ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾” 作:物体Zさん
「クリスマスか」
俺は大広間に設置された巨大なクリスマスツリーと、それを取り囲むように飾りつけられた装飾の数々を見て小さく呟いた。金と赤と緑――クリスマス特有のあの色合いは、どこの国に行っても大差がない。
「どこ行ってもクリスマスは同じだな」
空いている席に腰を下ろすと、煌びやかな光の中にざわめくガキ共の声がよく響いてきた。城の冷え切った空気と違って、大広間は妙に暖かい。魔法の暖炉のせいか、それともクリスマスという雰囲気のせいか。
「あ!フシグロ先生!」
「先生はクリスマス帰らないのかー!」
大広間の入り口から声がした。
顔を向けると、ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーがこちらに向かって手を振っていた。ロンは小脇に何か四角いものを抱えている。
2人はそのまま俺のテーブルに座った。ロンがテーブルに置いたのは、ボードゲームのようなもの――よく見ればチェス盤だった。
「まぁ帰ってもやることねぇからな」
「先生暇人?」
「うるせぇ」
ロンの頭に軽く手刀を叩き込む。鈍い音が響いた。
「うげぇ!」
ロンが情けない声を上げる。そんな様子をハリーは肩を震わせながら笑って見ていた。
2人は慣れた手つきで駒を並べはじめる。手に触れると駒がカタカタと震え、自らの意思を持ったように定位置へと歩いていく。魔法のチェスってやつか。微かに魔力の気配を感じる。
「なるほどな……ただのボードゲームじゃねぇ」
俺は腕を組みながら眺めた。チェスが何なのか詳しくは知らねぇが、駒が動くなら話は早い。
そんな中、背後から小さなキャスターの音と、靴音が近づいてくる気配を感じた。
「グレンジャーか」
顔を向けると、案の定そこには大きなキャリーケースを引いて歩くハーマイオニー・グレンジャーの姿があった。きっちりと整えられた髪、真面目くさい顔。今日が帰省組の出発日だということを思い出す。
「あ、フシグロ先生……」
「グレンジャー。お前は帰るみたいだな。まぁ気をつけろ」
「へ?あ、ありがとうございます……」
彼女は少し頬を赤らめて、慌てたように姿勢を正した。その視線がテーブルの向こうの2人に向く。
「ハリー!ロン!ニコラス・フラメルのこと調べておいてね!」
「えぇ!?散々図書室で調べたじゃないか!」
ロンが不満げに声を上げる。
「まだ探してないところがあるじゃない、閲覧禁止の棚よ!それにフシグロ先生にも協力してもらいましょ!」
「……は?」
急に名前を出された俺は眉をひそめる。閲覧禁止棚――禁書棚のことか。あそこは一度クィレルが不審な動きをしてた場所でもある。興味がないわけじゃない。
「……人使いが荒いガキだな」
「え?なにか言いました?」
「いや」
「ニコラス・フラメル……先生、名前は知ってますか?」
ハリーが少し身を乗り出してきた。
「昔の魔法使いだろ。名前くらいは聞いたことある」
「本で読んだんだけど、すっごい有名な錬金術師なんだって!」
ロンが身振り手振りを交えて言う。俺は鼻を鳴らした。
「錬金術か……碌なもんじゃねぇな」
「え?」
「いや、呪術の話だ。魔法とは違う」
2人が首を傾げる。こいつらにはまだ“呪術”の感覚は分からないだろう。
フラメルといえば、クィレルが禁書棚で見ていた【賢者の石】に関わる名前だ。城の中が少しずつ騒がしくなってきたこのタイミングで、やたらガキ共がその名前を口にし始めているのも気になる。
「おいハリー、フラメルのことをどうしてそんなに調べてる?」
