ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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評価、感想ありがとうございます!励みモリモリです!

今回は短めです。それと少し場面が転々とします。


第七話

 

 

 

 

 

 フィリウス・フリットウィックが山積みにされた本の上に立ち、いつもの甲高い声で呪文の講義を始めた。

 

 「魔法使いの基本の技術は“浮遊術”です!物を浮かせて飛ばすことは、魔法使いの第一歩!皆、羽根は持っとるね?」

 

 教室中がガタガタと揺れた。生徒たちが机に置かれた白い羽根を一斉に持ち上げたからだ。

 ハリー・ポッターもロン・ウィーズリーもハーマイオニー・グレンジャーも、しっかりと自分の羽根をつまんで掲げている。

 

 「よろしい、では練習してきた手首の動きを忘れんように……ピューンときてヒョイです!」

 

 小さな手を勢いよく振り上げ、フリットウィックが楽しげに実演してみせる。

 

 「ピューン、ヒョイ!」

 「ヒョイ!」

 

 教室中に生徒たちの声と羽根を振る音が重なる。

 1年生たちの手首の動きはどこか洗練され、ブレがない。腰もしっかりと入っている。まるで武術の型のような均整の取れた動き。

 

 フリットウィックは、その様子を見逃さなかった。

 

 「おや……皆さん、いい動きですね!芯がしっかりしてます!」

 

 生徒たちにその自覚はない。

 だが、それは伏黒甚爾の体育授業による成果だった。

 

 毎週のように叩き込まれる筋トレと実戦形式の反復運動、そして身体の使い方を無意識に覚えたことで、動き全体が引き締まり、どの生徒もバランス感覚が飛躍的に向上していた。

 

 「よしよし、それでは正確に呪文を唱えましょう。“ウィンガーディアム・レヴィオーサ”!」

 

 「「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」」

 

 声が重なる。

 

 次の瞬間、教室中に置かれた羽根がふわりと宙に浮かび上がった。

 まるで同じ指揮者が合図を送ったかのような、統一された動き。

 一人残らず成功していた。

 

 「うぇ!?みなさん!うほおぉ!すごいです!」

 

 フリットウィックが嬉しさのあまりバランスを崩し、積んでいた本からずり落ちそうになるほどの衝撃だった。

 毎年この授業では、誰かしら呪文を間違えて羽根を焦がしたり吹き飛ばしたりする。

 なのに今年は、一発で全員成功。

 

 「「「ありがとうございます!先生!」」」

 

 生徒たちの声も揃っている。

 

 「い、いや……私の方こそありがとうです!これは……素晴らしい!」

 

 小さな先生は、感極まったように何度も羽根の群れを見上げる。

 まるで白い蝶の群れが舞っているように、教室中がふわりと軽やかな空気に包まれた。

 

 後ろの席でロンがハリーの肩を叩く。

 

 「なぁ……俺たち、ちょっと強くなってね?」

 

 「うん、僕もそう思う」

 

 ハリーは浮かんだ羽根を見上げながら、小さく笑った。

 

 「フシグロ先生の訓練、地味に効いてるんじゃない?」

 

 ハーマイオニーが眼鏡を押し上げて言う。

 腕にはうっすらと筋が浮き、最初の頃よりも体幹がしっかりしているのを自分でも感じていた。

 

 「地味どころか、俺もう筋肉痛が日常だぞ……」

 

 ロンが肩を回しながら呻く。

 だが、声は文句を言いながらも、どこか誇らしげだった。

 

 「でも……こういう呪文が全員一発で決まるのって、今年が初めてなんじゃないかしら」

 

 ハーマイオニーがぽつりと呟くと、フリットウィックは満面の笑みでうなずいた。

 

 「えぇ、そうですよ!こんなことは、私が教員になって以来初めてです!」

 

 興奮気味の声が教室に響く。

 フリットウィックは両手を広げ、生徒たちに大げさなくらい拍手を送った。

 

