ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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評価値の増減に一喜一憂してますが、意欲が段違いに上がります!
今後ともよろしくお願いします〜!


第十四話

 

 

 

 

 クリスマスの夜、俺は夜間巡回に出かけた。

 

 金は前払いだ。だからきっちりこなさないといけない。ホグワーツを害する者、生徒達を危険に晒すような者は見つけ次第半殺しにしろとダンブルドアに言われている。

 

 夜の闇に支配されたホグワーツを練り歩く。明かり?そんなものはいらない。俺の五感は暗闇すらも見通す。

 

 静まり返った城内に足音だけが響く。吐く息は白く、夜気は骨に染みるほど冷たい。石造りの壁が冷気を増幅し、廊下を満たす。普通の人間なら震える夜だが、俺には関係ねぇ。

 

 ふと、昨日ガキ共と行った図書室を思い出す。

 

 『ニコラス・フラメルを調べるのに協力してよ!先生!』

 

 あのときのハリーの声が脳裏に残っている。ロンも同じ顔をしていた。好奇心で目を輝かせ、まるで探偵ごっこを楽しむガキの顔だった。

 

 ニコラス・フラメル――この世で賢者の石という特級呪物まがいの代物を錬金術で生み出した魔法使い。何百年も生きてるって話だ。

 

 日本にも似たような存在がいる。【天元】。

 

 天元が日本を囲うように結界を張り、呪霊を封じ込めていると聞いたことがある。あの結界の内側と外側で空気が違うのは、五感が覚えてる。あの“冷え”は今も脳裏に刻まれてる。

 

 「……まぁ、あいつとフラメルが同格かどうかは知らねぇがな」

 

 独り言が冷たい夜に溶ける。

 

 巡回コースを進む途中、微かな気配が鼻腔を刺した。生徒の匂いでも教師の匂いでもない。獣と人が混じったような、湿った皮の臭いだ。

 

 俺は歩みを止めた。

 

 耳を澄ませる。静かな夜の中に、薄く何かの擦れる音。息の音……いや、違う。紙をめくる音だ。

 

 「……図書室か」

 

 俺は音を頼りに方向を変え、図書室へと歩を進める。

 

 廊下に灯りはなく、ただ雪明かりだけが窓を通して床に薄い光を落としていた。俺には充分だ。

 

 図書室に近づくと、扉の隙間から明かりが漏れていた。誰かいる。教師なら灯りを残す必要はない、こんな時間にいる理由もない。

 

 俺は扉の取っ手を掴むと、音を立てずに開いた。鍵は施錠されていない。魔力感知式は既に解除され、形だけの鍵だった。

 

 禁書棚の奥で、誰かがしゃがみ込んでいた。

 

 震える背中。薄い外套。匂いで分かる。――クィリナス・クィレル。

 

 「おい」

 

 俺が声をかけると、クィレルがびくりと肩を震わせて振り返った。額にはじっとりと汗が滲んでいる。

 

 クィレルの背後には、開きっぱなしの本が何冊も積み上がっていた。賢者の石――その名を冠した書物もあった。

 

 「……フ、フシグロ先生……なぜここに……?」

 

 「夜間巡回だよ。何してんだ、こんな時間に」

 

 「ぼ、私は……ただ……調べものを……」

 

 震える声。背中から滲む、妙な気配。クィレルの“中”には、もうひとつ別の存在がある。俺の五感がそれを捉える。

 

 「言っとくが、言い訳下手すぎんぞ」

 

 俺はゆっくりと歩み寄った。

 

 クィレルはじりじりと後退し、壁に背をぶつけた。

 

 「お前……どこまで首突っ込んでんだ?」

 

 俺が言葉を落とした瞬間、空気がぴりついた。

 

 クィレルの目が恐怖と、何か別の暗い感情に揺れる。その奥――“もう一人”が俺を見ている。獣のような、蛇のような、形の定まらない気配。

 

 「黙っておく気はねぇぞ」

 

 次の瞬間、俺は迷わず踏み込み、拳を振るった。

 

 拳がクィレルの顔面に突き刺さる。骨が軋み、肉が揺れる。

 

 「ぐはっ!」

 

 クィレルの身体が持ち上がり、棚に叩きつけられて床に崩れ落ちた。

 

 「……めんどくせぇな」

 

 俺は低く吐き捨てる。

 

 クィレルは白目を剥いて気絶していた。薄く血が流れているが、死んではいない。骨の一本二本折れた程度だ。

 

