これから便利屋を拘束する。そんな時にあいつがきた。
知り合ったきっかけは同級生でゲヘナでは珍しく授業を受けるやつで、授業の間に話しかけてきたことだったろうか。
印象は狂人、それがほとんどだ。あの笑みや笑い方がどうしようもなく狂っているように見えるらしい。だが私から見ると眼の奥に少し陰りがみえるのは気のせいなのだろうか。
正直に言ってしまえばシレネが戦闘しているところはあまり見たことがない。ただわかるとは並のやつでは歯が立たず、そして戦闘に興奮している、いわゆるバトルジャンキーなのだなということだ。
だがわたしにかかれば暴れ出したらすぐ鎮圧できるものだと思っていた。それぐらいと
「考え事かぁ?」
目の前に銃口が見える。横に避けて距離をとりながら逆に私が銃口を向ける。だが右手に持っていたマシンガンを左手で銃身を持った状態でこちらに横薙ぎをしてくる。それを銃身をあげてさらにバックスタップを刻んで避ける。冷や汗が頬を通っていく。
「銃の扱いがひどいな、そんなので私を倒せると思ってるのか?」
「扱いは人次第だぜぇ〜。あと、押されてる状態でいうと苦し紛れにしか見えないぜ?」
「はっ、いってろ」
こう言ってはるものの勝ち筋がまるで見えない。マシンガンの射程からは絶対出させてもらえず、かといえこちらが弾幕から逃れた又はあちらの銃弾が少なくなった瞬間零距離射撃や肉弾戦が待っている。
こちらも近距離は得意だが肉弾戦はやったことがない。それにシレネはこちらを遊び、又は時間稼ぎ程度にしか思っていないように感じる。現に実力差は悲しいほどあるのにまだやれている。
「おい!何が狙いなんだ!?こんな時間稼ぎのようなことをして!」
「まぁ、待ってるだよ。これを止めてくれる人を…ね」
そうシレネが言うともう話すこともないのかこちらにマシンガンを片手で構えて撃ってくる。横に走りながら考える。マシンガンの射程内では満足に照準が合わず、さりとて近距離にいくと肉弾戦が待っている。後ろに下がろうとしても追いかけてきて射程から出れない。
だが弾幕の間を縫って撃つことはできる。
だがそれも全て空いている左手で弾かれるから八方塞がりだ。
次の瞬間シレネが懐まで近付いてきていた。重心を低くするための踏み込み、そして目の前に銃を構えられ反射的に顔を横にして避けようとした。
しかしそれはブラフに過ぎなかったようだ。構えた銃をシレネの背中側に移動させ肘を下から突き上げるようにして鳩尾に入れてきた。これは八極拳の震脚、そして頂肘という技だったようだが当時の私にはそんなことを考える余裕がなかった。
「カハッッ」
「チェックメイト…てね」
肺の中の空気がすべて出ていってしまう感覚に襲われ、気づけば私は倒れ込んでいた。そこに銃口を額に突きつけられもう反抗することもできやしない。
悔しい。歯軋りの音が聞こえたが、それは私だったのだろうか
「本当に…何が…目的で」
「ん〜?あれだよあれ〜。みてみな〜」
そういって顔を無理やり上空にむけさせられた。ちらりと見たがかなり戦力が削られてしまってはいるがまだまだ風紀委員会はいる。そしてアコと先生が話し合い、いや少しの口論をしているようだ。流石にこれ以上はきついのだろう、先生側も。*1
「おい、空に何が見えると」
そこで私の言葉は止まった。なぜなら上空から凄まじい勢いでこちらに落ちてくるものが見えたからだ。そしてそれは風を切る音を立てながら先生たちの近くに落ちてきた。
「初めましてね、先生。私は風紀委員委員長の空崎ヒナよ。これは……風紀委員会が迷惑をかけたようね」
どうゆうことだ。今は委員長は巡回中なはず。それになぜうちが謝らなければいけない。それは相手や風紀委員も同じだった。
