サンバマンが現れた。
「サンバ~! サンバサンバ! サンバッ‼」
「サンバ⁉ サンバ⁉」
「サンバサンバサンバ! サンバー! サンバ‼」
これにツッコんではいけないんじゃないか。津山はそう思ってしばらく口を閉ざしていた。
だがあまりにもうるさいのでうずうずしてしまい、結局は我慢できなくなる。
「サンバだけで会話しようとするな!」
「ごぺぱぁ⁉ めっちゃいてぇ~⁉」
ツッコミワードをぶち当てられたサンバマンは勢いよく地面を滑った。
それを見ても敵である大男、ナイトンは微動だにしない。
戦う相手がハジケていても全く影響されない、厄介な人物である可能性が高かった。
「誰だか知らんがどうでもいい。俺の邪魔をするならお前も殺すぞ」
「殺すぅ⁉ そんなこと言わないで! だって今日は嬉しい嬉しい――!」
ナイトンの発言で怒ったサンバマンが高く飛び上がった。
両腕と両足を勢いよく広げると同時、室内だというのにドッパーンと大きな花火が上がる。
「サンバフェスティバルなんだから‼」
「全然違うよ⁉」
「おぶしっ⁉」
ツッコミでぶっ飛ばされたサンバマンがべたんと地面に叩きつけられる。
ほんの一瞬だけ現れてすぐ消えてしまったとはいえ、花火を見たナイトンは中空を眺め、表情はまるで変わらないが少しだけ寂しそうな雰囲気を醸し出していた。
「そうだったのか……」
「鵜呑みにしたの⁉ そんなわけないだろ!」
「ぐはぁ⁉」
今度は咄嗟に放ったツッコミがナイトンの腹部に直撃した。体が大きく、分厚い筋肉で守られているが軽々と吹き飛ばし、地面に転ばせもしていた。
攻撃した後になって津山が「あっ」と小さな声を漏らす。
そんなつもりはなかったとはいえ、宣戦布告だと思われても仕方ない状況だ。
ナイトンがむくりと起き上がった。
片手で自身の腹を押さえ、間髪入れずに津山を睨みつける。
どうやらしっかりと腹を立てているらしい。
「貴様……今のが開戦の合図と受け取っていいんだな!」
「や、やばい……⁉ 今のはそんなつもりじゃ……!」
「いいや違うな! 開戦の合図は今からミーが鳴らすんや!」
二人の間にサンバマンが滑り込んできた。そしてマラカスを鳴らし、軽快なステップを始める。
「聞きさらせ! サンバミュージック‼」
そして、辺りはしんと静まり返る。
意外なほどに何も起きない。きっと大音量でサンバの音楽が流れるだろう、と予想して身構えていた津山が拍子抜けしてしまうほど静かだった。
サンバマンは笑顔のまま、なぜかちらっと津山に振り返って呟く。
「しまった……ラジカセ忘れてるわ」
「持ち運んでんの⁉ 真拳みたいなので出せよ!」
「ごはぁ⁉ その手があったか~!」
サンバマンをぶっ飛ばした後に津山はハッとしてナイトンを見た。
拳も握らずに突っ立ち、黙り込んでいる。
「鳴らないのか……ミュージックは」
「なんで待ってんだよ⁉ 素直か!」
「ぐはぁ⁉」
またしてもナイトンにツッコミを入れてしまう。当然彼は跳ね飛ばされて地面を転がり、またしてもすぐ起き上がるがやはり睨まれた。
先程も見た光景だ。全く同じやり取りをしている。
この時、津山はまずいと感じていた。
サンバマンは見た通りだがナイトンもおかしい。天然どころの話ではなく彼は無自覚なボケだ。
「おのれぇ、一度ならず二度も奇襲を……!」
「奇襲というかただのツッコミなんだけど……あとボケてるつもりないな、あの人」
「これはあかん! せっかくのサンバパレードやのに争いが起きるなんて! みんなそんなつまらんことはやめるんやでー!」
「サンバフェスティバルだろ!」
「間違えてたー⁉」
孤立して危機かと思っていたが意外となんとかなりそうな気がしてきた。
しかしそれはそれとして彼らと一緒に居ることが嬉しいわけではない。
津山にとってはどちらも別ベクトルで面倒でしかなかった。
「争いなんかでなんも生まれへんやんか。かの有名なケンシロウさんもこう言ってる。お前はもうサンバってる、と」
「無理があるだろ⁉ 語呂わるっ!」
「ごべはぁ⁉ いいと思ったのに~!」
「ケンシロウさんが……?」
「リスペクトしてんの⁉ そりゃあの世界似合いそうだけど!」
「ぐあぁ⁉」
「そう、サンバは全てを救う! サンバがあれば核戦争も回避できる! サンバがあれば地球温暖化もどうにかできる! っていうか暑くなったらサンバ踊ればいいだろうがァ!」
「なに急にキレてんだ! 解決できてねぇだろうが!」
