ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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評価、感想ありがとうございます!!


第十七話

 

 

 

 

 3月4月と何も被害は起こらなかった。そして5月、もうすぐ夏休みが始まる。

 

 ホグワーツは今、危険に満ちている。校内を這い回る怪物と秘密の部屋の噂が遂に外に漏れてしまったからだ。

 

 まぁ何も隠してなかったからバレるのは当然だった。

 

 だがバレて起きたのは最悪のことだった。

 

 「アルバス・ダンブルドアの解任が決まった」

 

 校長室で集まる俺たちは、ジジイ――アルバス・ダンブルドアの前に立つルシウス・マルフォイの口からその言葉を聞いた。

 

 「ふむ……さしずめホグワーツの危険を除去できない責任を取らせる……かね?ルシウス」

 

 ジジイがよっちゃんイカをちびちび食いながら言った。頼むからそれ食うのやめてくれ、酸っぱい臭いが充満してるんだよ。今この場、緊迫してるってのにジジイはいつも通りだ。

 

 「そ、そうだ。まだ被害が出ていないのが救いだ。これで生徒達が被害に遭ってみろ。ホグワーツは終わりだ。あなたではこの事態を解決できないのでは?」

 

 ルシウスが冷笑を含んだ声で言い放つ。その目には露骨な蔑みがあった。あの薄っぺらい自信と誇りの乗った顔を見ると、殴りたくなるな。

 

 「そうじゃのう……確かに事が起きてからでは遅い……」

 

 ジジイの声は穏やかだった。だが俺には分かる。あの目は、完全に相手を観察してる時の顔だ。こいつは、今ルシウスが何を考えているか全部読んでいる。

 

 俺は壁にもたれながら腕を組んでいた。状況は最悪だが、逆に言えば敵も焦ってるってことだ。ルシウスは本当にこの城を守るつもりなんかない。ただ、自分の力を誇示し、上に立ちたいだけの男だ。

 

 「……ダンブルドアを解任して、誰がこの城を守るんだ?」

 

 俺が低く呟くと、ルシウスが一瞬だけ眉をひそめた。俺の存在なんて最初から計算に入れてなかったんだろう。だが今、この場で黙っているつもりはなかった。

 

 「これは評議会での正式な決定です。私がどうこうという話ではない」

 

 「お前の顔が一番楽しそうに見えるけどな」

 

 その言葉にルシウスは眉をひくつかせたが、すぐに冷笑を浮かべ直した。

 

 「まぁ、余計なことは言わないことだ。あなたは外部の“体育教師”だろう?」

 

 「体育教師ってのは便利なもんでな。腕っぷしひとつで話をまとめることもできるんだよ」

 

 ルシウスの笑みが消えた。あぁ……いい気味だ。こういう顔を見るとムカつきも少し薄れる。

 

 「まぁまぁ、落ち着きなさい、フシグロ君」

 

 ジジイが俺を制した。いつもの飄々とした声だが、その奥に冷たい芯がある。こいつは何かしら仕込んでるな。ジジイが本気で焦ってるときは、逆に笑わなくなる。だが今は笑ってる。つまり――まだ終わっていない。

 

 「ルシウスよ、わしの解任はもう決まっておるんじゃろう?ならば、形式を踏む必要もあるまい」

 

 「その通りだ。今夜中に正式な文書が届くだろう。生徒たちのためにも、潔く退いていただきたい」

 

 ルシウスは踵を返し、マントを翻して校長室を出ていった。残されたのは俺とジジイと、マクゴナガル、それとスネイプだ。妙な沈黙が落ちた。

 

 「クソが」

 

 俺は天井を見上げて吐き捨てた。

 「蛇をブッ殺せば全部丸く収まるってのによ。面倒くせぇな政治ってのは」

 

 「フシグロ君、これは政治ではない。ただの“駆け引き”じゃよ」

 

 ジジイが立ち上がり、いつものあの派手なマントを翻した。その目には一切の迷いがなかった。こいつ……やっぱり次の手をもう考えてやがるな。

 

 「君は君のやり方でいい。わしはわしのやり方をやる」

 

 「……つまり、裏と表で同時に動くってことか」

 

 「うむ。表の戦は評議会。裏の戦は――蛇と継承者じゃ」

 

 俺は鼻で笑った。

 「いいぜ、元々この蛇の件は俺の担当だ」

 

 スネイプがジジイに視線を送った。こいつもルシウスを警戒している顔だ。あいつらの繋がりは、俺でもうっすらとわかる。多分こいつも内心穏やかじゃない。

 

