理を刻む者   作:茅薙

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あらすじにも掲載しますが、主人公のイメージイラストです。


【挿絵表示】


2次創作ガイドラインに引っかからないようにAIに出力させるのに苦労しました。


1話 ダイスと取引

 気づけば、白い部屋にいた。

 照明も窓もない、ただ白い四角の箱。音も匂いも消えた世界で、息をするたびに自分だけが存在していることを思い知らされる。

 

 部屋には三つだけ──テーブルと二つのダイス。

 まるで、振る以外の選択を奪われたかのようだった。

 

 明らかな誘導を感じながらも、私はダイスを取った。

 転がる音が静寂を切り裂き、目の前の景色がゆっくりと崩れていく。

 意識が沈み、次に目を開けたときには──ゴミ山の上にいた。

 

 それが、二度目の生の始まりだった。

 

 

 

 ヨルビアン大陸のある都市。ビルが並び、人工の光が太陽に取って代わる。酒場へとくりだす喧騒に混じり、裏路地へと進む人影。

 メンズスーツの上からコートを羽織ったその麗人は、アタッシュケースを携え、待ち合わせ場所へと向かっていた。

 

 彼女の洗練された立ち姿を見て、かつて襤褸(ぼろ)を纏い、ゴミ山で日々を過ごしたと信じる者は一人もいないだろう。仕立ての良い服を見事に着こなしたその姿は完璧な気品に満ち、目元に宿る商売人特有の冷徹さだけが、彼女が生きる世界の厳しさを物語っていた。

 

 目的地である既に使われていない地下駐車場に着くと、取引相手のマフィアが寄越した構成員が待っていた。裏社会特有の粗暴さが滲み、仕立ての良いスーツに窮屈な印象を与えている男。虚勢を張っているが、怯えと屈辱を隠しきれていない。

 薄暗い空間に、彼が持つ懐中電灯の光が鋭い円を描いている。

 

「ブツはそれか?」

 

 彼はすぐさま、彼女の持っているアタッシュケースを顎で指して確認する。その目つきは、一刻も早く取引を終わらせたいという焦りを宿している。

 

「ええ、注文通り、凡人でも使える防護の装飾品と、威力を強化し反動を減らした拳銃の2つ。」

 

 彼女は静かにアタッシュケースを開けて中を見せる。中には宝石の嵌め込まれたネックレスと、一般的なオートマチック拳銃がある。そのどちらにも文字のような刻印が刻まれており、僅かだが周囲に張り付くように存在感を主張していた。

 

 構成員は、光を当ててそれらを凝視した。彼には念の力は見えないが、その圧倒的な存在感が、得体の知れない圧力となって肌に突き刺さる。

 

 彼はゴクリと唾を飲み込んだ。彼にとって、念能力者はすべて人を超えた「化け物」だ。そして、目の前のこの女は、その化け物たちが持つ力を、こんな無機質なモノに閉じ込め、分け与えることができる。その驚異的な価値と危険性を、彼は骨身に染みて理解していた。

 

「代金は?」

 

 氷の刃のような声音に、彼はハッと我に返った。これだ、と彼は持っていたアタッシュケースを渡し、主人公が受け取る。

 

「足りませんね」

 

 彼女が重さを確認する動作だけで、構成員の顔が一瞬にして引きつる。彼は慌てて懐からもう一つの小さなケースを取り出した。

 

「残りは宝石だ。鑑定書もついてる」

 

「支払い方法は事前に提示するようお願いしていたはずですよ」

 

 彼女の冷たい指摘に、構成員は頭を掻き、周囲を気にするように目線を彷徨わせた。

 

「緊急の取引があったんだ。宝石の価値自体は本来の代金より高い。差額は詫び料として受け取っとけとボスからだ」

 

 彼はここで組織の権威を使い、なんとか体面を保とうとする。

 

 彼女はしばし沈黙し、宝石の輝きと現金の少なさを比較した。その時間が、構成員には永遠のように感じられる。

 

「踏み倒そうとしていないなら、今回はそれで構いません。次からは注文の時に指定した方法で揃えてください」

 

 彼女は取引の主導権が完全に自分にあることを宣言する。

 裏社会でも信頼は必需品だ。今回の醜態が広まれば、ボスが変わって落ち気味の信頼が、地に落ちてしまう。構成員は、女の脅しが、組織の生命線であることを理解した。

 

「わかった。確かに承った。ボスに報告しておく。」

 

 女が去り、彼は思わず息を吐く。長年裏社会に浸かり、ファミリーの幹部格までのし上がった彼だが、指先一つでこちらを殺せる化け物と対面するのは、いつまでも慣れない。

 

 あの女がマフィアンコミュニティに食い込み、商品が出回り始めてから10年も経っていない。しかし、今では見る目のあるものは皆、彼女の作品を求める。

 念能力者本人には及ばずとも、その力の一端を振るって自らの身を守れるのは、マフィア幹部にとって福音だった。

 念能力者を護衛として長期間雇い続けるよりは安く済み、裏切りの心配もしなくていい。念能力者の護衛と併用すれば、より大きな脅威からも身を守ることができる。

 

 故に、彼は緊張が解けたことで湧いてきたボスへの苛立ちを露わにする。

 

「化け物の機嫌を損ねるようなことさせやがって。女だからと下に見てるんじゃないのか?化け物に女も何もないだろうに。大体趣味の品を急に買うからこんな…」

 

 コツ…コツ…

 

 気づけば去っていったはずの足音が戻ってきている。慌ててその場を去る準備をするが、間に合わない。

 

「そういえば、ひとつ伝え忘れていました」

 

 彼は不格好な体勢で凍りついた。

 

「何か急用でも?まぁひとつだけ。時間が経てば効果が薄れることもあります。安心を得たければ定期的にメンテナンスに持ってくるように」

 

「わ、分かった」

 

 彼は屈辱的な安堵とともにそう返し、再び去っていった麗人を見届けて、今度こそその場を去った。




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