 「ガキ共にちょっかい出す前で良かったな」

 

 俺はしゃがみ込み、クィレルの持っていた紙片を拾い上げた。古い羊皮紙だ。賢者の石についての記述が並び、その端には黒い粉のような痕跡が付着している。呪詛……いや、魔法だ。

 

 「……やっぱりな」

 

 この男、トロールを入れたのもこいつだ。こそこそと暗いとこで動き回ってやがる。

 

 俺はクィレルの身体を軽々と肩に担いだ。

 

 「まったく、教師のくせに厄介ごと起こすとはな」

 

 図書室を出て廊下に戻る。外の雪は激しさを増していた。

 

 今夜は静かな夜じゃなかったな……

 

 「さて、ダンブルドアに報告して、報酬は上乗せしてもらうか」

 

 独り言を呟き、俺は闇に溶けるように歩き出した。

 

 夜の城は冷たく静かだったが、俺の足取りは重くなかった。

 

 この程度の厄介ごとなら、まだ“楽な仕事”だ。

 

 「ん?」

 

 図書室を出たあたりで妙な気配を感じた。

 

 何も見えない。だが匂いと息遣いを感じる。

 

 鼻腔を突く、ほんの僅かな人間の匂い。抑え込もうとした呼吸、そして緊張で震える空気の揺れ。――隠れている奴がいる。

 

 俺は足を止め、その方向にゆっくりと近づいた。

 

 目には何も映らない。だが、俺の五感はそういう嘘は許さない。

 

 一歩。二歩。気配が後ずさる気配を感じ、次の瞬間――

 

 「……そこだ」

 

 俺は迷わず手を伸ばした。

 

 「うわっ!?」

 

 手に柔らかい感触があった。掴んだのは小柄な肩だ。引き寄せると、空気がずるりと剥がれ落ちたように、目の前に姿が浮かび上がった。

 

 「なんで見えるんですか!?」

 

 怯えた声。ハリー・ポッターだった。

 

 足元には、光を反射して鈍く輝く布――姿を隠す魔法具か?目には完全に見えなかった。すごいもんがあんだな。

 

 「俺の身体は少し特別製でな。……で、何やってる、こんな夜更けに……ハリー」

 

 「え、えっと……」

 

 俺の腕の中でもぞもぞと動いていたハリーが、小さく言葉を詰まらせた。

 

 その視線が俺の後ろに移った瞬間、目を丸くした。

 

 「ニ、ニコラス・フラメルのことが気になって……というか先生!な、なんでクィレル先生を担いでるんですか!?うわぁ鼻血垂れてるし!」

 

 ハリーが慌てて俺の背後に回り、担ぎ上げられている男の顔を覗き込む。

 

 「こんな時でもターバンはズレないんだ……すごいや」

 

 「気にするとこはそこじゃねぇだろ……」

 

 気配を辿っていたらちょうど鉢合わせして、ちょっと殴っただけで鼻血を垂らして気絶した男クィレル。

 

 「昨日も言ったはずだ。深入りすんな」

 

 「で、でも気になるんです!」

 

 ハリーは透明マントを拾い上げ、必死に食ってかかるように言った。

 

 その顔には、恐怖ではなく、好奇心と怒りの入り混じった表情がある。

 

 「トロール騒ぎの後のスネイプの怪我……それにクィディッチの時の()()。スネイプ先生が、賢者の石を狙ってるんです」

 

 「へぇ……」

 

 俺は興味なさそうに相槌を打ちながら、肩の上のクィレルを少し持ち直した。

 

 「証拠は?」

 

 「証拠なんて……でも、僕は見たんです! 試合のとき、スネイプが僕を見ながら呪文を唱えてた!」

 

 「それだけで犯人扱いか。お前、法廷なら即負けだぞ」

 

 「でもっ!」

 

 「でもじゃねぇ」

 

 俺はため息を吐いた。

 

 ガキの思考回路は単純だ。表面的なものだけ見て結論を出す。魔法使い特有の思い込みも相まって、余計にややこしい。

 

 「いいか。スネイプが何してようが、今この場で俺が気にしてるのは“コイツ”だ」

 

 俺は肩の上のクィレルの頭を指で突いた。

 

 「こいつ、ちょっと気になる“匂い”を纏ってる。普通の魔法使いとは違う、薄汚れた、呪いに近い臭いだ」

 