 「奴らが蛇の件を本気で片付けるつもりなら、俺を外すことはしない。つまり……あいつらは“片付ける気がねぇ”」

 

 俺はそう言って立ち上がった。ジジイは何も言わず、ただ頷いた。

 

 「まぁいい、継承者と蛇を潰せばいいんだろ。俺のやることは変わらねぇ」

 

 「頼んだぞ、フシグロ君」

 

 「ジジイ、お前はどうする?」

 

 「わしは――“少しの間”この城を離れる」

 

 その言葉に、マクゴナガルが目を見開いた。

 「アルバス!そんなことをしては――!」

 

 「大丈夫じゃ、ミネルバ。これは必要なことじゃ」

 

 ジジイの声は静かだが、誰よりも強かった。

 つまり、もう決まってるってことだ。

 

 「おいジジイ、逃げんじゃねぇだろうな」

 

 「フシグロ君、わしは逃げぬ。むしろ――“戻ってくる”ために出るのじゃよ」

 

 その言葉に、俺は一つ息を吐いた。

 「だったら、俺は蛇をぶっ殺して待ってる」

 

 「うむ、それでいい」

 

 その瞬間、校長室の空気が変わった。

 もう“事件”は他人事じゃない。正面から、裏から、全部叩き潰すフェーズに入ったんだ。

 

 「さぁ……忙しくなるぞ」

 

 

 

 そうしてダンブルドアは城を去り、校長のいない空白ができた。

 

 正直言って奴が居なくなるのは非常に困る。なんせ日本に飛ぶ手段が無くなったにも等しいからだ。競馬に行けない。これが何を意味するか分かるか?収入がなくなるんだよ。魔法界の給料だけじゃとてもやっていけねぇ。

 

 というかアイツの去り際の顔は本当にムカついた。

 

 「少し“遊ぶ”か」

 

 なんて言いながら、まるで遠足にでも行くみてぇな顔で消えていきやがった。ふざけんなジジイ、遊んでる場合じゃねぇだろ。

 

 俺はイライラしながら部屋へと戻っていた。

 

 廊下は不気味なほど静まり返っている。生徒たちの声も、教師たちの話し声も、なにもねぇ。ただ、風が石造りの壁の隙間を抜けていく音だけが響いていた。まるでこの学校そのものが息を潜めているような、そんな空気だった。

 

 無理もない。バジリスクと“秘密の部屋”の話はすでに外に漏れている。ホグワーツは完全に“危険な場所”として認識されはじめていた。

 

 「先生……」

 

 その声が、背後から落ちてきた。

 

 一瞬で体の毛が逆立つ。俺の五感が反応するより早く、声が響いた。つまり――気配を“感じなかった”ってことだ。

 

 反射的に振り向くと、ロンの妹、ジニー・ウィーズリーが立っていた。

 

 ……おかしい。

 

 ジニーの顔色は真っ白、唇も血の気がなく、瞳には焦点がない。まるで“生きていない”。それに、空気そのものが妙に冷たい。息を吸い込むたびに、肺が冷え込むような圧がある。

 

 「おい……どうした」

 

 俺が声をかけると、ジニーは胸元から手鏡を取り出した。

 

 「……ッ!」

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 背後の暗がりから、ぬるりと這い出してくるような巨大な気配がした。腐ったドブの臭いと、生ゴミが腐りきったような悪臭――この匂い、間違いねぇ。

 

 バジリスクだ。

 

 鏡の中に映った金色の縦に裂けた瞳を見た瞬間、足の先から冷たい波が這い上がってきた。石化の力が皮膚を通じて全身に回り始める。俺は咄嗟に視線を逸らし、瞼を閉じたが、完全に間に合わなかった。足元の感覚が一気に奪われていく。

 

 「……お前か。継承者ってやつは」

 

 「君は本当に厄介だったよ」

 

 ジニーの口から声がした。だがそれはジニーの声じゃない。

 

 ――トム・マールヴォロ・リドル。

 

 低く、滑らかで、不快な男の声。

 

 「生徒たちを狙おうにも、君の授業のせいで全員の警戒心が異常に高くなっていた。バジリスクが近づいただけで察知して逃げられる……まったく、計画が何度狂ったか分からない」

 

 「……テメェ」

 

 俺は歯を食いしばり、踏ん張る。

 

