ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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第十五話

 

 

 

 

 1995年11月某日、ほんの少し寒くなってきた頃だった。朝の空気が肺に刺さる感じがして、もうすぐ冬が来るなと嫌でも分かる季節だ。ホグワーツの廊下も石が冷えきっていて、歩くたびに靴底から冷気が伝わってくる。

 

 ジジイに校長室に呼ばれ、面倒だと思いながら行ってみると、既にマクゴナガルとスネイプが揃っていた。どっちも難しい顔をしている。ろくな話じゃないのは、この時点で察しがついた。

 

 「お前らも呼ばれたのか」

 

 俺が言うと、マクゴナガルが軽く頷いた。

 

 「フシグロ先生、あなたもダンブルドアに?」

 

 「あぁ」

 

 「そうですか……」

 

 スネイプは腕を組んだまま無言だ。視線が低く、眉間に皺が寄っている。嫌な予感しかしない。

 

 そんな空気の中、奥の扉が静かに開いてダンブルドアが現れた。いつものローブ姿だが、表情はどこか硬い。冗談や世間話をする気分じゃないらしい。

 

 「集まったかの。少々込み入った話がある」

 

 「嫌な感じだな」

 

 俺が率直に言うと、ジジイは「ホホホ」と乾いた笑いを漏らした。

 

 「まぁそう身構えんでくれ。コーネリウスから連絡があっての……アンブリッジ嬢がまた何か企んでおるようじゃ」

 

 「あのババアが?懲りないな」

 

 口に出した瞬間、スネイプの口角が僅かに上がったのが見えた。あいつも同意見らしい。

 

 「ポッターの件しかり、一昨年のフシグロとブラックの冤罪の件で痛い目を見た“奴”ですか」

 

 スネイプが低い声で言う。その声音には、はっきりとした嫌悪が混じっていた。

 

 「そうじゃ」

 

 ダンブルドアは杖を軽く床に突き、ゆっくりと言葉を続けた。

 

 「今、魔法省内では復活したヴォルデモート対策に奔走する者達がおる。その一方で……別の動きをしておる者達もいる。恐怖を利用し、己の立場を固め、仲間を集めておる連中じゃ」

 

 空気が一段重くなる。

 

 「アンブリッジは既に、その“闇の陣営”に与しておると見てよい」

 

 「まぁ分かりきってることだな」

 

 俺は肩をすくめた。あの女がまともな側につくとは、最初から思っていない。

 

 「コーネリウスは無事か?」

 

 「無事じゃよ」

 

 ダンブルドアは頷いた。

 

 「魔法省にはあまり行かないようにしているようじゃ。護衛も増やしておる」

 

 「どうせパチンコだろ」

 

 俺が言うと、マクゴナガルが咳払いをした。スネイプは鼻で笑う。

 

 「……フシグロ君」

 

 ダンブルドアが少しだけ声を低くした。

 

 「今回呼んだのはの、アンブリッジが“ホグワーツそのもの”に手を出す可能性があるからじゃ」

 

 「は?」

 

 思わず眉を寄せる。

 

 「監査だの、教育改革だの、言い訳はいくらでも用意できる。魔法省の名を使えば、表向きは正当な手続きじゃからの」

 

 なるほど。直接攻められないなら、内側から腐らせるつもりか。あの女らしいやり口だ。

 

 「教師の首を切る気か?」

 

 「それもあり得る。あるいは授業内容への介入、生徒への締め付け……いずれにせよ、ホグワーツを“従わせる”のが目的じゃろう」

 

 「ふざけた話だ」

 

 俺は壁にもたれ、腕を組んだ。こういう政治的な駆け引きは性に合わない。だが、放っておけば面倒なことになるのは目に見えている。

 

 「フシグロ先生」

 

 マクゴナガルがこちらを見た。

 

 「あなたの授業、生徒達への影響力は想像以上です。アンブリッジが目を付けない理由がありません」

 

 「……だろうな」

 

 厳しく鍛えた結果、ガキ共が言うことを聞くようになった。それが気に入らない大人もいるだろう。

 