 「クィレル先生が……?」

 

 「まぁガキのお前には分からんだろうがな」

 

 ハリーは小さく唾を飲み込んだ。

 

 それでも恐怖より先に“好奇心”が顔を覗かせる。こいつの厄介なところは、怖い目に遭っても首を突っ込み続ける性格だ。

 

 「……じゃあ先生も、何かあると思ってるんですか?」

 

 「さぁな。思ってようがいまいが、俺が興味あるのは賃金と俺の身だけだ」

 

 「……先生って本当にお金のことばっかりですよね」

 

 「当然だろ。金がなきゃ生きてけねぇんだからな」

 

 俺は肩をすくめた。

 

 「で、ハリー。お前は今からどうする?」

 

 「……」

 

 「まさか“このまま一緒に調べたい”なんて抜かすつもりじゃねぇだろうな?」

 

 図星を突かれた顔をして、ハリーは黙り込んだ。

 

 「そういう好奇心は勝手に死ぬ第一歩だ。俺は教師だからな、死なせるわけにはいかねぇ」

 

 「……でも」

 

 「“でも”じゃねぇ」

 

 俺は声を低く落とした。ハリーがびくっと肩をすくめる。

 

 「お前が首突っ込んで死んだら俺の給料が減るんだ。……迷惑なんだよ」

 

 「……給料……」

 

 「だから今夜は寮に戻れ。こいつは俺がダンブルドアのところに運ぶ」

 

 ハリーは唇を噛み、少しだけ視線を落とした。

 

 そしてゆっくりと頷いた。

 

 「……わかりました」

 

 「よし」

 

 俺はクィレルを担いだまま、廊下の奥に視線を向けた。

 

 夜のホグワーツは静かだが、空気には妙な緊張がある。

 

 ハリーが帰る背中を見送りながら、俺は思った。

 

 ――やっぱり、この城、まだ何か隠してやがるな。

 

 「給料上乗せになりゃいいんだがな」

 

 ぼそりと呟き、俺は足早にダンブルドアの校長室へと向かった。

 

 そうして校長室に着いた俺は、肩に担いでいたクィレルを床に下ろした。

 

 ターバンの布が床に擦れ、湿ったような音を立てる。こいつの身体は細いくせに、妙に重い。

 

 「……フシグロ君、どういうことか説明してもらってもいいかの?」

 

 机に両肘を置き、顎を支えながら俺を見据えるダンブルドアの声は低かった。

 

 「禁書棚で探ってやがった。これを見ろ」

 

 俺は懐から拾った古い羊皮紙を取り出し、机の上に置いた。

 

 そこには賢者の石についての記述がびっしりと並び、端には黒い粉のような痕跡が付着している。

 

 「ふむ……」

 

 ダンブルドアが手元の紙を見つめ、指先で黒い粉のような痕跡をなぞった。

 

 「この黒い痕跡は……呪いの残滓か」

 

 「だろうな。俺でも分かる。魔力ってより、呪いに近い匂いがする」

 

 「ふむ……ただ調べ物をしていただけ……という事はないのかね?」

 

 「それはねぇな。こいつからは気配を2つ感じる。本人の気配と……弱いが、呪い(呪霊)に似た気配だ」

 

 ダンブルドアの目が細くなった。

 

 「2つ、か。……厄介じゃのう」

 

 「まったくだ」

 

 俺は床に転がったクィレルを見下ろした。

 

 「気配はこの辺りだ」

 

 俺はしゃがみ込み、クィレルの首の後ろに手を伸ばした。湿った空気が首筋にまとわりつく。

 

 「……ちょっと失礼するぞ」

 

 ターバンを掴み、ぐいと剥がした。

 

 布がずるりと滑り落ち、こいつの後頭部が露わになる。

 

 その瞬間、部屋の空気がぴたりと止まったように感じた。

 

 「……」

 

 俺とダンブルドアは同時にそこを覗き込んだ。

 

 だが、何もなかった。

 

 ただ青白く薄い皮膚と細い髪、汗ばむ肌が見えるだけだ。

 

 「……何もねぇな」

 

 「うむ……確かに何も見えん」

 

 ダンブルドアの声も低く落ち着いていた。

 

 「だが、気配は消えてねぇ」

 

 俺は顔を近づけ、呼気の動き、皮膚の温度差、匂い――五感を総動員して探った。

 

 何かが奥にいる。姿を現していない“何か”が。

 

