転生した俺がツンデレショタおにいさまとイチャつきながら最強の魔法使いになるってほんとですか!?~Nothing changed~ 作:かに3
ママに渡された財布をギュッと握り締めてキリッとした顔を作る。
俺、4歳! 1人でお買い物できます!
今まではいついかなる時もパパかママかお兄様と歩いていたけど、大通りのパン屋から家まではフリーで歩ける許可がおりた。子供の成長って早いからね、俺はもう保育所でも最年長なのでみんなのリーダーよ。
不登校を止めて学校に戻り、長期休暇の時だけお手伝いに来てくれるようになったトムくんにも「40センチは伸びたな……」って褒められたもの。
「まだアンジェには早いと思います」
お買い物許可を出してくれたママに、お兄様NGが出たので慌てて間に入る。
「大丈夫だよ。お兄様! 俺もう1人で平気だもん!」
俺、行けます! もうベビベビの赤ちゃんは卒業しましたので!
俺が大きくなったように、お兄様も成長した。丸いほっぺたの美少年が、シュッとした美少年に! まだ最高学年じゃないのに、生徒会長をしているんだ。そう、俺のお兄様って指揮官タイプの有能少年なんですよ。んふふ。
「アンジェ、車から自分は見えないと思って車道側に寄らずに歩くのだよ。道を聞いてくる人がいたら、すぐに人の多いところに逃げ込みなさい。わざわざ子供に道を聞いてくるような奴は大抵子供狙いの変質者だから」
「はあい」
お兄様の偏見と侮蔑が今日も冴え渡ってるなあ。
男に気をつけろ女に気をつけろ犬に猫に天気にこの世のすべからくに気をつけろ。を、丁寧に話されて俺はうんうんと真面目な顔で頷き続けた。前世でもあった、男は外に出ると7人の敵がいるという諺。こっちの世界でも似たようなものなんだな……と素直に聞いていると、後ろでパパとママが首を逸らして笑っている。あ! これ心配を拗らせてるだけなんですか!?
結局、俺の初めてのおつかいは「まずは試験が必要だね」となって、いつも通りお兄様と2人でお使いになった。あれーー?
「兄さんの傍をはなれてはいけないよ」
「はあい!」
俺は良い子だからね! 言うこと聞くよ! 家からすぐ近くの馴染みのパン屋さんは、俺たちが来ると「焼きたてよ」とクロワッサンを出してくれる。お兄様の好物! 俺はクロワッサンの中にチョコ入ってるやつが好き!
お兄様が店主さんに何か話してるあいだ、ちょっと暇だったからあたりを見回す。俺が住んでる街は、花がいっぱいでどこもかしこも綺麗だ。フランスみたいな感じ。日本から出たこと無かったけど、テレビでみた。
毎日生活してたら慣れると思ってたけど、そんなことない。毎日新鮮に綺麗だと思うし、毎日発見がある。見ていて飽きるものがない。
お花の良い匂いとパンの甘い匂いがまじって最高になっちゃう。
俺がにこにこキョロキョロしていると、視界の端にもふっとしたものが通り過ぎた。
獣人属の子だ!
お兄様と同じくらいの年の、獣人属の子がしっぽぶんぶんしながら歩いてる! ぶんぶんして散った花びらが、しっぽを飾ってる。
大人の獣人属は見たことあるけど、年が近い子ははじめてだ。俺の世界って保育所と家の行き帰りしかないから……!
