ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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久々の競馬回です。二話あります。


第十一話

 

 

 

 

 

 12月――冬の冷たい風がホグワーツの石壁を叩きつけるように吹き荒れる季節。

 クリスマスが目前に迫り、生徒たちがそわそわと浮き足立つ中、ただ1人、伏黒甚爾だけは違う意味で落ち着きを失っていた。

 

 なぜなら……有馬記念が迫っていたからだ。

 

 ホグワーツにいる彼が、日本で開催されるレースに賭けるには、物理的な問題がある。だがそんなことは些細なことだ。人間、金が絡めばどんな障害でも「なんとかなる方法」を考える。

 

 有馬記念まであと3日――12月19日。

 今夜、ハグリッドの小屋で、男2人が木製のテーブルを挟んで酒を酌み交わしていた。

 

 「頼むハグリッド……!バイクをもう一度だけ貸してくれ」

 

 甚爾はグラスをテーブルに叩きつけるように置き、低い声で言った。

 

 暖炉の火がごうごうと燃える中、ハグリッドは大きなジョッキを片手に、眉間にしわを寄せる。

 

 「ダメなもんはダメじゃ」

 

 「なにケチケチ言ってんだよ、貸してくれりゃいいじゃねぇか」

 

 「ダンブルドアに言われちょる。『フシグロ君に貸すな』とな!」

 

 ぴしゃりと断言され、甚爾は一瞬、言葉を失った。

 

 「そこをなんとか……ファングの散歩でもなんでもやるからさ」

 

 ファング――ハグリッドの飼っている巨大な犬だ。甚爾が頭を下げて頼む姿は、らしくないと言えばらしくない。

 

 「ダ〜メじゃ!トウジがアレをしてから、フラッフィーが酷く怯えとる。それもあって、トウジを信用できん!」

 

 「ぐぐぐ……」

 

 ハグリッドの大声に、ファングが足元でびくっと震えた。暖炉の明かりが照らすテーブルの上で、甚爾は静かに拳を握る。

 

 あの夜、フラッフィーをぶん殴って気絶させたのは事実だ。犬が怯えるのもまぁ、無理はない。

 

 ……だが問題はそこじゃない。

 

 空飛ぶバイクが使えなくなった。

 

 甚爾の頭の中では既に別ルートの構築が始まっていた。

 

 (空飛ぶバイクはもう使えない。

 煙突飛行――あれは魔力のない俺には多分無理だ。

 姿現し――使えねぇし、頼むにしてもあのジジイ(ダンブルドア)に借りを作るのは気分が悪い)

 

 「なぁトウジ、変なことを考えちょらんか?」

 

 「……いや」

 

 ハグリッドは半眼で甚爾を睨んだ。長年魔法界にいるせいか、人の腹の探り合いにはそこそこ敏い。

 

 「ワシ、お前さんが前にも“ちょいと”無茶したのを覚えとるんじゃ。あの時だってバイクを……」

 

 「それはいいだろ。ちゃんと返したじゃねぇか」

 

 「フラッフィーが怯えとる!」

 

 「……あーはいはい」

 

 甚爾は両手を上げた。

 

 ハグリッドはごつい手でジョッキを持ち上げ、豪快に酒を煽る。麦の香りが小屋の中に充満した。

 

 「……なぁ、ハグリッド」

 

 「なんじゃ」

 

 「お前さ、馬って知ってるか?」

 

 「馬?」

 

 「そう、馬だ。走る生き物だ」

 

 「……知っとる。なんで突然そんなことを」

 

 「馬のレースがあるんだよ。勝てば金が入る」

 

 ハグリッドはジョッキをテーブルに置いた。ドンッと鈍い音が響く。

 

 「トウジ……それは、また()()()()()っちゅうやつか?」

 

 「そうだ」

 

 「……こりゃ、ダンブルドアがバイクを貸すな言うのも納得じゃな」

 

 「うるせぇ」

 

 暖炉の火がぱちぱちと弾ける。

 外は冷たい風が吹き荒れているのに、小屋の中は妙な熱気に包まれていた。

 

 「煙突飛行は無理、姿現しは使えねぇ……ってなると船か?」

 

 甚爾は小さく呟いた。

 

 「なぁ、ハグリッド。イギリスから日本に行く船って、あるか?」

 

