ヒトデやナマコや小さめの魚なんかに触れることができるふれあい広場。
浅めの広い水槽があってその中に危険のない生物がいる。
ボーボボは、なぜかその水槽の中で膝を抱えて座っていた。頭にはヒトデの被り物をして、尻の辺りはめちゃくちゃ濡れてた。
「ボーボボ……そこは入らない方がいいよ」
「自分、わからないんです……」
「俺もわからないけど、うーん、何が?」
「ヒトデの気持ちになろうとしたんです……なのに全然、わからないんです。じっとしてたらどうしても動きたくなっちゃうし、お腹も空いてくるし、先輩に質問しても何も答えてくれないし」
わからない。何がしたくてこんなことになっているのか。ヒトデの気持ちになれたからって一体どうなるんだろう。
だけどわかろうとしちゃだめなんだ。ハジケリストは。
わからなくて読めないのがハジケリストなんだ。
「うぅ、俺もう、どうしたらいいのか……」
「あーっと、わからなくてもいいんじゃない? ヒトデはヒトデ、ボーボボはボーボボだから」
「それじゃただの逃げじゃない!」
「わっ⁉」
いきなりテンションが変わるからまだ驚くな……。
漫画やアニメで知ってたってこの世界にはまだ慣れない。なんたって気付けばボーボボがヒトデになろうとして水槽に浸かってたりするんだから。
「ううぅ、私もうだめ、立ち直れない……! やっぱり私には無理だったんだわっ」
「俺話しかけない方がいい?」
「できれば入ってきてほしい……」
そ、そうなんだ。そう言われるとは思わなかったけど。
「大丈夫だよ。まだ始めたばっかりだし、慣れれば解決することだってきっとあるって」
「ううぅ、そうかなぁ?」
「いいや、君には向いていない。断言する」
「えっ⁉」
俺とボーボボは水槽の中を見た。
一メートルくらい離れた位置にいるヒトデが言ったみたいだった。
これくらいじゃ驚かないぞ。なんせつけものだって立って喋るんだから。
「なぜなら君は人だからだ」
「そんなっ⁉ 人じゃヒトデになれないっていうんですか!」
「人とヒトデは似て非なるものなのだよ」
「ううっ、ううぅぅ……!」
「諦めなさい」
「っていうか誰だてめーはァ‼」
「ぐぎゃあああああああっ⁉」
すごく平均的なヒトデが鼻毛でぶっ飛ばされた。
いきなりの展開だが驚かない。慣れてきたのかもしれない。
「ペッ! ヒトデごときが偉そうに語りやがって」
「令和に生きてたら炎上しかしないなこの人……」
「しかし毛狩り隊の奴らが一向に現れんな」
「そういえば。意外に平和といえば平和なのかも」
「見つけたぞ! お前がボーボボだな!」
ちょうどそんな話をしてると敵っぽい奴が現れた。タイミングいいな。
スキンヘッドじゃなく黒髪。少なくとも平隊員じゃない。なんなら怖そうな雰囲気ではあるけどイケメンでかっこよかった。
原作では見たことないはずの敵だ。
そもそも水族館が舞台になったことがないような気がするし、この展開は……?
「俺は毛狩り隊水族館ブロック基地隊長、バッド! ボーボボ、お前を殺す!」
「ちょっと待ってよ。今毛狩り隊待ってるからあ・と・で」
「いやこいつが毛狩り隊だよ⁉ もう来てるんだって!」
「ごふっ⁉ ごはぁ⁉」
「そうか、ううむ、あとでか……!」
「なにちゃんと待とうとしてんの⁉ あんたが毛狩り隊だろ!」
「おふっ⁉ ぐあぁ⁉」
思わずツッコミを入れると攻撃として当たってしまった。
ボーボボにもバッドって男にも。
自然とバッドが俺を睨みつけてきた。しょうがないんだけどちょっと納得できない……。
「おのれぇ、問答無用で奇襲を仕掛けてくるとは……! この卑怯者!」
「俺が悪いの⁉ あんたが油断しすぎだったんだよ!」
「ぐほぉ⁉」
「悪いのは全部こいつです! 僕は何もしてません!」
「ボーボボてめーっ⁉ 一番卑怯だろうが!」
「ぎゃああっ⁉」
またしても思いっきりツッコんでしまう。
そうすると俺のツッコミが物質化して飛んでいき、二人にぶつかる。
俺は戦闘を始めたつもりなんて全くないけど、状況だけを見れば、すでに戦いが始まっているようにも見えなくはない。
「もうそのつもりなんだな! だったら構わん! ここで二人とも死ね!」
「俺も入っちゃった⁉」
「くそ~、俺は何もやってないって言ったのに~……!」
「なんで自分だけ助かろうとするんだよ⁉ あんたの方が変なことしてるよ!」
「ぐほぇ⁉」
どうやら戦いが始まろうとしているようだ。
バッドという男が戦闘態勢に入った。
俺は心の準備なんてできていないのに、今更逃げられそうにもないし、まずい!
