『ボボボーボ・ボーボボ』の世界に転生した。
自分が死んだとか、神様転生したとか、衝撃的な出来事が全部どうでもよくなるくらいショッキングな状況だ。
よりにもよってなぜ伝説の不条理ギャグ漫画の世界に来てしまったんだろう。
「いいか? ここにぬがあるだろ?」
無事? にボーボボ一行に加わることができた俺は、唐突にマジックを見せられていた。
目の前にいるのはところ天の助だ。
全身がところてんで出来ている生物? だ。
5%くらいはゼリーか何かだったかもしれない。
水色の体でプルプルしてる変な奴だ。
「こいつにぬのハンカチをかけます」
「出ちゃったぬのハンカチ⁉」
「ワン・ツー・ぬ! でぬのハンカチを外すと」
「なにその掛け声⁉ 変だよ!」
「でっかいぬになります」
「嬉しくねぇ~⁉」
果たしてマジックなのかどうかすら定かじゃないが、気安く声をかけられてしまって、俺には見ていることしかできない。
天の助は四角い手の上にぬを乗せて、その上に優しくぬのハンカチを乗せた。
「はぁあああああっ……! 行くぞ行くぞ行くぞぉおおおおおっ!」
「そんなに気合いいるの⁉」
「ワン! ツー! ぬ‼」
「語気強っ!」
天の助が勢いよくハンカチを外した。
すると、そこにあったはずのぬが消えている。
でかくなるとか言ってたけど普通にマジックだった……いや、普通にすごいな。
ただ天の助は予想外だったのか、唖然としてぬがあったはずの自分の手を見つめていた。
次第にわなわな震え始めて、最後には四つん這いになって落ち込んでしまう。
「す、すごかったよ! でかくなるよりすごいことできてたから! 成功だね!」
「俺のぬ……」
「めちゃくちゃショック受けてる⁉ じゃあどうやってやったんだよ!」
「なにしれっと戻ってきてんだてめぇ~!」
「ぎゃあああっ⁉ ごめんなさぁ~い⁉」
天の助がボーボボに蹴り上げられて、高く飛んでからべしゃっと落ちた。
ただ天の助は全身がところてんで出来ている。内臓がないし人間ではない。そしてここはギャグ漫画の世界。異常な回復力で全く堪えていなかった。
「す、すまねぇ! 大事な用事があったから……そうだボーボボ! 俺はとんでもない情報を手に入れたんだ! お前たちにどうしても知らせたくって!」
「何? 毛狩り隊の情報か?」
全然ピンピンしてた天の助がすぐに起き上がった。流石ほぼ不死身の男。
本当にところてんなのか? っていう疑問はあるけど彼が味方である安心感は実はでかい。どれだけボコボコにされても次の瞬間には平気な顔をしてるからタンク役として優れ過ぎているのだ。
ボーボボ一行は、特にボーボボは、“毛狩り隊”という連中を倒すために旅している。
そこの設定はちゃんと覚えてた。
現在、この世界はほぼほぼ毛狩り隊を擁する“マルハーゲ帝国”が支配している状況で、ボーボボが暮らしていた“毛の王国”も侵略されて滅ぼされてしまった。
つまりボーボボは故郷を滅ぼした敵の打倒を目指す復讐者なのだ。
原作ののちの設定を知っていると、実は毛の王国が滅ぼされた件とか毛の王国が生まれ変わっているとか色々きな臭いところもあるんだけど。
あくまでもここはギャグ漫画の世界。ノリと勢いで設定や展開が変わってしまうかもしれない。
あまり下手なことは言わない方がいいだろうな。
「これを見てくれ! ねの即売会だ‼」
天の助が一枚のチラシを見せてきた。
ちょっと気になるのも事実だけど、あんまり詳しく知りたいとは思わないっていうか。
知ったところでどうせ欲しくならないなって気がしてしょうがない。
「あいつらァ~! ちょっと人気が出てきたからってこんなことまでやりやがって! 許せねぇよなボーボボ!」
「どうでもいい」
「うそぉ⁉ そうなの⁉」
俺を含めて、一行の仲間たちはボーボボと同じく全く興味を持ってない。
いつもははしゃぐ首領パッチ、絶対的なツッコミ役のビュティ、普段は天の助に優しいヘッポコ丸まで冷たい目をしていた。
天の助はチラシで涙を拭き始める。
そんな彼をほっといてボーボボたちが平然と会話を始めてしまっていた。
「ううぅ、時代はぬよりねなのか……」