 「だからの」

 

 ダンブルドアが穏やかに、だがはっきりと言った。

 

 「しばらくは特に注意してほしい。教師陣も、生徒達もじゃ。アンブリッジは必ず動く」

 

 「分かったよ」

 

 俺は短く答えた。

 

 面倒ごとは嫌いだ。だが、ホグワーツを荒らされるのはもっと気に食わない。アンブリッジが何を企んでいようと、ここで好き勝手させる気はない。

 

 「というかよ、コーネリウスは頭張ってる大臣だろ。アンブリッジをさっさとクビにできねぇのか?」

 

 率直な疑問だ。あの女の横暴は今に始まった話じゃない。表向きは法と秩序を掲げながら、実際にやっていることは権力の乱用そのものだ。前にも散々やらかして左遷までされていたはずなのに、懲りるどころかさらに図に乗っている。正直、異常だ。精神構造からして壊れている。

 

 「コーネリウスの影響も、今や魔法省ではかなり薄れていての……まぁ原因はわし達にもあるんじゃが——」

 

 ダンブルドアは言葉を濁しながら、いつものように柔らかな口調でそう言った。だが、その目は笑っていない。現状がかなり厄介なところまで来ているのは、ジジイ自身も分かっている。

 

 俺は鼻で笑った。

 

 俺たちで賭博旅行に行ったからな。アレ以来、コーネリウスはアル中パチカスのダブルコンボを決めてる。昼間から酒臭い上に、魔法省に顔を出す頻度も激減。代わりに裏で動く連中が増えた。そりゃ、影響力も落ちるわけだ。

 

 「自業自得だろ」

 

 「そう言ってしまえばそれまでじゃがの」

 

 ダンブルドアは杖を指で転がしながら続ける。

 

 「だが、今の魔法省は一枚岩ではない。恐怖に飲まれ、保身に走る者が増えておる。アンブリッジのような人間にとっては、今が好機なのじゃろう」

 

 「恐怖ねぇ……」

 

 ヴォルデモートが復活した。それだけで十分すぎるほどの恐怖材料だ。まともな神経をしていれば、冷静な判断なんてできなくなる。そこに付け込む輩が出てくるのも、まぁ自然な流れか。

 

 「だがよ」

 

 俺は腕を組み直し、壁にもたれたまま言った。

 

 「だからって、あの女を野放しにする理由にはならねぇ。ホグワーツに手ぇ出されたら、ガキ共が一番の被害者だ」

 

 マクゴナガルが静かに頷いた。

 

 「その通りです。教育の場に政治を持ち込むなど、許されることではありません」

 

 「スネイプ、お前はどう思ってる?」

 

 話を振ると、スネイプは一瞬だけ視線を上げ、すぐに逸らした。

 

 「アンブリッジが無能で危険なのは同意する。だが、魔法省と全面的に事を構えるのは得策ではない」

 

 「要するに様子見か」

 

 「そうだ」

 

 即答だった。

 

 「向こうが仕掛けてくるなら対処すればいい。しかし、こちらから火種を増やす必要はない」

 

 理屈は分かる。分かるが、気に食わない。

 

 「……結局、俺たちでなんとかやるしかねぇってことか」

 

 ダンブルドアが小さく笑った。

 

 「そういうことになるの。少なくとも、この城の中ではの」

 

 ホグワーツは堅牢だ。結界も、歴史も、積み重ねてきた力もある。だが、内側から壊されれば意味がない。アンブリッジが狙うとしたら、そこだ。

 

 「フシグロ君」

 

 ジジイが俺を見た。

 

 「君には、いつも通りでいてほしい」

 

 「いつも通り?」

 

 「厳しく、だが公正に生徒を導く。それだけでよい。君の授業は、既に生徒達の芯を鍛えておる」

 

 俺は舌打ちした。

 

 「面倒な役回りだな」

 

 「信頼しておるということじゃよ」

 

 そう言われても嬉しくはない。だが、断る理由もなかった。

 

