ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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第十六話

 

 

 

 

 

 禁じられた森での騒動から数日後……1日の授業が終わり、夜。俺は会議があるとかいう理由で、ダンブルドアに校長室へと呼び出されていた。

 

 「フシグロ先生」

 

 後ろから聞き慣れた声がする。振り向くとマクゴナガルだった。背筋を伸ばしてローブを翻し、いつも通りのキッチリとした様子で歩いてくる。

 

 「マクゴナガル、あんたも呼ばれたのか?」

 「えぇ……そうです。フシグロ先生も?」

 「そうだ」

 

 そうして2人並んで校長室の前へと来た。入り口には、例の不死鳥の石像がでんと鎮座している。呪文を唱えなければこの像は開かない――それが普通のはずだ。

 

 だが俺にとっちゃ、そんなもん知ったこっちゃねぇ。

 

 俺は像に近づき、拳でコンコンと叩いた。

 

 「え?」

 

 マクゴナガルが素っ頓狂な声を上げる。

 

 ググググ……

 

 不死鳥の像が低い音を立てながら持ち上がり、下から螺旋階段が現れた。

 

 「合言葉は? 言わないんですか?」

 「俺に魔法は使えねぇからな。ジジイが俺だけ入れるように色々やってたぞ」

 「……“色々”って……」

 

 納得いってない顔のまま、マクゴナガルは俺に続いて階段を上った。

 

 校長室の扉を開けると、既にダンブルドアとスネイプが待っていた。机の上には羊皮紙と地図、そしていくつかの小瓶が並び、室内には薄くハーブとインクの匂いが漂っている。

 

 「よう、ジジイ。それとスネイプ」

 「うむ、フシグロ君。調子はどうだね? 何か良い事でもあったかね?」

 「言わせんな馬鹿野郎」

 

 ダンブルドアはわざとらしく髭を撫でながら笑ってやがる。まったく、こいつは俺が競馬で外したことをこうやってニヤニヤといつも弄りやがる。いつか痛い目あわせてやる。

 

 「さて……君達を呼んだのは森での件についてだ」

 

 空気が少し張り詰めた。スネイプはいつものように椅子に深く座り、腕を組んで鋭い目をこちらに向けている。

 

 「ユニコーンの死体と黒い影……あれは偶然じゃない。ホグワーツの中で何かが確実に動いておる」

 

 「……それで、あの影の正体は分かったのか?」

 

 俺が問うと、スネイプは短く鼻を鳴らした。

 

 「貴様の拳で吹き飛ばされた“それ”が何なのか、現段階で確証はない。ただ、非常に危険な存在であることは間違いない」

 

 「ったく……やっぱ操り人形って感じだったな。手応えはあったが“死んだ”感じがなかった」

 

 ダンブルドアが静かに頷いた。

 

 「君の感覚は貴重だ、フシグロ君。……あれは、恐らく誰かに使()()されていたものだ」

 

 「つまり、裏に本体がいるってことだな」

 

 「うむ。そしてそれは――おそらく()()()()()にいる」

 

 重い空気が流れた。マクゴナガルの表情も一気に険しくなる。

 

 「……それで、クィレルは?」

 

 俺は椅子に腰を下ろしながら、ずっと気になっていたことを口にした。

 

 森の影の匂いの中に、奴の匂いがあった。それに――何より、クリスマスの夜、禁書棚で見つけた“奴”の後始末はどうなったのか。

 

 ダンブルドアが短く息をついた。

 

 「……彼は覚えていない。あの夜、自分が何をしていたのかも、君に殴られたことも」

 

 「オブリビエイト(忘却術)……だったか」

 

 「うむ。こちらで処置した。今のところは、彼自身も“何も知らない”状態のはずじゃ」

 

 「それってつまり……黒幕の可能性がまだあるってことだな?」

 

 「可能性はある。だが確証はまだ掴めていない。彼を迂闊に刺激すれば、裏の存在が動き出す危険もある」

 

 スネイプが低く言う。

 

 「彼の行動を観察している。君の力技のような真似は、二度とさせんぞ」

 

 「へぇ〜? お前が止めるのか?スネイプ」

 

 「……」

 

 睨みつけるような視線が突き刺さったが、俺は気にも留めなかった。

 

 「まぁいい。黒い影が森に出たってことは、そいつを操ってるヤツが何かを探してるってこったな」

 

 「そう。……おそらく賢者の石だ」

 

