「敵の攻撃が途切れた! この隙に八つ裂きじゃ~!」
もうひどいこと言ってる⁉
ただ今度はツッコミを呑み込んで、ボーボボが敵に接近するのを見送った。下手したら邪魔してしまうからツッコミのタイミングが重要みたいだ。
「行くぞ! 鼻毛真拳奥義! まっぽらっぱみろっぽろ~ん!」
「なにそれ⁉ 意味わからん⁉」
「ぶはぁ⁉」
攻撃するのかと思ったら、近付いてバッドの周りを回りながらちっちゃい旗を振って踊っているだけだった。そのせいで俺のツッコミがぶつかる。
しかもその間にバッドが体勢を立て直して攻撃を繰り出そうとしていた。
「なんでこんなタイミングでふざけるんだよ! 攻撃ですらなかったから!」
「効かないか……!」
「攻撃してないんだよ⁉」
「うわばっ⁉」
「バカめ! 今度はこっちの番だ! ダジャレ真拳奥義“
「猫が寝込んだ!」
ボンっと勢いよく、布団で横になって苦しそうに寝込んでいる猫が出てきた。
だがそれだけだ。
「かわいそう! 猫かわいそう!」
「猫かわいそう!」
「猫かわいそう!」
「お前が言うなよ⁉ 出した張本人!」
「ぐばっ⁉」
ダジャレを言ったバッドまで猫に同情してやがったのでツッコミを抑えられなかった。
俺のツッコミが文字化して激突する。
倒すまではいかないが、さっきみたいに体勢が崩れていたのは確かだ。
今度は猫に当たってないのに、バッドがツッコミを受けた途端に寝込む猫が消えた。
そういう効果なのか? それとも効果が消えただけか?
「おっしゃー! この隙に行くぜ!」
「今度こそ攻撃してよ!」
「任せろ! ハァアアアアアアッ! まそっぷ‼」
「ギャグマンガ日和じゃん⁉」
「ぐはぁ⁉」
またふざけて攻撃しないし……。あ、バッドが起き上がった。
この人も結構真面目に見えてふざけてるんだよな。
「隙を見せたな! 俺のイマジネーションは止まらないぞ!」
「くっ、まずい! またダジャレで何か出される!」
「車が
俺たちとバッドの間に車が出てきて、大きな布でふわっと包まった。
ちょっと待ってみたけどそれだけだった。
「しまった、もう乗れない⁉」
「なんだこの技⁉ いらねっ!」
「ぐほぉ⁉ ぐはぁ⁉ 精神的にも傷ついた~!」
思わずいらねって言ったことがだめだったのか、バッドが胸を押さえて倒れた。
シンプルに悪口でダメージ受ける敵って……。
いや、この世界じゃ別に可愛いもんか。ここまでふざけ倒してるし。
「しめた! 今がチャンスだ!」
「それ何回目⁉」
「ぐはぁ⁉ 攻撃前に~!」
「みかんが見っかんない!」
「もう無理だよ⁉ 聞いた時点でないわそれ!」
「ぐぁああああああっ⁉」
くっ、こいつら、全然まともな技出さねぇ……!
6巻くらいでビュティがグレたのがよくわかる。むしろおかしくなったのがあの1回だけっていうのがすごいとすら思えてきた。
このテンションを続けられてツッコミ続けてたら俺の方がおかしくなりそうだ。
「しょうがない。あいつらを呼ぶか」
「あっ。もっと大変になりそうな予感……ほんと黙っとくからね」
「いでよ! 鼻毛真拳奥義“バカ召喚”!」
あぁ、もうどうなるのかわかった。
あいつらってあいつらしかいないもんな……。
「あぁ~マジつまんない。マジサゲぽよ戦国丸」
ボーボボがギャルみたいになって意味不明なことを言い出した。あるのか? そんな言葉……。
「あ~あ、主人公とか来ないかな~。主人公いないんじゃ盛り上がんないよな~。やっぱ主人公いないとサゲぽよ極戦国丸だわ」
「お嬢さん、お嬢さん」
「ん?」
「いますよ。主人公」
どこからともなく首領パッチが現れた。やけにかっこつけている。
どうやら彼は自分がこの作品の主人公だと思ってるみたいで、全くの勘違いなんだが、よく自分が主人公だと言い張っていた。
巧みに首領パッチを呼び出したギャルボーボボは、すかさず首領パッチの体を掴み、顔面に強烈な膝蹴りを入れる。
「引っかかったなこのヌケサクがァ~‼」
「ぎゃあああああああああっ⁉ 罠かぁ~⁉」
一応大事な仲間なはずなんだが、一切手加減のない膝蹴りだった。
首領パッチはべしゃっと地面に倒れる。
「まずは一匹」
「敵の発言だけど……」
