転生した俺がツンデレショタおにいさまとイチャつきながら最強の魔法使いになるってほんとですか!?~Nothing changed~   作:かに3

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「マラソン大会?」

 

 意外にも表情が素直なおにいさまが、心底嫌そうな顔で見ている紙を横から覗く。あら、この世界にもマラソン大会という行事があるのね? と思っていたら、どうやら校長先生の希望で今年から出来たらしい。

「あの東方被れめ……」と、憎々しげに机を拳で殴るおにいさま曰く、研修で東方の学校に行った時にそういう行事を見て感銘を受けて、時折このような今まで無かった行事を行うのだそうだ。

 おにいさまは頭脳労働に秀でている分、運動はちょっぴり苦手なので嫌なんだろうな。汚れるのも疲れるのも嫌いだもの。

 

「ね、ね、街の中走るんだよね? ここ、保育所でしょ? おれ応援するね! いっぱい手ぇ振るから、お兄さまもおれに手ぇ振ってね!」

 

 走行ルートの折り返し近くに保育所がある。おにいさまの運動着は見たことあるけど、それを着て運動している姿は見たことないから楽しみ!

 俺がはしゃぎ倒していると、おにいさまはフッと笑って「そうだね、アンジェに良いところが見せられるように頑張ろうか」と言ってくれた。

 

 午前だけ授業があって、そこからマラソン大会がはじまり終わり次第帰宅らしい。

 当日、おにいさまと同じお弁当を作ってもらった俺はご機嫌だった。この世界でもお弁当があるのか! と思ったけど、やっぱりこれも東方由来らしい。ママもパパもおにいさまも馴染みがないみたいで、俺が「お昼ごはんを箱に入れて食べるんだよ。おうちからテイクアウトするのよ」と一生懸命説明してなんとか理解してもらった。

 普段は食堂でご飯を食べているらしい。小学校……エレメンタリースクールから学食があるのか……! 俺も早く学校に通いたい! 在学期間が数年とは言えどおにいさまと被るし、一緒に食事が出来るかも!

 

 袋に入れたパンと、カットした果物を入れたプラスチック容器を持って保育所に行く。

 普段は室内で大人しく本を読んでる俺が、お昼ごはんの後に昼寝もせずに外で道路を見ているのが不思議なのだろう。「寝ないのか?」とやってきたトムくんに、「お兄さまがここを走るの」と教えてあげる。

 エレメンタリースクールからは少し離れているけど、子供向けのマラソンだ。

 30分ほどしたら、足の早い子達が通り抜けていく。折り返し地点だからか、大通りに近いからか、珍しい行事だからか。彼らの親きょうだいも応援に来ているらしく、この前帰り際に大喧嘩していた子も少し離れたところで「兄ちゃんー!! がんばれえ!!!」と大声で応援していた。あの子のお兄さんは運動出来そうな顔してたもんな。「任せろ!!」と声援を背に加速して、さっさと折り返して走っていってしまった。

 

 おにいさまはまだかしら。と、次々通り過ぎていく子供たちを齧り付くように見るが、まだ来ない。どてどてふうふうとあからさまに『走るのが苦手です!』という体格の子がほぼ歩くくらいのスピードで来ても、まだおにいさまは来ない。

 

「トムくん、お兄さまが来ないよ。迷子になっちゃったかなあ? 大丈夫かなあ?」

「そうだね、さすがに心配だね……。ちょっと向こうの道を見てくるから、アンジェくんは入れ違いにならないようにここでお兄さんを待っててあげて」

 

 おにいさま、どうしたんだろう。もう走る子もほとんどいないし、見物人も居なくなってしまった。

 

「ばあちゃん救急箱!」

 

 トムくんが正門から飛び込んできて、箱を引っ掴んでまた走っていった。門を開けっ放しにしたので、おばあちゃん先生が「こら! トム!!」と怒って閉めに行く。救急箱って何? 誰か怪我したの? 門が閉められる前にくぐって、トムくんの後を追いかけた。

 

「トム! アンジェくんがそっちに行ったから保護してちょうだい!」

「ええ! ああ閉め忘れた! 待って車道通らないで!」

「アンジェ!!」

 

 トムくんがしゃがんで何かしているところに走っていくと、おにいさまがいた。

 

「ダメじゃないか! 勝手に保育所を出てはいけないよ、危ないんだ。分かるね? さあすぐ戻ろう」

「おにいしゃばが怪我してゆううう!!!うわああああん!!!」

 

 おにいさま!! 膝!!! 血まみれ!!!!