「それが……ハグリッドがちょっと変だったんです」
「変?」
「そう。クリスマス前に銀行の金庫の話をしてて……そのときに“ニコラス・フラメル”って名前を口にしたんです。僕、聞いちゃって」
「そしたらあいつ、そのまま誤魔化しやがったんだよ」
ロンが呆れ顔で言う。
「なるほどな」
あの半巨人のことだ。どうせ隠し事が下手なんだろう。
「まぁ俺は別に調べも何もするつもりはねぇけどな」
「えぇ〜!?先生、協力してくださいよ!」
「お前らなぁ……俺は教師なんだが?」
「だって、禁書棚、先生しか入れないじゃないですか!」
ハーマイオニーがわざとらしくキラキラした目をしてくる。
「先生、お願いします!」
2人もそれに続く。……このガキ共、完全に分かっててやってるな。
「……ったく、面倒くせぇ」
俺は頭をかきむしる。
「まぁ……気が向いたらな」
「やったー!」
3人が同時に声を上げる。
俺は椅子の背もたれに体を預け、ツリーの光を見上げた。煌びやかで、どこか浮ついた空気。
呪術の世界では、クリスマスなんて関係のない日だった。血と祈祷、呪具と式神、殺しと金……そういうもので満ちていた世界だ。
それが今じゃ――
「ガキとチェス見ながらツリー眺めてる俺ってなぁ……」
呟きは誰にも聞こえない。
ツリーの光が天井に反射し、暖炉の火の音が心地よく響いた。
外は雪がちらつき始めている。冬のホグワーツは、俺が生きてきたどんな街よりも静かで穏やかだった。
「……悪くねぇ」
俺はそう呟いて、テーブルの上のチェスをぼんやりと見つめた。ロンとハリーが駒を動かす声と笑い声が響き、背後ではハーマイオニーのキャリーケースが転がっていく音が遠ざかっていった。
もうすぐクリスマスだ。
俺にとっては金にも戦いにも関係のない、ただの――少しだけ、心を休める日だった。
というわけで、早速俺とガキ2人――ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーは図書室に向かった。
生徒たちは冬休みに入り、城はいつもよりずっと静かだ。ほとんどの奴らは家に帰っている。居残り組はほんの少し、教員も多くが帰省中だ。ダンブルドアもどこかへ行くと得意げに言っていた。
「えっ先生……本当にいいんですか?」
ハリーが見上げるように言った。
「暇人だからな」
「イテテテテ!」
俺はロンの頭を鷲掴みにして持ち上げながら答える。ロンはバタバタと情けない声を上げていた。
「お、俺たち捕まったりしねぇよな……禁書棚って先生でも許可がいるとか聞いたことあるんだけど」
「大丈夫だ。俺は教師だからな」
「体育教師じゃん」
「文句あるのか」
「な、ないです!!!」
いつも通りくだらない掛け合いをしながら、俺たちは図書室へと歩いた。冬の夜の廊下は凍えるほど冷たい。靴音が石床にカツカツと響く。その音が無駄にデカく感じるほど、城はしんと静まり返っていた。
図書室に着いた。
高い天井、整然と並ぶ本棚、薄暗い明かり。見張り番の姿もなく、夜の図書室はまるで別の場所みたいに冷えた空気が支配している。
「うわ……やっぱ夜の図書室って不気味だな……」
ロンが小声で呟く。
「黙れ、声が響く」
俺は短く言い放った。
禁書棚は図書室の一番奥、鉄柵で囲まれた重厚な空間だ。近づくだけで湿ったような魔力の気配が鼻を突く。
「なぁ先生……ホントにここ入っていいのか?」
「いいって言ってんだろ」
俺は鉄の扉に手を伸ばす。魔力感知式の錠がかかっているが、そんなもの俺には関係ない。
――ギィ……
拍子抜けするくらい簡単に扉が開いた。
「え……マジで!?」
ロンが目を見開いて俺を見た。
