第287期ハンター試験。
第一試験の内容は、試験官についてくること。
目的地は知らされず、どこまで走ればいいのかもわからない。
単純に見えて、体力と気力の両方を削る試験だ。
走行距離が八十キロを超えたころ。
それでも走りながら、レオリオとクラピカは信念を語り合っていた。
一族の復讐を誓うクラピカ。
「壮大な夢には金がいる」と言い切るレオリオ。
そんな二人に、突然声をかける者がいた。
「その信念、いいね。使命を持っている者は強い」
「いや、なんで背負われてんるだよ!」
受験者のひとりに背負われた銀髪の少女がいた。
おぶさりながらも尊大に言葉を放つその姿に、レオリオは思わずツッコむ。
「む。足がもつれてる。それに走り方も雑。『王の輿を揺らすべからず』。これ、今からルールだから。
……全く。せっかく騎士にしてあげたのに、なんて体たらくなの?」
走りながら階段を登っている人間におぶさって言うセリフではない。
「はっ、恐れ入ります!
このような不遜な揺れで王の安寧を乱すなど、騎士の風上にも置けません!
されど、王が直々に法を定め、御心遣いを賜っている!
必ずやこの使命、完遂してみせます!」
(こんな奴だったか?)
あからさまに理不尽な命令に、感極まったかのような返事を返す男。
スタート地点で見た時には、そんな素振りはなかったはずだ。
「お前たち、私の元に来ないか?」
異様な光景に言葉を詰まらせていたレオリオとクラピカに、先程のやり取りがなかったかのように勧誘をする少女。
それが摂理であるかのように、思わず視線が引き寄せらる。人に背負われているはずなのに、玉座に腰掛けているかのような風格。
「断っておく。誰かに仕えるつもりはない」
「俺もやめとくぜ。顎で使われたくないんでね」
それでも、意思の力で持って魅了を振り切り断る2人。
「ますます気に入ったよ。何時でも仕官は受け付け中だから」
この場での勧誘は諦めたものの、勧誘それ自体は続けるようだ。そこでキルアとゴンが混ざってくる。
「知り合いか?オッサン」
「俺はまだ10代だ!」
「「「「「えっ!?」」」」」
悲しいことに、ゴンとキルア、クラピカだけでなく、少女と従者までもが驚いていた。
第四試験の会場──ゼビル島。
互いのナンバープレートを奪い合うサバイバル。期間は一週間。
自分のターゲットのプレートは三点、それ以外は一点。六点を集めれば合格だ。
「よくやったね。褒めてあげる」
ティアナは、第三試験で二人増やした三人の従者と共に、二日目にはすでに自分の分の六点を確保していた。
あとは、臣下たちの分をどう確保するか。
「自分の点は自分で取るように」と命じ、ティアナは早々に単独行動へ移る。
サバイバルなど、問題ではない。
カヤからせびったり買い取ったりした品々の中には、空間拡張の袋やサバイバルキットもある。
食糧保存、結界布、携帯火炉──文明の恩恵を詰め込んだ携行品を携え、ティアナは手際よく拠点を築いていく。
王国のように秩序立った天幕。
支柱は真っ直ぐに立ち、布には防虫と防湿の符が刻まれている。
寝具の配置にも無駄がない。彼女の几帳面な性格と、師であるカヤの影響がよく出ていた。
「臣下がいても、結局自分でやるほうが速いんだよね」
半ば呆れたように呟き、椅子代わりに石を置く。
その横では、補助のために小さな護符が微かに光り、虫除けの効果を発揮している。
日が落ちて、森が深い闇に包まれる。
焚き火の明かりが天幕の外壁を照らし、夜気が静かに流れる。
三日目、四日目、五日目。
互いを狙い合う試験で、豪華な天幕はどう見ても悪手だ。
だが、サバイバルとは何だったのか考えたくなるほど──中はホテルの一室のように整えられていた。
「……人払いの結界を超えてくる者はいないのかな」
師匠の工房ほどではないが、天幕にも認識阻害を施している。
それを突破してくる勇士こそ勧誘しようと考えていたが──目論見は外れ、ティアナは少しだけ肩を落とした。