 

「うえええん!! おにいしゃまが死んだううう! いやあああ!!」

「兄さんは転んだだけだよ。アンジェを置いて死ぬわけが無いだろう」

「痛いいいい!」

「痛くない」

 

「いやこれ絶対痛いって……」

 

「痛くないです消毒だけお願いします」

「あ、はい」

 

 おにいさまの両膝血まみれでパニックに陥った俺がわんわん泣いてる中、傷口を洗われて簡易的ながら処置されたおにいさまはまた立ち上がった。

 結構最初の方で転んで、そのまま走り続けたらしい。おい!! 教師!!! 初めてのイベントやるなら密に見守りしろよ!! なに走らせて放置してんだてめえ!!! ぜってえ東方の学校だったら数メートルおきに教師配置してただろ! 見た目だけ真似しても意味ないんだよ! この件は絶対クレーム入れさせていただきます許さねえからな。

 

 

「やあああ! おにいしゃまマラソンおわり! おれとおうちかえう!!!」

 

 怪我してまでやることじゃないよ! 帰ろう! そう説得するけど、おにいさまは俺の両頬を優しく挟んで顔をあげさせ、「一度決めたことは絶対にやり通さないといけないよ。アンジェは兄さんを応援してくれるんじゃなかったのかな?」と言った。おにいさまこそ人生二度目の方ですか? 俺の中の大人な部分があまりの正しさに消滅しそう。

 

 おにいさまが走り切る気持ちでいるのに、俺がわがままで止めるのはいけない事だ。わかってる。わかってる、が! この幼い肉体は感情の方を優先するので号泣が止まらない!

 

「お、おいちゃま、がんばえー! おいちゃま、がんばえ!」

 

 俺が泣きながら手を振ると、おにいさまは笑って手を振り返してくれる。

 

「ああ、頑張るよ。すぐ走りきって迎えに来るから、良い子で待っていられるね?」

「あい、まてうよ」

「先生にごめんなさいもできるね?」

「ごめんちゃ、すうよ」

「それでこそ私の可愛い良い子だ」

 

 トムくんに俺を預け、ゆっくりながらも安定した足取りで走り去るおにいさまの背が見えなくなるまで見送って、俺は盛大に泣いた。

 泣きながら勝手に門から出たことをおばあちゃん先生に謝罪し、おいおい泣きながら毛布にくるまって寝た。

 普段そんなに泣くことの無い俺が盛大に泣き崩れているからか、同じ年頃のみんなが「よいこ、よいこ」「なかないでねえ」「ごほんよんであげようね」と慰めてくれる。優しい。

 

 

 

 

 

 いつもより少し遅れて迎えに来てくれたおにいさまに抱きついて「おれがおんぶしてあげる」と言うと、「気持ちだけ受け取ろう」と笑われる。そして俺の首にリボンがついたメダルを掛けてくれた。

 

「完走するとこれが貰えるんだ。アンジェにあげよう」

「いいの?」

「いいよ。アンジェの応援があったから兄さんは走れたんだ」

「ありがと、あのね、おれも学校行って、マラソンしたら、お兄さまにあげる。交換こ、しようね」

「おや、まだ泣き止んでない」

「泣いてないもん」

「そうかな」

 

 おにいさまのハンカチはいつも洗剤の匂いがする。俺の顔を拭く用と、俺の口元を拭く用と、俺の手を拭く用の予備と、自分の口元を抑える用と、自分の手を拭く用。少なくとも5枚くらいを常に常備してる潔癖症のおにいさまは、涙やあれこれでぐちゃぐちゃになっていた俺の頬に小さくキスをした。

 

「元気になるおまじないだ」

「ん、げんきになった」

「んふふ」

「んふふー!」

 

 帰ったらおにいさまの怪我でパパとママはひっくり返るだろうけど、メダルを見たら喜ぶだろう。こんな素敵なもの貰っていいのかしら? と思ったけど、おにいさまがくれたんだ。俺の宝物として、一生大事にしようっと。

 

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