生命エネルギーの知覚を助け、新たな段階(念能力者)への覚醒を促す。
軽く"纏"の手助けもする
ᛋ・ᚾ・ᛁ・ᛝ・ᛞが刻まれている
「ただいまー! 師匠ー!」
工房の静謐を、甲高い声が突き破った。
硝子瓶が小さく震え、吊り金具がカランと鳴る。
魔力と薬品の匂いが混じる空気が、わずかにさざめいた。
「……ここは、あなたの家ではないんですが」
奥の作業室から姿を見せたカヤが、わずかに眉を寄せる。
白衣の袖を払う仕草には、何度もくり返された小言の気配──そして諦観が滲んでいた。
ティアナは気にも留めず、軽い足取りで奥へ。
芸術品と見紛う術具、整然と並ぶ薬瓶、壁際の珍奇な標本。
すべてが“見慣れた家具”であるかのように、まっすぐ茶器の棚へ向かう。
「お茶、淹れるねー。ダージリンで良かったでしょ?」
「……置いてある茶葉まで把握しないでください」
呆れ声に、ティアナは口の端を上げて笑った。
魔法陣の刻まれた板にケトルを置くと、淡い光が走り、静かに湯が立つ。
スプーンで茶葉を量り、ポットへ。湯を注ぐと、黄金色がじわりと広がった。
「両親に帰還の知らせは伝えましたか?」
「分かってるからいいの」
素っ気ない返事と裏腹に、手は淀みなく動く。
それも、もう彼女の日課の一部だった。
「ハンター試験はどうでした? いい臣下でも見つかりましたか?」
「ライセンスは取ったよ。臣下は微妙かな」
「あなたの基準を満たせる人なんて、そうはいませんよ。……それとも、断られました?」
「いいのはいたんだけど、断られたよ」
カップとソーサーを静かに並べ、蒸らしの終わった紅茶を満たす。
ふわり、芳香が満ちる。二人は自然と沈黙し、湯気をひと口すする。
「誰を誘ったんですか? 聞いても分からないかもしれませんけど」
「レオリオって名前の医者志望の男と、クラピカっていう滅びた一族の生き残りだよ」
「……ふむ、なるほど?」
カヤの声が、わずかに上擦った。
先日「そろそろ原作が始まる頃か」と感じた予感──どうやら、すでに幕は上がっていた。
「他にはいませんでしたか?」
「ゴンとキルアっていう子供もいい才能だったよ。ペンダントをプレゼントするくらいにはね」
「いい出会いがあったようで、何よりです」
湯気が二人のあいだを流れ、光の層が薄く揺れる。
──やはり、物語は動き出している。
自分が手を出さずとも世界は回る。だが、指先で触れれば、見える未来は変わるかもしれない。
カヤは短く思案し、結論を胸の奥で固めた。
「嘘ぉ?」
「ああ。話の筋は通ってるし、ウイングの力が本物なのも確かだと思うけど──それだけじゃ説明できない」
夜の帳が下り、街灯が橙に滲む。
“燃”と“四大行”の講義を受けた帰り道、ゴンとキルアは並んで歩いていた。
キルアは眉をひそめ、ポケットに手を突っ込んだまま続ける。
脳裏をよぎるのは、今日の光景。
半ば本気の攻撃を浴びても立ち上がるズシ。
ただ睨まれただけで、体が本能的に震えたウイング。
──心の持ちようだけで、あんな力が手に入るはずがない。
「その通りです」
低く澄んだ声が、暗がりから割り込んだ。
二人の足が同時に止まる。
月明かりに浮かぶ影──全身を黒で包んだ女。
光沢のない黒いスーツに、深紅の髪。街灯の下で、血のような色に見えた。
レンズの奥、闇を見通す瞳が二人を射抜く。
「貴方達の話しぶりから察するに、"燃"について説明を受けたのでしょう。ウイングさんの言うそれは、心源流が煙に巻くための方便。
確かに、心の在り方は強さの根源です。ですが──彼らの力はそれだけでは説明できません」
一歩、女が前へ。
革靴の音が夜気を切り、二人の呼吸がわずかに揺れる。
「探しましたよ。ゴン君、キルア君」
親しげな響きと、微かな圧の同居した声。
「……あんた、何者だ?」
反射的に身構えるキルア。だが、視線は外せない。
肌にまとわりつく圧が、筋肉の動きを微かに縫い止める。
「そのペンダント──私の作品です」
ゴンの胸元で、小さなペンダントが脈動のように光った。
ティアナから手渡された、あの品。
「路上で話すことでもありませんし、どちらかの部屋にお邪魔しても?」
穏やかながら有無を言わせぬ調子。
ゴンは一瞬だけ迷い、目でキルアを見る。
──“あの子の師匠だ、間違いない”。
視線で合図を交わし、二人は同時に頷いた。
夜風が二人のあいだを抜け、街灯が静かに瞬く。
女──カヤはその光の下で、薄く微笑んだ。
「では、改めてお話しましょうか」
ゴンの部屋にて。