 足は完全に石に変わりつつある。だがまだ声は出せるし、腕も少し動く。完全に死んではいない。

 

 「だから君を排除することにした。ジニーは便利だったよ。君には知られていなかったからね。バジリスクを背後に隠形で配置し、鏡越しに石化させる――完璧だろう?」

 

 ジニーの顔が笑う。だけどその笑みはジニーのもんじゃない。リドルの笑みだ。

 

 背後から、巨大な蛇の体が石畳を擦る音が聞こえる。ずるり、ずるりと重たい体を引きずる音。壁が揺れ、空気が歪む。

 

 「君を殺すには、ただ見せればいい。簡単だ」

 

 「上等だよ……」

 

 俺は息を吐いた。

 

 天与呪縛で強化された五感が、蛇の位置を正確に捉える。視界を閉ざしても、音と臭いと圧力で奴の全身を“見て”いるのと同じだ。距離、角度、高さ……すべて頭に入った。

 

 「……俺を舐めんな」

 

 心臓の鼓動が速くなる。体の芯に火がついたように熱が走る。

 

 「俺は――天与呪縛のフィジカルギフテッド。呪力無し、魔力無し、だが代わりに常軌を逸した身体能力と五感を持つ」

 

 これは術式の開示。

 俺に術式はない。だが天与呪縛は呪術の一つ。開示することで、肉体はさらに強化される。

 

 「フンッ!!」

 

 脚が石化しきる直前、俺は身体をひねり、爆発的な力で地面を蹴った。空気が弾け、背後の蛇の気配が目前に迫る。

 

 目を閉じたまま、その顔面に回し蹴りを叩き込んだ。

 

 「『グボォッ!!』」

 

 鈍い音と共に蛇の頭蓋を蹴り抜いた感覚が足裏に伝わる。巨体がのけ反り、地面に激突する衝撃が廊下全体に響き渡った。

 

 「ハッハッハッハッハ!!」

 

 俺は薄く笑った。だが、それが限界だった。

 

 石化は腰にまで達し、体が完全に動かなくなる。視界の端で、バジリスクの片目が潰れ、もう片方の目玉が飛び出し血が噴き出しているのが見えた。

 

 「バカなっ!」

 

 リドルの焦った声が響く。

 

 その声を最後に、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校長室に残っていた教師達とルシウス・マルフォイは、突如外から響いた轟音に息を呑んだ。

 

 「なんだ!?」

 

 校舎全体が軋むように揺れ、窓ガラスが震え、埃が舞う。ルシウスが慌てて立ち上がり、杖を握りしめる。彼の額には冷や汗がにじんでいた。

 

 「セブルス、行きましょう!」

 「分かった」

 

 マクゴナガルとスネイプがほぼ同時に扉を開け、校長室を飛び出した。二人の表情には明確な緊張が刻まれている。教師たちの間にもただならぬ空気が走った。

 

 ルシウスは一拍遅れて続いた。外の異様な臭気が廊下の奥から流れ込んできていた。まるで腐った生ゴミを煮詰めたような、強烈な悪臭。鼻が焼けるようだ。

 

 「この臭い……まさか」

 

 スネイプが小さく呟いた声は、緊張の糸をさらに引き絞った。

 

 三人が廊下を駆けると、すぐに異様な光景が目に飛び込んだ。

 

 石造りの床は大きく抉られ、壁はひび割れ、粉塵が舞っている。廊下一帯は破壊されたような有様だった。生徒がいたら即座に避難命令が出るほどの惨状だ。

 

 その中心に――巨大な血の跡と、ひときわ濃い腐臭。

 

 マクゴナガルが顔を覆いながら呻く。

 「この臭いは……生き物のものです……それもとんでもなく大きい」

 

 「マクゴナガル、あれを」

 

 スネイプが指差した先には――一体の石像があった。

 

 床の中央、瓦礫と血溜まりの中に、まるで戦闘中の一瞬を切り取ったようなポーズで固まっている男。上半身をわずかに捻り、筋肉を隆起させ、まるで今まさに蹴りを叩き込んだ直後のような姿だった。

 

 「まさか……!」

 

 マクゴナガルが駆け寄る。

 

 それは伏黒甚爾だった。

 

 不敵な笑みを浮かべたまま、片脚を振り抜いた姿勢で完全に石化している。石の表面には血の飛沫がこびりついており、その足元には巨大な血痕が広がっていた。

 

 「バジリスク……」

 

 スネイプの低い声が響く。

 その場にいた誰もが確信した。これは――バジリスクとの戦いの痕跡だ。

 