 アンブリッジが何を仕掛けてくるにせよ、ホグワーツは俺の稼ぎ場で、ガキ共は俺の“商品”みたいなもんだ。守らねぇ理由はない。

 

 「分かったよ」

 

 短く答え、俺は壁から背を離した。

 

 「その代わり、あのババアが一線越えたら……遠慮はしねぇぞ」

 

 ダンブルドアは目を細め、楽しそうに笑った。

 

 「それは……その時に考えようかの」

 

 嫌な予感しかしねぇ。

 

 

 それから数日後、ジジイの言った通りになった。ホグワーツに魔法省の役人がやってきた。しかも、よりにもよってアンブリッジ付きだ。嫌な予感しかしねぇ。空気が冷えたとか、風向きが変わったとか、そういう曖昧な感覚じゃない。胃の奥が重くなる、はっきりした不快感だ。

 

 俺達教師陣とダンブルドアは、城の応接間で連中を出迎えた。重厚な調度品、歴代校長の肖像画、磨き上げられた床。格式だけは無駄に整っている場所だが、今日はそこに漂う空気がやけに濁っている。

 

 扉が開き、先頭で入ってきたのは例のピンクガエルだ。全身ピンク。帽子も、ローブも、靴も、持っている書類入れまでピンク。視界がうるさい。後ろには魔法省の役人が数名、緊張した顔で並んでいる。まるで処刑場に連れてこられたみてぇなツラだ。

 

 「ダンブルドア校長、お久しぶりでございますわ」

 

 甘ったるい声。相変わらず耳障りだ。

 

 「うむ、アンブリッジ嬢」

 

 ジジイはにこやかに応じた。いつもの作り笑いだが、内側で何を考えているかは読めねぇ。隣に立つマクゴナガルは背筋を伸ばし、スネイプは腕を組んで壁際に寄っている。フリットウィックは椅子の影に半分隠れるようにしていた。

 

 俺は少し後ろに立ち、連中の様子を観察していた。魔力の流れは平凡だ。だが、アンブリッジから漂う、あの嫌な粘ついた感じは健在だ。権力に寄生する人間特有の臭い。吐き気がする。

 

 「本日は、魔法省からの正式な視察ということで参りましたの」

 

 アンブリッジはそう言って、手に持った書類をパラパラとめくる。わざとらしい仕草だ。

 

 「ホグワーツが、現在の情勢に適切に対応しているかどうか……教育内容、教員の資質、生徒の指導体制、すべてを確認させていただきますわ」

 

 「随分と急じゃのぉ」

 

 ジジイが穏やかに言った。

 

 「緊急事態ですもの。闇の帝王の復活が公になった今、次代を担う子供達を誤った思想に染めるわけにはいきませんでしょう?」

 

 その言葉に、マクゴナガルの眉がわずかに動いた。スネイプは鼻で笑う。俺は心の中で舌打ちした。

 

 誤った思想?笑わせる。自分の都合のいい価値観を押し付けたいだけだろ。

 

 「具体的には、どのような点を確認したいのかね?」

 

 ジジイが尋ねる。

 

 「まずは授業内容ですわ。特に、身体的な訓練を重視する体育の授業。あれは教育の範疇を逸脱しているとの声が上がっていますの」

 

 来たか。

 

 俺は肩を鳴らした。

 

 「俺の授業か」

 

 アンブリッジがニヤリと笑い、俺を見た。

 

 「そうですわ、フシグロ先生。生徒に過度な肉体訓練を課していると聞いております。魔法教育の場に相応しくない、粗野で暴力的な指導だと」

 

 「へぇ」

 

 短く返した。

 

 「で、誰が言ってんだ?」

 

 応接間の空気が一瞬で張り詰めた。役人の一人がゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。

 

 「そ、それは……保護者からの声ですわ」

 

 「どこの誰だ」

 

 「個人情報ですのでお答えできません」

 

 便利な言葉だ。責任を取らずに石を投げるための魔法の呪文。

 

 「アンブリッジ嬢」

 

 ジジイが静かに割って入る。

 

 「フシグロ君の授業は、わしの許可のもと行われておる。生徒の成長も目覚ましく、事故も起きておらん」

 

