仲間たちと強制的に引き離されたボーボボだが、敵であるバッドを自身に同行させることに成功していた。これで少なくともバッドが仲間を襲うことはない。
稚魚館の内部で再び対峙した二人は、改めて対決しようとしていた。
「仕切り直しだな。だがあの魚雷がいなければもはや恐れることは何もない」
バッドは自信満々に語り出した。
その発言に対してボーボボは「ん?」と疑問を表す。
「一対一ならお前には負けんぞ! この状況は俺にとっても好都合! ここで決着をつける!」
「フン、お前の思い通りにはならん」
「何?」
「ヘッポコ丸と津山は自力でどうにかするだろうがビュティが心配だ。さっさと終わらせて俺は次へ行くことにする」
バッドがその言葉で反射的に怒りを表す瞬間、ボーボボは静かに手を合わせた。
「さっさとだと? そんなことができると思っているのか! 俺の真拳は鍛えに鍛え抜いてある! お前の鼻毛真拳がどれだけ強かろうと超えてみせる!」
「無理な話だ。お前はまだ鼻毛真拳の力を知らない」
反論しようともしたがバッドは咄嗟に口をつぐむ。
異様な雰囲気を感じていた。
さっきまでとは明らかに何かが違う。ボーボボから感じるプレッシャーが格段に強くなった。
「これは毛の王国の人間にしか使えない技。極めるのは難しいがそれだけに利点もある」
「一つは環境要因によるステータス上昇。ゲームの“バフ”みたいなものだな」
「もう一つ。領域内で発動した付与された術式は、絶対当たる」
「
ボーボボが何らかの技を使った直後、辺りの景色が変わった。
何もない平穏な野原に立っていて、周囲には森。水族館とはまるで別物の平和な光景だ。
バッドは驚愕し、だがあまりの衝撃で言葉を失っていた。
まるで世界そのものを変えてしまったかのような異常な状況。バッド自身にダメージは一切ないがボーボボの技に巻き込まれているのは間違いない。
「な、なんだこれは……⁉ この技はなんだ⁉」
「ここは俺が展開した領域の中。この世界に入った者は魂を解放し、精神の奥底に眠る真の力を引き出すことができる。だが逆に魂を解放できなければ精神が崩壊して死ぬ」
「何ィ⁉」
「さあ、やってくるぞ。精神を解放した者たちが」
バッドはボーボボの言葉で嫌な予感を覚えた。
まさか分断した仲間を召喚する能力?
不意に気配を感じて振り返ると、そこにはすでに名も知らぬ誰かが存在していた。
「ン~、ダージリンだぜー」
「なっ⁉ なんだこいつは⁉」
「何? アップルティーだって言いたいのか!」
紫色の巨大な鼻毛に手足が生えている、奇妙な生物であった。
初めて目にする存在を現実と受け入れられずにバッドは激しく動揺する。
「スペラシカ! パッチコザルガバーニ!」
「な、なんだ⁉ 何を言ってるんだ⁉」
「ティターン! ティターンニャ! スペラシカフ!」
「わ、わからん! 何かの暗号か⁉ どういう意味なんだ!」
「俺はKING鼻毛様だァ~‼」
「ぐはぁ~⁉」
バッドは謎の生物ことKING鼻毛に思い切り殴り飛ばされた。
彼は“
殴られた勢いで地面に倒れたバッドは状況を受け入れられてはいなかった。驚いてはいたがまだ混乱するほど理解もできていない。
すでに攻撃は始まっており、彼を休ませる暇など与えられなかった。
バッドは起き上がろうとする動作の中で、近くに畳が敷かれていることに気付いた。
そこに主婦になったボーボボが居る。
エプロンを着けて畳の上に置かれているちゃぶ台を前にして座り、炊飯器から茶碗へ白いご飯をよそっていて、そこに居ない誰かに声をかけていた。
「んもぉ~お父さん! 早く食べちゃってくださいよ! お皿片付かないから!」
ボーボボの黄色いアフロがぱかっと開いた。
中で新聞を読んでいた白いマスコットキャラのような生物、田楽マンが付け髭と眼鏡を装着した状態で返事をする。
「もうちょっと後でもいいだろう。今お腹空いてないんだよ」
ボーボボが無言で田楽マンの体を掴み、ちゃぶ台に投げて叩きつけた。
「離婚よォ‼」
「ぐわばぁ⁉」
「奥さん奥さん! それなら私がいただいてもいいですか! 実はもうお腹がペコペコで!」
「きゃあっ⁉ こんな時間にお客さんですか! そんな急に言われても……!」
「マルゲリータ鍋しかできませんけど」
「すげぇ~⁉ チーズがたっぷりじゃないですか! いただきます! ぐばっ⁉」
ボーボボたちは攻撃してこなかった。少なくとも物理的なダメージを受けていない。
仲間たちを呼び出すことに成功しているのに、仲間割れのようなことしかしていなくて、不審がるバッドはただ困惑した顔をするばかりだ。
「やばぁ~い! 遅刻遅刻! 遅刻しちゃ~う!」
「ま、また……!」
バッドが視線を動かすと、土煙を上げながらものすごい勢いで首領パッチが走ってくる。
なぜかスチュワーデスのような格好をしていて、手首に着けた時計をちらちら確認しながらとにかく急いでいることは伝わってきた。