 「皆さん、自信を持っていいですよ! 魔法の才能ももちろんですが……身体の使い方が素晴らしい!実に見事です!」

 

 授業の終わり際、ふわふわと浮かぶ羽根の群れを見つめながら、生徒たちは口々に笑い合った。

 

 自分たちの体が、着実に変わっている――その事実を、初めてはっきりと感じた瞬間だった。

 

 「……フシグロ先生の授業、キツいけど悪くないかもな」

 

 ロンがぼそりと呟き、ハリーが笑う。

 

 「うん、僕もそう思う」

 

 教室の窓の外には、10月の冷たい風が吹いていた。

 ふわりと宙に舞う羽根が一枚、風に乗って扉の外へと流れ出ていく。

 

 その小さな羽根が――

 生徒たちの“力”の変化を、静かに象徴していた。

 

 

 続いて魔法薬学の授業があった。

 

 地下室にある教室の空気はひんやりと湿っていて、ほんのり薬草と薬品の匂いが混じっている。ランタンの光が長い影を落とし、調合用の大釜がいくつも並ぶその光景は、他の授業とは明らかに空気が違っていた。

 

 「では諸君、調合を始めろ」

 

 低く、冷たい声が響く。

 授業を担当しているのはセブルス・スネイプ。

 細い瞳が鋭く生徒たちを射抜き、まるでひとりひとりの失敗を待ち構えているような口調だった。

 

 この授業を受けているのは3年生。

 

 「……」

 

 生徒たちはスネイプの言葉に特に怯える様子もなく、それぞれの机に置かれた素材に手を伸ばした。

 

 薬草を刻む音、液体が注がれる音、金属のスプーンが鍋肌を叩く音が静かな地下に広がる。

 誰も教科書を見ない。

 素材の色を確かめ、匂いを嗅ぎ、手触りを確認しながら調合を進めていた。

 

 スネイプの細い眉が、ほんのわずかにピクリと動いた。

 

 「……ふん」

 

 教科書も見ず、全員が黙々と正確な手順を踏む。

 それも、型にはまった“お勉強”の動きじゃない。

 身体の軸がぶれず、無駄がなく、正確だ。

 

 ――そう。

 

 それは伏黒甚爾の体育授業の成果だった。

 

 伏黒はただ筋力を鍛えさせているわけではない。

 “杖がなくても生き残る”ための身体の使い方、そして状況判断を叩き込んでいる。

 ただ立つ、ただ構える、ただ息を整える――そんな当たり前の動作を何百回も繰り返し、あらゆる状況に即応できる“身体”を作り上げてきた。

 

 その結果、生徒たちは杖を握っていない時でさえ、立ち方や動きが洗練されていた。

 当然、薬の調合にもそれは表れる。

 

 手の角度、視線の向け方、嗅覚の集中……

 全てがブレず、自然と最適な動作になっていた。

 

 スネイプはその様子を、細い瞳でじっと観察していた。

 

 「……」

 

 驚愕を表情には出さない。

 だが、いつもの授業ではこうはいかないことを知っている。

 

 例年ならば、生徒がいくつも材料を間違え、調合に失敗し、爆発音が一度は響く。

 怒鳴り声と悲鳴と罰則がセットだ。

 

 だが――今日の教室には、そんな気配が一切なかった。

 

 黙々と、正確に、淡々と。

 湯気が立ち上る音だけが、静かに響いている。

 

 「よし、そこ、火加減を少し下げろ」

 

 スネイプが声をかけると、生徒は言われる前から手を伸ばしてつまみを回していた。

 

 「……もうやっていたか」

 

 スネイプの唇がかすかに歪む。

 怒りでも失望でもない。――ほんの僅かな、驚きだった。

 

 「すげぇ、俺、今日まだ一滴もこぼしてない……」

 

 グリフィドールの3年生の少年が、ひそひそ声で呟く。

 

