ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾” 作:物体Zさん
本日気合いの三話目になります。どうぞ。
開幕早々、ハリー・ポッターはコートの上空へ舞い上がった。箒に跨り、まるで風の一部になったように滑らかに上昇していく。視線は地上ではなく、上空から全体を俯瞰するように向けられていた。あの位置はただの観客じゃ見えない場所だ。勝ちに行く奴の位置取りだな。
「フシグロ君、スニッチがどこにいるのか分かるかね?」
隣に座るダンブルドアの声が耳に入る。ジジイは俺と違って余裕しゃくしゃくの顔で、両手を膝の上に乗せたままだ。
スニッチ……たしかルールは軽く聞いていたな。
「羽生えた金玉か?」
「ん?まぁ、み、見た目はそうじゃな」
ジジイは一瞬たじろぎながらも、曖昧な笑みを浮かべた。魔法界の“伝統あるスポーツ”に対する俺の雑な言い回しが気に入らなかったのか、あるいは本当にそう聞こえたのか……まぁどうでもいい。
俺は視線を競技場に向けた。
観客の歓声と風の音が混ざる中、俺の目にはすぐに“それ”が映った。
「あそこだ」
「ほぉ流石じゃ」
俺の指先が向いた先、小さな金色の球が高速でジグザグに飛び回っている。虫の羽のような羽根を忙しなく羽ばたかせ、予測不能な軌道を描いていたが、俺の目にははっきりとその動きが見えていた。スニッチがどれだけ速かろうと、俺の五感は“あれ”を見失わない。
「確かあれを取れば試合終了だったか?」
「うむ、その通りじゃ」
ジジイの声は楽しげだ。俺は椅子に浅く腰を掛けなおし、片肘を肘掛けに乗せた。
「単純でいいな。金玉を取ったら勝ち。分かりやすい」
「スニッチじゃ」
訂正されても特に気にしない。問題は、その金玉を誰が取るかだ。
上空でハリー・ポッターが旋回を続けている。風を切る音がここまで届いてくる気がした。やる気はある。緊張もしている。だが、それ以上に楽しんでいる顔だった。
「……あいつ、本当にガキかよ」
その顔は、殺し合いの現場を知る俺にはまぶしすぎる。純粋な競技の空気を、俺はもう何年も味わっていない。
ふと隣の塔に目をやると、スネイプとクィレルが座っていた。スネイプは腕を組み、あからさまにグリフィンドール側を睨んでいる。対してクィレルは挙動不審に周囲を気にしていた。
「なんか怪しいな、あの二人」
呟くと、ダンブルドアは目を細めて笑う。
「怪しいと感じるのは、君の感覚が鋭い証拠じゃよ」
「褒められてる気がしねぇ」
次の瞬間、観客の声が一段と大きくなった。
赤と緑のローブが一斉に跳ね上がった。
強烈な風圧が観客席まで押し寄せる。
「……おいおい、思ってたより派手じゃねぇか」
1人の選手がクアッフルを受け取り、ものすごい勢いでゴールポストに突進していく。追いかけるのは3人。赤と緑が入り乱れ、空中でぶつかり、旋回し、押し合いへし合い。
「これ、殺し合いの予行演習じゃねぇか」
「ホッホッホ……そうとも言えるな。クィディッチは、多少の接触は“許容”されておる」
「多少の範囲がバグってんな」
突っ込んだ俺の声は、歓声にかき消された。
ハリーはまだ上空にいる。スニッチの動きを探りながら、周囲の様子を読み、踏み込むタイミングを狙っている。
あいつ……目の動きが良い。
反応速度も悪くない。何より“迷い”がねぇ。
「へぇ……やるじゃねぇか」
あの小僧、筋肉の付け方も最初の頃とはまるで違う。
たった1ヶ月の筋トレと基礎訓練でここまで身体の動きが変わるとは思わなかった。箒の上でもブレがない。踏み込みも重心の移動も、地面に立ってる時と大差ねぇ。
「これが、筋トレの力ってやつだ」
俺はちょっとだけ誇らしくなった。
その瞬間、観客のどよめきが爆発するように広がった。
視線を追うと、スニッチが速度を上げてフィールド中央を突っ切っていく。ハリーが翼のように身体を傾け、一直線に追いかけた。
「きたな」
背筋にわずかな興奮が走る。戦いの“匂い”だ。
スニッチは予測不能な軌道で方向を変え続けている。だが、俺の目には読める。ハリーの軌道も見える。こいつは――追いつける。
「……いいぞ、いけ」
俺は無意識に前のめりになっていた。
観客席の歓声が爆音のように響き渡る。箒の影が空を切る音が、獣の唸りのように響いた。
この瞬間――ただのガキの遊びが、戦いの匂いに変わった。