 壁の一部には何か巨大な頭部が叩きつけられたかのような凹みがあり、そこから蛇の体液と血がまだじわじわと滲み出している。腐臭の源はそれだ。

 

 ルシウスは口元を押さえ、青ざめた顔で後ずさった。

 「な……なんだこの……化け物じみた有様は……!」

 

 「ルシウス、伏黒先生がやったに決まっているでしょう」

 

 マクゴナガルの声には驚きと、どこか震えが混ざっていた。あの巨大なバジリスクをまともに叩き潰したのだ。石化していなければ、今ごろ現場には蛇の死体しか残っていなかったかもしれない。

 

 スネイプは冷静な表情を崩さぬまま石像に近づき、慎重に観察した。

 「これは完全な石化だ。……鏡か、反射か、それとも視界を閉ざした状態で石化したのか。だが戦ったことは間違いない」

 

 「先生を助けないと!」

 

 背後から駆けつけてきたフィルチが叫んだ。

 「誰かマダム・ポンフリーを呼べ!」

 

 「もう向かっている!」

 教師の一人が走っていく。

 

 マクゴナガルは石像となった甚爾の顔を見つめた。

 その表情は苦痛ではなく、勝利者の笑みだった。敵をぶちのめして満足そうな顔――そんな顔で固まっている。

 

 「……馬鹿な人」

 

 マクゴナガルがぽつりと呟く。

 声には怒りも涙もなかった。ただ――呆れと、ほんの少しの安堵があった。

 

 「フシグロ先生がいなければ、バジリスクはもっと多くの生徒を襲っていたはずです」

 

 スネイプの静かな言葉が廊下に落ちる。彼も認めざるを得なかった。あの蛇の血の量、破壊の痕跡、それは魔法ではなく“純粋な膂力”によるものだ。

 

 ルシウスはその言葉を聞いてもまだ震えていた。

 「化け物め……いや、人間なのか……?」

 

 マクゴナガルは鋭い目で睨みつけた。

 「彼は――教師です」

 

 その言葉にルシウスは何も言い返せなかった。

 

 その直後、医務室からマダム・ポンフリーが駆けつけ、数人の教師と共に石化した甚爾の搬送準備を始めた。特殊な担架が浮遊し、魔法陣が石像を包むように展開される。

 

 「急ぎなさい、蛇の血は強い毒性を持っているわ!空気に混ざれば生徒たちにも被害が出る!」

 

 マダム・ポンフリーの怒号に、教師たちが素早く動き出した。

 

 廊下から石像が運ばれていく。

 その跡には血と瓦礫と、そして一人の男が残した“戦闘の証”が生々しく残されていた。

 

 ホグワーツの空気が――ほんの少しだけ震えた。

 全員が理解していた。

 

 この男が――化け物と戦い、打ち倒したのだ、と。

 

 

 「なんなんだ奴は!」

 

 ジニー、いや――ジニーの姿をしたトム・マールヴォロ・リドルは、負傷したバジリスクを浮遊させ、誰にも見られぬよう素早く秘密の部屋へと退却した。

 

 夜の校舎に響くのは、自分の荒い息と、バジリスクの重い体が石畳を擦る鈍い音だけ。もしも他の生徒にこの姿を見られていたら、今頃この学校は大混乱に陥っていたことだろう。

 

 バジリスクの右目は完全に潰れ、左目に至っては眼窩から飛び出してぶら下がっていた。長く伸びた蛇の舌がだらりと垂れ、胸の辺り――いや、蛇でいう胴の部分が大きく陥没している。辛うじて息をしているが、それはもはや風前の灯火だった。

 

 「化け物だ……!!」

 

 リドルは怒りと恐怖で顔を歪め、喉の奥から低い唸り声を漏らした。

 

 「まさか……バジリスクが“やられる”なんて……それも、ただの人間に……! 魔法すら持たない、あの伏黒甚爾に……!!」

 

 声が反響し、秘密の部屋へと続く水道管の奥深くまで響く。

 

 バジリスクは本来、ホグワーツ創設者の一人――サラザール・スリザリンの遺産であり、スリザリンの“継承者”にのみ従う伝説級の魔法生物。強力な石化能力と巨大な膂力、鋼鉄すら容易く砕く牙と鱗。そんな存在が、たった一撃で半壊している。

 

 「奴は何だ……“人間”じゃない……あれは――獣だ」

 