「魔力反応式の錠は、魔力ゼロの俺には無意味だ」
「チートじゃん」
「はぁ?」
「な、なんでもないです……」
ロンが慌てて首を振る。
中に入ると空気が違った。まるで湿った獣の吐息が棚の隙間を這い回っているような、そんな嫌な圧がある。普通の本棚とは違い、この棚には“生きた”本がある。ページの隙間から魔力が滲み出ている。
「うわっ……なんか喋ってねぇか?」
「喋ってるように聞こえるだけだ。声じゃねぇ、魔力の揺らぎだ」
俺は淡々と答え、棚の奥へ進む。
「なぁ先生、なに探すんだ?」
「お前らが言ってた名前――ニコラス・フラメルとやらの情報だろ」
「お、おう」
ロンが少し緊張したように頷いた。
俺は目を細め、空気を吸い込む。湿った紙とインクの匂い。その中に、一際濃い魔力の波がある。
「……右奥だ」
俺が顎で示すと、ロンはビクつきながらも歩き出した。
「うわっ……なんか嫌な感じするぞ……」
「気のせいじゃねぇ」
ロンの後ろを歩きながら、俺も奥へと進む。
棚の右奥――黒い革装丁の分厚い本がひときわ重苦しい空気を放っていた。魔力の密度が高い。まるで圧縮された呪霊の気配みてぇだ。
「先生……これ、だよな」
ロンが震える指先でその本を指さす。
「間違いねぇ」
俺は棚からその本を抜き取り、手に取った。表紙に刻まれた文字は擦れて読みづらいが、強い魔力の残滓がある。
「マジで開けんのかよ……」
「帰るか?」
「い、いや……ここまで来たんだし」
腰が引けてる割には見栄を張るロン。
俺は表紙を開いた。
パラ……
空気が一瞬で変わった。
「っ……!」
俺の鼻先を魔力の匂いが刺すように抜けていく。血と金属、そしてわずかに焦げた臭い。
「うわぁ……ヤベぇ……」
ロンが一歩下がる。
ページの一番上には、古びた文字でこう刻まれていた。
――【賢者の石】
「……やっぱりな」
俺は低く呟いた。
この本は、クィレルが禁書棚で手に取っていた本と同じ匂いだ。奴は間違いなくこれを探っていた。
「先生、これって……」
ロンが不安げに見上げてくる。
「ロクなもんじゃねぇよ」
俺は本を閉じ、棚に戻した。
「今日はここまでだ」
「え?調べねぇのかよ!?」
「こういうもんはな、情報の断片だけ掴んでおくのがちょうどいい。深入りすりゃ死ぬ」
ロンの顔が一瞬で青ざめた。
俺は鉄扉を閉め、静かに外に出る。
「……ガキの好奇心で死人が出るのは御免だからな」
その言葉を、ロンは黙って聞いていた。
2人を寮に送り届けたあと、俺はそのまま裏手の森へと歩いた。
雪を踏みしめる音が夜の空気に乾いた響きを落とす。吐く息が白く曇る。森の向こう、ハグリッドの小屋の窓からは暖かいオレンジ色の光が漏れていた。
「お邪魔するぜ、ハグリッド」
ノックなどせず、俺はそのまま扉を開いた。
「トウジ、なんの用だ? あ、バイクは貸さんぞ」
開口一番、それかよ。
「分かってる……というかお前、なんかガキ共に余計なこと言ったか? ニコラス・フラメルだとか賢者の石だとか……」
「げっ」
露骨に顔を引きつらせた。
「おいおいおい……お前、やったな?」
「な、なんのことやら〜〜……」
俺はずかずかと小屋に入り、適当な椅子に腰を下ろす。ファングが床の隅でゴロリと寝転がっている。相変わらずデカい犬だ。
「……あのガキ共、フラメルの名前を出してきたぞ。どこで聞いたと思う?」
「お、おれじゃないぞ? ちょっとだけ……ほんのちょっと話しただけだ」
「ちょっとだけ、ねぇ」
ハグリッドの“ちょっと”は信用ならない。
「なに話した?」
「えぇ〜っと……だから……フラメルさんが昔、ダンブルドア校長と錬金術をやっててな〜、それでちょっとしたもんを作ったことがある〜……くらいの話だ」
