煌めく翼のお姫様と、色褪せた瞳の王   作:りゅう_ツチホシ

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試験が重なったり風邪を引いたりして遅れました。その分いつもより多く書いたのでよろしくお願いします。


銃と魔術の時間だ

「ここか」

 

 ミカちゃんを置いてきたことが頭の片隅に残るものの、とりあえず射撃訓練場に着いた。先程までいた大広間よりも銃声がよく響く。キヴォトスにおいてどれだけ銃撃が重視されているかが分かる。やはり正実の皆が弛まず励み続けている、その有り様はトリニティを守る者として相応しい。

 さて、早速銃を扱うとしよう。あそこのケースに入っている銃たちを借りることにする。銃を見てみると、片手で扱えそうなものもあれば、両手で扱うべきであろうもの、銃身が短いもの、長いもの、とりどりの銃たち。とりあえず一つ手にしてみる。照準の付いたそれは狙撃銃に該当するらしい。私は長弓を持っているし遠距離用の魔術も習得しているので、この銃は扱わないでよいだろう。そもそも、不良どもを相手にした通り、銃がそこまで有効であるとは思えない。あくまで私の感覚ではあるが。それならば強靭削りに特化した銃を使うべきである。敵の体勢を崩せることは戦場において有利に働くからだ。また、私が扱う銃は片手で運用できるものが好ましい。剣や杖を片手に持って戦闘することを想定してのことだ。

 ということで、他の銃の中で一際目立つ、古めかしい短銃を使ってみることにした。私の特殊能力なのか、初めて触る武器でも難なく扱うことができるという性質のために、構え・発射・装填を既に会得している。奥に的がある射撃台の前に立つ。狙いを定め、そして引き金を引く。放たれる弾丸、それは見事的の中心部に当たった。この短銃は、撃つ度に再装填が求められるようなので、切り札的運用が望ましいと思われる。装填して、もう一度射撃。またしても的の中心に当たる、いい感じだ。数発ほど撃ってみて、この銃がやけに馴染むような感覚がする。

 決まりだ、この銃と同じものを買ってもらうことにしよう。名を知らぬそれではあるが、人に聞けば分かることだろう。

 

 それでは、銃に触れたことだしミカちゃんに魔術を教授することにしよう。しかし、これにおいて重大なミスがある。ミカちゃんを大広間に置いて行ってしまったことだ。これは完全に私の責任、故に「責任を取れ」と言われてしまうだろう。私はそのような意味の言葉に滅法弱い。恐る恐る後ろを振り向いてみると────。

 

 

 いた、後ろの壁にいた。何故だか満更でもない表情をしている。

 

「初めてにしては上手いね」

 

「どうも。それはそうと、いつからいたんだ」

 

「アステリアさんが撃ち始めた時」

 

「あ──その、勝手に行ってしまって申し訳ない」

 

「別にいいよ、私もよくやることだし」

 

 よくやることなのか……それでよいのだろうか。それはさておき、もし許して貰えない場合には、「結びの教会」での贖罪か土下座、あるいは自害を考えていたが、その選択肢は不要になった。何故普通に謝らないのか? 私という褪せ人は被差別民族なのだから。

 

「その銃、気に入った? それなら持って行ってもいいよ。古すぎて誰も使わないし」

 

「ならばありがたく貰っておこう」

 

「そういえばね、キヴォトスだと銃に名前を付けたりデコレーションしたりするんだよ。名前付けるだけでもやってみない?」

 

「名前、か」

 

「例えば私の銃は『Quis ut Deus(クイス・ウト・デウス)』って付けてるの」

 

「なるほど……」

 

 己の銃に異名を付けることと同義だが、私にとってそんな機会は今までなかったと言っていい。「名刀月隠」や「長牙」、「屍山血河」といった名を持つ刀はあれど、エストックはエストックとして扱ったし、打刀は名付けぬまま打刀として振るった。さて、この古風な短銃に何の名を与えるか。

 

「決まった?」

 

「ああ、『ロックスミス』にしようかと」

 

「ふーん、『鍵職人』ねぇ。どういう意図なの?」

 

「この銃で敵の体勢を崩し、短剣で致命の一撃を決める。故にロックスミスは致命の一撃への手掛かりであり、鍵となる。そういう感じ」

 

 ミカちゃんからすると高評価のようだ。自分の武器に名付けるのは新鮮だな、やっぱりそう思う。

 

「そうだ、これでやっと魔術を教えられるな、随分と待たせてしまった」

 

「あっ、そうだよ! 魔術! 早く! ねぇ!」

 

「分──かった、今から教える。場所は変えるか?」

 

「う────ん、周りに人がいないような場所がいいかな。友達に自慢したいし、見られたりしたら困っちゃう」

 

 周りに人がいない場所、とはいっても私はトリニティをそこまで知らない。場所はミカちゃんに考えてもらった方が良いだろう。

 