 「いつもならもう爆発してる頃よ」

 

 隣の女子生徒が肩をすくめた。

 その横で、スプーンを回している手は無駄なく、自然と流れるような動きだった。

 

 「……あの体育の授業、効いてんじゃねぇか」

 

 「うん……地味だけど、身体の使い方が変わった気がする」

 

 思えば、甚爾の授業は地獄そのものだ。

 朝からみっちり筋トレと基礎動作の反復。

 手が震えるまで腕立て伏せをし、腿が上がらなくなるまでスクワットをやらされる。

 

 だが、どの生徒も確かに“変わっていた”。

 

 バランス感覚が研ぎ澄まされ、集中力が持続する。

 魔法の精度が、自然と底上げされていた。

 

 スネイプはひとりの生徒の大釜を覗き込み、ゆっくりと頷いた。

 

 「……悪くない」

 

 それは、滅多に出ないスネイプの褒め言葉だった。

 生徒たちがピクリと動き、少しだけ背筋を伸ばす。

 

 スネイプは内心で思う。

 

 ――何が起きている?

 

 教師として、彼はこの1ヶ月の生徒たちの変化を感じ取っていた。

 魔法の精度も集中力も、例年とは比べ物にならない。

 そしてその原因は、嫌でも分かっている。

 

 伏黒甚爾。

 

 闇の匂いを纏った、武骨で異質な教師。

 あの男の授業が、生徒の“身体”そのものを変えてしまったのだ。

 

 「……体育など、必要ないと思っていたがな」

 

 スネイプは誰にも聞こえないように、小さく呟いた。

 

 授業の終盤。

 

 完成した薬の表面は、誰も失敗していない証拠のように、澄んだ光を放っていた。

 全員の薬が、教科書に書かれた通りの色と質感に仕上がっている。

 

 「……全員、よくできた」

 

 それだけ言い残して、スネイプは黒いローブを翻した。

 

 3年生たちの間に、ひっそりとざわめきが走った。

 

 ――スネイプが褒めた。

 

 それはある意味、奇跡のような出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 そんなある日、夜のホグワーツは昼とはまるで違う顔を見せる。

 

 石造りの壁が冷たく光を反射し、風が廊下の隙間を抜ける音が耳に届く。

 そんな時間に、3人の小さな足音が響いていた。

 

 ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー――いつもの3人だ。

 

 「ねぇ、ここって禁じられた3階よね?入っちゃダメなところよ?」

 ハーマイオニーが声をひそめながらも、きっちりと指摘する。

 

 「でもさ、ここしか行けなかったんだよ」

 ロンが肩をすくめる。

 

 「……」

 ハリーは黙って廊下の先を見つめていた。

 

 本来なら、夜の外出は厳禁。

 ただでさえ好奇心旺盛な3人に、動く階段のいたずらも重なり、気がつけば彼らは立入禁止の3階廊下に迷い込んでいたのだった。

 

 「……あ」

 

 その時、3人の背後――入り口の方から小さな足音が聞こえた。

 

 「ニャァ〜」

 

 赤い瞳と茶色い毛を持つ猫。

 管理人フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスだ。

 

 「ヤバい!フィルチの猫だ!」

 ロンが声を抑えきれずに叫ぶ。

 

 「逃げよう!」

 ハリーが先頭に立ち、3人は反射的に駆け出した。

 

 石畳の廊下を走る足音が、夜の静寂に響く。

 通り過ぎるたびに台座の松明がぱちぱちと音を立て、勝手に灯りがついていく。

 

 「……あそこ!」

 ハリーが指さした先には大きな扉があった。

 

 「ダメだ!開かない!」

 ロンが取っ手をがちゃがちゃと回すが、びくともしない。

 

 「どいて!」

 ハーマイオニーが2人を押しのけ、杖を抜いた。

 

 「開錠(アロホモラ)!」

 

 ガチャリ。

 

