津山の能力がハジケリスト特攻だった。
その事実はボーボボ一行に激震をもたらし、今までにない空気を作り出している。
誰もが息を呑む一瞬。沈黙を破ったのはやはりというか首領パッチだった。
「ケッ! ツッコミなんかで俺を止められると思うなよ!」
「だめだ首領パッチ! 不用意に動くな!」
「馬鹿馬鹿しい! 俺は遊ぶぞボジータ~!」
「ナッパみたいになったぁ⁉」
津山の眼前から「ナッパみたいになったぁ⁉」の文字が飛ぶ。
向かってくる首領パッチを正面から打ち据え、重々しい音で顔にめり込んで軽々吹き飛ばした。
「ぶほぉ⁉」
「首領パッチ~!」
「なんて正確な軌道だ! 首領パッチが避けられないくらい速い!」
「しかも攻撃するつもりがないのに発動してる! この技やばいよ!」
ボーボボ一行に動揺が広がっていた。
図らずもその状況を生み出してしまった津山もまた動揺し、咄嗟に自分の口を両手で塞ぐ。
ツッコミをするからいけないのだ。何も言わなければ何も起こらないはず。
「大丈夫か首領パッチ~!」
「ボーボボ……」
「まだ息があったか~‼」
「ごぱぁ⁉」
「えええっ⁉ なんで⁉」
倒れた首領パッチに駆け寄ったボーボボが、走り込んだ勢いそのままに首領パッチの体を踏みつけるようにしてキックを放った。
その光景に驚いた津山は「なんで⁉」を放ってしまう。
「ぐはぁ⁉ 俺か~!」
「そりゃそうでしょう! 変な攻撃するんだから!」
「津山さん落ち着いて! ツッコんじゃうと攻撃になっちゃう! 今は耐えて!」
ビュティに指摘されて津山がハッとした顔になった。
流れは意味不明だったがせっかく彼らの仲間にしてもらったのに。彼もボーボボたちに攻撃がしたいわけではない。自分のツッコミが脅威ならば、自重しなければならないのだ。
気付けば目の前で首領パッチがシャドーボクシングをしている。
ご丁寧にボクサーの姿で、両手にはグローブを着けていた。
「シュッ! シュッ! シュッ! どすこいどすこい! 目指せ後楽園ナンバーワン!」
「ぐちゃぐちゃだよ!」
「ごぺぇ⁉」
「ああっ⁉ しまった、また!」
首領パッチが倒れたのを見てすかさずボーボボが助けにやってくる。
「大丈夫か首領パッチ~!」
「なんで将軍⁉ とどめ刺しに行く気じゃん!」
「ぐほぉ⁉ ぐはぁ⁉」
「しまった二つだ⁉ ごめんなさい!」
今度はボーボボが吹っ飛ばされた。しかし間髪入れずに首領パッチがやってくる。
「今助けるぞボーボボ~!」
「遅いよリンボーダンスじゃ! 駆け付けられないだろ! 助ける気ないんだよそれ!」
「ぎゃあああああああああ~っ⁉」
ドカドカドカッと三連打。瞬きさえ許さないスピードで直撃していた。
攻撃が成功する度に津山はハッとして後悔するのだが、一方でビュティは攻撃されるとわかっていてふざけるボーボボと首領パッチに目を剥いている。
「なんでやられるってわかっててふざけてるの⁉ じっとしてなよ!」
「ぐぅぅ、ふざけてるわけじゃないさぁ……!」
「ただおれたちは、負けられない戦いをしてるだけだ……!」
「敵じゃないから! 仲良くしようよ!」
「仲良く! そうだ、仲良くだ!」
「仲良くすればいいんだ!」
そう言うとボーボボはチェーンソーを持ち出し、首領パッチは両手に斧を持った。
「鼻毛真拳奥義“ニコニコ仲良し大遠足”‼」
「狩るぞオラーッ‼」
「全然仲良しじゃねー⁉」
「「ごぱぁっ⁉」」
またしても二人がツッコミで吹き飛ばされた。しかしずさっと地面に倒れたのも束の間、即座に起き上がってすぐさま津山を見る。
確実にダメージを受けているはずなのだがなぜか調子がノッてきた感すらある。
「ちくしょー! まだまだ~!」
「俺たちの実力はこんなもんじゃねーぞ!」
「なんでまた向かってくの⁉ 意味ないよ!」
その時、津山はハッとした。
二人の行動に素直に驚いてしまい、自身が反射的にツッコミを入れようとしたその時には、すでにビュティがツッコんでいたからだった。
「なっ⁉ は、速い……!」
「いやビュティは元々ツッコミだから……!」
「しめた~! 津山ァ! これでお前はツッコめない!」
ビュティが先にツッコんだために津山はツッコむことができなかった。
その間にボーボボが凄まじい勢いで走って接近する。
「お前は1ボケに対して1ツッコミを基本とする正統派ツッコミ! ビュティに先にツッコまれるとそれ以上ツッコめなくなるようだな!」
「くっ……⁉」
「そうか! 無自覚ながらツッコミの才能があったんだ! だけどビュティの反応速度が上回っていてツッコミを重ねられず、対ツッコミ戦になると後手に回ってしまう!」
「何言ってんのへっくん⁉ こんな状況に真面目な解説してる⁉」
ボーボボたちと違って津山は一切ふざけていない。だが彼は自分自身の性質を理解しておらず、それが彼自身を驚かせる要因になっていた。
今日まで全く自覚していなかったツッコミの気質。友達はそれなりに居たが、彼は大声を張り上げてツッコんだ経験などなく、せいぜいぼそっと訂正するくらいのことしかしていなかった。
