毛狩り隊水族館ブロック基地の基地長、バッドは焦っていた。
ボーボボたちが想像以上に厄介なのも気になるが、それ以上にまずいのが魚雷ガールの存在だ。彼女が乱入してきたことで衝撃を覚え、とんでもない強さだと知ってしまった。正面から戦っても勝てない可能性について考えてしまったのである。
(こいつはまずい……! ボーボボたちだけならともかく、手を組まれると厄介だ……!)
「ニャン!」
「ワンワン!」
「ニャアン!」
「ワンワンワン!」
「お前の負けだァ~‼」
「ぐばぁああああああっ⁉」
突撃した魚雷ガールがボーボボを激しく跳ね飛ばした。とても仲間とは思えない光景で、息をするようにそんなことをしているのが信じられない。
しかし一応は仲間であるらしく、魚雷ガールがこのままボーボボたちに協力するのは避けたい。
(分断するんだ! 奴らが協力できない状況にすればいい!)
「オッポポオッポポ!」
「ハイサイヤー!」
「誰に言ってんだてめぇ‼」
「おぶぱっ⁉」
魚雷ガールが首領パッチの顔面を蹴り飛ばした。
何をしているのかはわからないがとになく何らかの遊びではあるらしい。
自らを狙う敵は居ない。そのためバッドは問題なく準備ができた。
(こいつらをバラバラにして各個撃破する! それしかない!)
「モロップ!」
「うるせぇ~‼」
「あべしっ⁉」
魚雷ガールが天の助の秘孔を突いて爆散させた。
その間に真拳エネルギーを最大限まで溜めたバッドは全力で技を放つ。
「うおおおおおおおっ! 貝さん、解散!」
叫んだ瞬間、人間サイズの貝がボンっといくつも現れて、迷わず接近してボーボボたちの体を挟むとピョンピョン跳ねて移動を始めた。
痛みこそないがすごい力で捕らえられていて、抵抗しても抜け出せない。
虚をつかれたせいか、魚雷ガールまでもが無理やりどこかへ運ばれていく。
「きゃあああああっ⁉ なにこれぇ⁉」
「しまった! ビュティ~!」
「ギョラァアアアアッ⁉」
「俺の貝だけ強ェ~⁉」
全員を捕らえて四方八方へ散っていく。
作戦は成功した。
彼らが油断していたこと、奇襲を仕掛けたことでボーボボたちは散り散りになる。
「予定変更だ! ボーボボよ! この基地には貴様を倒すために鍛えた我が部下たちが至る場所に待ち構えているぞ! ここから生きて出られると思うな!」
「ホタテはやっぱりソテーざんす」
「何ぃいいいいっ⁉ おい貴様ァ、焼くな! ちゃんと連れていかれろ!」
その時ボーボボは機転を利かせた。
非戦闘員であるビュティが狙われるのはまずい。しかし巨大な貝の動きが素早く、助け出すことは不可能。ならばせめて基地長であるバッドだけでも引き離そうと考えた。
ボーボボの鼻から鼻毛が伸びた。
異様に長く伸びた二本の鼻毛がバッドの体に巻き付き、無理やり自身に同行させたのである。
「おのれ~! 貴様だけは逃がさんぞ!」
「何ィ~⁉」
「こうすれば貴様は俺から離れることはできない! 部下たちに命令することもさせん! これ以上勝手な真似は許さんぞ!」
「フン、バカめ! 鼻毛など俺のダジャレ真拳で切ってしまえばいいだけだ!」
鼻毛に拘束されたバッドはすぐさまその鼻毛を切断するためのダジャレを放とうとした。
「このカッター、たか――!」
「ふざけすぎ~‼」
「ごぱぁ⁉」
しかし言い切る前に魚雷ガールがバッドに激突し、技の発動はキャンセルされた。
今の一言で貝の拘束から抜け出した魚雷ガールは鼻毛に引きずられて移動していく彼を見送る。
「なによダジャレ真拳って! あんたふざけすぎ! そんな真拳があってたまるか!」
「お前に言われたくはないわ~‼」
「私はいいの。魚雷だから」
本人たちでさえ想定していなかった状況であるが、こうして魚雷ガールだけをその場に残して、ボーボボ一行は水族館全域に散り散りになってしまった。
多少のトラブルがあったとはいえ、バッドの思惑は成功したのである。
薄暗く広い水族館に連れてこられた津山は、ぺっと吐き出されるように床へ落とされた。
照明がなくはないが異様に暗い。
彼が知る由もなかったが、そこは地下に設けられた深海生物フロア。薄暗い中で壁一面を占める大きな水槽があり、わずかなライトで照らされた深海魚たちの姿が見えた。
それだけならばともかく、そこにはすでに誰かが居た。状況から考えて職員か、そうでなければ間違いなく毛狩り隊に属する敵だろうと察する。
津山は起き上がるよりも先にこの状況に怯えた。
そこに居たのは短髪でガタイがよく、大きく筋肉を隆起させた強そうな男。
戦えばまず勝てないだろうと想像させて、なおかつハジケそうにもない人物だった。
「俺は深海フロアの番人、ナイトンだ。お前を今から殺す」
「うーわ……ツッコめないタイプの敵だ」
「ボーボボ一行の誰だか知らん奴、俺と勝負しろ」
「そんな認識されてるんだ。いや間違ってはないんだけど。知らん奴なのに倒そうとするのなんか律儀だな……」
なんだかシンプルに強そうな敵が出てきてしまって、怯えるのを忘れた津山は困ってしまう。
これでは自身のツッコミが技として発動できず戦闘にすらならない。
そう考えれば本来は怯えるべき場面なのだろうが、ここまでツッコミどころのないシンプルな敵が出てくることがあるのか、と考えると呆れてしまっていたのだ。
「俺は殺すぞ、お前を。いいな?」
「セリフもつまんないタイプだ……」
「そんなことはさせないぞ!」
どこかから声が聞こえてきた。
見れば入り口であろう場所に丸い体の誰かが立っている。
「サンバマーン‼」
陽気な奴がやってきた。
津山が知っている相手だったが、不思議と出会えた喜びはない。
彼は軽快なステップを踏みながら近付いてきて両手に持ったマラカスを振る。
「あいつがあいつがやってきた! 夏のリズムで陽気に踊るぜ! ヒュー! フゥー!」
「うん……」
「サンバ! サンバサンバ! イェーッ!」
静かな室内にシャカシャカとマラカスの音が鳴り響く。
津山は何も言わなかった。ただ見守っていた。
「ミーが来た以上は落ち込むようなことはさせへんで! サンバのリズムに恐れおののけ!」
「無理がありそうだけど……」
「そこの少年! もしかしてミーのマブダチ⁉」
「なんでだよ⁉ どこでそうなった!」
「ぐばぁ⁉」
津山のツッコミトリガーが発動し、サンバマンにツッコミが激突した。
こいつには勝てそうだな。
戦闘経験が一切ない津山だがその一発だけでひそかにそう思った。