ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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評価、感想ありがとうございます!!

今日は少し遅くなりました。



第八話

 

 

 

 

 吊るされた猫――ミセス・ノリスはその後、丁重に外され医務室へと運ばれた。屋敷しもべ妖精達が協力して担架を運ぶ姿は、普段の軽やかさがまるでなく、張りつめた空気が漂っていた。

 

 その身体はまるで“石”のように硬直していて、毛並みまで石像のようにカチコチだ。指先でそっと触れてみても、冷たく、生き物というよりは石碑に触れているような感触だった。まばたきも、呼吸も、一切の反応がない。

 

 「おい、ジジイ。何か身に覚えがあるのか?」

 

 「ふむ……」

 

 今、俺は校長室にいる。壁の暖炉の火が静かに揺れ、窓の外では雪こそ降っていないものの、晩秋特有の冷たい風がホグワーツの外壁を撫でている。

 

 目の前の机にはアルバス・ダンブルドアのジジイ、横にはミネルバ・マクゴナガルとセブルス・スネイプ。そして――うるさい金ピカ男、ギルデロイ・ロックハートの姿はない。

 

 「私が犯人を見つけましょう!」とか言って張り切って飛び出していった。まぁ、どうせ何も見つからず、ドヤ顔で帰ってくるのがオチだろう。

 

 「……50年前にも同じようなことがあった」

 

 ダンブルドアがゆっくりと口を開いた。

 

 「秘密の部屋が開かれたと噂され、多くの教員と魔法省が大規模な調査を行った。じゃが……結局なにも分からず終わったのじゃ」

 

 「50年前……か」

 

 俺は椅子の背にもたれ、顎を撫でる。

 

 「秘密の部屋なんて大層な名前の割に、何も分かってねぇってことか」

 

 「その通りじゃ」

 

 ジジイの言葉にマクゴナガルが重く息を吐いた。

 

 「私は当時この学校にはいなかったけれど……記録には残っています。生徒の一人が殺され、その時“秘密の部屋”という言葉が浮上したの」

 

 「結局、それがどこにあるかは分からなかった。調査は何ヶ月にも及んだが、誰一人として見つけられなかった」

 

 スネイプの声は低く、静かだったが、その内側には冷たい棘がある。

 

 「……つまり、今回もその“秘密の部屋”とやらが関係してる可能性が高いってわけか」

 

 俺は足を組み、腕を組んだ。

 

 「秘密の部屋ってのは一体なんなんだ?」

 

 「言い伝えでは、ホグワーツの創設者の一人――サラザール・スリザリンがこの学校のどこかに作ったと言われている隠し部屋です」

 

 マクゴナガルが真面目な表情で言った。

 

 「スリザリンは他の創設者達とは異なり、“純血主義”を強く信奉していました。彼はこの学校から“穢れた血”を追い出すための手段として、ある怪物を飼っていたとされます」

 

 「怪物……」

 

 「スリザリンは死ぬ前にその怪物を“秘密の部屋”に閉じ込め、自分の“真の継承者”だけがその怪物を呼び出せるようにした――そう言い伝えられているのです」

 

 マクゴナガルの声がわずかに震えた。彼女は強い教師だが、この話題にだけは薄い恐怖を滲ませている。

 

 「穢れた血……つまり、マルフォイのガキがハーマイオニーに言った“あれ”と同じってことか」

 

 「そうじゃ」

 

 ダンブルドアのジジイがゆっくりと頷いた。

 

 「“純血”以外を排除しようとする思想は、昔から一部の魔法族の中に根深くある。そして――それを実現できる“手段”を残したとされるのが、この秘密の部屋じゃ」

 

 「なるほどな」

 

 俺は口の端を吊り上げた。

 

 「クソみてぇな思想のジジイが残したクソみてぇな部屋ってわけだ」

 

 マクゴナガルは眉をひそめ、スネイプが目を細めるが、ダンブルドアだけは薄く笑っている。

 

 「君は物事を実に分かりやすく要約するのう」

 

 「褒めてねぇよ」

 

 俺は片手で額を押さえた。

 

 「で、その部屋ってのは本当にあるのか?」

 

 「確証はない。ただ、あの血文字とミセス・ノリスの石化を見る限り……今、再び“何か”が動き出しているのは間違いない」

 

 「50年前のときも……生徒が“石化”したという記録が残っています」

 

 マクゴナガルが静かに言葉を継いだ。

 

 「被害は拡大し、最終的に一人が命を落としました。事件は収束しましたが、真相は闇の中です」

 