真っ黒い耳としっぽ。狼じゃなさそう。犬かな? どこ行くんだろ。触りたいなあ。ふわふわ……。
「かあわいい」
「!?」
気が付いたら手が勝手にしっぽを触っていて、男の子が飛び上がって振り向いた。あ、やっちゃった。そう思った瞬間、後ろからお兄様の声がする。
「アンジェ!!」
俺と男の子の前に入ってきたお兄様が、そのまま帽子をとって深く頭を下げた。
「大変失礼致しました、申し訳ありません。お怪我はございませんか? 」
血の気が引いていく。謝罪を繰り返すお兄様を見て、自分がとんでもないことをしてしまったと理解した。人の身体を勝手に触るのは、いけないことだ。たぶんこれは、差別で、酷いことをした。俺が悪いのに、お兄様が代わりに謝ってる。お兄様は悪くないのに。
「お兄様は悪くないの! 俺が勝手にさわっちゃったの、ごめんね、ふわふわで可愛くてさわっちゃったの、ごめんなさい! うえええん! ごめん"なさ"いいい」
俺が悪いことをしたせいで、なんにも悪くないお兄様が謝ってる。それが凄くショックで、悲しくて、情けなかった。お兄様の傍を離れちゃいけないって、言われてたのに。勝手に離れて、人に失礼なことをした。
ベショベショに泣いてると、突然しっぽを触られて驚いていた子が自分で抱きしめていたしっぽを俺の手にモサッと置いてくれた。
「……ん、触っていいよ。気にしてない。おれのしっぽは良いしっぽだから。触りたくなるのは仕方ない。あんたも頭上げてくれ、許すよ」
「謝罪を受け取って頂き、感謝する。ありがとう」
「お兄様も、ごめんなさい……」
「お前から目を離した兄さんも悪かったんだ、もうしないね?」
「お兄様は悪くないよ。もうしないよ。俺、良い子だもん……」
お兄様のお腹に抱きついて何度も謝ると、2人に笑われた。ほんとに反省してるんだから笑わないで。
獣人の男の子は、最近花の街に引っ越してきたらしい。
美味しいお店探しをしていると言ったから、さっきまでいたパン屋さんを勧めた。
ついでに、俺からの謝罪として握り締めてきたお小遣いを使っておすすめを奢ることにした。イートインスペースに座って、お小遣いの大解放だ。遠慮されたけど、お兄様が「この子の誠意だ。どうか受け取ってあげて欲しい」と言ってくれた。そう! これが俺のできる誠意の見せ方ってやつ!
甘いものが好きだっていうから、アップルパイの大きいやつと甘いミルクティを選んだ。お兄様にはクロワッサンとコーヒー。俺はチョコの入ってるクロワッサンと、オレンジジュース!
アップルパイを食べながらしっぽをぶんぶんしてるのをみて、うっかり「すてきだねえ、かわいいねえ」と言ってしまったけど、お兄様に「アンジェ。褒め言葉のつもりでも、人の身体的特徴を無遠慮に口に出してはならないよ」と窘められた。まったくもって正論だ。素直にごめんなさいをして、チョコ入りクロワッサンを半分に割る。
「お兄様、はんぶんこ!」
「はんぶんこしないでいいって、いつも言ってるだろう」
俺が渡した半分のクロワッサンを一口だけ食べたお兄様は、残りを俺の唇にそっとあてた。
「美味しかったよ、ありがとう。兄さんは一口で充分だ、残りはお前がお食べ」
「んふふー! これ美味しいよねえ」
ざくざくで甘くてバターの香りがたっぷり。俺が美味しいって思ったもの、全部お兄様にも食べてもらいたくてよくはんぶんこにしてしまう。美味しいも嬉しいもシェアしたいお年頃だからさ。その度に一口だけ食べて返してくるので、お兄様はとても律儀だ。自分のクロワッサンも綺麗に切り分けて俺の皿に乗せてくれる。俺があげたいのに、いつも俺の取り分の方が多くなってしまうのがちょっと不満。
「仲が良いんだな」
「ああ、私たちは仲が良いんだ」
「仲良しだよ!」
お兄様が嬉しそうなので俺も嬉しい。しばらくお喋りをして、男の子と別れて手を繋いで帰った。そこまでは楽しかった。
「ロロ、アンジェをちゃんと見るって言ったわね?」
「はい、ごめんなさい……」
「あああん違うのおお!! 兄様は悪くないよ!! 俺が悪いのおお!!」
俺のやらかしのせいで!! お兄様に怒られが発生した!! キッと怒った顔をしてるママが怖いし、ハンカチを顔に当てて俯いてるお兄様が可哀想で号泣した。
「アンジェ、反省した? おにいさまもママも、アンジェが大切だからこそ心配してるってわかった?」
「わかってるよう! ごめんなさあい!」
「そう、ふ、ふふ、ごめん。ごめんね、ロロ、顔上げて」
「……ん、ふふ。ふふ、これで、反省してくれたね?」
「なあんで笑ってんのおお!!!」
謝ったのに! 心配したのに! 俺は盛大に拗ね散らかして、パパの上着に引きこもり、トレーナーを一着ダメにしてやった。お兄様は俺が知らない間にママに連絡入れてて、あれはいわゆるプロレスだったらしい。ひどい! ほんとに反省したし後悔したし傷付いたのに!
お買い物テストは散々な結果に終わったけど、俺が悪いってのはわかってるから謝られてすぐに許した。俺は自意識大人の、立派な転生者ですからね! でももうしないでね! 俺のせいでお兄様が叱られるの、死ぬほどいやだから!