「だめか~⁉」
「なるほど。サンバにはそんな力があるのか」
「ねぇよそんな力⁉ ねーよバーカ!」
「ぐぁあああああっ⁉」
矢継ぎ早に話す二人に次々ツッコミを放って、初めこそ攻撃するつもりなどなくただ反射的に叫んでいるだけだったが、津山はだんだん腹を立てつつあった。
好き勝手なことを言って自由にのびのびと過ごしている二人を見ていると、意味がわからなくてイライラしかしない。決して羨ましいとは思わなかった。
「ビュティってこんな気持ちだったんだな……6巻くらいでおかしくなった時」
「ほれほれ~サンバステップ! サンバステップですぞ~!」
「これがサンバの力か……!」
津山は思わず頭を抱えてしまった。
敵なのか味方なのかわからない相手に困惑し、ペースが狂って仕方ない。もはや戦う雰囲気でもないだろうとさえ思うのだ。
ところがその二人はあくまでもバトルしようとしているらしい。
この場に参加したくない津山も強制的に加えられている。
「ミーはマルハーゲ帝国の最高幹部! お前なんかには負けへんで!」
「あっ! そういえばそうだった気がする! ということは、まずい⁉」
サンバマンはおそらく何の意味もなく発言したのだろうが、津山は唐突に危機感を覚える。
実を言えば彼はマルハーゲ帝国の最高幹部であり、毛狩り隊とはマルハーゲ帝国の直属の部隊。所属は違えども同じ陣営なのである。
状況だけを考えればサンバマンは事実上のナイトンの上司と言えるだろう。
(バカ二人だと思ってたけどこいつら仲間だ……⁉ 二人がかりで来られたら俺がまずい!)
「マルハーゲ帝国最高幹部として、帝国の敵であるお前をぶっ倒しマンボー!」
「なんでだよ⁉ 毛狩り隊は味方だろ!」
「ぶべらぁ⁉」
「最高幹部か。相手にとって不足なし!」
「やる気になるなよ⁉ 協力しろ!」
「ごはっ⁉」
所属を考えれば味方であるはずの二人が敵対しようとしている。津山のツッコミを受けても考えを変えようとしていない。
なぜだ、と考えれば、もはやただのノリと勢いだとしか思えなかった。
出会いがしらに敵対する感じを出してしまったからそのまま続けるしかないのかもしれない。
「心配するな少年! マルハーゲ帝国の人間として、毛狩り隊なんかすぐぶっ飛ばしたるで!」
「いやだから……」
「毛狩り隊を舐めるなよ! マルハーゲ帝国め!」
「ん~っ、も~っ、いいや! 戦えばいいじゃん!」
津山はツッコミを放棄した。全てに関わっているといつまで経っても終わらないと思ったのだ。
それでもやはりサンバマンとナイトンは戦いをやめようとはしない。
同士討ちになるのだろうが、もしや派閥争いがあるのか? とも考えたがきっと違うだろう。
「マルハーゲ帝国最高幹部がこんなマヌケとはな! すぐに終わらせてやる!」
「サンバ! サンバ! え? なんて?」
「聞いてなかった⁉」
「ぶへらぁ⁉ また来たぁ~!」
「俺の深海戦術を見せてやる! “チンアナゴの構え”!」
「深海じゃないよ⁉」
「おふっ⁉」
言わずにいられなかった津山のツッコミにより、再びナイトンが跳ね飛ばされた。
地面を転がった姿を明確な隙だと見定め、サンバマンが攻勢に出る。
「よっしゃ~! 今度はミーがサンバの神髄見せたるで~!」
「あんまり期待はしてないけど……」
「サンバビームッ‼」
サンバマンが目からビームを放った。サングラスをかけているがその下から放たれ、サングラスには全く影響が現れずにナイトンへ迫る。
そしてツッコむ暇もなく直撃。大爆発を起こした。
「サンバ関係ねぇ~⁉」
「遅れてきたぁ⁉」
たった一撃。それで決着はついた。
サンバビームが直撃したナイトンは全身が黒焦げになり、気を失ってその場に倒れる。死んではいないようだがしばらく目を覚ますことすらできないだろう。
サンバは関係ないし、外見は変だが、最高幹部という言葉が納得できる光景だった。
それでも納得がいかない津山は微妙な顔をしている。
ひとまず戦闘は終わり、危機は去った。そう考えていいとは思う。
ただしサンバマンは見た目と技がふざけていてもマルハーゲ帝国の最高幹部。
ボーボボたちの敵であるという事実は変えられない。
津山は次の展開を心配して、緊張してサンバマンを見ていた。
「イェ~! サンバ! ふぅ~さて……お前の仲間になるぜ」
「なんで⁉」
「ごぴゃっ⁉」
「脈絡も伏線もなかったのに⁉ ここで仲間になることある⁉」
サンバマンが仲間になった。