俺の心拍数が、少しだけ上がった。
「ほぉ……君も楽しんでおるようじゃな」
ダンブルドアがにやりと笑う。
「うるせぇジジイ」
俺はそう言いながらも、視線を一度もハリーから外さなかった。
あのガキの狩りが、今まさに始まろうとしている。
そしてガキがスニッチに手を伸ばそうとした、その刹那だった。
胸の奥にじわりと違和感が走る。空気が歪んだ――いや、魔力の流れが変わった。
呪術師なら術式の起こりとでも言う感覚だ。あの特有の“ざらり”とした、皮膚を内側から撫でるような嫌な感じ。
「……なんだ?」
ガキ――ハリー・ポッターの乗る箒が突然、大きく揺れた。
箒は上昇と下降を繰り返し、まるで生き物のように身をよじらせ始める。
風の抵抗とはまるで違う、意志のある動き。乗り手を振り落とすような挙動だった。
「おいおい、なんだ?妨害か?」
声が漏れる。俺の目にはハリーが必死で箒にしがみつく姿が映っていた。
観客の悲鳴にも似た声が四方から沸き上がる。試合の興奮が一瞬で“緊張”に変わった瞬間だった。
「ふむ……これは」
隣にいるダンブルドアが静かに呟き、首を巡らせる。
気配がわずかに動く。ジジイの視線が俺の知らない方向を射抜いたのが分かった。
俺もそちらに目をやる。
スネイプがいた。隣の塔、緑色の旗がはためく席。
あの陰気な顔にしては珍しく真剣な表情を浮かべ、ガキ――ハリーをじっと見据え、唇を小さく動かしていた。
「……はぁ?」
一瞬、脳裏によぎる。
奴がスリザリンを勝たせるために妨害している――そう考えるのが自然だった。
だが、違和感が残る。
「フシグロ君、分かるかね?」
ダンブルドアが視線を戻し、低く呟いた。
俺は深く息を吸い込み、スネイプを睨みつけるように見つめる。
――違う。
あの男の表情は攻撃じゃない。防御だ。
唇の動きがわずかに早い。何かを“解こう”としている。
「
俺がそう言うと、ダンブルドアが目を細めた。
「ご名答」
一瞬、スネイプが犯人だと思った。
だが目を凝らして見れば分かる。奴は妨害ではなく、阻止の呪文を唱えている。
つまり“犯人”は別にいる。
俺はスネイプの後方の席へと視線をずらした。
――いた。
クィリナス・クィレル。
普段ならオドオドと小動物のように怯えた顔をしている男が、そこにはいなかった。
その顔は憎しみに満ち、まるで呪詛師のような、重く冷たい殺意をにじませていた。
口は動いているが声はない。
しかし確かに魔法を使っている。
「奴はスリザリン贔屓なのか?」
俺が低く呟くと、隣のジジイが笑みを含ませた声で答えた。
「ん……それはハズレじゃな……!」
まるで楽しんでいるような口ぶりだった。
このジジイ、俺がここまで気づくのをわざと見てやがるな。
「まぁいい。あんなもんやられて死ぬように
俺は再び視線をハリーに戻した。
箒はまだ暴れている。
だが、あのガキの身体の使い方は、初めて会った頃とはまるで違う。
体幹がしっかりしている。手足の力の入れ方も、バランスも悪くない。
俺が毎日叩き込んだ“最低限死なないための基礎”が、ちゃんと活きていた。
「……落ちるなよ」
上空でハリーが必死に箒を抑え込みながら、歯を食いしばっている。
指先が白くなるほど握りしめ、足で箒を締め上げる。
あの高さから落ちれば、骨じゃ済まねぇ。普通なら死ぬ。
観客席では悲鳴が上がっていた。
「危ない!」「助けて!」と叫ぶ声が耳に届く。
だが俺の耳は、その中でもクィレルの呪文の“音”だけを拾っていた。
――ビリ……
空気がひずむ。
クィレルの魔力がハリーの箒へと絡みつくように伝っていく。
「ちっ……厄介だな」
俺はわずかに体勢を崩しながらも立ち上がった。
ただし、何をするわけでもない。
俺が魔法でどうこうできるわけじゃない。
だが――視える。
あの金玉を追うガキの目の輝きも、箒を歪ませる魔力の流れも。
戦場と同じだ。敵と味方、力の流れがはっきり分かる。
「クィレル……1発殴るか」
そうぼそりと呟いたときだった。
ダンブルドアの指がわずかに動いた。
次の瞬間、波動ともいえる魔力の波が放たれ空気がふっと軽くなる。周囲の観客は気づいていない。
そしてハリーの箒にまとわりついていた重たい魔力の流れが切れた。
ジジイがほんの指の一振りで打ち消した。
「……便利なもんだな、魔法ってやつは」
「君が殴るよりは早いじゃろう」
俺は無言で鼻を鳴らした。
