真実の愛……ちがう!! 真の力に目覚めた俺の体。胸奥から恋……違う!! 力が溢れてくる。さっきから変なワードが頭に浮かんですごい怖い。不安なんだよ!
だけどやっぱり体の奥からすさまじい力を感じる。これはファンタジーでいう魔力というやつだろうか。
『その力の名はエンドレス・ラブ・パワーね』
頭の中にキュリオの声がする。祈りのポーズをしてないので何で話しかけてこれるんだ。あとその名前絶対に使わないからな。これは魔力だ。
『変身している時はあんたの頭の中に干渉できるのよ。何? 文句あるの? なんだったらあへあへ言わせていいのよ」
怖い。
「そ、そんなことよりも今は目の前の敵に集中しないと」
俺はそう言って真の敵である赤い竜ファルブラヴに向き直った。俺の急な変身に驚いたのか、ぐるるるとうなりながら俺を見ている。俺は剣を握る手に自然と力が入るのを感じた。
圧倒的な迫力だ。
変身したとしても俺の数十倍はある巨体。体中から光が鈍く放っているのは魔力だろうか。炎が揺らめくように体を包んでいる。
「くっ」
後ろに下がりそうになる。だが俺はおなかに力を入れて踏みとどまる。確かにこいつは強いのはわかる。でも、それでも俺は勝てる気がする。
『脳内麻薬をいろいろと出してあげるから。怖さもやらぐわよ~」
…………俺の体は大丈夫なんだろうか。いや、それよりも先手必勝だ。俺は剣を構えて一足飛びに飛び込む。自分の体が信じられないほど軽い。俺は疾風のように突きを放った。
がきん。
ファルブラウの額に一撃が入った! ……!? 剣が刺さらない! 固い皮膚を剣が通らない。竜の目がぎろりと俺を見る。だけど負けてられない。
「やああああぁああ!!」
俺は叫んだ。体を聖なる力が包む。
羽を広げて、大きく動かす。剣に全力を込める! それでも刃は通らない。だけどファルブラウの体が勢いのまま後ろに飛んだ。吹き飛んだ巨体が廃城の壁に当たり、がらがらと崩れていく。
俺は城の前に降りて剣を振る。やったか?!
濛々と立ち込める煙の中で赤い竜は体を起こした。光る眼と煙の向こうのシルエットが浮かび上がる。
『グオオオオオオオ!』
巨大な咆哮に煙が吹き飛ぶ。ファルブラウは巨大な口を開けて、その喉の奥が紅く光る。俺ははっとして羽を広げる。
炎を吐く。すさまじい勢いで俺の居た場所が炎に包まれる。
空を飛ぶ。眼下が紅い炎が急激に広がっていく。その中心でファルブラウが唸っている。
「はあはあ」
なんだ……疲れが急に。そう思うとキュリオの声が頭に響く。
『ああ、菓子うま……それと言っておくけど、変身ができる時間は人間の時間に換算して3分よ』
……! は、はやく言えよ!
今変身が解けたら最初の予定通り俺は生贄だよ。というかあんなに怒り狂っているならむしろこのまま村も滅ぼすんじゃないのか? そう思って村の方を見る。空から見れば遠くに村の姿が見えた。
……確かにろくでもない村だし。俺を生贄として抹殺しようとしたり……媚薬を飲ませてきたり…………ほ、ほろびてい……い、いや、それでも一生懸命みんな生きているんだ。流石に俺でも見捨てることはできない。そ、そういうことするぞ!
そう思った瞬間俺の体から白い魔力があふれ出した。
「これは。今までにない力が溢れてくる」
『どうやら人を救うことを心に想ったようね」
キュリオ。
『人と思う心……それが天使の力の源。つまり愛よ。さあ、セナ。今のあなたならあの赤いトカゲくらい必殺技で一撃よ』
必殺技……それをキュリオに聞く必要はない。俺の胸の奥にその言葉はある。俺は剣を天に掲げる。白い魔力がすべてそこに収束していく。
眼下のファルブラウが飛んだ。唸りながら俺に向ってくる。炎を吐き、それが俺を包む。全てを焼き尽くすような業火が視界を埋め尽くす。灼熱が渦を巻いて俺を襲う。
だけど、俺の体には通じない。俺は全ての魔力を剣に纏わせる。そしてファルブラウに向けて剣を振り下ろす。力の限り!
「ファルブラウ! 私はお前に恨みなんてない! だからその邪悪なる心を打ち払わう。くらえぇ! ルミナス・スラッシュ!!」
白い魔力の一撃が剣から放たれ。ファルブラウを包み込み地上に落ちる。光は世界を照らし。その聖なる力が暗い雲を吹きとばした。
『ガアアアアアアア!』
その声を最後に赤い竜は光の中に消えていく――。
「はあはあ」
青い空の真ん中で俺はなんとか羽を動かして飛ぶ。一気に疲労感が襲ってくる。手の中の剣は羽の形をした光になって空に消える。
「勝った……」
脳内麻薬とか媚薬とかですごいテンション高かったことが勝因な気もするけど、それは言わない。それにしても俺の力はすごい。あんなに強い竜を倒すことができるなんて……これならキュリオの言っていた魔王を倒すのもできるかもしれない。
そう思って俺はぎゅっと手を握った。
『ああ、そうそう。そろそろ時間だから。おつかれ~。服は戻らないから』
は?
その瞬間だった。俺の体を包むコスチュームのリボンが光り、そしてキラキラと光りながら消えていく。そして服からニーソックスとロンググローブまで光って消えていった。
「………………っっっっっ!!!??」
青い空の真ん中で俺は自分の体を手で隠した。頬が熱い。な、なんでこんな目にぃ。やっぱり魔王とかよりキュリオのほうが敵な気がする! そもそも俺がこんな目にあっているのは魔王よりあいつのせいだろ!
☆☆
巨大な鏡があった。
その前に座る黒い影。体に纏う魔力はファルブラウのさらに数倍はあるだろう。
鏡に映るのは白い肌をさらす金髪の天使だった。つい先ほどまでのすさまじい戦いの後に哀れな姿をさらしている。黒い影はそれを見ながら手に持ったグラスを揺らす。
中に入った赤い液体が揺れる。
「魔王様~」
そのグラスに少女の顔が映る。魔王と呼ばれたものは何も言わずに振り返る。
そこには大きなウサギのぬいぐるみを抱きかかえた青い髪の少女がいた。その少女は黒のゴシックな服装に身を包み。彼女が動くたびにスカートのフリルが揺れた。
その目は深い、深い。藍色だった。彼女は笑う。
「これが魔王様を倒そうっていう、天使様なの~。きゃは! 弱そう~。でもでも~四天王最弱のファルブラウを倒すなんて少しはやるのかなぁ」
彼女は笑う。
「まあ、あいつはおもちゃだし~。そうだ! 魔王様。ここはこのラムちゃんがあいつを倒してあげるよ~。いいでしょ~、ねえねえ~」
少女の訴えに魔王は片手を上げる。それで少女はぴょんと飛んでぎゅううっとぬいぐるみを抱く。
「えへへ。僕、頑張るよ。ざこざこ聖天使セナちゃん。次は四天王ラム・ダンピールが相手をしてあげるよ~、くくく。あははははは」
少女の声が闇に響く。彼女はまだ、自分の運命を知らない。