 「……つまり、今回はその再来ってわけか」

 

 俺は立ち上がり、窓の外に視線を向けた。曇り空が校舎の影を長く伸ばしている。

 

 「ジジイ、ハッキリ言うが……もしこの部屋とやらから怪物が出てきたら、ぶっ殺していいんだな?」

 

 マクゴナガルが一瞬目を見開き、スネイプの眉がぴくりと動いた。だが、ダンブルドアは穏やかに目を閉じるだけだった。

 

 「状況次第じゃな。何であれ、生徒を守ることが最優先じゃ」

 

 「なら話は早い」

 

 俺は片手をポケットに突っ込み、口角を上げた。

 

 「怪物だろうがなんだろうが、出てきた瞬間殺す」

 

 「まったく……あなたは本当に……」

 

 マクゴナガルが呆れたように小さく溜息を漏らした。

 

 「だが、頼もしいことも確かじゃな」

 

 ジジイが目を細める。

 

 「まずは情報を集めよう。今回は生徒に動揺を与えるわけにはいかん。秘密の部屋が開いたと知れれば、あっという間にパニックになる」

 

 「分かってる」

 

 俺は手をひらひらと振り、階段の方へ歩き出した。

 

 「とりあえず廊下の巡回は増やす。匂いの残滓も探ってみる」

 

 「頼むぞ、フシグロ君」

 

 「……あぁ」

 

 階段を降りると、吹き抜けの廊下から冷たい風が吹き込んできた。

 

 ――秘密の部屋。

 

 「めんどくせぇことになってきたな」

 

 俺はポケットからタバコを取り出し、火を点けた。白い煙が天井に昇っていく。

 

 「まぁいい、怪物でも呪いでも……俺の前に出てきた時点で終わりだ」

 

 

 翌日、俺は図書室の禁書棚にいた。

 

 朝っぱらからガキ共が廊下で騒いでいる声を聞き流しながら、分厚い革表紙の古い本を何冊も引っ張り出して机に並べる。埃っぽい空気と蝋燭の匂いが混じって、独特な図書室の臭いが鼻をつく。

 

 ホグワーツ創設者の4人――ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリン。

 

 この学校の土台を作った4人については、それこそガキでも名前ぐらいは知ってる。だが、禁書棚の奥にある資料には、授業で教えるような“きれいごと”なんて一切書かれていない。

 

 ページをめくると、細かい筆記体でぎっしりと書き込まれた歴史と記録が現れる。誰が書いたかも分からねぇような古い記録だが、内容はなかなか興味深い。

 

 スリザリンはもともと“魔法族の純血”を守ることに異常なほど執着していたらしい。言葉を選ばずに言えば、差別主義者だ。

 

 「“純血以外は学ぶ資格なし”……か」

 

 思わず口に出た。

 

 俺は鼻で笑う。禪院家の連中とたいして変わらねぇ。あいつらも術式持ちじゃなきゃ人間扱いしない。俺がガキの頃、呪霊部屋に何度放り込まれたことか。あの腐った価値観は、どこの世界でも似たようなもんだな。

 

 資料によると、スリザリンは他の3人と対立し、最後は学校を去ったとある。その時に、スリザリンは“自分の思想を受け継ぐ継承者のために”()()()()()を造った――と記されていた。

 

 「思想を残すための部屋……か。気持ち悪ぃな」

 

 秘密の部屋の場所は不明とされているが、「学校のどこか」「スリザリンの継承者しか開けない」「怪物が封印されている」という要素だけは記録に残っている。

 

 「怪物……」

 

 何が出てくるかは書かれていない。ただ、“強大”という言葉と“人を殺す”という一文だけがぼやけたインクで残っていた。

 

 マクゴナガルが昨日言っていたことと一致している。つまり、やはりこの事件と秘密の部屋は繋がっている可能性が高い。

 

 「ジジイ……昨日から一言も“否定”しなかったもんな」

 

 俺はぼそりと呟いた。あの爺、全部知らねぇわけじゃない。むしろ、わざと“言っていない”ことがあるはずだ。

 

 そうしてページを繰っていくと、ある文に目が留まった。

 

 『部屋の入り口は、スリザリンに縁ある場所にある』

 

 「……スリザリンに縁ある場所?」

 

 この学校の中でスリザリンと関係が深い場所といえば、当然スリザリン寮だ。だがそれなら50年前の調査でも見つかっているはず。つまり、もっと“別の形”で隠されているということだ。

