ティアナは、カヤの制作作業を見るのが好きだった。
繊細な手さばき。
流れるように緻密なオーラの操作。
なんてことのない物品が、刻まれた文字を起点にして
──静かに、神秘を帯びていく。
その一連の動作が、まるで儀式のように思えた。
日常を非日常へと塗り替えていく、その力。
それを見るたび、あの日の光景が胸の奥に蘇る。
初めてカヤと出会った、あの瞬間のことを。
──あの日までは、彼女も“ただの少女”だった。
特別な血筋も、秘められた使命もない。
普通の会社員の父と、兼業主婦の母。
多忙ながらも、愛情を惜しまない家庭に育った。
だが、ティアナには一つだけ、普通ではないものがあった。
それは、生まれながらに備わった王の器。
年を重ねるごとに、その力は輪郭を帯びていった。
瞳は重力のように人を惹きつけ、一挙一動が周囲の空気を支配する。
彼女が笑えば誰もが安堵し、眉をひそめれば場の緊張が走る。
世界が、自然と彼女に道を譲るように。
けれど、彼女自身はそれを望まなかった。
家では甘えん坊で、友達といる時はただ笑い合いたい。
そんな、ありふれた少女だったのだ。
けれど、いつの間にか輪の中心に立ってしまう。
彼女の中の傲慢なる王の気質は、望みが叶わないことに苛立ちを募らせていく。
それを誤魔化すように、周囲に溶け込む努力をする。
視線を逸らし、声を抑え、歩幅を他人に合わせる。
髪を伸ばし、表情を柔らげ、できる限り目立たぬように。
──けれど、背を丸めてもなお、彼女の背丈は大きすぎる。
平凡な日常こそが望みなのに、どうしてこんな簡単なことさえできないのか。
その苛立ちを抱えたまま、彼女は日々をやり過ごしていた。
そんな日々の中──
少女はその日、運命に出会う。
「……ィアナ。ティアナ」
「あっ、はい」
「終わったのでどいてくれません?」
いつの間にか作業は終わっており、ティアナがしなだれかかっているのをカヤが迷惑そうに見ている。
「はーい、師匠さま」
少しの気恥ずかしさと共に離れ、カヤが調整していた
「これ、この前のやつ?何を変えたの?」
「見せた方が早いですね。試しましょう」
カヤは星の杖を手に持ち、オーラを流し込む。すると、持ち手の少し下あたりに複数のリングが現れた。
「リング状のオーラ?具現化はしてないけど」
カヤが近くにあった紙を軽く投げる。
リングが広がり、紙に触れた瞬間──
スパッ
音もなく紙は切り裂かれ、残るリングが角度を変えながら連続して切り刻んでいく。
「このように、リング状のガイドを追加しました。自由度が高いほうが便利だと思ったのですが、使いにくかったので」
「でも、隠密性はなくなったね」
「前までも"円"を展開する以上察知されやすかったですからね。道具を通してなので難しくはありますが、"隠"で隠すこともできますし」
二人は、改良した道具の評価を交わしながら軽く笑った。
その空気の中で、カヤがふと切り出す。
「ハンター試験を受けたらどうです?」
「なんで?」
ハンターライセンスの有用性をいまいち理解していないティアナ。
「私がハンターとして活動していないので実感が薄いかもしれませんが、ライセンスは最高級の身分証明のひとつです。持っていて損はありません」
「えー」
「青田買いとして考えてもいいですよ。念能力者にとって試験は難しくありませんし、さまざまな人間が集まる場所です」
その言葉に、ティアナは少し考え込んだ。
彼女はより強く、有能な臣下を求めている。
数も必要だが、質を妥協する気もない。
今の配下は、どれもいまいち物足りなかった。
「念能力者は多いの?」
「ほとんどいませんよ。裏試験として講習があるくらいですからね」
ハンターの身分そのものには魅力を感じないが、師と同じ身分証を手に入れる──それだけで、少し近づける気がした。それに、我こそはと集まる受験者、現役のハンターとのコネクション、これらのメリットは魅力的だ。
「じゃあ、あれが買いたい」
「あれ?覚醒のペンダント*1ですか?」
「そう、それを10個」
「いいですけど、見極めはしっかりするように」
最近は心源流から「才能の密猟者」*2とも呼ばれるカヤは、限定的な用途の品をしっかりストックしており、請求書と共にティアナに渡す。
「うっ…高い」
「時間を買う道具ですからね」
高額の請求書を受け取りながらも、ティアナは笑った。
期待に胸を膨らませるその横顔は、年相応の少女のものだった。
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運命構図(道でぶつかって尻もちをついたティアナと、微動だにしなかったカヤが手を差し伸べる)
道具を使うことに関してはカヤよりもティアナの方が適性がある。
星の杖さんは、ほとんど原作通りになりました。
それを具現化する発として誤認させられそうな物を多く作っています。