理を刻む者   作:茅薙

4 / 14
筆が進んだので2話目

アイギス
結界の鎧を展開するインナー
常に身につけており、オーラを流せば起動する。
防御の基本は広く浅く。


4話 幻獣と拳闘

 幻獣──この世界でその言葉が指すものはいくつかある。

 単に数が少ない、または人里離れた秘境にのみ棲む獣。

 人の目に触れぬまま、伝説と化していく希少な存在。

 

 そうした「幻の獣」ならば、時間と根気さえあればいずれ出会えるだろう。

 だが、カヤが求めるのはその類ではない。

 

 突然変異によって、あるいは念能力の影響によって、

 常識を外れた生態を持つ獣──幻想そのものが形を取った存在。

 

 それこそが、彼女にとっての“幻獣”だった。

 

 

 青々と茂った葉が陽光を遮り、わずかな木漏れ日を奪い合うように草花が鎬を削っている。

 生の気配が渦巻くその森に、ひとり、場違いな人影があった。

 

 赤銅色の髪をウルフカットに整え、闇に沈むガーネットの瞳が、レンズの奥から冷たく光を返す。

 スーツにコート──文明の匂いをまとったその装いは、森の湿った空気の中でひどく浮いていた。

 

 だが、彼女の歩みは一切の躊躇を知らない。

 ぬかるむ土も、絡みつく蔦も、枝葉さえも彼女の進路を邪魔できない。

 まるで、自然のほうが彼女を避けているかのようだった。

 

 

 ティアナとの組手で錆を落としたカヤは、ついに幻獣狩りへと踏み出していた。

 聖杯によって既に居場所は特定済み。

 戦闘への昂ぶりを胸の奥に沈めながら、彼女は静かに森を進む。

 

 一見して戦いに向かないスーツ姿。

 だが、その装いのすべてが、彼女自身の能力によって変質している。

 

 ルーンを刻まれた物品は、鉄を叩けば広がるように、水を熱せば蒸発するように──

 自然な性質として、超常の機能を帯びる。

 

 縫い合わせた布にすぎないスーツは、いまや鋼鉄の鎧をも凌ぐ戦鎧。

 襟元から覗く繊維一本に至るまで、彼女の技術と念の結晶だった。

 

 木々のざわめきが消える。

 獲物の気配が、森そのものの空気を支配していた。

 波濤のように荒れ狂うオーラが肌を刺し、空気が重く沈む。

 

「……あれが」

 

 声を潜めて、カヤは立ち止まる。

 

 茂みの向こう──。

 木々がなぎ倒され、灰に染まった広場の中心。

 そこにいたのは、常識では形容しがたい異形。

 

 鶏を思わせる輪郭に、鱗の尾と皮膜の翼。

 その瞳孔は縦に裂け、爬虫のそれと同じ冷たさを湛えていた。

 

 コカトリス

 

 古い伝承では石化をもたらす鶏と呼ばれる獣。それに酷似した幻獣。

 そしていま、その視線が確かにカヤを捉えている。

 

 風が止み、森が息を潜める。

 ただ、二つの存在だけが対峙していた。

 

「最初から全力で行かせて…!」

 

 オーラの高まりを察知し、反射的に飛び退く。

 直後、彼女の立っていた場所が灰色に染まった。

 

 致命傷すれすれの一撃。冷や汗が背筋を伝う。

 カヤの背には四本の狐の尾が揺れ、傍らには刃を生やした宝珠が静かに浮かんでいる。

 

 視線による石化──そう判断した瞬間、巨体の死角へ滑り込む。

 大技の直後で反応が鈍ったバジリスクに、腰の入った拳を叩き込む。

 

ボフッ

 

 羽毛が衝撃を吸収し、手応えは薄い。

 脚の反撃を半身でかわし、尾の一撃をしゃがんで避ける。

 

 気づけば、纏っていた結界の一部が灰色に変わり、ボロボロと崩れ落ちていた。

 

「……触れるだけで石化するオーラ」

 

 物質を超えて、念の防壁にまで及ぶ毒性。

 バジリスクの全身を覆うオーラが、まるごと“毒”になっている。

 

 それでも、カヤは笑う。選んだ手段は──力押し。

 

 力にはさらなる力で。小細工には、それを弾き飛ばす堅牢さで。

 常に優位に立ち、叩き続ける。

 カヤには、それを実現できる確信がある。

 

「ワン・ツー!」

 

ドフッ

ドッ!

 

 背負う尾によって獣の力を宿した肉体。

 拳にオーラを集中させることで、更なる威力の打撃を繰り出す。

 残るオーラは結界に回し、触れた程度では石化しない強度へと引き上げる。

 

ギエェェェ!

 

 バジリスクも咆哮し、反撃に転じる。

 だが、石化による攻性防御は弾かれ、爪も尾もステップでかわされる。

 羽毛の衝撃吸収など、出力を上げた拳の前では意味をなさない。

 

「せいっ!」

 

ドスッ!

 

 渾身の一撃が胴を撃ち抜き、バジリスクの巨体が大きくのけぞる。

 森が震え、巨獣は後方へとよろめいた。

 

 しかし──その距離が、逆に隙となる。

 バジリスクがカヤを視界に収め、瞳にオーラを集め始めた。

 

 石化の再行使。今度こそ仕留めるつも──

 

「……残念ですが、切り札は私が先だ」

 

 斬り抉る戦神の剣(フラガラック)が叩き潰す。

 傍らに浮かんでいた宝珠が閃光と化し、刃を閃かせて急所を貫いた。

 

 重い音を響かせ、巨体が崩れ落ちる。

 

 これこそが、カヤの“本気の戦闘”。

 力には更なる力で。小細工には堅牢さで。

 そして、逆転の一手には──容赦なく、上から叩き潰す。

 それが、彼女の戦い方だった。

 

 轟音が止み、森に静寂が戻る。

 焦げた土の匂いと、煙のように揺らめくオーラの残滓だけが漂っていた。

 先ほどまで暴れていた幻獣の巨体は、いまやただの肉塊にすぎない。

 

 カヤはその傍らに立ち、羽毛を一本抜き取ると、ためらいなく口へ運んだ。

 瞬間、背に新たな尾が現れ、彼女の存在がわずかに膨れ上がる。

 

 ──これこそが、幻獣を狩る最大の目的。

 異形の力を取り込み、自らを昇華し、九尾へと至る道。

 

 カヤは小さく息を吐き、拳を握り直した。

 熱は、もう冷えきっている。




感想をいただけるととても嬉しいです。

神尾九環(コラージュ)
系統:特質系ベースに具現化系+操作系+強化系

殺した生命の体毛を媒体に、その情報を「尾」として具現化。
生命の能力・生態情報を自らの存在に接続し、特性を借り受ける能力。
具現化系に分類される変身の要領で、術者を尾に記録された生命の力を持つ存在にする。
概要
- 各尾は生命の能力と生態を反映
制約
- 自身で殺害した生命の体毛のみ使える
- 尾の破壊=情報喪失・再生不可
- 尾は最大9本まで

設定放出です。
今まで描写してきた方とは違う方を先にはなってしまいました。
コヤンスカヤモチーフ。ルビは絵画技法で統一しています。

バジリスクは変化系の能力者。石化の毒は本来血液にしかないが、オーラを同じ毒の性質にしている。視線による石化は変化させたオーラの放出。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。