 

 「……」

 

 俺は禁書を閉じ、椅子の背にもたれた。

 

 秘密の部屋ってのは、ただの仕掛けじゃない。スリザリンの“継承者”とやらの力でしか開かないってことは、物理的な扉でもなければ、普通の魔法でも開かない可能性が高い。

 

 「クソ面倒くせぇな」

 

 あの匂い、あの這いずるような気配……あれが“怪物”だとしたら、城の中に潜んでやがるってことになる。足跡が残らなかったのも、こいつが普通の生き物じゃない証拠だ。

 

 「さて、どう探すか……」

 

 俺は顎に手を当て考え込む。

 

 直接的な探索は難しい。だが、あの腐った臭いは確かに廊下に残っていた。もし同じような痕跡が別の場所にもあるなら、それを辿ることで“巣”に近づけるかもしれない。

 

 「屋敷しもべ妖精を使うか……いや、アイツら、こういう“怪物絡み”は苦手そうだな」

 

 あいつらは便利だが、強力な呪い系や危険な存在には基本的に近寄らないようプログラムされてる。

 

 「俺が動くしかねぇか」

 

 図書室の静寂の中で、自分の声が妙に響いた。

 

 とはいえ、やみくもに探しても意味はない。あの這いずるような気配――つまり、地面を移動してる可能性が高い。となると、下水道や配管、あるいは隠し通路あたりが怪しい。

 

 ホグワーツには隠し通路が山ほどある。数百年分の魔法使いどものイタズラと戦争の跡が詰まってる建物だからな。俺がこの数ヶ月で巡回してきた範囲だけでも、既に把握できていない抜け道がいくつもある。

 

 「……一から全部洗い直すのは面倒だな」

 

 とはいえ放っておくとまた被害が出る。次が猫で済む保証なんかねぇ。

 

 「さっさと出てこいよ、怪物」

 

 俺は禁書を棚に戻し、立ち上がった。

 

 静かな図書室の奥から、パラリとページのめくれる音がした。

 

 ……いや、俺は今、本を閉じたばかりだ。

 

 「……誰だ」

 

 声をかけても返事はない。だが――確かに、棚の向こうで“何か”が動いた。

 

 「……おいおい、もうご登場かよ」

 

 ポケットに手を突っ込み、俺は静かに一歩踏み出した。

 

 静寂の中に、ほんの僅かな擦れる音が響く。

 

 あの夜と同じだ。腐ったような匂いが、また鼻の奥を刺した。

 

 気配の出所に音を立てず向かった。

 

 図書室の奥、禁書棚の裏――俺がさっきまでいた机の近くからだった。床は古い木で、歩くたびにギシギシと音を立てるが、そこは問題ない。こういう場所で音を殺す動きなんて、子供の頃に腐るほどやってきた。

 

 角を回り、棚の影に身を潜め、気配を探る。だが、そこには……何もいなかった。

 

 「……逃げたか」

 

 夜と同じだ。あの這いずるような気配はすぐに消える。人間じゃない。足跡を残さず、気配だけを残す厄介な奴。

 

 だが、全く痕跡がないわけではなかった。机の上に目をやると、薄く光沢のある何かがこびりついていた。

 

 「……なんだこりゃ」

 

 テーブルの表面にべっとりと這ったような跡。触らなくても分かる。ドブ臭ぇ。鼻に刺さるような生臭さと、腐った藻と排水溝を煮詰めたような臭いが混ざっている。

 

 「何かの……粘液か」

 

 言葉にしながらも、近づく気にはならなかった。見た目は半透明で、ぬめり気が強く、まるで生き物が通った直後のようだ。人間のものじゃない。少なくともこんなものを撒き散らす生徒はいねぇ。

 

 その時だった。

 

 「……ん?」

 

 耳に、何か細い音が届いた。

 

 ……スゥ……スゥ……

 

 まるで、壁の中で何かが擦れるような音。

 

 「……配管か?」

 

 この図書室の壁の向こうには、城全体に張り巡らされた排水管や給水のパイプが通っている。屋敷しもべ妖精やメンテナンスの魔法によって普段は問題にならないが、ここまでハッキリと音が聞こえるのは異常だ。

 

 耳を澄ませると、スゥ……スゥ……と規則的な音がしている。這いずるというより、長い何かが管の中を滑っているような――。

 

 「蛇……か?」

 

 頭の中で自然とそういう単語が浮かんだ。

 

