暗い一室で巨大なモニターの光だけが彼を照らしていた。
《バッドよ。ボーボボが到着したそうだな》
「はい。すでにパーク内に入り込んでいます」
バッドと呼ばれた男は黒髪・黒のロングコート・目つきの鋭い青年で、ただ立っているだけで殺気を放っているかのような、常に厳めしい表情の人物だった。
モニターに映っているスキンヘッドの男、ツル・ツルリーナ4世を見つめて直立している。
《ボーボボはあのツルリーナ3世を倒した。並の男ではない。お前たち毛狩り隊水族館ブロック基地の者たちでも油断は禁物だ》
「ご安心ください皇帝陛下。我々はマルハーゲ帝国の敵を打ち倒すため、常に厳しい訓練を行ってきました。ボーボボが相手であろうと遅れは取りません」
《お前の実力は認めてはいるが、水族館ブロック基地で戦闘を行うことは少なかったはず。決してボーボボたちに対して手を抜くようなことは――》
「お言葉ですが皇帝陛下っ‼ 自分は燃えていますよ……! ついに噂に聞いたあのボーボボをこの手で打ち倒し、マルハーゲ帝国を救うことができるのですから!」
突然大声で喋り始めたバッドに、ツルリーナ4世は引いていた。
今にも「なんだこいつ」と言い出しそうな顔だ。
「この毛狩り隊水族館ブロック基地はマルハーゲ帝国、延いてはツルリーナ4世様直属の護衛部隊という任を受けてきましたが、いつの間にか閑職に追われ、誰からも忘れられてしまい、今まで日の目を浴びることなく静かな毎日を過ごしてきました!」
《う、うむ。そのことはとても申し訳なく思っている……》
「しかし今! ようやく我々に活躍のチャンスが与えられたということ! 我々が仕事をする時が来たということ! ここでボーボボたちを倒さねば毛狩り隊の名折れでしょう!」
「ですから今日! 必ずや自分の手でボーボボを倒し! その首を皇帝陛下の下に届けます!」
《いや届けなくていいよ。首だけ見せられるとか、なんかキモいし》
「必ずやお届けします!」
《あぁ~聞いてねぇこいつ⁉ いらねーっつってんのに! 首なんか届けてなんになるんだよ! 戦国時代じゃねぇんだぞ!》
バッドは常日頃からツルリーナ4世への忠心が厚く、やる気に満ち溢れている人物だった。
高い戦闘力を持ちながら今まで活躍の場に恵まれたことがない。かつては強者たちと名を連ねたものだが最近は存在を忘れ去られていることを薄々感じ取っていた。その事実を受け入れたとは言い難く怒りに燃えていたのだ。
今日、ボーボボを倒して毛狩り隊水族館ブロック基地の名を上げる。
バッドはそのために早速自ら出撃するつもりであった。
闇に包まれた部屋の中で、男は静かにほくそ笑んでいた。
「くくく……もうすぐだ。闇が大地を包んじゃうよー♪」
男は長く好機を窺っていた。
闇の世界で身を潜め、表の世界に戻ってくる時を今か今かと待っていた。
その時は確実に近づいている。しかし今はまだその時ではないことも理解していた。
「だがその前にまずは小手調べ。表の連中に闇エネルギーを与えてやろう。さ~て、どこまで耐えられるかな?」
男は着々と準備を進めていた。
そして小手調べと称して自分を解放するための手を打ったのである。
「私の解放には真拳使いたちのエネルギーが必要だ。強い真拳使いたちを探せ! そして力を奪う前に闇エネルギーを注入し、表の世界を蹂躙する足掛かりとしてやれ!」
部下たちは即座に動き出して、闇の世界を抜け出て行動を開始した。
「風が変わったな……」
とぐろを巻いたソフトクリームのような頭部の男、ソフトンが遠くを見つめて呟いた。
彼はボーボボの仲間であるが単独行動を取り、必要があれば合流する。
前の戦いからしばらく、修行を兼ねて別行動を取っていたものの、ただの勘と言ってしまえばそれまでだが何か良からぬ変化を感じ取ったのだ。
「俺はボーボボたちのところへ行く。君はどうする?」
ソフトンは同行していた人物へ声をかけた。
白い布を被っただけの、素足で立っている男性だ。その下には実は何も着ていない。
ただ純粋にサービスを振りまく男、サービスマンである。
「一緒に来てくれると助かるのだが……」
「行こう。サービスを求める人のところに私はいるべきだ」
ソフトンとサービスマンは共に移動を始める。
ボーボボたちがどこに居るかを常に把握しているわけではない。だがソフトンは自らの真拳により彼らの居場所を探ることはできる。
彼らは肩を並べて歩き出し、険しい岩山を降りて移動を開始した。
席についたビュティとヘッポコ丸は大きな円形のプールを見ていた。
飼育員が笑顔で出てきて、マイクを通して喋り出す。
「みなさんこんにちは~! これからイルカショーを始めまーす!」
ビュティとヘッポコ丸は笑顔で拍手をした。周りに座っている客も同じく手を叩いている。
プールの中ではイルカが泳いでいるのが見えていた。
彼らはたまたま見つけたイルカショーに立ち寄り、純粋に楽しもうとしていたのだ。
「オラァアアアアアアアアアッ‼」
「首領パッチ君が出たぁあああああっ⁉」
「うおおおおっ⁉ 何やってんだお前ェ⁉」
プールの中から首領パッチが飛び出し、イルカのように繰り返しジャンプをする。
唐突な登場に仲間であるビュティとヘッポコ丸ですら驚愕した。
「時給1200円で! イルカでお願いしまぁごぼごぼごぼっ――!」
「自分! イルカ志望です! 前職は川でミジンコぼごぼごぼっ――!」
「週7で行けます! 妻と娘が腹を空かせてるんです! よろしくおねがぼごぼごぼっ――!」
必死に叫びながら水面から飛び出したり水中に落ちたり、イルカにしばかれたり、首領パッチの行動は本来のショーより盛り上がりを生みつつある。
ビュティとヘッポコ丸は冷静にその光景を眺めていた。
「そういえばいつの間にか二人っきりだったね」
「あっ⁉ そ、そうだな! そういえば!」
「ボーボボたちどこ行ったんだろう?」
「いやーどこ行ったんだろうね! そういえば!」
ボーボボたちが勝手に行動していることは日常茶飯事で珍しくもない。
今は津山が一緒であることだけ気になるものの、彼女たちは心配などしていなかった。
「ぐああああぁ~っ⁉ 先輩からのいびりがぁ~! こ、これが社会か! 社会の縮図かぁ~!」
「イルカ可愛いね~。なんかすっごく元気だよ」
「あ、ああ。可愛いな、イルカ……」
普通とは言い難かったが、彼らの行動はいつも通りだった。