理を刻む者   作:茅薙

3 / 14
聖杯
対価に応じて願いを叶える天秤型の道具
対価の量によって左の皿が沈み、願いの規模や難易度によって右の皿が沈む
釣り合った場合に対価を消費して願いを叶える
軸となるのは、契約・公正・成就の概念

ゴンさん化や、ナニカが念能力扱いならいけるのではと考えて作られた。


3話 情報と品評

 商売で築き上げた情報網は、今日も確実に機能していた。

 飛び込んできたのは、驚くべき──そして喉から手が出るほど待ち望んでいた報せ。

 

 曰く、ある地域に巨大な異形の鶏が現れたという。

 それだけでも異例だが、さらに念能力の使用が確認されたらしい。

 

 カヤが作品を売り始めた理由は、そもそもこうした珍種──すなわち幻獣を探し出すためだった。

 だが、幻獣は容易に姿を見せない。見つかるほど凶暴なものは、たいてい腕利きのハンターに狩られてしまう。

 だからこそカヤは、商売を通じて人脈を広げ、世界中に情報の糸を広げ続けてきた。

 最速で、最も確かな情報を掴むために。

 

 過去にも、念を扱う動物の報告を追って狩りに出たことはある。

 だがそのときの獲物は、期待外れだった。

 今回は違う。情報源は実際に交戦し、生還した者からの聞き取りだ。その信頼度は、過去最高。

 

 報告によれば、その異形の鶏は成人男性の頭を越える体高を持ち、翼はコウモリのように皮膜に覆われていた。

 尾は爬虫類のように長く、鱗に覆われている。

 そして──決定的なのは、「周囲を石化させる」力を持つという点だった。

 

 本能的なオーラ操作に長けた動物は、下手な人間よりも厄介だ。ましてそれが猛獣なら、戦闘の技量に関係なく脅威となる。

 

「……これは、錆落としが必要ですね」

 

 小さく呟く。

 最近は研究ばかりで、戦闘から遠ざかっていた。感覚が鈍っているのは自覚している。

 この大物に挑む前に、調整がいる。

 

「賞金首あたりが、手頃ですか」

 

 瞳に一瞬、冷たい光が宿る。

 

 

 

 都市の外れ──放棄された区画。

 錆びた鉄骨と崩れた建材が風に鳴り、人気はない。

 

「賞金首狩り、いつぶりでしょうか」

 

 独り言がこぼれる。

 思考を整えるには、声に出すのが癖になっていた。

 

 資金を商売で得る以前、カヤは賞金首(ブラックリスト)ハンターとして活動していた。

 その頃から念能力者の疑いがある標的を優先していたが、今回も方針は同じだ。

 ただ、短時間で居所を掴める相手は、たかが知れている。

 

「一応、銃以外で遠距離攻撃を使う奴を選びましたが……さて。」

 

 廃墟全域を覆うには、彼女の円でも範囲が広すぎる。

 位置の特定までは至らない。

 

 カヤは小さく息を吐き、黄金の天秤を取り出した。

 ルーンの刻まれた皿が微かに光を放つ。

 

「試してみましょう」

 

 オーラを捧げると、天秤は静かに傾いた。

 

「聖杯よ──獲物の在処を示せ。」

 

 右の皿に願いが乗り、均衡を取り戻す瞬間、空気がわずかに震える。

 天秤の中央に淡い光球が生まれ、針を象る。

 それは一点を指し示し、願いは叶えられた。

 

「あっちですか」

 

 短く呟くと同時に、オーラを戦闘用に活性化させる。

 足裏が地を蹴る。

 廃墟に、わずかな風の残響だけが残った。

 

 疾風のような速度で、廃ビルへとたどり着く。

 同時に、標的を示していた針は光の粒となって消えた。

 

 廃墟となったビルは、外壁に風化の痕が濃く残る。だが内部の様子は、外からでは伺えない。

 

 隠す気がないのか、獲物の気配は容易に察知できた。

 窓の位置からして、おそらく四階か五階。

 地上からすぐに突入しづらく、念能力者なら飛び降りも可能な、実にいやらしい位置取りだった。

 

「せっかくだから、こちらも試しましょう」

 