「いや……どっちでもいいって思われてると思うよ」
「ボーボボ、次の目的地はあるの?」
「毛狩り隊の情報は特に入ってませんが」
「心配するな。俺にあてがある。これを見てくれ」
落ち込む天の助に声をかけてからボーボボの方を見ると、そっちでもチラシを見せていた。
ビュティとヘッポコ丸が近くで覗き込んでいる。
気になったので俺も見てみた。
「バッド水族館? 変な名前」
「もしかしてここが毛狩り隊の基地なんですか? ハレルヤランドのような」
「いや知らん」
「知らないの⁉」
「だが俺のゴーストが囁くんだ……この水族館には何かあると」
「あっ! 水筒持ってる! 遊ぶ気だ!」
「ボーボボさん! ハレルヤランドでもそれで先手を打たれたんですよ!」
「遊ぶ気なんてないもん! ないもん!」
「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイ! ハイハイハイハイハイハイハイハイハイ!」
「むっ! お前は!」
また何か始まってしまった。
肩? から水筒を提げている首領パッチが子供みたいな顔して騒いでいる。
ビュティとヘッポコ丸も呆れているが、止められないと知っていて諦めてるみたいだ。
「僕は遊びたいであります! 遊びたいでありまーす!」
「だめです許しません!」
「え~っ! ショッ~クククククッ!」
「遊ぶのは! 宿題が終わってから‼」
「まったく、お子ちゃまたちってやつは……」
「何ィ⁉ 誰だァそこにいる大人はァ!」
「お子ちゃまの何が悪いってんだよー!」
一応ボーボボたちが振り返った方向を確認すると、なぜか凛々しい顔の天の助がいた。
「悲しいけど、これ戦争なのよね」
「「ロウさんっ‼」」
天の助が合流したことで展開に広がりを見せている。
敵とのバトル以外でもこういうことを日常的にやっているみたいで、ビュティもヘッポコ丸も見た上でツッコまないことが多い。そのせいで俺も思わずツッコみそうになったり、入りきることができなくて静かに傍観したり、早くも落ち着く暇がないことを理解した。
「水族館かぁ。毛狩り隊が関わってるかはわからないけど行ってみたいな」
「うーん。こういう場合、大体毛狩り隊がいたりするし、行ってみるか」
「そうだね! 詳しいことは行ってみないとわからないから! 行こうよボーボボ!」
「「「行くぅ~!」」」
なんやかんやで仲がいいみたいで、ビュティとヘッポコ丸の発言で話がまとまった。
結局ボーボボたちも行きたがってるから反対意見は出ない。
俺もそうだ。反対する気持ちは一切ない。ただ考えてることはちょっと違って、新参者だからということを抜きにしても、どうせ毛狩り隊が関わってるんだろうなぁと思っていたからだ。
『ボボボーボ・ボーボボ』はハチャメチャなギャグ漫画である一方、バトル漫画の要素もある。
めちゃくちゃで急なギャグでしっちゃかめっちゃかにはなっているものの、途中からバトルの要素が強くなって、とにかくボーボボたちが敵と戦いまくるっていう漫画になっていった。
ストーリーや設定自体はシリアスで、とにかくバトルからバトル、さらにバトル。
日常回みたいなものはほぼなくて、そういう世界観だからってのもあるがとにかく敵が多い。
水族館に行くなんていう展開、原作にあったっけな? という点だけは引っかかるが、おそらくそこも毛狩り隊の基地か何かなんだろう。
敵が出てきてバトルになり、その一方でちゃんと水族館も楽しんで、最終的には水族館爆破。
行くと決めた現時点でそこまで予想できた。
「それじゃあ早速行くぞ! ケンケンで!」
「厳しっ⁉ 足壊れちゃうよ!」
「ごはっ⁉」
「じゃあハイハイだ!」
「きついって⁉ 歩くより遅いだろ!」
「ごばぁ⁉」
「なら腹ばいで進めェ!」
「無理だよっ⁉ お前だけズルすぎるだろ! 滑れるから!」
「ぎゃあああっ⁉ なにこれ⁉ 文字がいっぱい来た⁉」
なんだか軽いノリだけで決まってしまった気はするが、とにかく目的地は決まった。
俺を加えたボーボボ一行は原作やゲームやアニメなどの派生作品でもなかった気がする“バッド水族館”に向かうことになったのだった。