 その言葉にマクゴナガルが眉をひそめる。

 

 「ダンブルドア、なぜ今ここでその名を……」

 「フシグロ君には、すでに一部を話してある」

 

 「……なるほど」

 

 俺は腕を組み、深く椅子にもたれた。

 

 「ジジイ。だったら今一度、ハッキリさせようぜ。黒い影は石を狙ってる。匂いの残り方的にも、()()は城の内部に入り込んでる。時間の問題だ」

 

 「わかっている」

 

 ダンブルドアが目を細める。その瞳はいつもののんびりした老人のものじゃなかった。長い年月で積み上げた警戒と冷徹な覚悟の光が宿っていた。

 

 「こちらも警戒を強化する。護りはすでに何重にも張ってある。だが――君のような“魔法の外側”の戦力がいるのは、非常に心強い」

 

 「褒め言葉として受け取っとくぜ」

 

 「……あなた達2人の間で何があったのか、詳しく知らないですが……」

 

 マクゴナガルが静かに俺とダンブルドアを交互に見る。

 

 「クィレルを巡る件も、石も、すべて裏で片付けなければなりません。生徒達に知られるわけにはいかない」

 

 「わかってるよ、そこは」

 

 森での騒ぎは、もう公にはされていない。ユニコーンの件も“事故”として処理され、夜間外出の罰則を受けたガキ共には何も知らされていない。

 

 だが裏では、確実に何かが動いている。

 

 「フシグロ君……これからも頼むぞ」

 

 「……あぁ。馬を殺したヤツは許さねぇ」

 

 俺は短くそう言い、椅子の背にもたれながら、窓の外を見た。

 

 夜空に浮かぶ月が、じっとこちらを見下ろしているようだった。

 

 黒い影とクィレル。

 賢者の石を狙う何者か。

 

 この城の裏で――決着が近づいている。

 

 「ところでガキ共はどうする? あの3人だ。賢者の石やニコラス・フラメルのことを熱心に調べてたぞ。俺をこき使ってな」

 

 俺は椅子に深く腰をかけ、顎をしゃくった。あのガキ共は単なる好奇心じゃねぇ。“何かある”と勘づいてる目だった。

 

 「ふむ……ハリーはのう〜……」

 

 ダンブルドアがゆっくり目を細め、スネイプへと視線を送る。俺はその一瞬の仕草を見逃さなかった。

 

 「おいジジイ、蛇野郎が関係してんのか?」

 

 スネイプがピクリと眉を動かし、氷のような視線を俺に向けた。

 

 「……軽々しく“蛇野郎”呼ばわりするな」

 「事実だろ?」

 

 マクゴナガルが横でため息をつくのが聞こえる。

 

 「ったくよ、あのクィディッチの時もそうだ。ガキ共、スネイプを疑ってたぞ。“妨害してた”ってな」

 

 俺の言葉にマクゴナガルの目がわずかに鋭くなり、ダンブルドアがゆっくり頷いた。

 

 「……それも無理はないじゃろう。セブルスの呪文は、傍から見れば妨害に見えたからのう」

 

 「確かに俺も最初はそう思った。だが違った。あの時――スネイプは妨害じゃなく“阻止”してた」

 

 俺はあの瞬間の光景を思い出す。

 箒が暴れ、ガキ――ハリー・ポッターが空中で必死にしがみついていた。観客席が悲鳴で揺れ、緊張の空気が満ちたあの瞬間。

 

 「スネイプは隣の塔で呪文を唱えてた。あれは確かに“解呪”の動きだった。犯人は……後ろにいたクィレルだ。呪詛師みてぇなツラして呪いかけてた」

 

 スネイプがわずかに目を細め、俺を見た。

 

 「……見抜いていたのか」

 

 「当然だ。お前の呪文のテンポは“防御”のそれだった。現場慣れしてると、ああいうのは一発で分かる」

 

 「……ふん」

 

 マクゴナガルは一度目を閉じ、小さく息を吐く。

 

 「ハリー達がクィレルを疑えなかったのも仕方ありません。普段は怯えた態度で、魔法もロクに使えない“ように見える”のですから」

 

 「確かにな。あの顔じゃ“ただのビビリ”にしか見えねぇ」

 

 「そうじゃな。しかし実際には、あの男が箒に呪いをかけていた。彼らがクィレルの本性を知らないのも無理はない。彼は普段、震えた声と怯えた表情で生徒達に接しておる。ハリー達にはまさか、彼が呪いをかけていたなどとは思いもせんじゃろう」