「仲間を呼んだのか? 人数が増えたからといって俺に勝てると思うなよ!」
敵は敵でのんきというかバカというか。もう特に何も言うつもりはないけど。
「あぁ~暑い。最近の夏は暑いわ~。ほんともう、ただの家事ですら苦行になっちゃう。やり慣れてるのに何やっても汗かいちゃうんだもの」
ボーボボが主婦みたいになって手で自分の顔を扇いでた。もう何も言うまい……。
「あぁ~あ、こんな日はあれが食べたいな~。酢醤油をかけてチュルチュルっていけるやつ。私は冷たいのが好きだけどね~」
「奥さん、奥さん」
「ん?」
「ありますよ。ところてん」
どこからともなくところ天の助が現れた。なんだかダンディだ。
天の助は基本的に誰かに食べられることを喜びとしている。そういう世界観なのだ。
ボーボボは右腕の袖をまくって、首の辺りにすかさずラリアットを叩き込んだ。
「引っかかったなこのダボがァ~‼」
「ぐへぇえええええええっ⁉ 罠かァ~⁉」
まあ……こういう風に、ボーボボがこの二人を乱暴に扱うのは漫画を読んでたらよく見る光景で驚くほどのことでもない。
流石にこれについてはツッコむ気持ちにならなかった。
「役者は揃ったな」
「二人倒れてますけど……」
「ボーボボ殺す……」
「ボーボボ殺す……」
「よし! 景気づけに一発ぶちかましてやる! バカ爆弾‼」
「「ぎゃああああああああ~っ⁉」」
首領パッチと天の助がバッドのところまで放り投げられて、なぜかは知らんが爆発した。
流石にツッコまなかった。
仲間を盾にもするし武器にもする。チェンソーマンもびっくりの展開は彼らにとって日常であり
当然でしかない。
「「いい加減にしろォ~‼」」
「ぐばぁああああああああっ⁉」
ついにボーボボがやり返された。
首領パッチと天の助のダブルラリアットで血を吐きながらぶっ飛ばされる。
「お前調子乗り過ぎ」
「次やったらこの程度じゃ済まねぇぞ」
「マジすいませんした……」
ああは言っててもどうせまたやるんだろうな……。
しかし今はもう黙ってようとしてるけど、ふざける奴が三人もいるとツッコミなんてしてたら身が持たないぞ。改めてビュティさんへの尊敬が大きくなるな。
「と見せかけておりゃあああああああああっ‼」
「「ぎゃああああああああああっ⁉」」
「もうやり返したぁ⁉」
「ごはぁ⁉」
「仲間を呼んだところで俺のダジャレ真拳は破れんぞ!」
「オラオラオラァ! 死ねこのクズ野郎がァ!」
「やるなって言ったよな! 今言ったばっかだよな!」
「すいませんっしたー⁉ すいませんっしたー⁉」
「敵喋ってるよ⁉ ちゃんと聞けよ!」
「「「おぶっ⁉」」」
三人揃ったのはむしろまずいことなのかもしれない。
敵が前にいるのに早速仲間割れ。バトル中だったはずなのに話が進まなくなった。
流石に負ける予想はできないが状況が荒れてることは否めない。
「お前たちの力はわかった! ここから先は強めのダジャレを使っていく!」
「隙を見せたなバカどもがァ! 死ね死ね死ねェ!」
「ぎゃあああああ~⁉ ボーボボてめぇ~!」
「ふざけやがってこの野郎ォ~!」
「まだやってんのか⁉ もういいよ!」
「「「ごぺぱっ⁉」」」
「覚悟しろ!」
「あんたももうちょっとリアクションあるだろ⁉ 見えてないのかこれ!」
「おぱぁ⁉」
まずい。完全に場が荒れている。
ボーボボたちはふざけてるし、バッドは真面目なのか抜けてるのかツッコミ適正はないし、つい反射で俺がツッコむとそのワードが敵味方に対する攻撃になるし。
なんだこの状況。もはや誰が味方で誰が敵なんだか……。
「しょうがねぇ。そろそろ遊びは終わりだ」
「おおっ! ついにやる気に!」
ようやくボーボボが戦う気になったみたいだ。
多くは語らないが首領パッチと天の助もバッドに顔を向けて凛とした顔になっている。
ここからは協力してバトルか。
「行くぞ天の助! 俺たちの協力奥義を見せてやろうぜ!」
「え? 協力奥義? どれのこと?」
ボーボボが素早く天の助の背後に回って拳を握っていた。
まさかそれは……。
「ところてんマグナム!」
「ごはぁ⁉」
「出たぁ~⁉ 問答無用の無慈悲な協力技!」
ボーボボが天の助の胴体を殴り、勢いよく抜け出た体の一部が弾丸みたいに飛んでいった!
