「おふざけは~‼」
突然空から大声が聞こえて、その場に居たほぼ全員がビクッと反応して視線を上げた。
「許さな~い‼」
「「「「ぎゃあああああああああああ~っ⁉」」」」
ボーボボたちが立つ地点に突っ込み、大爆発。彼らは紙のように吹き飛ばされた。
見ていた津山やビュティとヘッポコ丸は一切被害を受けていないものの、今後の展開を予想して言葉を失っている。
煙が晴れ、爆発が起きた地点に立っている存在の姿が見えた。
魚雷に人の腕と足が生えた何か。それにはれっきとした顔があって声を発する。
「どこ⁉ どこなの⁉ おふざけをしている人はどこにいるの⁉」
「ま、待ってください先生! 僕らは全くふざけていたわけでは――!」
「そこかぁ~‼」
「ぎゃああああああああああっ⁉」
再度突撃してボーボボたちが跳ね飛ばされた。
為す術もなくただ攻撃を受け、起き上がる気力もなく地面に倒れる。そうしたボーボボたちの姿を見ることは珍しい。
ただ彼女が相手ならば仕方ない。見ていた三人はそう思っていた。
「おふざけは絶対に許さない! なぜなら私は魚雷だから‼」
その名も魚雷ガール。
かつてボーボボたちと敵対し、一度は倒したはずだが二度と戦いたくないと思った相手。負けていたとしてもおかしくなかった激戦だった。
しかしその後、ひょんなことから再会してしまい、戦闘を避けるためにボーボボたちが先生として敬うふりをしてなんとか関係性を築いている相手である。
彼女は伝説の“ボケ殺し”の生き残り。他者のボケを完全に封殺する能力を持つ。そのためおふざけを主な戦法とするハジケリストたちの天敵であった。
その力は言うなれば津山の上位互換にして完成形。唯一無二にして最強。
魚雷ガールの登場によりボーボボたちは震えていた。
彼女の前でふざければ間違いなく攻撃を受ける。避ける手立てすらないためただ怯えるだけだ。
「あなたたちまたふざけてたわね⁉」
「わぁあああ違うんですぅ⁉ ふざけてなんてないんですぅ!」
「僕たち真面目に戦ってただけなんです~!」
「そうそう! 敵が現れたんですぅ!」
ボーボボ・首領パッチ・天の助は指示されることなく正座して頭を下げていた。
そして何が起こったか理解できず、ぽかんとしているバッドをおもむろに指差した。
「ふざけているように見えたのはあいつに言われたからなんですぅ~!」
「何ィ⁉ 俺は何も言ってないぞ!」
「あいつがふざけろって言ったからぁ~!」
「僕たち何もしてないんですぅ~!」
「ふざけるな! 俺は一切ふざけてなどいないぞ! むしろお前たちが自発的にふざけていた! 俺は巻き込まれただけだ!」
「いーや違う! お前が俺たちにふざけろって言ったんだ! この卑怯者!」
「何が卑怯だ! 俺は出会ってから今まで常に真面目に戦っている! ふざけた技を使ったのもふざけた展開にしたのもお前たちの方だ!」
「あぁ~やめろやめろ! うるさいぞお前! 俺たちがふざけてないって言ってるんだからふざけてないって言ってくれないと――!」
「しゃらくせぇ~‼」
「「「「ぎゃあああああああ~っ⁉」」」」
「問答無用だぁ~⁉」
魚雷ガールが回し蹴りでボーボボたちをまとめて蹴り飛ばした。
「先生は! しゃらくさい子が! お嫌い!」
「ぐぅぅ、なんなんだこいつは……」
ボーボボたちだけでなく敵であるバッドまで、抵抗する暇さえ与えられずに制圧される。あまりにも圧倒的な光景であった。
ハッとしたビュティは咄嗟に津山を心配して声をかける。
「津山さん、この人は味方です! だからって安全とは限らないけど!」
「いや、うん……なんとなくわかるよ」
「あら? 新顔ね」
魚雷ガールが津山を見た。
彼は何もせずに立っていただけだ。ふざけていれば迷わず突撃してきただろうが、見た目も行動もふざけていないためただ見られただけで済む。
