症例『魔法少女』:マジカル•シンドローム   作:透亜九郎

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さて、ここから本編です

日常を生きる女子高生たちの視点から始まります


カルテNo.001:あたしには関係ないこと、だった

 

「ねぇ、ニュース見た?昨日の放課後アマクサの方で化け物出たんだって」

「ヤバ。昨日部活で助かったわー」

 

 そんな会話を耳にしながらあたしは教室の窓の外を眺める。どうにも最近退屈でついボーッとしてしまう。授業に集中するのも一苦労だ。

 世界がつまらなくて、色褪せてみえる。これが高二病というやつなのだろうか。

 今だっていつもと変わらない朝、中高一貫で変わらない友達の面々にも飽いている。うん。我ながら失礼だ。

 ガラリと教室の引き戸が開く音がしたので、窓の外に向けていた視線を何の気なしにそちらへと向けると長い前髪で目元を隠した少女——確か名前は黒染(くろぞめ)さん——が登校したところだった。

 誰にあいさつをするでもなく、教室に入ってすぐの後方隅の席に静かに着く。

 ……あれ、前見えてるのかな?と改めて思う。

 黒染さんは何度か同じクラスになっていたはずだけど、前からあんな人だったか。関わることもそうなかったので印象に乏しい。

 

「梓?聞いてるー?」

「んぇ?」

 

 唐突に名前を呼ばれてボーッとした意識が引き戻された。

 あたしを呼んだのはさっきから駄弁っていた友達二人のうちの片割れ、黒髪ギャルといった風貌の井口神奈だった。神奈はジト目であたしの顔を怪訝に見つめている。

 

「最近多いよね。白上がボーッとしてるの」

 

 そう言ってあたしの頬を指で突くのは、長谷部ゆかな。プリンになりつつある頭髪をした金髪ギャル。どうしてか付き合いの長い2人はギャルギャルしくなってしまっている。

 もしかしてあたしも側からみたらそうなのかな?

 

「そうかな?うーんそうかも……。あったかくなってきたからかなぁ」

 

 適当にシラをきって誤魔化す。おそらく高二病とは無縁の2人だ。言っても茶化されて終わりだろう。

 誤魔化すあたしに神奈が聞く。

 

「ふーん?で、どこ見てたん?」

「え、あー。黒染さん」

「黒染ー?あ、いつの間にか来てる。マジで気配ないなー」

 

 ゆかなの言葉で2人の視線が彼女の方へ向く。黒染さんは何をするでもなくただ席に静かに座っている。

 

「ドア開く音したから自然に目がいっちゃって」

「つまりあーしらの話は全然聞いてなかったと」

「そんな白上のほっぺはこうだー」

「ひわっ!?そんなぷにぷにしないでぇ!」

 

 2人からの頬っぺ突き攻勢に形だけ抵抗する。なんだかんだこういうやりとりは好きだ。

 ひとしきりあたしの頬を弄った2人は満足したようで指を引き、神奈が徐ろに口を開く。

 

「そういえば黒染サンといえば、昨日の帰りアマクサの方歩いてくの見たけどだいじょぶだったんかな」

「アマクサ?なんで?」

「ホント話聞いてなかったんな梓。昨日の放課後、アマクサで例の化け物——なんだっけ、ビアードみたいな」

「ウィアド、なー。シュークリーム売ってそうな名前じゃんそれ」

 

 神奈の言葉にゆかなが訂正を入れる。

 ウィアド。ちょこちょこ聞く単語。なんでも突然化け物が現れて人を襲うとか。ニュースなんかで見るけど、そっか。昨日も出たんだ。

 どうにもあたしには関係のない遠い場所で起こるイメージが拭えない。他人事だ。

 

「でも今日来てるってことは大丈夫だったんじゃない?そんな騒がれてないってことはウィアドもすぐに倒されたんでしょ?」

「あーね、魔法少女な。ウィアドも怖いけど魔法少女も大概じゃんね。言うてあいつらだってやべーチカラ使える感染者じゃん?どっちもどっちじゃんね」

 

 それなー、と神奈に同調して頷くゆかな。

 あたしたちの住むこの『都市』に潜む脅威。

 

 ひとつがウィアド。唐突に現れては人を襲う謎の化け物。

 もうひとつが、『魔法少女』。正確に言えば、魔法少女になってしまう原因である病だ。

 

 『魔法少女症候群』。感染して発症したら最後。確実に死に至る病気。魔法少女と呼ばれる所以は、発症した人が魔法のような力を使えるようになるとかで。少女が付くのは、何故か若い女性が罹りやすいという理由から。

