「では最初の質問だ、アステリア」
セイア代表が紅茶を一口含み、静かに口を開く。
「君は、このキヴォトスにおいて──何を為すつもりだ?」
「……何を為す、か」
一瞬、言葉に詰まる。
エルデの王となる──その使命は既に果たした。大義も、背負うべき背景も、もうない。
……では、私は何を為す?
ミカ代表への恩を返すこと。このキヴォトスを放浪すること。頼まれたことをこなすこと。そして──鼠どもを狩ること。思い浮かぶは、その程度か。
私は出された紅茶を一口飲み、静かに息を吐いた。
「特別な使命はもうない。ただ、流れる水の如くこの地を見て回り、必要となれば手を貸す。私はただそれだけよ。それ以上でも、以下でもない」
「流れる水、か。なるほど、君から何の野心も感じられないわけだ。いいだろう、私はその答えでひとまず──」
セイア代表が納得の意を示そうとした時。
「待ってください、セイアさん。私から一ついいでしょうか」
「構わない。続けて、ナギサ」
隣のナギサ代表が、ティーカップをことりと置いて冷ややかに口を挟んだ。
「今日昼過ぎに発生した不良生徒の暴動において──謎の『水色の爆発』が起き、彼女らが一斉に撤収したという報告が上がっています。火薬の匂いすら伴わない爆発が」
ナギサ代表の鋭い視線が、私の目を見据える。
「そして、現場付近で貴方が手持ち大砲のようなものを所持していたことも。……この件に関して、何か説明はございますか?」
「……ああ、その報告は私も受けているよ」
ナギサ代表の追及に、セイア代表も静かに同調した。
「えっ? 私は聞いてないんだけど!? どういうこと、アステリアさん?」
驚いたようにミカ代表が身を乗り出す。テラスに、ピリッとした僅かな沈黙が落ちる。
私は何か言いかけたミカ代表を一度手で制し、ナギサ代表へと視線を戻した。
「事実だ。その爆発は私が起こした。だが、狙ったのは不良だけ。無差別ではない」
「……なるほど。その動機をお伺いしてもよろしいですか?」
私は、先ほどの光景を思い出して一つ深いため息をついた。
「昼食を摂ろうとしたら窓から不良が突っ込んできた」
「……は?」
セイア代表の素っ頓狂な声に一拍遅れて、
「……はい?」
ナギサ代表が、微笑んだまま完全に固まった。
「私の平穏な食事を台無しにした。故に、その報いを受けさせたまでだ。食べ物の恨みは恐ろしいと言うだろう?」
私は大真面目に、心底不愉快だったという事実だけを告げた。
「あははっ☆アステリアさんったら最高! 二人とも固まっちゃってるし!」
一人蚊帳の外だったミカ代表だけが、お腹を抱えてケラケラと笑い声を上げる。ひとしきり笑った後、彼女はふと真顔になって付け加えた。
「でもさ、この人悪いことしてないよね?」
すかさず私のフォローを入れてくれる。
「ん゛んっ! ……なるほど、理由は理解した。だが、その力が我々の管理外にある以上、無条件に看過することはできない」
セイア代表がわざとらしく咳払いをして、無理やり自身のペースを引き戻す。
「どうやら、君は”魔術”を使えるようだね? この地では”魔法”という呼び名が広く一般的なのだが、それが我々からして未知のものである上、キヴォトス人の特異点たる”神秘”とはまた違った異質性を持つことに変わりはない」
なぜ、セイア代表が私の扱う力を「魔術」だと断定できたのか。
──そういえば昨夜、『友達に自慢しよっと!』などとミカ代表が無邪気に言っていたような、言ってないような。それなら何もおかしくはないのだが。
「”神秘”の外にある力……管理不能である以上、なおさら慎重に扱う必要がありますね。ですが……それほど危険な力でありながら、ミカさんがいとも容易くその『つぶて』とやらを放っていたのはどういう理屈でしょうか?」
硬直から復帰したナギサ代表が、紅茶を一口飲んで鋭く付け加えた。やはりミカ代表は、「輝石のつぶて」の類を友人たる目の前の二人に披露していたか。
私は一度目を伏せ、小さく鼻で笑う。
「私の力と貴公たちの力、根源的な違いはあるだろうな。だが、私が扱う”魔術”とは本来、星を探究する『学問』に近い。知力と触媒さえあれば他者でも制御できる……それだけの話だ。ミカ代表にはその素質があったのだろう」
「──学問、ですか」
神秘に依存しない、知力による事象の書き換え。それはトリニティという『学園』の常識を根底から覆しかねない概念なのかもしれない。
おまけにあのミカ代表に『知力』の素質があったと言われたからか、ナギサ代表はどこか複雑そうな、信じ難いものを見るような表情を一瞬だけ浮かべた。
……彼女はミカ代表をどんな人だと思っているのだろう。
「……なるほど。力の性質については理解した。君の言葉に偽りは感じられない。少なくとも、“
一拍置いて、セイア代表は静かに続ける。
「だが──その力がこの地の理から外れている以上、無制限に認めるわけにはいかない。よって、いくつか条件を設けさせてもらう」
「……だろうな。聞こう」
私は背もたれから身を起こし、わずかに口角を上げた。……さて、どんな条件を出してくる?
「……結論を述べよう。アステリア、君のトリニティ滞在を──条件付きで許可する。……君は、この地に害をもたらす者ではないと判断したよ。少なくとも現時点では」
「一つ、いかなる理由があろうとこの地で『殺人』を犯してはならない。二つ、戦闘は許可するが、相手に不必要な苦痛や後遺症を与えないこと。……君の力は、この地の生徒にとっても致命傷になり得るからね」
セイア代表が静かにカップを置く。
「そして三つ、貴方の動向を把握するため、毎日『正義実現委員会』か『自警団』のどちらかに顔を出して報告すること。……貴方の監視及び案内役は、そこにいるミカさんに一任します」
(多少は束縛されるが、まあ、仕方ない。よそ者なんだ、好きに生きられないこともあるさ)
私は内心で少しだけ呆れつつも、提示された条件を反芻する。一方で、一人蚊帳の外から引き戻された当のミカ代表は──。
「やったー! アステリアさんと毎日一緒!」
「ただし、その監視が機能していないと判断した場合、即座に我々が介入します。いいですね、ミカさん?」
「もう、分かったってばナギちゃん。私に任せてよ☆」
「最も予測不能な者に、これもまた予測不能な者を任せるのは合理的だね。そうは思わないかい?」
「は? 何言ってるのかな、セイアちゃん?」
頭痛を堪えるようにこめかみを押さえるナギサ代表。一抹の煽りも込めて任命理由を告げるセイア代表。
そして、嬉しそうに胸を張ったかと思えば、直後の煽りに対して恐ろしい笑みを浮かべるミカ代表。
その三者三様の様子を見て、私はふと肩の力を抜いた。
「……いいだろう。どれも私の自由を縛るには些か緩いが、貴公らがそれで良いと言うなら、その条件を飲もう」
そう言って、私は残っていた冷めた紅茶を飲み干した。
斯くして、私──狭間の地の王アステリアの、このキヴォトスにおける奇妙な放浪生活が幕を開けたのである。
次回『血塗られた鮮紅の射手』
聖なる品性を纏いし輝く陽光、トリニティ総合学園。
その学園の自治区には、血の炎を纏う真紅と灰色の射手がいた。
…誰か、俺の原作を知らないか… 水たまりに、落としちまったみたいなんだ で、原作って知ってます?
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ブルアカもエルデンも知っている
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ブルアカのみ知っている
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エルデンのみ知っている
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ブルアカもエルデンも知らない