 リドルはバジリスクを部屋の中心に下ろすと、杖を構えた。

 

 「エピスキー……」

 

 治癒魔法が淡い光を放ち、蛇の潰れた傷口をなぞる。しかし、傷は完全には塞がらなかった。骨と肉が砕けているのだ。治癒魔法では限界がある。

 

 「チッ……この姿勢では無理だ……」

 

 苛立ち混じりに舌打ちをし、バジリスクの巨大な頭を軽く蹴る。蛇はぐったりとして動かない。

 

 「使えん……このままではバジリスクは次の一撃で死ぬ」

 

 リドルの顔には怒りと焦りが浮かんでいた。計画が崩れる――そういう確信が頭を支配する。

 

 本来の筋書きでは、バジリスクによる連続的な石化事件で生徒たちを恐怖に陥れ、学校全体を混乱させたのち、ハリー・ポッターの“希望”を打ち砕く。恐怖と絶望が蔓延したその瞬間、リドル自身が姿を現すはずだった。

 

 だが、その全てを狂わせたのが――伏黒甚爾だった。

 

 「奴さえいなければ……とっくにこの城は僕のものだった」

 

 指先に力がこもり、杖が音を立てて軋む。怒りで手が震える。

 

 リドルは蛇の死にかけた体を見下ろし、目を細めた。バジリスクの眼球から血が滲み、床に広がる。秘密の部屋の冷たい石床に、その血がじわりと染み込んでいく。

 

 「だが……まだ終わりじゃない」

 

 リドルは顔を上げた。その瞳には怒りだけでなく、計算高い冷たい光が宿っていた。

 

 「バジリスクが使えないのなら――別の“駒”を使えばいい。幸い、僕にはまだ“ハリー・ポッター”がいる」

 

 口の端が歪む。

 

 「奴は“鍵”になる。ヴォルデモート(俺様)の復活のための、ね」

 

 ジニーの体に宿ったリドルは、まるで自分の本体だった頃のように笑った。その笑みは純粋な残酷さと傲慢に満ちていた。

 

 「伏黒甚爾……君は強い。予想以上だった。あれほどの肉体、あれほどの五感……まるで伝承にある“呪われた戦士”そのものじゃないか」

 

 蛇の死にかけた体を背に、リドルは一歩踏み出す。

 

 「でも君には決定的に“足りない”ものがある。魔法が使えない――その一点だ。君はたしかに強いが、君は“壁”を越えられない」

 

 リドルの瞳が細くなる。

 

 「君はここで石のまま朽ちる。だが、僕はその先へ進む。そう、僕が勝つんだ」

 

 秘密の部屋に低い笑い声が響く。

 

 「次はハリー・ポッターだ……僕が、あの少年を“誘導”する。ジニーの姿なら容易いことだ」

 

 リドルは血の海の中でバジリスクの頭を踏みつけ、ニヤリと笑った。

 

 「この蛇が死んでも構わない。これはただの“道具”だ。僕はハリーを秘密の部屋に誘い込み――そして、奴の中にある“力”を引きずり出す。僕が完全に蘇るための“鍵”になる。ジニーの魂では実体化がやっとだからね」

 

 彼の足元に広がる血は、石床の亀裂を伝い、音もなく広がっていく。

 

 「ヴォルデモートの名が――再び世界に響く日が近い」

 

 ジニーの顔をしたまま、リドルは薄暗い秘密の部屋を見渡した。

 

 この瞬間、彼の中で新たな計画が固まった。

 伏黒甚爾という“想定外”を排除することは後回し――ハリー・ポッターを利用して、“勝ち”を拾う。

 

 「待っていろ……ポッター」

 

 秘密の部屋に、リドルの冷たい声と、蛇の血の臭いがいつまでも漂っていた。

 

 しかし……リドルの計画は上手く進まない。それは何故か——

 

 ハリー・ポッター他、ホグワーツの全生徒は伏黒甚爾の授業によって()()といえる程、鍛えられているからである。

 




呪力や魔力に耐性があったとしても、魔法使い殺しと言われるバジリスクの魔眼には敵わないと想定しました。直視すれば即死、鏡とか水面越しであれば石化は変わりません。しかし天与呪縛フィジギフパワーで、一瞬の石化を耐えて更に術式の開示で進行を遅らせて一撃いれるぐらいはできるだろうと……直視自体もバジリスクの事を知っていれば気配を察知した時点で目を閉じて戦えるので楽勝っちゃ楽勝ですね。
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