「今日こそ合コン! 合コンなのにぃ~! ついにマッチョなプリテンダーが集まる日なのにぃ! あぁ~もう私ってばグズ! ドジ! こんな日に限ってカモを捕まえてアシストしちゃうなんて! こんな日に限って~!」
森の中から飛び出てきて、巧みなドリフトを決め、首領パッチの隣に並んで車が走る。
そのボンネットには大きなぬがあった。
「ヒューヒュー! お嬢さん、俺の車に乗ってかな~い?」
「きゃあっ⁉ ナンパ⁉ 今から合コンだっていうのにぃ! も~こんな時ばっかり~!」
突然の事態にもじもじしながらも、首領パッチはバズーカを取り出し、車に照準を合わせた。
「よろしくお願いします!」
「ぎゃああああああああっ⁉」
車が爆散し、吹き飛ばされたところ天の助はくるくると空中で回転した後、ちゃぶ台に着地して自ら皿の上に寝そべった。
ボーボボと田楽マンの前でにこりと微笑む。
「今日のディナーです」
「嬉しい~‼」
「ぐぼぉ⁉ ぐばぁ⁉ ぎゃああスープになっちゃう⁉ 出汁がないのにスープになっちゃう⁉」
「お前らこっちを見ろ~!」
「む⁉」
ボーボボが振り返ると、大きな犬の口の中に縄で縛られた首領パッチが居て、傍らには犬の歯をそーっと押しているKING鼻毛の姿があった。
首領パッチはカッと目を見開いて叫ぶ。
「食うか食われるか! それだけだろうがッ‼」
「ううぅ……大人になったのね……ちゃんと食べられるようになったのね……」
「わーい僕も食べたいのら~!」
田楽マンがダイナマイトを持って駆け出した。導火線に火を点けると犬の口の中に放り込む。
「味付けェ‼」
「ぎゃあああああああああっ⁉」
「くっ、なんてこった! てやんでいべらぼーめ! 今日のスパイスは格別だぜ!」
「まだ終わりじゃないさぁ!」
「何⁉ 援軍か!」
振り返ったKING鼻毛の視線の先には、大きな筒で体を固定されているボーボボが居た。
筒に片手で触れ、隣に立つ天の助が四角い手でサムズアップするように力を込める。
「俺は“かやく”だ! 振りかけろ!」
「ぎゃああああああああっ⁉ 割れる割れる⁉ 割れてなくなるぅ⁉」
「職員一同! 敬礼!」
「ボーボボさんがいなくなりました!」
「探しに行こうよ! 楽園へ!」
「子供たちも一緒に!」
「今すぐ乗り込め! バカども‼」
バッドは今もなお状況を理解することができていなかった。
次から次に何かが起こっているが何もわからない。
ただひたすらに混乱。それ以外にできることが何一つとしてなかったのだ。
「なんなんだこれは……⁉ なんなんだこれはぁ⁉ 何をどうすればいいというんだ⁉」
「飛べばいいのさ!」
「だって……僕たちには翼があるんだから……」
「翼じゅ~んびっ!」
「翼運びましたぁ!」
「装着しましたぁ!」
「準備完了でありま~す!」
首領パッチを入れた大砲の導火線に火が点けられる。
祈るように目を閉じていた首領パッチは、希望に満ちて目を開き、とても青い空を見た。
「わぁ……見える、見えるよ。これが
「発射ァ!」
「おぶっ⁉ ぶへぇ⁉」
突然大砲が動いて地面に向けて首領パッチを発射した。彼はボールのように縦横無尽に跳ねる。
「いつまで遊んでるんだ! お前たちィ!」
「「「「こ、校長先生⁉」」」」
ボーボボが校長先生になった。
全員の注目が集められ、参加こそできていないがバッドも彼を見ている。
「今日の授業はおしまい! 集合~!」
ボーボボの下に他の四人が殺到した。
彼の両肩に首領パッチと田楽マンが張り付き、両脚に天の助とKING鼻毛がしがみつく。
その状態でボーボボ自身もポーズを取って全員でバッドに笑顔を向けた。
「「「「「おめでとう日本!」」」」」
「なっ、なっ……なんだそれはぁああああああああっ⁉ ごはぁっ⁉」
その時、限界に達した。
バッドは口から激しく吐血する。
そして彼が倒れると同時、周囲の風景が元の水族館に戻った。
そこに立っていたのはボーボボと田楽マンのみ。他の三人は気付けば消えている。
「ごふっ、がはっ……⁉ うぅぅあぁっ……! こ、んなぁ……バカなっ」
「これが鼻毛真拳の力だ。精神を解放できなかったのにまだ生きているとはなかなかやるな」
「ぐぅぅぅ、こんなぁ……ふざけた技にぃ……!」
それだけ言い残し、バッドは気絶してしまった。
その姿を確認した後、ボーボボは彼には何も声をかけずに振り返って歩き出す。
「さて、ビュティを探しに行くか」
ボーボボはその場を去った。田楽マンを残して。
「いや置いてくなよ⁉ せっかく登場したんだぞ!」
田楽マンは置いて行かれることが少なくなく、いつの間にか合流していることが多い。生来から長くひとりぼっちであるため単独行動に慣れているのだ。
しかし今回ばかりはボーボボに置いていかれまいと慌てて彼の後を追った。
ボーボボたちが去った直後のことである。
その場に手足の生えた袋が三つ現れた。
「こいつは使えそうだな」
「もう少し働いてもらいますか」
「闇エネルギー注入~」
彼らは倒れたバッドに手を伸ばし、首に注射の針を突き刺したのだ。