「あっ! じゃあ先に私の家に行こうよ! それでいい?」

 

 いいだろう、と返事する。ああ、魔術を教えることも、人様の家で暮らすことも本当に楽しみだ。使命ある者、使命なき者、いずれにせよ冒険とはまことよいものである。

 

 

 

 

 

 

「うわあっ! 『嵐を呼ぶ戦士』だ!! 逃げ────ぐぎぇ」

 

「あばばばばばばば!!」

 

 ミカちゃんの自宅へ向かう途中、遠くで不良どもを片っ端から始末するネフェリを目にした。二振りの戦斧、全てを吹き飛ばさんと荒れ狂う雷嵐。切り付けられたであろう不良、感電したであろう不良、彼女たちが物語っている。戦士、ネフェリ・ルーの勇ましき戦いを。やはりネフェリは強いなあとつくづく思う。

 ネフェリが不良全員を討伐したのを見て、彼女に手を振ってみる。それに気付いたようで、ちゃんと返してくれた。さりげなく私は微笑む。治安維持、がんばれよ。

 

 

 

 

 

 

「着いたよ! ここが私の家で、これから貴方が過ごす場所!」

 

 ミカちゃんの自宅兼私の拠点を見て、なんだか懐かしさが込み上げる。外観から分かる高貴さは狭間の地の火山館を思わせる。懐かしさの原因はきっとそれだろう。

 

「失礼する」

 

「もう、よそよそしくしないでいいよ!」

 

「あ──、それじゃあただいまか?」

 

 ただいまで正解らしい、ミカちゃんの表情から察するに。こんなお屋敷が私の拠点とは未だに理解が及ばない。だが、記憶を無くす前の私、上流であった頃の私はきっとこのような建物で暮らしていたのだろう。昔の私への回帰のようにも思える。

 

「それで、本当は一通り案内したいんだけど、先に魔術を教えてもらおうかなっ☆」

「二階のテラスが丁度いいと思うから、そこでやろっ」

 

「了解した」

 

 

 

 案内してもらい、二階のテラスに着いた。私が病院で目覚めて大分時間が経ったが、それでも日差しが穏やかに照り付ける。風もちょっとしか吹いていないし、魔術を学ぶにはうってつけだろう。探究とは、閉じ篭ることではない。それは体のよい逃避にすぎない、学習もまた然り。

 ガーデンチェアに腰掛け、懐から魔術「輝石のつぶて」「輝石の速つぶて」「輝石の大つぶて」がそれぞれ記された巻物1つずつと、青い輝石が埋め込まれた短い杖、しろがねの杖をテーブルに置く。今出した3種の魔術は、初心者がまず学ぶものである。初歩の魔術といえども、侮ることなかれ。鮮烈な成功体験は閃きにも似て、ひよっ子を魔術師に育てるのだから。故にまずは成功体験を持つことが大事なのである。

 

「あれ、もしかして魔術って勉強したりする?」

 

「そうだ」

 

「え──、勉強やだ────! 一応できるけど」

 

「本とかは読めるだろう? 魔術はこの巻物の内容を読んで理解するのが第一歩だ」

 

「それならいけるよ、任せて!」

 

 自信があるようで何よりだ。魔術を学びたいと師匠に申し上げた時の私も、こういう雰囲気があったのだろうか。いかん、思わず昔の自分と重ねてしまう。では、授業を始めようではないか。

 

「魔術を学ぶ前に一つ。まずは理解することだ。魔術に関しては、貴公はひよっ子だ。恐ろしく未熟で、まだ歩くこともできない」

 

 それを聞いてか、ミカちゃんは分かりやすい表情でほんの少しだけ落ち込んでいる。誰だって最初はそう、どんなに優れた魔術師でも聖職者でも、学びたての頃は何も知らぬものだ。だからこそ気に病むことはない。

 

「だが、自らの未熟を知る者だけが、魔術師になる。……さあ、授業を始めようか」

 

「よろしくお願いしますっ! てへっ☆」

 

 目の前の表情がぱあっと明るくなった。可愛いやつめ。だが、私は元より優しくする気はないと自負している、病院で語ったように。

 

「あっ、ローブに着替えるの忘れてた」

 

「────ってえ──────!? 今良いところだったじゃん!」

 

 

 

 上質だが簡素な濃紺のローブ、レアルカリアン・ローブに着替え、指巫女の靴に履き替える。いかにも魔術師といった装いだ。

 改めて、まずは魔術の何たるかと、その歴史を授業する。輝石の魔術師とは、星見──星占い──の末であること。星見たちは、星に運命を見出そうとし、結果として星の琥珀たる輝石の内に力を見出したこと。故に輝石の魔術とは、星の探究であると。実を言うと、輝石魔術は「星の生命」の探究でもあるのだが、「星の生命」は難解な概念なので、ここでは省略することにした。