 「船じゃと?そりゃあるにはあるが、ものすごく時間がかかるじゃろう」

 

 「有馬記念は22日だ」

 

 「……間に合わんのじゃないか?」

 

 「ふざけんな、間に合わせる」

 

 あっさりとした即答に、ハグリッドは思わず苦笑した。

 

 「まったく……金のためじゃとなんでもする男じゃな」

 

 「褒め言葉として受け取っとく」

 

 ハグリッドの顔が、呆れと半笑いの中間みたいになっていた。

 

 甚爾は立ち上がり、外套を羽織る。

 

 「どこへ行く気じゃ」

 

 「ちょっと“船”の話をつけてくる」

 

 「まさか……」

 

 「裏の伝手を使う」

 

 ハグリッドは眉をひそめた。

 

 「お前、それ……またロクでもないこと考えちょるんじゃないか?」

 

 「さぁな」

 

 曖昧な笑いを浮かべ、ドアを開けた瞬間、冷たい冬の風が吹き込んだ。暖炉の炎が一瞬だけ揺らめく。

 

 「おい、トウジ!」

 

 「悪いな、ハグリッド。……レースに勝てば、お前にも一杯奢ってやるよ」

 

 そう言い残し、甚爾は夜の闇へと姿を消した。

 

 ハグリッドは深いため息を吐いた。

 

 「まったく……あやつ、ロクでもないことをしでかさんとええんじゃが」

 

 ファングが足元で「ワン」と一声鳴いた。暖炉の火がまた静かに揺れる。

 

 ――伏黒甚爾、有馬記念再挑戦への道が始まった。

 

 ギャンブルという名の戦場へ、あの男はまた歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は城の石造りの廊下を歩きながら、自室へと戻っていた。

 

 夜のホグワーツは静かだ。

 生徒どもが寮に引きこもっているせいで、石畳の床を踏む音だけがコツコツと響く。

 薄暗い燭台の明かりが長い影を伸ばして、まるで俺の心の行き先のなさを映しているようだった。

 

 「……クソ、どうする」

 

 頭の中では、さっきハグリッドと交わした会話が何度も反芻されていた。

 空飛ぶバイクが使えない――それはつまり、有馬記念に間に合う確実な手段を一つ失ったということだ。

 

 いや、バイクがあれば確実に勝てるとか、そんな話じゃない。

 問題は“日本に行けるかどうか”だ。

 

 俺は夜間巡回の仕事の()()()を既に受け取っている。

 それを有馬記念に突っ込めば、勝てば一撃で倍。負ければ一瞬でゼロ。

 勝負はいつだって紙一重。だからこそ、俺は賭ける。

 

 「……船、か」

 

 ぼそりと呟き、天井を仰いだ。

 

 バイクの代わりに思いついた手段――船。

 言葉だけなら簡単だが、実際にイギリスから日本まで行くのに何日かかる?飛行機ならいざ知らず、船じゃ到底間に合わねぇ。

 

 「間に合う光景が……全然思い浮かばねぇな」

 

 自分でも無茶を言っていた自覚はある。

 ハグリッドの前でああも啖呵を切ったのは勢いだけだ。

 裏のつてがあるわけでもなし、港町の場所すら詳しくねぇ。

 

 「くそ……」

 

 舌打ちがこぼれる。

 

 俺は窓の外に目を向けた。

 夜の湖面が月光を反射し、冷たく輝いている。

 あの向こうには広い世界があって、日本もそのどこかにある。

 

 「ダンブルドアのジジイが余計なこと言うから、バイクも使えねぇ」

 

 俺は低く唸った。

 ハグリッドの忠犬っぷりは筋金入りだ。あのバカ真面目な巨人からバイクを引き出すのは無理だろう。

 

 だが、俺がこの程度で諦めると思うか?