 

 ダンブルドアが低く静かに言った。

 

 「スネイプの阻止だけでは完全には防ぎきれなかった。ハリーが耐えたのは、彼自身の力による部分も大きい」

 

 「……あぁ。あのガキ、筋肉がちゃんとついてきてる。あの高さでも落ちなかったのは、あいつが“しがみつく”力を持ってたからだ」

 

 俺がそう呟くと、スネイプはわずかに眉を上げた。

 

 「……どうやら、貴様の鍛錬は効果があったようだな」

 

 「俺は筋肉を信用してるだけだ」

 

 ダンブルドアが楽しげに笑い、マクゴナガルはこめかみを押さえた。

 

 「それに……あのときスネイプは、呪いを解きながら“自分が疑われる”ことも分かってたはずだ」

 

 「ふん……愚かな生徒に誤解されるなど慣れている」

 

 スネイプが小さく吐き捨てた。

 

 「そういう顔してるから余計に誤解されんだろ」

 

 俺の言葉に一瞬、マクゴナガルが噴き出しそうになるのを堪え、スネイプは舌打ちした。

 

 「ともかく、あの3人は確実にこの件に関わってくる。いや……もう巻き込まれている、と言うべきじゃろうな」

 

 ダンブルドアの声色が一段低くなった。

 

 「ハリーが狙われたのは偶然ではない。クィレルはただの授業担当者ではないからのう」

 

 俺は視線を落とす。クィレルを殴り倒したときの感触がまだ拳に残っていた。

 森での黒い影も、あの夜の不穏な気配も――全部、一本の線で繋がっている気がする。

 

 「ダンブルドア……クィレルの野郎、今どうしてる?」

 

 「拘束はしておらん。表向きは何事もなかったように授業を続けておる。ただ……監視はしておる。君もその一角じゃ」

 

 「……あの野郎、絶対何か仕掛けてくるぞ」

 

 「うむ。わしもそう思う」

 

 ダンブルドアの目がわずかに鋭さを増す。普段の飄々とした老爺の目ではない。

 

 「そして……そのときハリー達は、間違いなく“そこ”にいるじゃろう」

 

 「……つまり、あのガキ共の暴走を放っておけってわけじゃねぇな」

 

 「そういうことじゃ」

 

 俺は深く息を吐き、椅子の背から身体を起こした。

 

 「ったく……面倒ごとばっかり俺のとこに回ってくるな」

 

 「君にはそれを処理できる力がある。それに――馬も好きじゃろう?」

 

 「……馬の話をすんな」

 

 ダンブルドアが目を細め、笑った。あのジジイ、わざと俺の地雷を軽く踏みやがる。

 

 「いいかジジイ、俺が守る優先順位は馬が最優先だ。その次にガキ共。あとは知らん」

 

 「ふふ、それで十分じゃよ」

 

 会議の空気はいつものように軽く見えて、実際は重い。

 クィレルは動く。ハリー達はまた首を突っ込む。

 スネイプは阻止しようとするが、完全に止めきれる保証なんてない。

 

 そしてその先には――間違いなく、()がある。

 

 「ジジイ、今度のは遊びじゃ済まねぇぞ」

 「分かっておるとも」

 

 ダンブルドアの瞳は笑っていなかった。

 

 そうして会議が終わり、スネイプとマクゴナガルが静かに校長室を出ていった。重い話題を交わしたせいか、室内には微妙に熱が残っているような空気が漂っている。俺も腰を上げ、扉へと足を向けようとしたその時――

 

 「待つのじゃ、フシグロ君」

 

 低く落ち着いた声が背中にかかる。振り返ると、あのジジイ――ダンブルドアがこちらを見ていた。

 

 「ん? まだなんかあんのか」

 

 俺が肩をすくめると、ダンブルドアはふむと小さく呟き、ゆっくりと机の引き出しに手をかけた。カチリと音を立てて引き出しを開け、そこから小ぶりな皮袋を取り出す。

 

 テーブルの上に置かれた瞬間――チャリ……と、ガリオンの硬貨が触れ合う乾いた金属音が室内に響いた。思った以上に重そうな袋だ。

 

 「……随分と景気のいい音だな」

 

 俺はあくまで平静を装い、目を細めた。正直なところ、金には興味がないとは言えない。だがここで食いつくような真似をすれば、絶対ジジイのペースになる。

 