興味を持った様子には見えないのだが、それはそれとしてなぜかじっと見つめられた。
「とりあえずふざけてはいないようね」
「はい……」
「だけどあなたからは何か感じるわ。もしや“ボケ殺し”の一族?」
「え⁉ いや違うと思いますけど」
「まさか生き別れた私の弟⁉」
「んなわけないだろ!」
津山は反射的にツッコんでしまった。「あっ」と思ったのはビュティとヘッポコ丸だ。
文字化した「んなわけないだろ!」が高速で魚雷ガールへ迫る。
しまった、と思ったのも束の間、魚雷ガールに激突したツッコミはガラスが割れるかのようにパリンと呆気なく壊れてしまった。
「ええっ⁉ 効かない⁉」
「フフン、私にツッコむその度胸は認めてあげるわ。だけどそんなもの私には効かない」
「なぜなら私は魚雷だから‼」
「関係ねぇ⁉」
またしてもツッコミが飛ぶが魚雷ガールの体に触れた途端に破壊される。
「それもまた効かない! なぜなら私は魚雷だから‼」
「つ、強過ぎる……! でも魚雷だからなのか?」
「諦めましょう津山さん。こればっかりはどうにもできないの」
「そうか……」
ビュティに諭されて津山はツッコミをやめる。
どんな理屈がまかり通っているのかはわからないが、魚雷ガールに常識は通用しない。それだけは確かだった。
知識としては以前から知っていたはずだが津山は改めて体感し、その無法さに言葉を失う。
「ハイハイハイちゅうも~く! あなたたち先生に注目しなさい!」
魚雷ガールが手を叩いて周囲に呼び掛けた。
その場に居た全員が黙って注目し、彼女に視線を集める。
「え~今日はね、あなたたちに伝えなきゃいけないことがあって先生来ました。この前会った時に伝え忘れていたんですね」
「私のメロンパン食ったのどいつだァ~‼」
津山・ビュティ・ヘッポコ丸は同様の顔をしていた。リアクションする気もなく冷めている。
反対にボーボボ・首領パッチ・天の助・バッドの四人は慌てふためいている。
「「「ぼぼぼ僕たちじゃありません! 僕たちは食べてませんよ!」」」
「お、俺は絶対に違うぞ! 今が初対面なんだからな!」
「喧嘩両成敗~‼」
「「「「ぎゃああああああああああ~っ⁉」」」」
「食べた食べてないは水掛け論よ! 先生しゃらくさい子は許せないわ! しゃらくさい子には魚雷旋風脚をお見舞いしちゃう!」
「念のためもう一度聞いてあげるけど食べたの⁉ 食べてないの⁉」
「「「「食べてません!」」」」
「しゃらくせぇ~‼」
「「「「ぐばぁああああああああっ⁉」」」」
きちんと受け答えをしているはずだが、魚雷ガールが思うままに暴れていた。
津山は気付けば開いた口が塞がらずに呆然としている。
「む、無茶苦茶だ……ボーボボたちに輪をかけて無茶苦茶だ」
「あの人はあれが普通だから」
「流石はボケ殺しだ……! ボーボボさんたちが手も足も出ないっ」
「靴ずれしたわ~!」
「ぶべぇ⁉」
おもむろに天の助の顔面を蹴っ飛ばした後、魚雷ガールは誰にともなく叫んだ。
「上等だわ! 毛狩り隊の基地だかなんだか知らないけどやってやろうじゃない!」
「どこからそんな話が⁉」
「ぶっ潰す! 行くわよあんたたち!」
「おおっ! 魚雷先生がやる気になられた!」
「神輿だ! 神輿を担げ!」
「先生こちらへどうぞ! ほらお前も来るんだよ!」
「えっ⁉ 俺も⁉」
ボーボボたちは魚雷ガールを小型の神輿に乗せて、「わっしょいわっしょい」と景気よく運ぶ。しかしすぐに飽きたようで「重っ!」と言って神輿ごと捨ててしまった。
魚雷ガールが地面に触れていたのはほんの一瞬。彼女はすかさず迷わずに飛んだ。
「ふざけるなァ~‼」
「「「ぐわぁあああああああああっ⁉」」」
「なんで俺までぇええええっ⁉」
「元気だ……」
「元気だね」
「ああ、元気だ」
津山たちは決してそこに参加しようとはしなかった。
あそこに入ると大変なことになる。そう思って一定の距離を保ち続けていた。