「心配するな津山。お前はまだ戦闘経験がない。今回ばかりは俺が守ってやる」
「ありがとう!」
ボーボボが俺を守るって宣言してくれた!
これがフリじゃなきゃいいけど!
「豚がぶった‼」
なぜかいきなりダジャレを言われた。
なんじゃそりゃ、とか思う前にボーボボの目の前で白い煙がボンっと生まれ、突然豚が現れる。そしてぎょっとしてるボーボボを前足で強めにぶった!
「ごぱぁ⁉」
「ええっ⁉ なんっ、なにこれ⁉」
「ダジャレ真拳奥義“
ダジャレ真拳⁉ 聞いたことない真拳だ!
少なくとも原作には出てこなかった!
今になって確信した……こんな展開知らないぞ⁉
「ダジャレを現実にする能力か……!」
「そうとも! そして俺はダジャレのスペシャリストだ! どんな状況にも対応できるダジャレを言うことができる!」
イケメンなのにダジャレを言う能力か。なんか残念な気はするがまだまともな方なのかな?
もうすっかり慣れてるけど、改めて鼻毛を操る能力が主人公なのは変だもん。
「ダジャレなど取るに足らん。そんなものは俺にだってできる」
「何ィ⁉ お前は鼻毛真拳だろうが! 鼻毛を使う程度の真拳で何ができる!」
あぁ、あの人は何も知らないんだな……。
鼻毛真拳はいつの頃からか鼻毛を操るだけの真拳じゃないんだよ。“クマ達怒りの乱舞”とか知らないんだろうなぁ。
「鼻毛真拳は無敵だ」
「面白い! ならばその無敵の真拳を見せてみろ~!」
仲間との小競り合いじゃない、ついに敵とのバトルが始まる……!
「イカが
「鼻毛真拳奥義……“布団が吹っ飛んだ”!」
「なにぃいいいいいいいっ⁉」
気付けば俺がボーボボの前に盾として差し出されていた⁉
やっぱりじゃないか!
そして怒ってるらしいイカが目の前に現れて、足を振り回して――!
「ぶへぇ⁉」
「これがダジャレの力だ」
「どこがだっ!」
「ぎゃあっ⁉」
思いっきりイカの足でしばかれたぞ!
守るって言ったのがフリでしかないじゃないか!
そりゃ、原作で首領パッチや天の助を盾にしてたから嫌な予感はあったけど!
「俺を守るって言ったのに俺を使って自分だけ守るなよ! しかもダジャレが関係ない!」
「だって、だってドカドカ何回も痛かったんだもん!」
「実は恨んでたのか⁉ 謝ってたじゃん!」
「ほらまたぎゃあっ⁉」
ただのノリなのかもしれないけど、本音なのかもしれない。
俺のツッコミによる攻撃をまさか気にしてたとは。そりゃそこそこ頻度はあったけど。
「ハッ、仲間割れか! 無敵の真拳が聞いて呆れる!」
「じゃあ俺も呆れる!」
「なんでだよ⁉ なんの意味がある!」
「ごはぁ⁉」
ええいクソ、敵がいるこの状況でも全く雰囲気が締まらない。しかもボーボボがふざけるからついついツッコんでしまって攻撃しちゃうし。
ダジャレ真拳……出現した豚やイカは攻撃するとすぐ消えてしまうから永続的な効果じゃない。でもダジャレ次第でどんな攻撃もできるっていうのは、意外と結構強そうだ。
「ハッハッハ! まだまだ行くぞ! カエルが帰る!」
また白い煙がボンって現れて、どこからともなくカエルが現れた。
そして俺たちを狙って勢いよく飛んでくる。
「ドラゴンボールかよ⁉」
ついツッコんでしまった。いやこればっかりはツッコまずにはいられなかった。
現れたカエルがZ戦士みたいな感じでこっちに飛んできたからだ。
カエルが帰るを攻撃にするのもすごいけど、何もZ戦士みたいにならなくたって……。
そしてその瞬間、奇妙なことが起きた。
俺が放ってしまった「ドラゴンボールかよ⁉」がこっちに向かってくるZ戦士みたいなカエルに正面からぶつかって、パリンってガラスが割れるみたいな音がすると、最初から存在してなかったみたいに跡形もなく消えてしまった。
しかも勢いは全く衰えず、直線状にいたバッドの体に直撃。
ギャグ漫画だし、ダメージはそんなだろうが、当たった。
「ぐあぁっ⁉」
「ひどい⁉ カエルさん消しちゃった! この人でなし!」
「あんたに言われたくないんだよ!」
「ぐばぁ⁉」
ボーボボにももう一発当ててしまったが。それはふざけてるので仕方ないとして。
初めての敵との戦闘。シリアスな相手には敵わないと思ってたけど。
もしかして俺の能力って結構強い?