 「そんなのを出してどうした」

 

 「フシグロ君にはひとつ――頼みたいことがある」

 

 「ほう?」

 

 ダンブルドアは両手を組み、ふと真顔になる。さっきまで笑っていた目の奥に、硬質な光が宿っていた。

 

 「君には、教師としての仕事とは別に“護衛”を頼みたい」

 

 「……護衛?」

 

 俺は眉をひそめる。何を言い出すかと思えば。

 

 「誰のだよ」

 

 「もう分かるじゃろう……ハリー・ポッターじゃよ」

 

 その名前が出た瞬間、室内の空気がひやりと変わった気がした。いや、実際は何も変わってねぇ。ただ、俺の脳内であのガキの顔が浮かび、あの時の黒い影と、馬の死体が蘇っただけだ。

 

 「……あのガキ、そんなに危ねぇのか」

 

 「すでに巻き込まれておる。禁じられた森の一件も、偶然ではない」

 

 ダンブルドアの声には、あのいつもの飄々とした調子が欠片もなかった。

 

 「……クィレルか」

 

 「うむ。おそらく、彼の動きはこれからさらに活発になるじゃろう。だが、今この段階であからさまに手を打つわけにもいかん。生徒達を不必要に怯えさせることになる」

 

 「……つまり表向きは“何もない”ってことにしたいわけだな」

 

 「その通りじゃ」

 

 ジジイはわずかに頷いた。

 

 「だが君なら、派手な魔法もいらん。どこにいても、自然と“抑止力”になる。君がそばにいるだけで状況は変わる」

 

 「おいおい、人を便利屋みてぇに言うなよ」

 

 俺が鼻を鳴らすと、ダンブルドアは目尻を下げて笑った。まるで最初からこう言われるのを想定していたような顔だ。

 

 「便利ではない。実力を信じておるのじゃ」

 

 「……口がうまいな」

 

 皮袋に視線を落とす。ガリオンの金色が微かに反射して光っていた。ああいう音、嫌いじゃねぇ。

 

 「……で、具体的にどうしろってんだ」

 

 「特別な任務ではない。授業外で可能な範囲で、彼の行動を“見ておいて”ほしいだけじゃ。影の護衛、とでも言えばいいかの」

 

 「見張りと護衛、紙一重だな」

 

 「必要とあらば力を振るってよい」

 

 ダンブルドアの目が細く光る。

 ……このジジイ、やっぱり俺の性質をよく分かってやがる。

 

 「他の教師は知らねぇんだな」

 

 「うむ。知っているのは、わしと君だけじゃ。今のところはな」

 

 「ったく……」

 

 ハリー・ポッターの名を聞いて、俺の頭の中にはあの時の“影”の感触が蘇る。拳で殴ったあの異様な質感、そして死んでねぇ気配。あれはただの生き物じゃなかった。

 

 「……お前の言う通り、あのガキはもう“戦場”に踏み込んでる。なら護衛もクソもねぇ。自分で立って歩かせるしかねぇぞ」

 

 「うむ。それでも、導く者は必要じゃ」

 

 ダンブルドアはわずかに笑った。

 

 「……おいジジイ、俺は保護者でも家庭教師でもねぇぞ」

 

 「知っておる。君は“武”の人間じゃ。しかし、その力こそが今、必要なのじゃ」

 

 皮袋が音を立てた。小さく、だが耳に残る金属音だった。

 

 「……分かった。引き受けてやる。ただし、俺のやり方でやるぞ」

 

 「もちろんじゃとも」

 

 ダンブルドアは穏やかに頷いた。その顔には、まるで最初から“こうなる”と分かっていたような笑みが浮かんでいる。まったく、このジジイ……性格が悪い。

 

 「……ああ、そうだ。ついでに言っとくが、ハリーのことは“過保護”にはしねぇからな。俺は守るだけで、甘やかす気はねぇ」

 

 「それで構わんよ。彼には――自分の足で立つ力が必要じゃからな」

 

 会話を終えると、俺は皮袋を片手で掴んだ。想像以上にずっしりと重い。金貨の重みというやつは、いつの時代も変わらねぇ。

 

 「……悪くねぇ重さだ」

 

 そう吐き捨てるように言い、俺は踵を返した。

 

 護衛、ねぇ……面倒な仕事を押しつけやがる。

 けど――あのガキは、もう俺の目の前で一度“戦い”の匂いを浴びてる。

 