ギャグ漫画やアニメが好きでよく見ていたとはいえツッコミ経験が圧倒的に足りない。
そのために、ビュティのツッコミ反応速度に驚き、つい咄嗟に「邪魔をしてはならない」という意識が働いて自身のツッコミを呑み込んでしまったのだ。
「来い首領パッチ! コンビネーションだ!」
「よっしゃ~!」
ボーボボが眼前まで迫っている。ぴょーんと勢いよくどこかから首領パッチも飛んできた。
攻撃が来るのか? これは戦闘か? 躊躇いが生まれてツッコミが出なかった。
「用心棒にお任せ‼」
「カモミール! カモミール! カモミール‼」
「意味わからーん⁉」
「あぁ速っ……!」
突如番傘を広げたボーボボが、ボールのような姿になった首領パッチを傘の上で回し始める。
間を置かずにすかさずビュティがツッコんだ。
そのスピード感により一瞬にして置き去りにされる。津山は集中してその状況を見ていたがまるで口を挟めなかった。
「バカシュート!」
「フランソワーズでお願い!」
「ごはぁ⁉」
「きゃあああああああっ⁉」
番傘で打たれた首領パッチが津山に激突する。
耐えられずに津山が勢いよく倒れ、状況を理解できずにいたビュティが吠えた。
「ボーボボ! 津山さんは敵じゃないって! 戦う必要はないんだよ!」
「甘ったれるな‼ ツッコミは一瞬の間が勝負なんだ!」
「ええっ⁉ ツッコミの話⁉」
「立て! 立つんだ津山! お前のツッコミにはまだまだ可能性が秘められている!」
地べたに転がっていた津山が恐る恐る顔を上げた。
勢いに呑まれてだんだんついていけなくなっていた頃だった。名前を呼ばれて、もしや期待されているのか? と感じたところでようやく気持ちが変わってくる。
立ち上がる直前、気付けば首領パッチが目の前に居た。
「おっしゃー! 俺が手本を見せてやるぜ! ツッコミといえば俺だからな!」
「絶対違うよ⁉ あなたボケの代表格でしかないよ!」
雄々しく吠えた首領パッチの前に素早くボーボボがやってきた。
「ならば俺にツッコんでみろ~!」
「よーし来やがれ!」
「すいませーん。宅急便でーす」
ピンポーンと呼び鈴を鳴らされて、首領パッチが玄関の扉を開けた。
「はいはーい。今行きまーす」
「と思いましたが強盗になります」
「あらそう⁉ あら~そうなの⁉ あら~そうなんだ⁉」
配達員のお兄さんが突然心変わりをして拳銃を突き付けてきた瞬間、首領パッチはツッコんだ。
「じゃあ俺も‼」
「どこがツッコミだてめぇ~‼」
「違ったか~⁉」
ボーボボに蹴り飛ばされた首領パッチが軽々と飛んでいく。
その光景を見て津山は冷静になり、自分の置かれた状況を再確認した。
「何これ……」
「さて、バカも追い出したことだし真面目に話すか」
「すごい冷静になってる⁉」
「ぐばぁ⁉」
「ごめんなさい!」
思わず放ったツッコミがボーボボにダメージを与えたものの、状況は落ち着いた。
首領パッチがどこかへ行った後、ボーボボは冷静に話し始める。
まるで別人かのような態度に津山は、そういう人だと知っていても動揺せずにはいられないが、ビュティやヘッポコ丸はそれが当然と言いたげに平然としていた。
「津山よ。どうやらお前はまだ自分の能力を扱いきれていないようだな。無意識に俺たちを攻撃してしまうことも然り、攻撃しないためにツッコミを我慢していたのが何よりの証拠だ」
「そ、そうですね。自分でもまだ何がなんだか……」
「だがお前のその力は操れれば間違いなく戦力になるものだ。俺たちと一緒に来て力の使い方を学んだらどうだ? 経験を積むだけでかなり解消されると思う」
「……わかりました。それじゃあ、そのつもりで一緒に行きます」
「そしてもっと己を解放しろ」
「己を解放……い、嫌な想像しかできない」
土煙を上げながら首領パッチが走って戻ってきた。
野球帽を被って目がキリリとしており、明らかに先程とは様子が違う。
「ウォオオオオオ~ッ! あぶねぇ~っ!」
「暴走するな! 塁に入れ!」
「おっしゃあああああああああっ!」
首領パッチが何もない場所でスライディングし、成功したようで強く拳を握り締める。
「よぉし成功だ! 次は⁉ 監督の指示はなんだ!」
「バント! バントだ!」
「そういうことか! 俺に任せとけ!」
首領パッチはすかさずドラムを叩き始めた。やけに超絶技巧で素早いリズムを刻み、満足感のあるソロ演奏である。
その姿を見て3秒ほど待ち、ボーボボは鼻毛を異様なまでに長く伸ばした。
「ハゥゥッ! フゥゥッ!」
「それはバンドでしょーがッ‼」
「バレた~っ⁉」
鞭のようにしなった鼻毛が首領パッチを打ち据え、高く舞い上げる。
津山とビュティとヘッポコ丸は一部始終を見ながら何も言わなかった。ツッコむことなく眺めていると首領パッチが地面に落ち、なぜか異様に渋い感じでボーボボが振り返る。
冷めた顔をする一同は彼の言葉を待っていた。
「これがツッコミだ」
「教えてくれてたの⁉」
「ごふぅ⁉ やっぱりか~!」
「教えてくれてたの⁉」が直撃してボーボボが吹っ飛ぶ。
ビュティとヘッポコ丸は冷静な面持ちでそれを見ているだけだった。