転生した俺がツンデレショタおにいさまとイチャつきながら最強の魔法使いになるってほんとですか!?~Nothing changed~   作:かに3

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 次は幸せに生きたい。

文字のままに血反吐を吐きながらそう願って死んだはずの俺は、触り心地の良い布に包まれて呆然と瞬きを繰り返していた。

 

 くすんだ視界の外でぼんやりとした影が動いて、水の中のようなボワボワとした音がひっきりなしに聞こえてくる。視界を覆い尽くすような黒い影が恐ろしくて叫ぶと、大きな何かに持ち上げられて余計怖いことになった。子供みたいにギャンギャン泣いて、喚いて、自分を持ち上げて揺らす『ソレ』が出す音が、まるで子守唄のような音程だと理解した時に「もしかして俺は転生したんじゃないか」と思った。

 

 だって、俺は確かに死んだんだ。生きれるわけがなかった。突然の病気で、まわりから誰もいなくなった。今ならわかる。俺が嫌な人間だったからだ。誰も大事にしなくて、自分のしたいことだけしていて、思いやりもなくて馬鹿だった。誰の特別にもなれなかった。だから一人で寂しく死んだ。きっと誰も俺のために泣いてはくれなかっただろう。悲しくて悲しくて、勝手に涙が出る。大きな何かが優しく体を揺すって、頬を撫でる。

 俺はダメな人間だったけど、最後に反省したから。だからきっと、神様がやり直しをさせてくれたんだろう。

 そう思うと、この黒い影達が怖くはなくなった。赤ん坊の眼はあまり見えないと聞いたことがある。きっと俺を抱くこの腕は母親の腕で、俺の頬を撫でる指先は父親の指で………身体が揺れる。俺を抱いた人が座ったんだろう、安定感が増して落ち着いた。おそるおそると、誰かが俺の頭を撫でる。小さな柔らかい手。きっとこれは、俺のきょうだいだ。姉か兄か分からないけど、誰かがいる。

 

「かわいい、よいこだね……」

 

 ボワボワとした音でしか無かった人の声が、はじめて意味のある言葉で聞こえた。

可愛い良い子。俺はこのきょうだいにとって、可愛い良い子の弟であろう。だってこの子がそう言うのだから。

 

 

「おかあさま、アンジェがわらった。わたしのかおをみて、わらいました!」

「良かったわね、ロロ。アンジェが「おにいさま、だいすき」ですって」

「わかるんですか?」

「ちょっと前まで同じ身体のなかにいたからね、わかるのよ」

「そうなの!!?」

「あなた、静かに」

「はい……」

 

 全部は聞き取れなかったけど、空気はわかる。この家族は俺が生まれたことを喜んでくれているし、きっと幸せになれる。今度こそ俺は間違えないんだ。人を大事にして、同じだけ大事にされるような、まともな人間になってやる。

 

「わたしもおまえが、だいすきだよ」

 

 やさしいやさしい、ちいさな子供の声。ここにいるだけで与えられる祝福に胸がいっぱいになった。俺、転生先SSRだったのでは!? 嬉しい……眠い……赤ちゃんだから……。家族の笑い声を聞きながら眠るのが、こんなに幸せだったなんて。死にたくなかったけど、死んでよかったな……。

 

 

 

 

 

 

 よく転生物の小説を読むと、オムツが恥ずかしいとかママのおっぱい飲むのにスケベ心出すとかいうネタがあったけど、実際そういうの特に無いよな。うんちでました! おしりが辛いです! でにゃーにゃー泣くし、腹減ったおっぱいうめ~~! でごくごく飲む。

 これもう生き物としての反射なので俺の意思とか入らない。強いて言えば自己主張が出来る分そんじょそこらの赤子よりは育てやすいらしい。検診の時に褒められて赤子ながらにドヤった。隣でおにいさまもドヤってた。

 

 1歳が近くなって、産まれたばかりの時より視界がクリアになったのでいろいろ分かるようになった。俺より4つ年上のおにいさまは、たぶん天才児。年不相応にしっかりしてるし、おまけに美少年だ。さらさらの銀髪で少しつり目がちの眼が意志の強さを感じさせる。俺は可愛い良い子なので兄弟仲は良好。

 

 そろそろ喃語から何か意味のある言葉を喋れるようになるかなという切り替わりの年頃なので、パパとママが隙を見ては「ぱぱ、ぱーぱ。ほら言ってごらん」「ままよ。まあま。おぼえてちょうだいね」と迫ってくる。

 それをキッとしながら「ちゃんと『おとうさま』『おかあさま』と教えてあげてください」と注意して、本の読み聞かせをしてくれる。

 

 このままでは俺はパパでもママでもなく、おにいさまに読み聞かせられてるこの世界の偉人の名前を最初に喋ってしまうかもしれない……茨の谷の次期王の名前とかポロッと出そうだもん。ハロウィンで谷を焼き尽くしたんだっけ? なんかやべえ人がいるらしい。

 

 だけど俺は知っている。夜中、天井からぶら下がるなんかぐるぐるまわるおもちゃを夢中で見てるとおにいさまがこっそりやって来て「アンジェ、おにいさま。『おにいさま』だよ。言ってみてごらん」と俺に自分を呼ばせようと頑張っているのを! え~~! おにいさまかわいい!

 パパとママにはわるいけど、こうなっちゃったら俺は『おにいさま』一択よ。

 でも喃語上がりにこの単語難しそう! 一通り繰り返して「まだ難しかったね、おやすみ。わたしの可愛い良い子」と頬にキスして帰っていくおにいさまを見送って、天井のぐるぐるおもちゃを見ながらうにゃうにゃと練習をする。舌が全然回らないし、『に』が難しい。あと『さ』も出ない。

 

 

 

 過酷な特訓を繰り返し、満を持して家族3人の前でおにいさまを指さし、渾身の『おにいさま』を投げつけたが、俺から出たのは可愛らしい「おいちゃま!」だった。う~~ん! しっぱい!

 

それでもおにいさまは「いま、わたしのことおにいさまって!」と飛び上がって喜んでくれたので成功ということにした。パパとママは練習してなかったから遅れたけど、言いやすいのですぐに発音できるようになった。ねえおにいさま、にーにとかじゃダメかな?ダメか……。

 

 

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