 だったら、見捨てるって選択肢は、ねぇんだよな。

 

 「やれやれ……こっから先は、ちょっと面白くなりそうだ」

 

 俺は金貨の袋を握り直し、重たい扉を押し開けた。廊下には夜の冷たい空気が流れ込んでくる。背後では、不死鳥の像が静かに元の位置へ戻る音がした。

 

 ――さて、ハリー・ポッター。

 護衛対象ってのはどうにも性に合わねぇが、どうせなら派手に暴れてもらおうじゃねぇか。

 

 「ちなみにじゃが……“護衛”は成功報酬ではないぞい。月給与に含まれる」

 

 ダンブルドアは皮袋を指でちょいと弾き、にやりと笑った。

 

 「教職員給与の月2500ガリオン、そしてこの護衛の給与が1500ガリオンとなる」

 

 マジかよ。

 

 「……随分、太っ腹だな」

 

 俺が思わず眉を上げると、ジジイは楽しそうに肩を揺らした。

 

 「ホッホッホ、おぬしには()()()()()()()()からのう……まだまだ余裕はあるぞい」

 

 その口調に一瞬、嫌な予感が走る。

 ()()()()()()()()……?

 

 「……お前、もしかして」

 

 俺はわずかに目を細めた。脳裏に浮かぶのは、あの日ダンブルドアと共に行った競馬場――あの満面の笑み、そして当たり馬券を握りしめるあの老いぼれの顔。

 

 「……お前、まさか1人で競馬に――」

 

 「はて……なんのことやら」

 

 白々しいにも程がある。

 

 「おいコラ……」

 

 俺はぐっと拳を握る。

 このジジイ、俺が“馬に詳しい”のをいいことに、裏でしっかり稼いでやがったな。

 

 「なにせのう、馬は裏切らん」

 

 「言ってんじゃねぇよ!!」

 

 思わず机をドンと叩いてしまった。皮袋が跳ね、ガリオンの音がチリンと鳴る。

 

 「……ま、金が動く分には問題ない。ちゃんと俺に分け前があるならな」

 

 「もちろんじゃとも。おぬしの“功績”じゃからのう」

 

 ダンブルドアが髭を撫でながら笑う。その笑顔はいつも通り柔和だが――こいつは確信犯だ。絶対に最初からこの話を持ち出す気でいた。

 

 「まったく……教師の仕事でギャンブル資金を出してんじゃねぇよ」

 

 「ふふ、魔法界においても“経済”は重要じゃ。競馬もまた文化の一つじゃよ」

 

 「文化って便利な言葉だな、おい」

 

 心底呆れながら、俺は再び皮袋を持ち上げる。ずっしりとした重さが手に食い込んだ。

 1500ガリオン――この世界での金の価値も、そろそろ俺も分かってきた。これは冗談抜きで大金だ。

 

 「ハリー・ポッターの護衛……この金額、安くはねぇな」

 

 「それほど、危険も大きいということじゃ」

 

 ジジイの目が一瞬だけ鋭く光った。そこには、飄々とした態度の奥に隠していた“本気”があった。

 

 「クィレルの動きも活発になってきておる。君の戦力は、この学校にとって計り知れん価値じゃ」

 

 「……ま、護衛って名目でも、俺のやることは変わんねぇよ。危なきゃ殴る。それだけだ」

 

 「それでいい。それが君じゃからな」

 

 ダンブルドアは穏やかに笑い、軽く頷いた。

 

 俺は袋を腰に下げると、軽く肩を回した。金の重みが腰にぶら下がる感覚――悪くない。

 

 「……まぁ、悪い話じゃねぇ。馬のために稼いでやるさ」

 

 「ホッホッホ、それでこそフシグロ君じゃ」

 

 こいつ、本当に分かってやがる。俺の一番の弱点を。

 

 「ただし、ジジイ。競馬の分け前は今度きっちり計算させてもらうからな」

 

 「……はて……なんの話じゃったかのう?」

 

 「白々しいわ!!!」

 

 俺の怒鳴り声が夜の校長室に響き渡った。

 背後の不死鳥が、まるで笑っているかのように羽ばたいた気がした。




原作とか映画ではマジで誰もクィレルに気づかないのヤバいと思うんですよ。たった11歳のガキにザルすぎる試練を突破され、最終的にはハリーの母の護りのお陰でクィレルを滅ぼせましたが、もし失敗してたらどうするつもりだったんだろう。
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