 カヤは杖を取り出し、静かに円を展開する。

 オーラが空間に広がり、ビル内部の様子が手に取るように伝わってくる。

 感知によれば、標的は慌てて何かをしている。

 活性化したオーラと円の展開に何かを感じ、事態の異変を悟ったのだろう。

 

 だが、関係はない。牙は容赦なく迫る。

 星の杖(オルガノン)が放つ圧力の刃が、男の耳を削いだ。

 

「がぁぁぁ! 誰だ! 出てこい!」

 

「腕を狙ったんですが、大分外れましたか。自由度が高い分、制御が難しいですね」

 

 愚かな男の上げる戦闘中の無意味な叫びを、カヤは冷ややかに無視した。

 代わりに、自らの作品の精度を淡々と品評する。

 

「これは十分ですね。……ついでに、もう一つ試しますか」

 

 聖杯を取り出し、黄金の天秤にオーラを捧げる。

 

「聖杯よ──我が身を獲物のもとへ。」

 

 願うは転移。

 円に展開していたオーラを含め、顕在オーラの大半が聖杯に吸い込まれていく。

 次の瞬間、カヤの姿はその場から掻き消えた。

 

「……ふぅ。万能に近いが、燃費は悪いと」

 

 わずかな距離でさえ大量のオーラを消費したことに息を吐き、聖杯をしまう。

 

「お前か! ぶっ殺してやる!」

 

 カヤが突如現れたことに疑問を抱く余裕もなく、男は怒号とともにナイフを構える。

 振り回された刃から、鎌鼬が発生。

 オーラを帯びた真空の刃が、次々と飛来する。

 

 しかし、それらは一つとしてカヤを捉えない。

 誘導も制圧も欠いた攻撃など、当たるはずがない。

 隙間を見切り、軽快なフットワークで避けていく。

 

 ふと、カヤの目が男の短剣に刻まれた文字へと向く。

 

「……私の作品じゃないですか。」

 

 そう。男が握るのは、かつてカヤが市場に流した品の一つだった。

 ブラックマーケットで手に入れたそのナイフの“力”に酔い、男は念に覚醒したのだ。

 

「それが出す鎌鼬にはオーラが付与されないはず、貴方の能力ですか?」

 

「うるせぇ!黙ってしね!」

 

 念の産物を手にしながら、念能力者と戦った経験のない幸運な男。

 初めて通じない力に直面し、カヤの余裕に焦りと怒りを募らせる。

 冷静さは、完全に失われていた。

 

「準備運動は十分。──行くぞ。」

 

 淡い光がカヤの体を包み、瞬時に結界の鎧が形成される。

 避けることをやめ、一直線に踏み込む。

 

 男は必死にナイフを振るう。

 だが、鎌鼬はすべて鎧に弾かれた。

 

 瞬く間に間合いを詰めたカヤが、右拳を振り抜く。

 

 ドシュッ

 

「あ…」

 

 鈍い音が響き、男の顔が半分ほど吹き飛ぶ。

 残された身体は、糸が切れたように崩れ落ちた。

 

「あ-、やりすぎた」

 

 軽く殴って反応を確かめるつもりだった。

 だが、感覚の鈍りと標的の脆さが重なり、結果は一撃死。

 

「とりあえず片付けて、どうしましょうか」

 

 内部を拡張した袋を取り出し、死体を無造作に放り込む。

 次の手を考えながら、淡々と手を動かす。

 

 これでは、並の賞金首ではスパーリングにもならない。

 かといって、殺しても構わない実力者など、そうそういない。

 

「もしもし、ティアナ。このあと空いてますか?稽古をつけてあげますから、スパーリング相手になってくれませんか?結構本気でやりたいんですけど…」

 

 取った手段は──弟子への連絡。

 情けないようでいて、情報を秘匿したまま本気を出せる相手は限られている。

 そして、その中で気軽に声をかけられるのは、彼女だけだった。




感想をいただけるととても嬉しいです。

軽めの戦闘でした。最後は大分うっかり。
能力の説明は、文中で先に軽くでもしてからあとがきに入れたいのですが、出すタイミングがなかなか掴めずにいます。

男は放出系。念に目覚めて間もなく、鎌鼬にオーラを載せることはできたものの、陰ができていないので不可視性が無くなりマイナス。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。