 

 「バイクが無理なら、他を探すだけだ」

 

 金が絡むとき、俺はとことんしぶとい。

 生きるか死ぬかの世界で飯を食ってきたんだ。手段なんざいくらでもある。

 

 ……あるはずだ。

 

 問題は、イギリスに裏の伝手なんか一つもねぇってことだ。

 日本にいたときなら、いくらでも手を回せた。

 船、飛行機、偽造、運び屋――裏ルートなんていくらでもあった。

 

 けどここは異国、それも魔法界だ。

 しかも魔法省だの何だのって、うるせぇ連中がウロついてる。下手に動けば一発でバレる。

 

 「船……いや、マグルの港を探して回るか?」

 

 頭の中でシミュレーションをする。

 魔法使い連中は基本、マグルの港なんざ知らねぇだろうし、監視も薄いはず。上手くやれば誰にも気付かれずに出国できる……かもしれねぇ。

 

 「でも日本まで……」

 

 地図を思い浮かべる。

 飛行機なら十数時間だが、船なら数週間はかかる。

 19日から出ても22日の有馬記念に間に合うかは限りなく怪しい。

 

 俺は拳をぎゅっと握った。

 

 「クソッ!勝負の神様は俺にケンカ売ってんのか?」

 

 バイクさえあれば、空を突っ切って一発で帰れた。

 日本の山奥に降り立ち、馬を観察して、レースに賭け、勝利の美酒に酔えるはずだったのに。

 

 「……いや、まだだ」

 

 俺はふっと息を吐いた。

 

 何度も死地を潜り抜けてきた。

 逃げ場のねぇ状況から抜け出したことなんて、一度や二度じゃねぇ。

 この程度で諦めるほど、俺は甘くねぇ。

 

 「やるしかねぇ」

 

 俺は立ち止まり、窓の外の闇を見据えた。

 

 ハグリッドの小屋から始まったこの“計画”は、少し方向を変える必要がある。

 船に頼らず、もっと確実な、そして早い方法を探す。

 

 たとえば……闇ルート。

 魔法省の監視が届かねぇような、マグルと魔法使いの境界を越える“抜け道”があるかもしれない。

 

 「……まずは情報収集だな」

 

 城の廊下の先に見えるのは、自分の部屋のドア。

 俺はコートの襟を立てた。

 

 時間はねぇ。

 19日――有馬記念まで残された時間はあとわずか。

 

 「絶対に、賭けに間に合わせる」

 

 そのためなら、どんな手でも使う。

 俺は、そういう生き方しかしてこなかったんだ。

 

 そこでビシュンッと空気を切るような音が鳴った。

 

 「……姿現しか」

 

 背後にふと気配を感じ、ゆっくりと振り返ると、案の定あの長い髭のジジイ――ダンブルドアが立っていた。

 

 「何か意気込んでるようじゃな、フシグロ君」

 

 声がまるで愉快そうだった。俺が悔しがるのを分かってて、わざとやってる。

 

 「ダンブルドア……てめぇの余計な一言で俺の夢が潰えた。どうしてくれんだ」

 

 「ほぉ……おぬしにも“夢”なんてものがあったとはの。意外じゃな」

 

 「うるせぇよ」

 

 髭をいじりながら、ダンブルドアがのっそりと近づいてきた。あの妙に間延びした歩き方と笑い方がいけ好かねぇ。

 

 パァンッ

 

 突然、ジジイが手を叩いた。まるで観客の前で何かを始める司会者のように。

 

 「わしの力を借りたいのではないかな?ん?」

 

 「……ぐぐぐ」

 

 あぁ腹が立つ。図星を突かれているから余計に。

 

 「正直になったほうがよいぞ、フシグロ君。わしは()()()()()のじゃ」

 

 「何がしたい」

 

 俺は睨みつけた。どうせロクでもないことを言い出すのは分かってる。

 

 ダンブルドアはにやりと口の端を上げ、そして髭をくいっと撫でた。

 

 「ふむ……なに、わしも少しその【競馬】というものに興味をもっての」

 

 「ハッハッハッハ!……冗談だろ?」

 

 思わず声が漏れた。

 よりにもよって、この老魔法使いが競馬に興味?あまりにも似合わねぇ。

 

 「いやいや、冗談ではないぞ。人間、長く生きておるといろんな話に興味が湧くものじゃ。ほれ、わしは甘い菓子にも目がないしな」

 

 「競馬と菓子を一緒にすんな」

 

 「……して、わしの力を借りたいのではないか?」

 

 またそれか。まるで俺の心の奥底を読んでいるような物言いだ。

 

 確かに――姿現しを使えるこいつに頼めば、一瞬で日本に飛ぶことも可能だ。俺がいくら地図と裏ルートを頭に叩き込んでも、物理的な移動手段の壁は厚い。

 