 確かに音の質は蛇の鱗が石に擦れる音に近い。日本で夜の森を歩いていると、よく似た音を聞いたことがある。だが、これはただの蛇じゃない。普通の蛇ならここまで臭いは残らないし、こんな量の粘液を撒き散らすこともない。

 

 壁に近づき、掌を軽く当てる。

 

 「……いるな」

 

 冷たい石の壁の向こう、明らかに何かが動いている。這いずる音、湿った感触。サイズは――デカい。

 

 蛇のような長さのものが、一体何本分あるか分からないほどの距離を移動している感触があった。

 

 「これが“怪物”ってやつか……」

 

 50年前に開いたとされる“秘密の部屋”。そこに封印された怪物。スリザリンの継承者だけが呼び出せるという代物。

 

 「やっぱり、もう動いてるな」

 

 俺は深く息を吐いた。

 

 壁をぶち抜いて引きずり出す――それが一番手っ取り早い。だが、この配管の中は複雑に入り組んでいる。下手に壊すとどこに繋がっているか分からないし、生徒のいる寮の近くに直結してる可能性もある。

 

 「……下水に潜ってる可能性もあるな」

 

 俺は足元の粘液を睨みつけた。薄っすらと蛇行するように廊下の方へ伸びている。

 

 動いたのは“今”だ。まだ時間は経ってない。

 

 「追うか……」

 

 軽く肩を回し、音を殺して歩き出す。

 

 足元のぬめりは滑りやすいが、そんなもんは問題じゃない。夜間巡回で廊下を踏破するのなんて、もう何十回も繰り返してる。

 

 だが――

 

 「……消えたな」

 

 廊下の突き当たりで粘液の跡は唐突に途切れていた。

 

 蛇行するようなラインは途中でぷつりと消え、まるで“空間ごと”掻き消えたみたいだった。

 

 「隠し通路……いや、もっと厄介か」

 

 ホグワーツは城そのものが生きてるようなもんだ。通路も壁も気まぐれに変わるし、知らない抜け道なんていくらでもある。しかも、怪物の方がこの学校の構造を把握していたとしたら……。

 

 「ちょこまかと……面倒くせぇ奴だ」

 

 俺は立ち止まり、しばらく壁や床の匂いを嗅ぐように感覚を研ぎ澄ませる。

 

 まだ――ほんのわずかに、あのドブ臭い腐臭が残っていた。

 

 「蛇ってことは……」

 

 そういえば、昨日ダンブルドアと話したとき、奴は“継承者”という言葉を使っていた。つまり、怪物は単独で動いているわけじゃない。――“呼び出してる奴”がいる。

 

 「クソ面倒くせぇな……」

 

 俺は舌打ちし、タバコを咥えた。火は点けねぇ。咥えるだけで頭が少し冷える。

 

 「逃げるってことは、こっちの存在にも気づいてるってわけだ」

 

 敵は人間か、怪物か――あるいはその両方か。

 

 「……まぁいい。見つけたらブチのめすだけだ」

 

 俺はゆっくりと踵を返した。

 

 今日のうちに、この配管の全ルートを洗い直す。

 

 スリザリンの“怪物”とやら、どれだけ隠れ上手か知らねぇが、俺から逃げ切れると思うなよ。

 

 とりあえず俺は、今ホグワーツ内で一番使()()()屋敷しもべ妖精――ドビーのところに向かった。

 

 あいつはちょっと前に校内をうろついてたところを捕まえ、それ以来、競馬新聞の調達係に任命してる。日本の競馬新聞や情報雑誌なんて魔法界の誰も興味ねぇから、屋敷しもべ妖精の空間移動能力を利用するのが一番早い。

 

 ……あ、もちろん金はちゃんと払ってる。俺はそこまでクズじゃない。

 

 「あっ、フシグロ先生ぃ〜!」

 

 ちょうどドビーが何冊か抱えて戻ってきたところだった。日本のコンビニから引っ張ってきたのか、新聞と雑誌に独特のインクの匂いがついている。

 

 「おぉ、ちゃんと持ってきたな」

 

 「は、はいぃ……フシグロ先生のご命令ですからぁ〜!」

 

 目をキラキラさせて言いやがる。正直ちょっと怖い。

 

 「おいドビー、お前ホグワーツの内部構造知ってるか?」

 

 「は、はぃぃ!もちろんですぅ!ホグワーツの内部構造は屋敷しもべ妖精にとって基本中の基本ですぅ〜!」

 

 「そうか、ならちょうどいい。今、蛇みたいな怪物が動いてる。気をつけろよ」

 

