アイギス
結界の鎧を展開するインナー
常に身につけており、オーラを流せば起動する。
防御の基本は広く浅く。
幻獣──この世界でその言葉が指すものはいくつかある。
単に数が少ない、または人里離れた秘境にのみ棲む獣。
人の目に触れぬまま、伝説と化していく希少な存在。
そうした「幻の獣」ならば、時間と根気さえあればいずれ出会えるだろう。
だが、カヤが求めるのはその類ではない。
突然変異によって、あるいは念能力の影響によって、
常識を外れた生態を持つ獣──幻想そのものが形を取った存在。
それこそが、彼女にとっての“幻獣”だった。
青々と茂った葉が陽光を遮り、わずかな木漏れ日を奪い合うように草花が鎬を削っている。
生の気配が渦巻くその森に、ひとり、場違いな人影があった。
赤銅色の髪をウルフカットに整え、闇に沈むガーネットの瞳が、レンズの奥から冷たく光を返す。
スーツにコート──文明の匂いをまとったその装いは、森の湿った空気の中でひどく浮いていた。
だが、彼女の歩みは一切の躊躇を知らない。
ぬかるむ土も、絡みつく蔦も、枝葉さえも彼女の進路を邪魔できない。
まるで、自然のほうが彼女を避けているかのようだった。
ティアナとの組手で錆を落としたカヤは、ついに幻獣狩りへと踏み出していた。
聖杯によって既に居場所は特定済み。
戦闘への昂ぶりを胸の奥に沈めながら、彼女は静かに森を進む。
一見して戦いに向かないスーツ姿。
だが、その装いのすべてが、彼女自身の能力によって変質している。
ルーンを刻まれた物品は、鉄を叩けば広がるように、水を熱せば蒸発するように──
自然な性質として、超常の機能を帯びる。
縫い合わせた布にすぎないスーツは、いまや鋼鉄の鎧をも凌ぐ戦鎧。
襟元から覗く繊維一本に至るまで、彼女の技術と念の結晶だった。
木々のざわめきが消える。
獲物の気配が、森そのものの空気を支配していた。
波濤のように荒れ狂うオーラが肌を刺し、空気が重く沈む。
「……あれが」
声を潜めて、カヤは立ち止まる。
茂みの向こう──。
木々がなぎ倒され、灰に染まった広場の中心。
そこにいたのは、常識では形容しがたい異形。
鶏を思わせる輪郭に、鱗の尾と皮膜の翼。
その瞳孔は縦に裂け、爬虫のそれと同じ冷たさを湛えていた。
コカトリス
古い伝承では石化をもたらす鶏と呼ばれる獣。それに酷似した幻獣。
そしていま、その視線が確かにカヤを捉えている。
風が止み、森が息を潜める。
ただ、二つの存在だけが対峙していた。
「最初から全力で行かせて…!」
オーラの高まりを察知し、反射的に飛び退く。
直後、彼女の立っていた場所が灰色に染まった。
致命傷すれすれの一撃。冷や汗が背筋を伝う。
カヤの背には四本の狐の尾が揺れ、傍らには刃を生やした宝珠が静かに浮かんでいる。
視線による石化──そう判断した瞬間、巨体の死角へ滑り込む。
大技の直後で反応が鈍ったバジリスクに、腰の入った拳を叩き込む。
ボフッ
羽毛が衝撃を吸収し、手応えは薄い。
脚の反撃を半身でかわし、尾の一撃をしゃがんで避ける。
気づけば、纏っていた結界の一部が灰色に変わり、ボロボロと崩れ落ちていた。
「……触れるだけで石化するオーラ」
物質を超えて、念の防壁にまで及ぶ毒性。
バジリスクの全身を覆うオーラが、まるごと“毒”になっている。
それでも、カヤは笑う。選んだ手段は──力押し。
力にはさらなる力で。小細工には、それを弾き飛ばす堅牢さで。
常に優位に立ち、叩き続ける。
カヤには、それを実現できる確信がある。
「ワン・ツー!」
ドフッ
ドッ!
背負う尾によって獣の力を宿した肉体。
拳にオーラを集中させることで、更なる威力の打撃を繰り出す。
残るオーラは結界に回し、触れた程度では石化しない強度へと引き上げる。
ギエェェェ!
バジリスクも咆哮し、反撃に転じる。
だが、石化による攻性防御は弾かれ、爪も尾もステップでかわされる。
羽毛の衝撃吸収など、出力を上げた拳の前では意味をなさない。
「せいっ!」
ドスッ!
渾身の一撃が胴を撃ち抜き、バジリスクの巨体が大きくのけぞる。
森が震え、巨獣は後方へとよろめいた。
しかし──その距離が、逆に隙となる。
バジリスクがカヤを視界に収め、瞳にオーラを集め始めた。
石化の再行使。今度こそ仕留めるつも──
「……残念ですが、切り札は私が先だ」
傍らに浮かんでいた宝珠が閃光と化し、刃を閃かせて急所を貫いた。
重い音を響かせ、巨体が崩れ落ちる。
これこそが、カヤの“本気の戦闘”。
力には更なる力で。小細工には堅牢さで。
そして、逆転の一手には──容赦なく、上から叩き潰す。
それが、彼女の戦い方だった。
轟音が止み、森に静寂が戻る。
焦げた土の匂いと、煙のように揺らめくオーラの残滓だけが漂っていた。
先ほどまで暴れていた幻獣の巨体は、いまやただの肉塊にすぎない。
カヤはその傍らに立ち、羽毛を一本抜き取ると、ためらいなく口へ運んだ。
瞬間、背に新たな尾が現れ、彼女の存在がわずかに膨れ上がる。
──これこそが、幻獣を狩る最大の目的。
異形の力を取り込み、自らを昇華し、九尾へと至る道。
カヤは小さく息を吐き、拳を握り直した。
熱は、もう冷えきっている。
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神尾九環(コラージュ)
系統:特質系ベースに具現化系+操作系+強化系
殺した生命の体毛を媒体に、その情報を「尾」として具現化。
生命の能力・生態情報を自らの存在に接続し、特性を借り受ける能力。
具現化系に分類される変身の要領で、術者を尾に記録された生命の力を持つ存在にする。
概要
- 各尾は生命の能力と生態を反映
制約
- 自身で殺害した生命の体毛のみ使える
- 尾の破壊=情報喪失・再生不可
- 尾は最大9本まで
設定放出です。
今まで描写してきた方とは違う方を先にはなってしまいました。
コヤンスカヤモチーフ。ルビは絵画技法で統一しています。
バジリスクは変化系の能力者。石化の毒は本来血液にしかないが、オーラを同じ毒の性質にしている。視線による石化は変化させたオーラの放出。