 「俺は魔力がねぇ。姿現しなんざ使えねぇし、バイクはお前の余計な一言のせいで使えなくなった」

 

 「ほほぅ。つまり“助けてくれ”と言っとるようなものじゃな?」

 

 「誰がそんなこと言った」

 

 「顔に書いてあるぞい」

 

 「……チッ」

 

 俺は横を向いた。

 

 正直、今の状況はかなり追い詰められている。

 船じゃ間に合わねぇ。裏の運び屋を探すにも時間がねぇ。残された選択肢は――このジジイの力を借りるか、金の夢を諦めるか。

 

 「……条件を聞こうか」

 

 「ん?わしは別に条件など出さんが」

 

 「は?」

 

 思わず眉が跳ね上がる。こいつが無条件で俺を助ける?そんな話があるわけねぇ。

 

 「おぬしが有馬記念とやらに行ってどうなるのか、ちと興味があるだけじゃ。まあ……“面白い”匂いがする」

 

 「……ジジイ、お前……」

 

 ダンブルドアが目を細めた。その瞳には、ただの好奇心ではなく、どこか“愉悦”が混じっていた。

 

 「わしも長く生きておるからの。たまには少し風変わりなことをしてもよかろう」

 

 「……本当に、ただの気まぐれか?」

 

 「うむ」

 

 俺は鼻で笑った。

 本気でそう言ってる顔だった。

 

 「……で?どうするんじゃ?」

 

 ジジイの声が、まるで悪魔の囁きのように聞こえた。

 こいつに頭を下げるのは正直、気分が悪い。俺は昔から“誰かに借りを作る”のが何より嫌いだ。

 

 でもな……

 

 「金のためなら、プライド(自尊心)なんざとっくに捨ててんだよ」

 

 俺は顔を上げた。

 

 「いいだろう。姿現しで日本に飛ばせ」

 

 ダンブルドアの目尻がわずかに吊り上がる。まるで待ってましたと言わんばかりに。

 

 「承知した」

 

 パァンッとまた手を叩き、部屋の空気が僅かに震えた。

 魔力の圧みたいなもんが辺りに広がる。俺には魔力がねぇから何も操作できねぇが、こういう“圧”だけは感じられる。

 

 「ただし、ひとつ忠告しておこう」

 

 「……なんだよ」

 

 「姿現しは、心の揺らぎを嫌う。迷いがあればバラける」

 

 「バラける……ああ、前に言ってたな。身体がバラバラになるんだろ?」

 

 「うむ。おぬしが死んでも困るでな、今一度念を押しておるのじゃ」

 

 「死ぬ気はねぇ。勝つ気しかねぇよ」

 

 その瞬間、ダンブルドアが両腕を広げ、俺の肩に手を置いた。

 どこか優雅な所作だった。

 

 「では行こうか。フシグロ君」

 

 「おう……」

 

 俺は目を閉じ、拳を握る。

 心の中にあるのはただ一つ――有馬記念で勝つ。

 

 金だ。金こそがこの世の真理。

 

 「行くぞ、有馬記念」

 

 「ホッホッホ……これは面白くなりそうじゃの」

 

 次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

 冷たい夜の廊下が弾け飛び、世界が音を立てて捻じ曲がる。

 

 ――姿現し。

 

 俺とジジイは、夜のホグワーツから消えた。

 

 

 そうして俺は日本に着いた。

 ダンブルドアのジジイのお陰でな。

 

 世界がぐにゃりと歪んだかと思えば、次の瞬間にはもう地面の感触が変わっていた。冷たい石畳でも芝生でもない、硬いコンクリートの床。鼻を突く鉄とガラスと夜風の匂い。

 

 「……ここは」

 

 周囲を見渡す。夜の東京の街が一望できる高さ。展望窓、夜景、外には赤い鉄骨が一部だけ見える。

 

 「東京タワーの展望台か?」

 

 隣で、ダンブルドアがいかにも楽しそうにニヤニヤしていた。髭を撫でながら、まるで遠足に来た爺さんだ。

 

 「いやぁ……いい眺めじゃ」

 

 壁の時計に目をやる。針は2時を指していた。

 イギリスと日本の時差は8時間。向こうを出たのは19日の夕方、つまり今は日本時間20日の深夜ということになる。

 