「ちょっとのレベルが爆弾すぎんだよ」
俺は額を押さえた。
「だってあいつら、しつこいんだもん。聞いてくるんだもん。ハリーとロン、それにハーマイオニーだったか……」
「ハーマイオニーはもう帰った」
「……そうなのか?」
「お前なぁ……ガキ相手に簡単に喋るなって言っただろ」
「いや、でも……子どもたちだし……」
「ガキが一番危ねぇんだよ」
俺は低く吐き捨てる。
「……お前、これ以上喋ったら俺でも庇えねぇぞ」
「そ、そんな物騒な……」
俺があのガキ共の興味を引きそうな話題を追っている時点で、どう転んでも面倒ごとになる予感しかしない。
「それでさ……お前、その“賢者の石”ってやつ、実際のところなんなんだ?」
「それは……」
ハグリッドが口を閉ざす。あからさまに言葉を濁した。
「……言えない、ってか」
「わ、わしの口からは言えん!」
「なるほどな」
隠しごと特有の空気。まぁ、こいつが口を割らないのは予想通りだ。
「……あの石、ダンブルドアが学校に隠してるって噂、あながち外れじゃねぇな?」
「な、なななななに言ってんだトウジ!?そんなことあるわけがないじゃないか!」
あっさり動揺したな。
「図星か」
「ち、ちがうって言ってるじゃろ!」
ファングがむくりと頭を上げた。俺とハグリッドの声が大きくなったせいだ。
「……お前、嘘下手すぎる」
俺は立ち上がって暖炉の前に歩き、火の熱に手をかざす。薪の爆ぜる音が静かな夜に混ざった。
「つまりダンブルドアは、何かしらこの学校の中に置いてる。それを狙ってる奴がいる――トロールを入れたクィレル。話が繋がるな」
「な、なにを勝手に……!」
「いい加減、お前も分かってんだろ」
俺の言葉に、ハグリッドは視線を泳がせ、唇を噛んだ。
「……あいつは優しい先生なんだ……」
「そうだろうな。でも“優しい先生”がトロールと一緒に歩く理由があるか?」
沈黙。
暖炉の火がパチパチと音を立てる。
「……俺は別に探偵ごっこしたいわけじゃねぇ。だが、勝手にガキ共が首突っ込んで死なれたら、こっちが後始末を押し付けられる」
「……」
「俺は
ハグリッドの顔に苦々しい表情が浮かんだ。
「ダンブルドアは……ちゃんと守ってるさ。ちゃんとな」
「守ってるねぇ」
俺は鼻で笑う。
「……お前は信じてるんだろ、あのジジイを」
「ああ。あの方を疑うつもりはない」
「ならいい」
俺は踵を返した。
「トウジ……!」
「……俺は関わる気はねぇ。ただし、俺の授業の生徒が死ぬのはごめんだし、仕事の邪魔をするヤツは殺す。それだけは覚えとけ」
扉を開け、冷えた夜気が吹き込む。
背後でハグリッドが何か言いかけたが、俺は振り返らなかった。
雪は静かに降り続けていた。城の明かりが遠くに見える。
「……面倒なことになりそうだな」
独り言が白い吐息に溶けて夜空に消えた。
クリスマスの朝、グリフィンドールの談話室は薪のはぜる音と暖かな陽光で満ちていた。外は白銀の雪景色だというのに、暖炉の火と飾り付けられたツリーのおかげで部屋の中はぽかぽかと暖かい。
そんな中、ロン・ウィーズリーが早朝から大声を上げた。
「ハリー!起きろ!起きろってば!」
「う〜ん……」
寝ぼけ眼をこすりながらハリー・ポッターは身を起こし、ベッド横の机に置いてあった丸いメガネをかけた。クリスマスの朝――どうせロンが騒いでいるのはプレゼントだろう。
重たい足取りで階段を降り、談話室に入ると、ロンはすでにソファに座って山のような包みを広げていた。
「メリークリスマス、ロン。そのセーターは?」
「メリークリスマス、ハリー!ああ、これか?ママからのプレゼントだよ!見ろよ、この“R”!ロンの“R”!」
