対価に応じて願いを叶える天秤型の道具
対価の量によって左の皿が沈み、願いの規模や難易度によって右の皿が沈む
釣り合った場合に対価を消費して願いを叶える
軸となるのは、契約・公正・成就の概念
ゴンさん化や、ナニカが念能力扱いならいけるのではと考えて作られた。
商売で築き上げた情報網は、今日も確実に機能していた。
飛び込んできたのは、驚くべき──そして喉から手が出るほど待ち望んでいた報せ。
曰く、ある地域に巨大な異形の鶏が現れたという。
それだけでも異例だが、さらに念能力の使用が確認されたらしい。
カヤが作品を売り始めた理由は、そもそもこうした珍種──すなわち幻獣を探し出すためだった。
だが、幻獣は容易に姿を見せない。見つかるほど凶暴なものは、たいてい腕利きのハンターに狩られてしまう。
だからこそカヤは、商売を通じて人脈を広げ、世界中に情報の糸を広げ続けてきた。
最速で、最も確かな情報を掴むために。
過去にも、念を扱う動物の報告を追って狩りに出たことはある。
だがそのときの獲物は、期待外れだった。
今回は違う。情報源は実際に交戦し、生還した者からの聞き取りだ。その信頼度は、過去最高。
報告によれば、その異形の鶏は成人男性の頭を越える体高を持ち、翼はコウモリのように皮膜に覆われていた。
尾は爬虫類のように長く、鱗に覆われている。
そして──決定的なのは、「周囲を石化させる」力を持つという点だった。
本能的なオーラ操作に長けた動物は、下手な人間よりも厄介だ。ましてそれが猛獣なら、戦闘の技量に関係なく脅威となる。
「……これは、錆落としが必要ですね」
小さく呟く。
最近は研究ばかりで、戦闘から遠ざかっていた。感覚が鈍っているのは自覚している。
この大物に挑む前に、調整がいる。
「賞金首あたりが、手頃ですか」
瞳に一瞬、冷たい光が宿る。
都市の外れ──放棄された区画。
錆びた鉄骨と崩れた建材が風に鳴り、人気はない。
「賞金首狩り、いつぶりでしょうか」
独り言がこぼれる。
思考を整えるには、声に出すのが癖になっていた。
資金を商売で得る以前、カヤは
その頃から念能力者の疑いがある標的を優先していたが、今回も方針は同じだ。
ただ、短時間で居所を掴める相手は、たかが知れている。
「一応、銃以外で遠距離攻撃を使う奴を選びましたが……さて。」
廃墟全域を覆うには、彼女の円でも範囲が広すぎる。
位置の特定までは至らない。
カヤは小さく息を吐き、黄金の天秤を取り出した。
ルーンの刻まれた皿が微かに光を放つ。
「試してみましょう」
オーラを捧げると、天秤は静かに傾いた。
「聖杯よ──獲物の在処を示せ。」
右の皿に願いが乗り、均衡を取り戻す瞬間、空気がわずかに震える。
天秤の中央に淡い光球が生まれ、針を象る。
それは一点を指し示し、願いは叶えられた。
「あっちですか」
短く呟くと同時に、オーラを戦闘用に活性化させる。
足裏が地を蹴る。
廃墟に、わずかな風の残響だけが残った。
疾風のような速度で、廃ビルへとたどり着く。
同時に、標的を示していた針は光の粒となって消えた。
廃墟となったビルは、外壁に風化の痕が濃く残る。だが内部の様子は、外からでは伺えない。
隠す気がないのか、獲物の気配は容易に察知できた。
窓の位置からして、おそらく四階か五階。
地上からすぐに突入しづらく、念能力者なら飛び降りも可能な、実にいやらしい位置取りだった。
「せっかくだから、こちらも試しましょう」
カヤは杖を取り出し、静かに円を展開する。
オーラが空間に広がり、ビル内部の様子が手に取るように伝わってくる。
感知によれば、標的は慌てて何かをしている。
活性化したオーラと円の展開に何かを感じ、事態の異変を悟ったのだろう。
だが、関係はない。牙は容赦なく迫る。
「がぁぁぁ! 誰だ! 出てこい!」
「腕を狙ったんですが、大分外れましたか。自由度が高い分、制御が難しいですね」
愚かな男の上げる戦闘中の無意味な叫びを、カヤは冷ややかに無視した。
代わりに、自らの作品の精度を淡々と品評する。
「これは十分ですね。……ついでに、もう一つ試しますか」
聖杯を取り出し、黄金の天秤にオーラを捧げる。
「聖杯よ──我が身を獲物のもとへ。」
願うは転移。
円に展開していたオーラを含め、顕在オーラの大半が聖杯に吸い込まれていく。
次の瞬間、カヤの姿はその場から掻き消えた。
「……ふぅ。万能に近いが、燃費は悪いと」
わずかな距離でさえ大量のオーラを消費したことに息を吐き、聖杯をしまう。
「お前か! ぶっ殺してやる!」
カヤが突如現れたことに疑問を抱く余裕もなく、男は怒号とともにナイフを構える。
振り回された刃から、鎌鼬が発生。
オーラを帯びた真空の刃が、次々と飛来する。
しかし、それらは一つとしてカヤを捉えない。
誘導も制圧も欠いた攻撃など、当たるはずがない。
隙間を見切り、軽快なフットワークで避けていく。
ふと、カヤの目が男の短剣に刻まれた文字へと向く。
「……私の作品じゃないですか。」
そう。男が握るのは、かつてカヤが市場に流した品の一つだった。
ブラックマーケットで手に入れたそのナイフの“力”に酔い、男は念に覚醒したのだ。
「それが出す鎌鼬にはオーラが付与されないはず、貴方の能力ですか?」
「うるせぇ!黙ってしね!」
念の産物を手にしながら、念能力者と戦った経験のない幸運な男。
初めて通じない力に直面し、カヤの余裕に焦りと怒りを募らせる。
冷静さは、完全に失われていた。
「準備運動は十分。──行くぞ。」
淡い光がカヤの体を包み、瞬時に結界の鎧が形成される。
避けることをやめ、一直線に踏み込む。
男は必死にナイフを振るう。
だが、鎌鼬はすべて鎧に弾かれた。
瞬く間に間合いを詰めたカヤが、右拳を振り抜く。
ドシュッ
「あ…」
鈍い音が響き、男の顔が半分ほど吹き飛ぶ。
残された身体は、糸が切れたように崩れ落ちた。
「あ-、やりすぎた」
軽く殴って反応を確かめるつもりだった。
だが、感覚の鈍りと標的の脆さが重なり、結果は一撃死。
「とりあえず片付けて、どうしましょうか」
内部を拡張した袋を取り出し、死体を無造作に放り込む。
次の手を考えながら、淡々と手を動かす。
これでは、並の賞金首ではスパーリングにもならない。
かといって、殺しても構わない実力者など、そうそういない。
「もしもし、ティアナ。このあと空いてますか?稽古をつけてあげますから、スパーリング相手になってくれませんか?結構本気でやりたいんですけど…」
取った手段は──弟子への連絡。
情けないようでいて、情報を秘匿したまま本気を出せる相手は限られている。
そして、その中で気軽に声をかけられるのは、彼女だけだった。
感想をいただけるととても嬉しいです。
軽めの戦闘でした。最後は大分うっかり。
能力の説明は、文中で先に軽くでもしてからあとがきに入れたいのですが、出すタイミングがなかなか掴めずにいます。
男は放出系。念に目覚めて間もなく、鎌鼬にオーラを載せることはできたものの、陰ができていないので不可視性が無くなりマイナス。