 解錠の音とともに扉がゆっくりと開いた。

 3人は息を合わせ、すぐさま中に飛び込んで扉を閉める。

 

 「みんな、静かに」

 

 外に耳を澄ませていたロンとハーマイオニーに、ハリーが低い声で告げた。

 だが――そのハリーの視線はすでに、部屋の奥に向けられていた。

 

 「ヒィッ……」

 

 ロンが思わず声を上げた。

 

 ハーマイオニーが慌ててその口を押さえる。

 

 目の前――そこにいたのは、3つの巨大な頭を持つ犬だった。

 うねるような呼吸、肉の焼けるような熱気、獣の唸りの残滓。

 

 「大きい犬……!」

 ハリーが小さく呟いた。

 

 それはハグリッドが飼っている怪物犬フラッフィー。もちろんハリー達はそんなことは知らない。

 

 巨大な体を横たえ、ぐっすりと眠っていた。

 

 「静かに……静かに出よう……」

 「そっとよ……」

 「うん、そっと……」

 

 3人は忍び足で後ずさりし、扉の取っ手にそっと手をかける。

 ギィ……という小さな軋み音がやけに響くが、フラッフィーは目を覚まさない。

 

 そして――3人は無事に部屋を出ることに成功した。

 

 「ふぅ〜……一体何なんだこの部屋?」

 ロンが額の汗をぬぐいながら言う。

 

 「すぐ帰りましょう。危険すぎるわ」

 ハーマイオニーが真面目な声で言い、ハリーもうなずく。

 

 「そうだね……」

 

 3人が踵を返した、そのときだった。

 

 「おい、お前ら――何してる」

 

 廊下の暗がりから、低い声が響いた。

 

 現れたのは伏黒甚爾だった。

 夜の見回りをしていたのだろう。暗闇の中でも、異様な存在感を放っている。

 

 ロンがビクリと肩を跳ねさせた。

 「うわぁっ!せ、先生っ……!」

 

 ハリーとハーマイオニーも同様に凍り付く。

 

 「こんな夜中に、ガキ共が立入禁止の廊下をウロつくってのはどういう了見だ?」

 

 低い声には怒鳴りはない。

 しかし、背筋に冷たいものが走るような圧があった。

 

 「ち、違うんです……!階段が動いちゃって……!」

 ロンが慌てて口を開く。

 

 「帰れなくなったの」

 ハーマイオニーもすぐに続く。

 

 「……階段、ね」

 

 甚爾は目を細め、3人を見下ろした。

 息を呑むような沈黙が流れる。

 

 「それに……先生、僕たち、ただ入っちゃっただけで……」

 ハリーが勇気を振り絞って言った。

 

 「“だけ”で済むと思うなよ」

 

 甚爾の声が落ちる。

 ロンが情けない声をあげ、ハーマイオニーは固まった。

 

 「……ま、今回は見逃してやる」

 

 意外にも甚爾は大きくため息をついて、ポケットに手を突っ込んだ。

 

 「早く寮に戻れ。廊下を歩くときは音を立てるな。猫より足音デカいぞお前ら」

 

 3人は驚いたような顔を見合わせ、それから一斉に頭を下げた。

 

 「ありがとうございます!先生!」

 「すみませんでした!」

 

 「……次はないぞ」

 

 甚爾が背を向けると、3人は小走りで廊下を後にした。

 

 甚爾は一人、その暗い廊下に立ち尽くす。

 3人が出てきた部屋――あの奥に漂う気配を、五感で捉えていた。

 

 「……あのデカブツ、何か守ってやがるな」

 

 呪霊ではないが、鼻につく魔力の濃さがあった。

 あの犬の先には、もっと厄介な“何か”がある。

 

 「面倒くせぇ……また厄介事の匂いがする」

 

 暗がりの中、甚爾はゆっくりと目を細めた。

 ホグワーツの夜は、静かに波紋を広げ始めていた。

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