 「首の後ろに、奥の方に引っ込んでやがる。表には出てきてねぇだけだ」

 

 「……姿を隠しておる、ということか」

 

 「そうだろうな」

 

 ターバンを被せる前と後で、空気の揺れがわずかに変わる。表層ではなく深部に何かが潜っている――俺の感覚はそう告げていた。

 

 ダンブルドアは椅子の背にもたれ、長い顎髭を撫でながら考え込んだ。

 

 「この男、ルーマニアの旅から戻って以来、ずっとターバンを巻いとったそうじゃ。何やら“信仰心の表れ”などと言っておったが、今となっては……ふむ」

 

 「信仰心ねぇ……」

 

 俺は鼻で笑った。

 

 「そんなもんは建前だ。コイツからは明確に“呪いの臭い”がする」

 

 「外見に何も現れておらんのは厄介じゃな。魔法で隠している可能性もある」

 

 「だろうな。だが俺には魔法は通じねぇ」

 

 「ホッホッホ、頼もしいことじゃ」

 

 ダンブルドアはわずかに笑い、すぐに真顔に戻った。

 

 「フシグロ君。この件は慎重に扱わねばならん。もし、この奥にある“何か”が真に危険なものであれば、まだ動くべきではない」

 

 「つまり――今は“泳がせろ”ってことか」

 

 「そういうことじゃ」

 

 「まぁいいさ。俺は探偵でも英雄でもねぇ。金さえ貰えりゃ、それでいい」

 

 「本心かの?」

 

 「本心だ」

 

 「ふむ……君はいつもそう言うな」

 

 ダンブルドアはゆっくり立ち上がり、床のクィレルを見下ろした。

 

 「この男には何も“なかった”――そういうことにしておこう」

 

 「了解」

 

 「ただし、今後も注意して観察を頼むぞ。何かあればすぐ報告じゃ」

 

 「報酬があるならな」

 

 「ホッホッホ……」

 

 俺はクィレルの頭にターバンを被せ直した。汗と古びた布の匂いが鼻につく。

 

 「やっぱり気色悪ぃな」

 

 その瞬間、一瞬だけ首筋の奥から冷たい波のような気配が俺の皮膚を撫でた。

 

 だが、それはすぐに霧のように引っ込み、何もなかったかのように消えた。

 

 「……」

 

 ダンブルドアが俺の横顔を見ていたが、俺は気付かぬふりをした。

 

 「おぬしの勘は当たる。気を抜くでないぞ」

 

 「勘じゃねぇ、鼻が効くだけだ」

 

 俺は踵を返し、重い扉に手をかけた。

 

 背後では暖炉の火がぱちりと音を立てる。

 

 「――近いうちに、何かが起こるじゃろう」

 

 ダンブルドアの声が背後から響く。

 

 「だったら、そんときは俺の報酬を上乗せしろよ」

 

 短くそれだけを残し、俺は校長室を後にした。

 

 背中に、奥の闇から見えない視線が這い寄るような感覚が残っていた。

 

 表には何もない。だが確実に“何か”がいる。

 

 気配だけが、その事実を確かに教えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甚爾が去った後の校長室、残されているのは椅子に深く座るダンブルドアと、未だ気絶し時折うめき声を上げるクィレルだけだった。

 

 暖炉の炎が赤く揺れ、影が部屋の隅にゆらめいている。窓の外は雪が舞い始めており、静かな夜の気配が校長室を包んでいた。

 

 ダンブルドアは静かに息を吐いた。

 

 「今夜、この男には何も()()()()()()()

 

 その声は、決意とも諦めともつかない静かな響きを持っていた。

 

 彼は立ち上がり、杖を懐から取り出すと、ゆっくりと床に倒れるクィレルのもとへ歩み寄った。

 

 クィレルの呼吸は浅く、唇は乾いている。ターバンの奥に潜む気配――ダンブルドアも感じていた。だが、それは手を伸ばせば掴めるほどの表層ではない。まるで底なし沼のように深く、暗く、そして今は息を潜めている。

 

 「……ふむ」

 

 ダンブルドアは細い眉をわずかに寄せた。長い魔法使いとしての人生で、似たような“気配”を感じたことがある。

 

 それは何よりも厄介で、何よりも深い闇の臭いだった。

 

 「今ここで暴き立てるのは、まだ早い」

 

 呟きは暖炉の炎にかき消された。

 