 「ですが校長、教育とは本来もっと……優しく、穏やかであるべきですわ」

 

 「優しさだけで生き残れるほど、今の魔法界は甘くないじゃろう」

 

 その一言で、アンブリッジの笑顔が僅かに歪んだ。

 

 俺はその様子を見て、内心で笑った。

 

 どうやら、戦争の火種はもう点いてやがる。

 

 「フフッ!魔法界を戦場か何かと勘違いしてらっしゃるのですか?アルバス・ダンブルドア」

 

 アンブリッジが甲高い声で笑った。笑顔は張り付いているが、目だけが冷たい。甘ったるい声の裏に、露骨な敵意が透けて見える。

 

 「勘違いなどしておらんよ、アンブリッジ嬢」

 

 ジジイは相変わらず穏やかな口調だったが、その声には芯があった。

 

 「君はさきほど言っていたではないか。闇の帝王が復活したと……それを認めた以上、魔法界はすでに戦場になりかけておるのではないかね?」

 

 「魔法省がそのような事態を許しません!」

 

 アンブリッジは胸を張って言い切った。だが、その言葉には重みがない。守る力も覚悟もない人間が、決まり文句を並べているだけだ。

 

 「ならホグワーツなぞに構っている暇はないじゃろう」

 

 ジジイが淡々と返す。

 

 ……まったくだ。俺も同感だ。外で火が燃え広がってるってのに、城の中の教師のやり方にケチをつけに来る余裕がどこにある。

 

 「いいえ、そういうわけにもいきませんのよ」

 

 アンブリッジは一歩前に出て、指先で書類を叩いた。

 

 「魔法界の大切な()()である子供達を、兵士のように扱われては困りますの。ええ、まるで軍隊のように」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がざらついた。

 

 財産?兵士?

 

 ガキ共を数字や所有物としてしか見てねぇ目だ。吐き気がする。

 

 「軍隊?」

 

 ジジイが眉を上げた。

 

 「それこそ、君の方が何かを勘違いしておるよ」

 

 ジジイはゆっくりとアンブリッジに向き直る。

 

 「わしは生徒達に剣を持てと言っておらん。敵を殺せとも教えておらん。ただ、生き延びる力を与えているだけじゃ」

 

 「生き延びる?子供達に?」

 

 アンブリッジは鼻で笑った。

 

 「そんなものは魔法省が守りますわ。規則と秩序で十分です」

 

 「規則が人を守ったことが一度でもあったか?」

 

 俺は思わず口を挟んだ。静かだった応接間の空気が、一段と張り詰める。

 

 「フシグロ先生、あなたは発言を慎みなさい」

 

 「嫌だね」

 

 即答した。

 

 「規則が守るのは、責任を取らねぇ連中のケツだけだ。死ぬのはいつも現場の人間だろ。ガキも大人も関係ねぇ」

 

 アンブリッジの顔が引きつる。役人共が視線を逸らす。

 

 「あなたの授業は危険すぎます!」

 

 「危険じゃねぇ訓練なんざ意味がねぇ」

 

 短く言い切った。

 

 「転んだら死ぬかもしれねぇ世界で、机に座ってお勉強だけしてりゃ助かると思ってんのか?」

 

 マクゴナガルが小さく息を吸った。スネイプは口元を歪め、黙って聞いている。

 

 「……ダンブルドア校長」

 

 アンブリッジは俺から視線を外し、再びジジイを見た。

 

 「魔法省としては、今後ホグワーツの教育方針により深く関与する必要があると判断しました。監査、指導、場合によっては……人事にも」

 

 「つまり口出ししたいというわけじゃな」

 

 「そう言っていただいて構いませんわ」

 

 ジジイはしばらく黙ってアンブリッジを見つめていた。その沈黙が、やけに長く感じられた。

 

 「……分かった」

 

 その一言に、アンブリッジの口元が勝ち誇ったように歪む。

 

 「ただし」

 

 ジジイは続けた。

 