上空のハリーは大きく息を吸い込み、箒の軌道を立て直していた。
観客席に再び歓声が戻る。
さっきまでの悲鳴が、まるでウソみてぇだ。
「……落ちなかったか。大したもんだ」
俺の口元に、知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。
さぁ、こっからが本番だ。
金玉を獲るか、落ちるか――いや、あいつはもう落ちねぇ。
あの顔を見れば分かる。
これは、勝負だ。
ガキが一気に体勢を直し、加速した。
暴れていた箒を完全に制御し、風の抵抗を限りなく少なくするため、身体をぎゅっと縮こまらせる。矢のように――いや、流星のように一直線に飛び込んでいく。その姿はまるで初めから空を飛ぶために生まれてきたかのようだった。
「はっ……やるじゃねぇか」
思わず声が漏れる。あの高さ、あの速度。普通なら恐怖に飲まれて体勢なんて整えられねぇ。けど、あのガキは違う。訓練した筋肉が“怖さ”を押し返してる。筋肉は裏切らねぇ。
俺は一瞬、視線をクィレルに戻した。
「あっちも一悶着あったみたいだな」
クィレル――スネイプのいる塔でちょっとした騒ぎが起きていた。
スネイプの黒い外套が
「ホッホッホ……良い友人がおるようじゃな」
隣でダンブルドアが愉快そうに言った。口元の髭がくいっと持ち上がる。
自然発火なんかじゃない。あれは魔法の匂いがする。
原因なんてわかりきってる。
「ハーマイオニーだな」
俺は静かに呟いた。塔の下の階段を急いで降りていく足音が耳に届く。
迷いのない、しっかりした足取り。あのガキ――ハーマイオニー・グレンジャー、間違いねぇ。
どうやら、スネイプの妨害と勘違いしたらしいな。あいつらしいっちゃあらしい。
いい判断だが、方向は違う。まぁ、結果としてクィレルの妨害も止まったし、文句はねぇ。
「……しかしあのガキ、楽しんでやがるな」
俺は再び上空を見上げた。
ハリー・ポッターは、金色のスニッチに一直線に迫っていた。
手を伸ばせば届く距離。風を切る音が地上の観客席にまで響き渡る。
観客たちは総立ちになり、声を枯らして叫んでいる。グリフィンドールの旗が大きく揺れた。
「……行けよ、金玉を取ってこい」
思わず口の端が上がった。俺が賭けてるわけでもねぇのに、なぜか心が踊る。
戦いの瞬間は、金の匂いにも似てる。熱くて、鋭くて、目が冴える。思わず俺は何を思ったのか一瞬だけ目を瞑ってしまった。
そして――
『ハリー・ポッターが取った!150点獲得!グリフィンドールの勝利です!!』
場内アナウンスが、まるで爆弾が炸裂したみたいに響き渡った。
歓声が観客席全体を震わせる。旗が舞い、ローブが揺れ、どこもかしこもグリフィンドールの赤に染まっていく。
……あれ?
俺は一瞬、口を半開きにした。
「……あ、取るところ見れなかった。チクショウめ」
俺が一瞬目を瞑った隙に取りやがったあのガキ。
歓声の渦の中、あのガキが両手を突き上げ、スニッチを握っているのが見えた。
周囲のチームメイトが箒ごと突撃して抱き合い、叫び、笑っている。
グリフィンドールの生徒たちは階段を駆け下り、地上へ飛び出していった。
「なんてこった……一番いいとこ見逃した」
勝負事の“見どころ”を見逃すのは、俺にとっちゃ最悪の屈辱だ。
俺が唇を噛んでいる横で、ダンブルドアが愉快そうに喉を鳴らして笑っていた。
「まったく、フシグロ君らしいのぉ」
「うるせぇ……」
勝者の咆哮が夜空に響く。
ハリー・ポッターは箒の上で勝ち誇ったように胸を張っていた。
このガキ――やっぱり、持ってやがる。
俺は腕を組み、観客席の喧噪をぼんやりと聞き流しながら、薄く笑った。
……ま、いいか。どうせ次の試合もある。
「今度は、ちゃんと賭けとくか」
金と勝負――それさえあれば、俺は十分楽しめる。
本当は甚爾君に小石でもぶん投げてもらってクィレルの頭を吹き飛ばそうとか考えたんですが、そんなことしたらやっぱ大変なのでやめました。
ダンブルドアの指の一振り、イメージ的には膝の上に手を置いていて人差し指でトンッと膝を叩くみたいな感じです。それで放たれた魔力が糸をちらして打ち消す…的な?実際はできるか分かりませんが、映画アズカバンの囚人でアレストモメンタムを手を翳すだけで発動しているので、今回は指の一振りだけで魔法を打ち消させました。甚爾君は解説役に回ってもらいました。