 ダンブルドアは杖を構え、先端をクィレルの額へと向けた。

 

 「オブリビエイト(忘却せよ)

 

 柔らかな光が杖先から溢れ、クィレルの額へと静かに吸い込まれていく。

 

 まるで霧を覆うように、男の意識と記憶を包み込み、今夜ここで起きたことを薄れさせ、上書きしていく。

 

 クィレルの顔からわずかな緊張が抜け、体が力なく床に沈んだ。

 

 「――よろしい」

 

 ダンブルドアは杖を収めると、深く一度目を閉じた。

 

 この男の背後に何が潜んでいるのか、彼にはまだ断言できない。

 

 だが、伏黒甚爾が“何か”を感じ取った以上、ただの不審者ではない。

 

 表層には出てこない。ゆえに、今は動かない方がいい。――この男を“泳がせる”。

 

 「……まったく、厄介な年になりそうじゃ」

 

 独り言を呟きながら、ダンブルドアは椅子に戻った。顎髭を軽く撫で、暖炉の炎を見つめる。

 

 炎が揺れるたびに、心の奥にわだかまる不安が微かに形を持った。

 

 「フシグロ君……どうやら、君を巻き込むことになるやもしれんな」

 

 その声は、いつもの軽い調子とはまるで違っていた。

 

 彼はひとり、椅子に身を預け、長い夜の静寂を聞いていた。

 

 暖炉の炎がぱちりと弾ける音と、遠くで時計の針が刻む音だけが部屋に残った。

 

 雪は窓の外で音もなく降り続け、まるで嵐の前のように世界は静まり返っていた。

 

 この夜、クィレルは何も覚えていない。

 

 そしてダンブルドアも、まだ全てを知ってはいない。

 

 ただ確かなのは――すでに“何か”が、この城の奥深くで蠢き始めているということだった。

 

 

 

 翌朝、クィリナス・クィレルは重い瞼をゆっくりと持ち上げた。天井の石造りがぼんやりと視界に入ってくる。

 

 「ん……頭が……痛い……」

 

 自分の部屋のベッドの上だと気づいた瞬間、鈍い痛みが横っ面を襲った。思わず顔を押さえる。頬骨の辺りがじんじんと痺れるように痛む。まるで誰かに殴られたようだ。いや、実際――殴られたのだ。

 

 「何が……?」

 

 記憶を辿ろうとする。しかしそこには黒い靄がかかったような空白が広がる。昨夜何が起きたのか、自分が何をしていたのか。すべてが曖昧で、ひとつも思い出せなかった。

 

 その時、頭の奥――いや、頭の“後ろ”から声が響いた。

 

 『我がしもべよ……起きたか』

 

 「や、闇の帝王……!」

 

 慌てて姿勢を正し、声の主に応える。ターバンの奥、後頭部に潜む存在――ヴォルデモートである。声は低く冷たく、血管を氷で締め上げるような圧を持っていた。

 

 『今夜にでも動くぞ……すぐに血を……ユニコーンの血を吸え。我が身は弱っておる。貴様の手で運ぶのだ』

 

 「はい……今夜にでも」

 

 乾いた声でクィレルは応えた。震える手で汗を拭い、呼吸を整える。

 

 『慎重にな。奴――伏黒甚爾がいる。あれは人間の皮を被った怪物だ』

 

 ヴォルデモートの声が低く沈む。その名を聞くだけで、クィレルの背筋に寒気が走った。昨夜の記憶は曖昧でも、その男に殴られた感触だけは身体が覚えている。容赦の欠片もない一撃だった。

 

 「……分かっております。今回は、失敗しません」

 

 『当然だ。我がしもべよ……』

 

 クィレルは両手で顔を覆った。恐怖と忠誠と狂気が入り混じった顔だった。鏡の前に立つと、自分の顔に浮かぶのは情けない怯えきった笑み。だが、その後頭部の奥では別の存在が薄らと蠢いていた。

 

 「今夜……ユニコーンの血を……」

 

 つぶやきながら、彼はふらつく足取りで部屋を出た。夜はすぐそこまで来ている。




後頭部柱間細胞状態ヴォルデモートおじさん「あっぶねぇ……!ターバン取んなよ!てか顔近いわ!」


賢者の石のヴォルデモートは一人称が「わし」「我」?だった気がします。なので賢者の石編では「わし」と「我」でいきます。というか復活してから「俺様」って急に若返りすぎじゃないです?
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