 「わ、私の心配をぉ!?うほおおおおおお!!」

 

 こいつは……。

 

 心配してやると、これだ。喜びすぎて鼻から変な音出てるぞ。まぁ、使いやすいから放っておくが。

 

 「すぐに“怪物の痕跡”と“怪しいルート”を調べてこい。できるだけ早くだ」

 

 「はいぃぃぃぃ!ただいまっすぐにぃぃぃ!」

 

 そう叫んだかと思うと、ドビーはパッとその場から姿を消した。空間移動の速さは人間の魔法使いなんかよりよっぽど上だ。

 

 「……便利だな、やっぱり」

 

 屋敷しもべ妖精の空間移動は制限が少なく、壁や魔法のバリアもある程度無視できる。ホグワーツ内部の探索にはもってこいだ。怪物の痕跡を探すなら、こいつほど適任な奴はいねぇ。

 

 俺は競馬新聞を受け取り、そのまま自室へと戻った。

 

 部屋に戻ると、ベッドの上に腰を下ろし、新聞をざっとめくる。

 ……そう、こういう時でも俺の頭の片隅には“競馬”がある。怪物探しと競馬、この2つは俺の日常の両輪みたいなもんだ。

 

 「次の日曜こそ勝ってやる……」

 

 ページをめくりながら、俺は独りごちる。

 

 天与呪縛の俺は、魔法なんて使えねぇし、派手な呪文戦だってできねぇ。でも、怪物の足跡を嗅ぎ分ける勘と、勝負勘は磨かれてる。

 

 「蛇みてぇな怪物……いや、蛇じゃねぇな。デカい。音の感じからして相当なサイズだ」

 

 俺は机に肘をついて考えた。

 

 あの這いずる音、粘液の跡――あれはどう考えても“何かが配管の中を移動している”音だ。普通の生き物なら途中で引っかかる。つまり、あいつはこの城の構造を知っている。あるいは、そこに“馴染んでいる”存在ってことだ。

 

 「スリザリンの怪物……だっけな」

 

 昨日、ジジイ――アルバス・ダンブルドアと話したとき、確かにそう言っていた。50年前の事件と同じ臭いがしてる、ともな。

 

 「でもまぁ……今のうちに動きのルートさえ分かれば、潰すのは簡単だ」

 

 俺は肩を回し、足を投げ出した。

 

 魔法が使えなくても、力でねじ伏せるくらいのことはできる。怪物だろうが呪霊だろうが、相手がなんであれ、俺のやることはいつも同じだ。

 

 「正面からぶっ殺すだけだ」

 

 不意に“パチン”と音がして、ドビーが戻ってきた。

 

 「ふ、フシグロ先生ぇぇぇ!!」

 

 「おう、どうだった」

 

 「見つけましたぁぁぁ!あちこちに粘液と臭いの痕跡がぁぁぁぁ!」

 

 「場所は?」

 

 「地下ですぅ!配管の下、蛇口のある洗面所のあたりに強い痕跡がありますぅぅぅ!!」

 

 「……洗面所、ね」

 

 俺は思わず口角を上げた。

 

 やっぱり地下か。這いずるような音の正体は、最初から下層に潜んでいたってわけだ。

 

 「ご苦労。引き続き見張っとけ」

 

 「は、はいぃぃ!フシグロ先生のためなら命を賭けますぅぅ!!」

 

 ……いや、そこまでしなくていい。

 

 「勝手に死ぬなよ」

 

 「うほぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 また喜びの奇声を上げながらドビーは消えた。

 

 俺はタバコを取り出し、火をつけた。

 

 「……洗面所、地下、蛇。話がどんどん“秘密の部屋”に近づいてきてるな」

 

 煙を吐きながら、天井を睨む。

 

 この怪物、ただの偶然で動いてるわけじゃねぇ。確実に“継承者”がいる。そしてその継承者は――まだ捕まっていない。

 

 「……探し出して、ぶっ潰す」

 

 俺は立ち上がった。

 

 準備を始める必要がある。

 敵が蛇なら、その性質を踏まえた戦い方をすればいいだけの話だ。

 

 「……クソ面倒くせぇけどな」

 

 新聞を机に放り投げ、俺はゆっくりと歩き出した。

 いよいよ“秘密の部屋”の正体に踏み込む時が近づいている。




甚爾はまだ気づいていない…ドビーに日本に飛ばしてもらえればダンブルドアの手を借りずとも競馬ができることに……


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