「私はカヤ。ティアナの師匠、というのが一番分かりやすいでしょうね」
扉を閉めるなり、簡潔に名乗る。
ティアナの少し盛られた師匠評を思い出し、二人はやはり、と頷いた。
「ティアナから聞いているようですね。夜も遅い。手短に本題へ。
彼らが使うのは、念じると書いて“念”。オーラ──生命エネルギーを制御する術です」
告げられる真実。
二人にとって未知の世界が、はっきり形を持ちはじめる。
「難しく考える必要はありません。
ペンを持つために手を使う。走るために足を使う。それと同じように生命エネルギーを使っているだけです」
小さなバッグに肘まで入れて何かを探りながらそう続ける。エネルギーの知覚さえできれば誰にでも使えるものなのだと。
「ちなみに、ペンダントはどのくらいの期間、身につけていましたか?」
「ハンター試験からだから、二ヶ月くらい?」
「オレは一週間もつけてないよ」
唐突な質問に、首を傾げつつも答える。
「あれは念に目覚めるのを促す道具です。それだけの期間身につけているなら、ゴン君は、目覚めていないのが不思議なくらいですね。
キルア君は、時期を合わせるなら少々手荒になりますが──やりますか?」
「やるよ。負けてられないんでね」
「では、これを持っていてください。失礼」
キルアにペンダントを手渡し、二人の肩を軽く掴む。
── 圧
存在感が膨れ上がり、空間の密度が跳ね上がる。
キルアは反射的に身を引こうとするが、肩が“固定”されたように動かない。
次の瞬間、何かが流れ込み、肌が粟立つ。
迫る隕石。見上げるほどの津波。
抗いがたい質量が正面から覆いかぶさる圧迫感。
一瞬が永遠に伸び、永遠が一拍のように縮む──
そして、ふっと消えた。
「……これで、目覚めましたね。自分の内側のエネルギーに、意識を向けてください」
冷や汗と乱れた呼吸のまま、二人は全身から溢れる何かをはっきりと感じ、目にも湯気のような物が見える。
「オーラを血液のように循環させ、自分の皮膚のようにまとって。──これが"纏"。念の基礎であり、スタートラインです」
言われるが早いか、二人は実践に移る。
溢れるだけだった力が、次第に形を得て、湖面の静けさへと落ち着いていく。多少無理矢理な目覚め方だったにもかかわらず、驚異的な順応の速さ。
「これで十分。少し手荒でしたが、“纏”さえできていれば、ウイングさんも指導を断らないはずです」
「カヤさん。なんで教えてくれたの?」
「そうだぜ。しかも、なんで“ここまで”って線引きなんだ?」
息を整え、オーラを纏い、口にしたのは当然の問い。
なぜ、弟子の知り合いに過ぎない自分たちへ、中途半端に“念”を教えるのか。
「まず、“ここまで”なのは、私は指導が得意ではないから。
ほぼ独学で身につけた私よりも、体系化している流派の指導を受ける方がいい。
次に、なぜ教えたのか――そうしたかったから。それだけです。少なくとも私は、才能を腐らせるのは罪深いと考えています」
カヤは帰り支度に移りながら、淡々と告げる。
可能性を見たいから手を貸す。だが、育てるのは自分の役目ではない。
見たいものを見たいだけで、可能性を潰すような真似はしない。
「その状態で、もう一度ウイングさんを訪ね、私の名を出してください。きっと指導してくれるでしょう。
困った時などはここに連絡を。内容によりますが助言程度ならします。道具の注文も同じ番号に」
メモ用紙に番号を書き渡し、踵を返す。
その背へ、キルアが好奇心半分・対抗心半分で問いかけた。
「アンタの弟子は、どのくらいでここまで行った?」
「ペンダントを渡した翌日には、できていましたよ」
短く、衝撃だけを置いて──カヤは部屋をあとにした。
感想をいただけるととても嬉しいです。
心源流に嫌がられるのが分かる話でした。ホークスはいいことを言いますね。
ちょっと原作介入。この後は少し早めにウイングさんが指導します。
カヤは天空闘技場につく頃に会いたかったが、タイミングが合わずに遅くなった。予定通りならペンダントだけ渡して瞑想で目覚めさせるつもりだった。
ゴンが2ヶ月着けてて目覚めなかったのは念能力の存在を知らず、目指してもいなかったから。ゴンの才能なら最長でも半月以内には本来目覚めている。
キルアはペンダントを実家においてきた。意味のあるものだと知らなかったからしょうがない。
ここからは更新頻度が下がります。アニメを見返してイメージを固めながら書いているのですが、違和感があったらごめんなさい。