 それを発症した人たちがその魔法を使って、現れたウィアドを退治する。それがこの『都市』での常識だ。

 なんでも莫大な治療費が掛かるから、お金を稼ぐ為にそんなことをしているという話。まぁ、あくまで噂だけど。

 

「無事でももしかして感染してるかもしんないじゃん。怖いって」

「神奈、それイジメだからね?そういうのよくないよ」

 

 神奈が茶化すように言うのであたしはそれを窘める。

 あたしがこういった小言を言うのは日常茶飯事なので、神奈は「へーい」と気の抜けた返事を返す。

 どうにもそういう配慮に欠けたことが苦手はあたしは昔からつい口を出してしまう。それでいじめられかけたこともあったっけ。助けてくれたのが目の前の2人だ。ギャルギャルしくて多少思慮に欠けるところはあるが、根はとてもいい子たちだ。

 

「し、白上!!」

「あん?」

 

 突然声を掛けられたあたし。何故か返事をしたのは神奈だった。声の持ち主はクラスの男子、永山くん。ちょっとオタクっぽい見た目の優等生でクラス委員長。

 そんな彼が声を掛けてくるなんて、あたし何か提出し忘れたものでもあったっけ。

 どこか緊張した面持ちの彼は、直立不動であたしの前に立って口をもごもごさせている。その顔は何故か赤い。真っ赤っか。

 

「おっ……!」

「お?」

「おー、おっ俺と!付き合ってください!!」

 

 腰を直角に曲げて、そんなことを叫ぶ永山くん。

 突然過ぎる告白に、あたしは当然として、神奈とゆかなも唖然としている。何でこんなタイミング……それも人がたくさんいる教室で……?

 

「え、えーっとそのぉ……ごめんなさい?」

 

 あたしがそう言葉を捻り出すと、彼は余計に顔を赤くして走り去って行った。もうそろそろホームルーム始まるのに。

 

「……なんだったん、あれ」

「あったかくなって頭お花畑になったんじゃないー?」

「あ、あはは……」

 

 教室中から集まるクラスメイトたちの視線が痛い。

 注目されるのは苦手じゃないけど、さすがに悪目立ちは嫌だ。

 

「梓、あいつに何かしたん?」

「たまーに提出物運ぶの手伝ったりしたぐらいで、あんまり話したことないよ」

「白上はなー、そーいうとこあるからなー」

「え、なに、どういうこと?」

「あーいう男子ってのは優しくされるとすぐ勘違いしちゃうもんなんだよ。あーあ、いいんちょカワイソ」

「白上は分け隔てなく優しいからなー。罪なオンナだぜー」

「ええ……?」

 

 そんな出来事があって、永山くんは結局一限が終わる頃に戻ってきた。その瞬間こそ揶揄われもしていたが、二限が数学の小テストだと分かって阿鼻叫喚。すぐに興味は失われたようで、何事もなく一日の授業を終えた。

 

「それじゃあ予防接種の用紙、忘れないように。また明日」

 

 そして迎えた放課後。

 神奈はバイト、ゆかなは部活があるので早々に教室を出て行った。昨日もウィアドが出たというし、あたしも早く帰ろうと玄関に向かう。

 何の変哲もない一日がまた終わる。

 そうしてまた変わらない明日が来る。

 そう、思っていたのに。

 

 

「じぃぃらぁぁぁぁぁぁあぁぁ」

 

 あたしの目の前には2メートル程あろうかという影。

 深緑の肉塊に手足が生えたような異形。身体からは肋骨のような鉤爪が飛び出している。唸るような鳴き声をさせながらじりじりとあたしに近付いてくる。

 

「う、ウィアド……?」

 

 ほんの先ほどまで、自分には関係のない場所で起こっていると思っていた『都市』に潜む脅威。

 突然訪れたそれは、あたしの理解を超えたところにあって。ウィアドは事故的に、野生動物と遭遇するようなものだと思っていた。それなのに。

 

「なが、やまくん……が、なんで」

「じぃぃぃラァァかみィィィィ……」

 

 ウィアドが鳴らすしゃがれた音は、確かにあたしの名前を呼んだ。ああ、やっぱりそうなんだ。

 あたしに迫るウィアドは——永山くんが変わってしまった姿なんだ。




いかがでしたでしょうか?
何となくこの作品の雰囲気、伝わるでしょうか……
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