ロンの胸に輝くのはワインレッド色の分厚いセーター。見るからに手編みだ。
「いいね」
「で、見ろよこれ!君にもプレゼントがあるんだぞ!」
「え?僕にプレゼントが?」
ロンがにやにやと笑いながら床の小包を指差す。
「開けてみろよ!」
ハリーは椅子に腰を下ろし、包みを抱え上げた。包みは軽く、何か柔らかい感触がする。包装紙には見慣れない筆跡の宛名が書かれている。
「誰からなんだろ……?」
ハリーは慎重に包装を解いた。中から出てきたのは、1枚の手紙と銀色の包みに包まれた何かだった。
「『“お父さんから預かっていた物を君に返す時がきた。上手に使いなさい”』……?」
ハリーは読み上げたあと手紙をそっとテーブルに置き、包みを破った。
中から出てきたのは、光沢を放つ古びたマントだった。手に取ると、しっとりとした布の感触が手に馴染む。
「何それ?」
「“マント”みたいだけど……」
「被ってみろよ!」
ロンに急かされ、ハリーは立ち上がってマントを肩にかけた。
その瞬間――
「うわっ!!」
ロンが叫んだ。
マントを羽織ったハリーの姿が、腰から下、胴体、そして両腕と消えていった。最後に残ったのは、ひょっこりと宙に浮いたハリーの頭だけだ。
「な、なにこれ!僕の体が消えちゃった……!」
「それ、透明マントだよ!」
ロンが信じられないものを見るように叫ぶ。
「透明マント?」
ハリーは自分の手元を見下ろすが、そこには自分の身体は見えない。確かに存在はしているのに、目には映らない。
「ハリー、これ、すごいぞ!すげぇレア物だぞ!おとぎ話じゃなくて実物があったなんて!」
ロンは興奮して跳ねるように近づき、マントの裾をつまんだ。だが目には見えず、空間を撫でるような妙な感覚に身震いする。
「どうなってんだ、これ……」
「……すごい」
ハリーは呟いた。父親から託されたという言葉。得体の知れない不思議なマント。胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。
「こんなの、どうやって手に入れたんだろうな……」
「僕にもわからない」
ロンがまじまじとハリーを見つめる。
「でも……この手紙を書いたのって……」
「ダンブルドアかもしれないな」
ロンの呟きに、ハリーは少しだけ笑った。あの校長ならやりかねない。
「なぁハリー、それさえあれば……夜中にこっそり城の中を歩けるんじゃね?」
ロンの目が悪ガキのように輝いた。
「ロン……」
「だってさ!ほら、あの禁書棚とか!」
「ダメだよ」
ハリーは一応言葉で釘を刺したが、その声には強い拒絶の色はなかった。
ロンはふふんと笑う。
「でも、ちょっとくらいなら冒険してもいいじゃん?」
「……」
ハリーはふと窓の外を見た。大粒の雪が舞っている。冬の静寂に包まれた城は、昼間とはまるで別の顔を持っている。
「ロン」
「ん?」
「……もしかしたら、このマントは僕に何かを教えるために送られてきたのかもしれない」
「は?」
ロンは一瞬ぽかんとした顔になったが、ハリーの真剣な瞳を見て「お前って時々ホントに主人公みたいなこと言うよな」とぼやいた。
ハリーは苦笑し、マントを外した。すると胴体がふっと現れた。
「よし、今日は一旦片付けよう」
「お、おう」
ロンは少し残念そうに言ったが、すぐににやりと笑った。
「でも、夜になったら……」
「……」
ハリーは何も答えなかった。
暖炉の火がパチパチと音を立て、談話室に心地よいぬくもりを満たしている。外の雪は静かに降り続いていた。
透明マント。
それは、これからの運命を大きく変えることになる最初の“鍵”だった。