 「ホグワーツはわしの城じゃ。生徒も教師も、わしが預かっておる。そのことを忘れぬようにな」

 

 その言葉には、老獪な魔法使いの覚悟が滲んでいた。

 

 ……やれやれ。

 

 どうやら、この城でも一悶着じゃ済まなそうだな。

 

 「もちろんですわ、ダンブルドア校長。わたくし達は生徒の教育方針の査察と、ホグワーツの“状況”確認をしに来ただけですもの。では早速、授業の査察をしてもよろしいですわよね?」

 

 アンブリッジが、張り付いたような笑顔を浮かべて言った。歯を見せて笑っているが、目だけがまったく笑っていない。あぁ、嫌な予感しかしねぇ。こういう笑い方をする奴は、決まってろくなことをしない。

 

 「うむ、それならば丁度よい」

 

 ジジイが杖を軽く鳴らしながら、わざとらしく頷いた。

 

 「これからフシグロ君の授業が始まるところじゃ。それを見てもらうのが一番分かりやすいじゃろう」

 

 ……………ほらな。

 

 俺とジジイの目が合う。ほんの一瞬だが、長年の付き合いで嫌でも分かる。

 

 (分かっておるな?)

 

 視線だけで語りかけてきやがる。ジジイのこういうところは本当に性格が悪い。

 

 (アンブリッジを授業に参加させて、懲らしめればいいんだな)

 

 俺はわざと目を細めて返した。言葉はいらねぇ。

 

 (ホッホッホ、それもよかろう)

 

 ダンブルドアの瞳が一瞬で輝いた。完全に楽しんでやがる。生徒を守るためとはいえ、このジジイ、内心では確実に面白がっている。

 

 「……随分と自信がおありのようですわね」

 

 アンブリッジが俺を値踏みするように見た。小太りの体を揺らしながら、上から目線で観察してくる。虫唾が走る。蹴飛ばすぞ。

 

 「自信?」

 

 俺は鼻で笑った。

 

 「違ぇよ。ただ事実だ。俺の授業は、口先だけの役人には向いてねぇってだけだ」

 

 「な、なんですって?」

 

 「言葉通りだ。怪我したくなきゃ、無理に首突っ込むな」

 

 アンブリッジの頬が引き攣る。だが引き下がらない。こういう女は、痛い目を見るまで理解しない。

 

 「査察官として同行するのは当然の権利ですわ。生徒に危険な教育を施しているかどうか、きちんと見極めなくては」

 

 「ハッ、好きにしろ」

 

 俺は踵を返した。

 

 「文句言う前に、まずは体で覚えろ」

 

 応接間を出て、中庭へ向かう廊下を歩く。石床に足音が反響する。後ろからアンブリッジと役人連中が付いてくる気配が鬱陶しい。

 

 中庭に出ると、既に生徒達が整列していた。全員、背筋が伸び、私語は一切ない。これだけで、アンブリッジの顔が僅かに強張るのが分かった。

 

 「今日は見学者がいる」

 

 俺が短く言うと、生徒達の視線が一斉にアンブリッジへ向いた。

 

 「……何人か、嫌な顔してますわね」

 

 アンブリッジが小声で言った。

 

 「賢いだけだ」

 

 俺は前に出て、生徒達を見渡した。

 

 「今日は通常メニューだ。走る、跳ぶ、組む。余計な配慮はしない」

 

 生徒達の目が一段と鋭くなる。

 

 「なお」

 

 俺は一度だけ、アンブリッジを振り返った。

 

 「査察官殿も、参加してもらう」

 

 「……は?」

 

 間の抜けた声が漏れる。

 

 「見てるだけじゃ分からねぇだろ。体験学習だ」

 

 ジジイの方を見ると、満足そうに頷いてやがる。スネイプは口元を隠して肩を震わせ、マクゴナガルは頭痛を堪えるような顔をしていた。

 

 「わ、わたくしは……」

 

 「大丈夫だ」

 

 俺は淡々と言った。

 

 「死なねぇ程度には、加減してやる」

 

 アンブリッジの顔色が、はっきりと青ざめた。

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