 次に、魔術「輝石のつぶて」の巻物をミカちゃんに読んでもらう。「輝石のつぶて」は必要知力が10と、信仰のみを要求する魔術を除いて最も少ない知力で扱える魔術である。理論上、放浪騎士や盗賊、侍、密使であっても少し勉強すれば発動することが可能。ミカちゃんは知力40だったので、この魔術の習得にそれほど苦戦はしないはずだ。

 せっかくだし私も何か読んで待つことにしよう。次に読ませる「輝石の速つぶて」の巻物を読むことにした。

 少し待つと、ミカちゃんが巻物を読み終えた。内容をちゃんと理解できているだろうか。

 

「読み終えてみてどうだ?」

 

「う──ん、不思議な感じ。なんかこう……頭の中に知識が入り込む感じというか……」

 

「それは問題なく覚えられた証だ。では、次に魔術を実際に発動してみよう」

「どんなに優れた魔術師であっても、杖という触媒がなければ魔術を放てない。私が使わない杖を貸すから、それを使って詠唱してみて欲しい」

 

「おっけ──!」

 

「ああそうだ、私が展開する魔法陣の上でやってくれ」

 

 そう言ってガーデンチェアから立ち上がり、魔術「魔術の地」を詠唱。魔法陣を床に描き、ミカちゃんをそこに立たせる。

 

「なんか力が増幅されてる感じがする!」

 

 ミカちゃんはしろがねの杖を掲げて「輝石のつぶて」を詠唱する。基本的に、魔術と対応する紋章が詠唱時に浮かぶ。しかし、紋章もつぶても現れることはなかった。

 

「あれ!? 失敗しちゃったんだけど!?」

 

「最初はよく失敗する。何回もやってみることだ」

 

 もう一度詠唱してみると、今度は青白い紋章が浮かび、杖から魔力のつぶてが発射された。

 

「やったあっ! ねえ! これで私も魔術師かな!?」

 

 可愛い……。きゃっきゃっと喜んでいるところが。本当に弟子を持ってよかった。

 

「おめでとう。一度詠唱に成功したら、精神力を使い切らない限り何度も発動できるぞ」

 

 そう言ったところ、ミカちゃんは「輝石のつぶて」を連射し始めた。その様子は、魔術学院レアルカリアの建物前での輝石魔術師二人による「盛大な歓迎」を思わせる。追尾性のあるつぶてを二人から連射されるとは、たまったものではない。

 この調子で、「輝石の速つぶて」と「輝石の大つぶて」の巻物をそれぞれ読ませた。やはり失敗せずに読破し、どちらも詠唱に成功した。やっぱり魔術の素質あるよミカちゃん。それで筋力99なのはちょっとおかしいけど。

 

「感心した、こんなに早く、歩き始めるとはな。よかろう、これからは貴公が学びたい魔術を学ばせるとしよう。魔術の系統については説明するからな」

 

「やった────っ! ふぅ、ちょっと疲れたかも……」

 

「これ飲むか? 飲むだけで精神力が回復する聖水だ」

 

 青雫の聖杯瓶を取り出し、ミカちゃんに飲んでもらった。曰く、飲んでみて生き返る心地がしたという。なんと大袈裟な。

 また、狭間の地における魔術の系統について軽く説明した。魔術には、魔術学院レアルカリアの輝石魔術とカーリア王家の魔術、魔術街サリアの夜の魔術、ゲルミアの溶岩の魔術、氷の魔術、結晶人の魔術、重力魔術、指の魔術、泥人たちの魔術、死の魔術、泥濘の魔術などと多岐にわたる。なお、茨の魔術は自傷が伴うのでミカちゃんには説明していない。彼女が何を学ぶかは後で考えてもらおう。

 外へ見やれば、もう太陽が沈みかかっていた。時間を忘れるほど魔術に熱中していたのだと実感する。

 

「暗くなってきたな。今日の授業はこれでお終いとしよう。何の魔術を学ぶかは後でじっくりと考えてくれ」

 

「うん! そうだ、もうこんな時間だしディナーに行かない? 私が奢るから!」

 

「いいのか? 感謝する、貴公には世話になるばかりだ」

 

「いいのいいの! まだ何も食べてないでしょ? 美味しいものでも食べようよ!」

 

 ということで、屋敷を出て夕食を食べに行くこととなった。誰かの手料理を食べるのはいつぶりだろうか。ラダーン祭りの後で戦士たちと食べた、勇者の肉塊*1と影の地で食べたサソリ煮込み、ゆでエビ、ゆでカニくらいしか記憶がない。キヴォトスの料理、楽しませてもらおうか。

*1
勇者の死肉ではない




ロックスミス(獣狩りの短銃)

初期ではダケットを使わせようと考えていたのですが、結局獣狩りの短銃にしました。

…誰か、俺の原作を知らないか… 水たまりに、落としちまったみたいなんだ で、原作って知ってます?

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