ぎこちないかな。
「やっと目を覚ましたね。ねぼすけさん」
……言った後に後悔した。何を言ってんだ俺は……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。ああ、もうこういうときでも俺はびしっとできない……うう。でも、アイリスは涙を溜めて俺の胸に顔をうずめた。
「うあああん!」
涙を流して大声で泣くアイリスを抱きしめて、俺はゆっくりと羽を動かす。
できるだけ優しく地面に降りる。降りたとき、地面に足をつけたとき波みたいに白い光が世界に広がっていく。広がっていく光が炎も消して、わっ、花畑が広がっていく。
「うあああんん」
その中でアイリスは大きく泣いている。それに洗い流されていくように世界の色が鮮やかになっていく。空が青く晴れていく。
「……聖天使殿」
俺の前にアドレイドさんが降りてくる。その表情には戸惑っているように見えた。俺だってそうだ。
「アドレイドさん。アイリスがため込んでいたものも私は全部受け止めて……あげられ」
あげられるかって言いかけて俺はいったん口を閉じた。それから少しだけおなかに力を入れて言った。
「全部受け止めて一緒にいるから大丈夫だよ」
「だ、大丈夫とは何を言っているのでござるか」
大丈夫っていえば大丈夫としか言えないけど、なんかもどかしいな……アドレイドさんはアイリスと戦いたいわけじゃないって知っているからそれで以上言うことはないんだけど。
だからあえて、アドレイドさんに俺は言わなければならない。俺は息を大きく吸った。