壮絶なる死闘
廃城の近くには巨大なクレーターがあった。
エンドレス・ラブパワーとかいうふざけた名前の力で俺が必殺技を放った余波だ。もちろんその名前は永久に使わないし口に出さない。俺は『魔力』という言い方で通す。
地面がえぐれる形でぽっかり空いた大きな穴のふちに俺は手をついて中を覗き込む。落ちたら上がってくるのに苦労しそう……。それにしても深いなぁ、ふぇええええ手元に体重をかけたらくずれたぁ、ごろごろごろごろとひええええええ。
……ぺっぺっ。す、砂まみれになってしまった。俺はドジっ子じゃないぞ……。クレーターの真ん中くらいまで落ちた。怪我しなくてよかった。誰にも見られてないよな……。
だけど、この穴に本当は居ないといけないものがない。ファルブラウがいないということはやっぱりあの竜は生きているってことか。もう一度戦うとすれば変身しないといけないだろうけど……野放しにしておくと村を襲うかもしれない。
それにしてもあれだけの大きな体だ。飛んで行ったなら誰か見てもおかしくない。俺は両手を組んで首を傾げた。その時声がした。
「現れたな! 聖天使!!」
声に驚いた俺が振り返るとクレーターのふちに足をかけて俺を見下ろす少女が一人。赤い髪に褐色の肌。先のとがった大きな耳。両手を組んで俺を見下ろしている。
紅の短いスカートにワインレッドの丈の短いコート。胸元に赤い宝石がはめ込まれている。だ、誰だ? 俺は聞いた。
「あ、なたは?」
「はーはっはっはっは!!!」
少女は大きく口を開けて高笑いした。歯がぎざぎざにとがっている!? 人間じゃないのか? 少女の瞳は金色に輝いている。それだけでも普通じゃない。
少女は片手を空にあげて名乗った。
「聞いて驚け。我の名前はファルブラウ! 魔王軍四天王の一人! 『赤のファルブラウ』だ!」
な、なんだって。あの子が? 竜の姿に変身していたってことか? ……すごい。漫画とかアニメみたい! ……はっ。少しワクワクしてしまった。……い、いやここにあいつが現れたってことはおそらく俺と戦いに来たんだ。
ファルブラウは言った。
「あの時いきなり現れたお前に酒を飲まされて少しばかり油断してしまったが、今度はそーはいかんゾ! 今度こそ貴様の息の根を止めてやる。わっ、わあぁ」
ファルブラウは少し身を乗り出した時に体勢を崩してクレーターの中にゴロゴロと転がってきた。わ、わあ! あ、危ない。俺はおたおたしてしまう。う、受け止めないと。
「ろ、ローリングアタック!!」
「ぐあぁあ!」
ファルブラウはごろごろ転がってきて俺にぶつかってきた。俺は受け止めきれずにはじかれる。
「く、くくく。け、計算通りだ」
彼女は砂まみれで立ち上がる。俺も立ち上がった。
「ぜ、絶対違うでしょ!」
「うるさい! 我のせんせー攻撃だ! あとはそうだな。おらっ」
ファルブラウが砂を掴んで投げてくる。わっ、やめろぉ! こ、こいつもしかして竜の姿じゃないと弱いのか?
「目つぶしだ! ふふふ。ひるんだところを地獄の業火で焼かれるがいい」
し、しまった! 折れの目の前でファルブラウが口を大きく開けて息を吸う。まさかあの時みたいに炎を吐くのか!? し、死ぬ。
「ふー」
息を吐いたファルブラウ。俺は固まってしまう。……しばらくして彼女は不敵に笑ってからぽかぽかと俺を殴った。
「い、いたいいたい。やめて」
「うるさい! お前のせいだ!」
「こ、このやろうぉ」
反撃しようとしたが相手は女の子だ。少なくとも女の子姿だ。殴り返すのは手が止まった。なんとなくほっぺたをつねる。するとファルブラウも同じように引っ張ってきた。いたたただ、痛い。地味に痛い。
「はなせぇ天使がぁ」
「そっちこそはなせぇ」
俺たちはお互いに掴み合ったままひっぱり合う。はあはあ。なんだこれは。力はほとんど互角に感じる。変身……いや、こんなわけのわからないことで変身はできない。全裸にもなりたくない。
戦況は硬直状態。ほっぺたをつねられて涙が出てくる。ファルブラウも少し涙目だ。
「まっ、まって。少しは、話しあおう?」
俺が言うとファルブラウもふんと鼻を鳴らして。引き下がった。痛い、普通に。彼女もほっぺを抑えている。俺は言った。
「あ、あなたがあの竜だって言うことですか?」
「そうだ! 近くの廃城で休んでいたらいきなり近くの村の連中が別にいらんのに生贄をささげるっていわれてなんとなくどこにも行けなくなって待ってたら、お前が来たんだ!」
「ええ……」
村の連中の勘違い……? そんなバカな……。ファルブラウは顎を上げて俺を見た。
「どちらにせよ貴様。神の使いである、聖天使だろう! 我の主君である魔王様の敵と出会えたことは僥倖だ! ここで決着をつけてやる」
「ま、まって! さっきのでわかったけど力がなくなっているんじゃないの!?」
「そ、そんなことはない。手加減しただけだ!」
絶対嘘だ! ほっぺをつねる竜なんているもんか! ファルブラウは威嚇なのかファイティングポーズをしてしゅっしゅっと口で言いながら右手で空にパンチしてる。
「ちょっと待って。こっちも戦いたくないんだよ」
「ほう、臆したか。無理もない」
「…………」
こいつ……ま、まあ戦いたくないのは本当だ! ど、どうすればいいだろうか。ええい! だめもとで言ってみよう。
「だ、だったら平和的な方法で決めよう!」
「平和的だと……? 愚かな……闘争の本質を見誤っている」
「く、足を踏み外してローリングアタックとか言ってきた人に言われたくない!」
「うるさい!! あれは計算だ!!!!
「絶対嘘だ!」
「本当だっ!」
「嘘!」
「本当!」
「うーそー!!」
「ほんとー!!」
はあはあ。なんだこの不毛な戦いは。
いや、戦争なんてこんなものかもしれない……な、何を悟ったことを言っているんだ。俺は頭を振る。とりあえずこの子と戦いたくないというのは本当だ。なんか悪いやつではないんじゃないかって少し思うし。
俺は安っぽい挑発をする。挑発とか人生で初めてやった?
「そんなこと言って負けるのが怖いんじゃないの?」
「なーにー!?」
面白いくらい引っかかる。ファルブラウは両手を組んでいった。
「いいだろう。貴様の言う勝負に勝てばお前は魔王軍の奴隷だ!」
「ど、奴隷?」
奴隷とか初めて聞いた。俺が?
「じゃ、じゃあ私が勝ったらどうしてくれるの」
「ふ。決まっておろう。目の前で自決してくれるわ」
「じけつ?」
なにそれ。ファルブラウはがっくり肩を落とした。し、知らないのは仕方ないでしょ。
「自ら命を絶つってことだ!」
「そ、そんなのはいらない! きつい!」
「じゃあ、好きにしろ!」
「好きにしろって……いわれても」
「なんでもしてやる」
いまなんでも……いや、妙なミームを頭から振り払う。少しドキッとした。褐色の美少女が目の前にいることをほんの少しだけ意識してしまった。俺は煩悩を振り払って言う。
「じゃあ、こっちが勝ったら。……ええと、あれだ」
俺は指を突きつける。
「と、友達だ!」
自分で言って恥ずかしくなって、顔が熱くなるのを感じた。