満ちかけた月が雲の隙間から覗き、鈍い光が瞳に映る。
夜風を浴びようと天幕を離れる。
一歩、踏み出した瞬間──風が変わった。
気配が混じり、空気がわずかに粘性を持つ。
風を裂く音。
飛来するトランプ。
「ずいぶんと無礼な挨拶じゃない、道化師」
ティアナは身をひねって避けると、声の主を睨む。
そこに立っていたのは、派手なピエロのような男──ヒソカ。
「青い果実が多くてね♠ 味見したくなっちゃった♥」
「道化師なら道化師らしく、余興に徹しなさいよ」
軽口の裏で、確かな殺意が空気を焦がしている。
笑顔のまま、それを隠そうともしない異常者。
「念能力者だろう? 満足するまで壊れないでくれよ♦」
投げられたトランプの全てに、オーラが込められていた。
一枚でも当たれば、肉を裂くには十分な威力。
「チッ──征服する!」
ティアナは大きく跳躍し、着地と同時に能力を発動する。
空間が歪み、不可視の王国が築かれる。
「制定! この地において、私以外の念能力を禁ずる!」
法が敷かれる。
空間そのものが命令を受け入れ、ヒソカのオーラを抑圧し始める。
「……これは♣ 面白い能力だ♥」
だが、歴戦の強者であるヒソカには完全な強制力が及ばない。
動きはわずかに鈍るが、それでも攻撃の手は止まらない。
ティアナは剣を抜いた。
「クラレント! 我が威を示せ!」
クラレント──王の威光を力に変える剣。
ティアナによって強化されたその刀身は、オーラの放出と組み合わせることで光の斬撃を放つ。
ヒソカはわずかに目を細め、愉悦の笑みを深めた。
(系統が読めない♦ 操作?具現化?どちらにしても、いい練度♣)
攻撃の合間にも観察を怠らない。
トランプに仕込んだ
「凝」を使っていないにも関わらず、完璧に対応されていた。
ならばと距離を詰め、拳で叩き潰す──
しかし、彼女の剣技はそれすらも流す。
「……思ったより熟れてる♦ 興奮させるじゃないか♥」
ヒソカの舌が、喉の奥で笑うように鳴った。
ボルテージが一気に跳ね上がる。攻めの手が、雪崩のように増えていく。
並の強化系を凌駕する拳打。
虚実を織り交ぜた誘いと、経験に裏打ちされた先読み。
そのすべてが、狂気的なまでに高水準。
ヒソカにとって、戦いとは性交に等しい行為──
欲と本能を曝け出し、支配と服従の境界を愉しむ営みだ。
ティアナの世界が、少しずつ侵食されていく。
王の法が崩れ、空間の支配が溶け落ちる。
身体が反応よりも遅く、剣が視線を追いきれない。
未だ未熟なティアナは、防戦一方に追い込まれた。
年齢や経験を考えれば驚異的な善戦だったが──
戦場において、その“前提”は意味を持たない。
そして、戦いは終わる。
勝者はヒソカ。
ティアナの喉元へ、鋭く輝くトランプの先端が触れる。
彼はしばらくの間、何かを思案していた。
「やめた♦ もっと熟した姿を見たくなっちゃった♥」
「はぁ?」
「次に会った時に見せておくれよ♦」
一方的な宣告。
ヒソカは踵を返し、闇に溶けるように去っていった。
その胸には、近い未来への確信──“豊作”の予感が宿っていた。
ティアナはしばらく呆然としていた。
敗北の痛みよりも、見逃された屈辱の方が深く胸を抉る。
やがて怒りを糧に正気を取り戻し、天幕へと戻った。
「……最後まで、馬鹿にしやがって」
唇を噛み、拳を握り締める。
その夜は、いつもより長く、静かだった。
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自分勝手な救世主(スプリーム・キングダム)
カリスマによって万物を支配する
王権がモチーフであり、能力の根幹
臣下︰主に配下の人間。多いほどに他の能力の出力が上がる
領土︰支配した土地または空間
爵位︰配下への強化
法︰支配下においたものへのルール
カヤに脳を焼かれているので、求める基準がやたら高い。