原作で何度も見た技だ。天の助の意思を無視してただぶん殴ってるだけなのだが、場面によっては全く効かなかったり意外と効果があったり威力が安定しなかったはず。
あんまり期待はできないけど狙いだけは正確。
プルプルのところてんの塊がバッドに接近していた。
「カバが
しかしバッドの前に大きなカバが二足歩行で現れ、ところてんマグナムを前足で叩き落とした。
やっぱり敵を倒すのは無理か……。
でもまあ本物を見れた嬉しさは結構あったりする。天の助は血を吐いて倒れてるけど。
「今度はこっちの番だ!
火炎放射器みたいに、すごい勢いで炎がボーボボへ迫る。
その瞬間、俺は確かに見た。ボーボボが素早く首領パッチの体を掴んだのを。
「バカガード!」
「ぎゃああああああああああっ⁉ あちあちあちぃいいいいいいいっ⁉」
「で、出たぁあああああっ⁉ 極悪非道の防御技っ!」
向かってきた炎を、首領パッチを盾にして受け止めていた。
これも原作じゃ結構見たはずの技だが実物を見ると衝撃がすごいな……!
しかしギャグ漫画時空なのでよっぽどのことでもない限り彼らは死なないし、次の瞬間にはピンピンしてるから理にかなっている気もする。
「チィ、防がれたか! いい盾を持ってやがる!」
「仲間だよ⁉」
「ごふっ⁉」
「これは俺の父から譲り受けた盾……どんな攻撃でも無効化することができる」
「嘘つけ⁉ その辺歩いてた変な生物だろ!」
「ぐはぁ⁉」
「うっす! 自分、いつか伝説の盾になりたいっス!」
「誰だよお前!」
「ごへぁ⁉」
あぁ忙しい……!
ボーボボ一人の時でも気を使ったのに、こんなにふざけられると黙っていられなくなる。
ただの傍観者ならどれだけよかっただろう。この世界じゃ黙ってるだけのことがこんなに難しいなんて思わなかった。
「大丈夫か津山! お前さっきから叫びっぱなしじゃねぇか! 俺を食って回復しろ!」
「食わねぇよ⁉ 食えるわけねぇだろこんな奴!」
「ぐわぁああああああっ⁉ ツッコミ以上に傷ついたぁ~!」
天の助……誰かに食われたがっているのは知ってたが、実物を前にすると本当に、マジでこいつを食うのは無理だなって思う。動いてるし生きてるしよく見るとちょっと汚れてるし。
ところてんが外でうろうろしてるんだからそりゃ清潔な状態でいられるはずもないよな……。
「まとめて始末してやる! 氷はもうこおりごり!」
またバッドがダジャレを言うと、今度は俺たちの頭上に大小様々な氷が出現した。
俺まで含めた範囲攻撃! バトルが始まってるのはもちろん理解しているが、いざ自分が狙われると緊張して体が動かなくて、俺はただその氷を見上げることしかできない。
間違いなく俺は初めてのバトルに怯えていたのだ。
「津山~! こいつを使え!」
「こ、これは……!」
「ええっ⁉ 使うってあなた! ちょっとあなた!」
ボーボボがこっちにぶん投げてきたやつを受け止めて、言わんとしていることがわかった。
やるしかない……! この世界で生きるためには!
「バカガード!」
「ぎゃああああああああっ⁉ ブルータスお前もかぁあああああっ⁉」
「そして俺はところてんガード!」
「ぎゃあああああああああっ⁉ やっぱりかぁ~⁉」
頭上から降り注いだ氷の雨を、首領パッチと天の助を傘にして耐えしのぐ。
攻撃が終わった時、俺とボーボボは一度も氷が当たらずにやり過ごすことができていた。
これもバカたちガードのおかげだ。
「津山てめぇ~! ツッコミみてぇな顔しといて俺を使いやがって!」
「わっ⁉ ご、ごめん。危なかったから」
「てめぇもだボーボボ! よくもこの俺様を物みてぇに投げやがったな!」
首領パッチがすぐ騒ぎ出した。まあこればっかりはそりゃそうだって話だから仕方ない。
ボーボボを見ると、なんかつまらなそうに顔を背ける。
「チッ……今のでくたばらなかったか。残念だぜ」
「シンプルにひどっ⁉」
「ぐへぇ⁉」
「……キュン♡」
「なんで⁉ そうはならんだろ今の!」
「ごぺぁ⁉」
い、息つく暇がない……。
別にツッコミトリガーがあったところで、使う度に体力が減るとかそういう制限はないとは思うんだがシンプルに忙しくて疲れる。
この人たちなんでこんなに元気なんだ?
攻撃が止まったからバッドの方を見てみると、何やらぼーっと突っ立っている。
ダメージがなかったことにショックを受けたのか?
「これが協力……仲間、か」
「そんないい感じには見えないだろ⁉ お前にはどう見えてんだ!」
「ごふっ⁉ ごはぁ⁉」
俺のツッコミがまた物理的に直撃する。
そんなつもりはないんだけどよく当たるなぁ。
まさか俺、これからずっとこうやって戦っていくのか? 大変過ぎるな……。