 当然、展望台には誰もいない。

 静まり返った空間に、東京の夜景だけが光を放っていた。

 

 「……本当に一瞬だったな」

 

 俺がそう呟くと、ダンブルドアは喉の奥でくくっと笑った。

 

 「姿現しというのはそういう魔法じゃ。便利じゃろ?」

 

 「まぁ……移動に関しては反則レベルだな」

 

 階段の手すりに片手をかけて夜景を見下ろす。

 夜の東京は、ホグワーツと違い圧倒的に騒がしい。

 遠くで走る車のライトが無数の線を描き、街の熱気が地上から立ち上ってくるのが五感でわかる。

 

 「で、どうするんじゃ?すぐ競馬に行くのか?」

 

 「いや、レースは22日。今は20日の2時だ。時間はたっぷりある」

 

 「ほぉ、余裕じゃな」

 

 ジジイは窓の外を見ながら楽しそうに笑っていた。

 この老魔法使いと夜の東京を歩くとか、普通じゃ考えられねぇ。

 

 「おい、授業は平気なのかよ。お前がいないだけで生徒共がざわつくんじゃねぇのか」

 

 「それは気にしないでよい。臨時休講というやつじゃ」

 

 「いや、大丈夫かよお前……」

 

 「休みでもない22日に抜け出そうとしたおぬしが言うでない」

 

 ぐぬぬ、と喉の奥で唸った。

 

 確かにその通りだ。

 このジジイがいなけりゃ、俺は今頃まだ港の場所も探せず右往左往していたに違いない。

 

 「まぁいい。助かったのは事実だ」

 

 「ほっほっほ、それはよかった」

 

 やっぱり楽しんでやがる。

 俺は展望台の窓に片手をついて夜景を見下ろした。

 

 この東京の街は、俺にとって金を稼ぐ“戦場”だ。

 競馬――たった1発、当てりゃデカい金になる。

 

 「それで……競馬というのは、そんなに儲かるのかの?」

 

 「……まぁ、当たればな」

 

 「ふむ」

 

 ジジイが髭を撫でた。

 東京タワーの夜景を背景にすると、その姿がやけに映えるのが腹立たしい。

 

 「そもそもじゃ、なぜおぬしはそれほど金にこだわる?」

 

 「……それは愚問だな」

 

 「ほぉ?」

 

 「金は裏切らねぇ」

 

 俺は短く息を吐いた。

 

 「人も組織も魔法も、いくらでも変わる。でも金だけは違う。手元にありゃ、どうとでもできる」

 

 「なるほどの……金こそが力というわけか」

 

 「まぁそんなとこだ」

 

 「……じゃがの、フシグロ君」

 

 ダンブルドアの声が一瞬だけ真面目になった。

 

 「金というのは、使い方を誤れば、命を奪う」

 

 「説教か?」

 

 「いや、忠告じゃ」

 

 あの細めた瞳――ただのジジイじゃない。

 長い年月を生きてきた魔法使い特有の“重さ”があった。

 

 「……ありがたく聞いといてやるよ」

 

 「それでよい」

 

 ジジイは再び穏やかに笑い、夜景に視線を戻した。

 

 俺はポケットからガリオンの袋を取り出す。

 こいつをまず換金しなきゃ話にならねぇ。

 

 「さて、ジジイ。とっとと移動するぞ。まずは換金所だ」

 

 「換金所……?ふむ、なるほど。おぬしの準備は周到じゃな」

 

 「当然だろ。競馬は“勝負前”で勝敗が決まってんだよ」

 

 「ふむ、戦に似ておるの……」

 

 「……まぁ、間違っちゃいねぇな」

 

 俺はコートの襟を立てた。

 東京の夜の冷気が肌を刺す。この空気、久しぶりだ。

 

 時間はまだある。

 20日、21日で情報を集め、22日のレースでぶちかます。

 

 「行くぞジジイ」

 

 「わしも行ってよいのか?」

 

 「当然だろ。連れてきたんだから責任取れ」

 

 「ふむ……面白い」

 

 コートを翻すダンブルドアが俺の後ろに並ぶ。

 

 東京タワーの展望台を後にして、俺たちは夜の街へと歩き出した。

 勝負は、もう始まっている。




煙突飛行が甚爾に使えるか分からない!どう思いますか?
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