「委員長〜、このことリークしたものなんですけど周りわかってないんでこの状況説明していいですか〜?」
静寂の中で一人、シレネが声を上げた。いつも通りの少し笑っているような声。それを委員長に向けて言えるなんて余程な胆力がなければできない。
「あなたがあの…いいわ。よろしく」
「承知〜。まずこの遠征は便利屋の捕獲に見せかけたアビドスの支配。言うなれば政治的目論みがあっての遠征なんですよ〜。そこのアコさんが委員長のパトロールの時にさっさと終わらせようとしていたみたいですけどね〜?まぁ、簡単に言うとアビドスに攻める口実、ついでに便利屋捕まえれたら委員長に言い訳できるってやつかな〜?しっかしダメですよね〜?政治的介入、それを独断でやってしまうなんていやはや恐ろしい。それにこれはしばらく万魔殿にいじられるじゃぁないですか〜?てか便利屋いつのまにかトンズラこいてら」
ハッとして先生の方向を見てみると便利屋が跡形もなく消えていた。委員長たちの会話の先に逃げたのだろうか。逃げ足が早いものだ。
「ええ。私が言いたいことは全て言ってくれたわね」
シレネの口から話されたのはこの遠征の真相。アコちゃんまじで笑い物にできないことしてるよ。というか委員長が来るの待っててあんなことしてたのか。たしかに委員長公認というだけで信憑性がかなり変わってくるし、それが妥当か。
「ヒ、ヒナ委員長…」
「アコ、あなたは風紀委員室で謹慎していなさい。あとで私がいくからそこで全部喋ってもらうわ。いい?」
「は、はい…」
アコちゃんは叱られた犬みたいな顔をして消えた。わんちゃん感がすごかったなぁ。*2
〈NOside〉
「さて、先生、そしてアビドスのみなさん。今回はアコの兵力の無断使用についてこの場で謝らせてもらうわ。なにか私にできることがあれば呼んで」
「うへ〜、なんかすごい荒れてるねぇ〜」
ヒナがその場にいた全員に謝った時、近くから腑抜けた声がした。その声の張本人は小鳥遊ホシノだった。
「ホシノ先輩今まで何やってたんですか!!こっち大変だったんですよ!」
「ごめんごめん。ちょっと寝ててさ〜」
「小鳥遊ホシノ…昔からかなり変わったようね。」
「うへ〜?別におじさんは何も変わってないよ〜」
この時ホシノは愛も変わらず弛んだ声を出していたが目だけは真剣にヒナのことを見ていた。まるでそれ以上話すなというように。
「あれぇ?それに前までおじさんのこと見てた人もいるんだね〜」
「やめてくれよ、それではまるでストーカーのようではないか。まぁ、実際そうなんだが。しかし安心してくれ、今回はあんたを相手にする予定はない。このまま素直に撤退するさ。
だからあんま怒んないでくれよ?」
「うへ〜。おじさんそんな怒ってないよぉ?」
(…食えんな)
シレネはかすかに眉を細めた後肩の力を抜き、ヒナに声をかける。
「もういきましょうや、委員長。長居は無用でしょう」
「そうね、じゃあ帰りましょうか」
ヒナがそう声をほんの少しだけ張り上げると周りで硬直していた風紀委員会が撤退の準備をし始める。そして最後にヒナが先生に去り際に一言言う。
「…先生、カイザーが何かはわからないけど企んでるわ。気をつけて」
そうしてヒナは、風紀委員会とシレネと引き連れていたヘルメット団を連れてゲヘナに帰っていった。
ちなみにだがシレネたちの行動は正しいのであるとヒナが認めたこともあり、少しの事情聴取のあと、全員解放されると先に言っていた。
見送り終わった先生がポケットの違和感に気づくとそこには連絡先が記されていた。
「委員長、安心してくださいよ。俺不良じゃないので」
「噂には聞いてるわよ。不良を狩る狂人。あなたでしょ」
「もしかしたらぁ〜、そうかもね?」
(よっしゃ〜‼︎バレてねぁ!!)
実はバレてないかドキドキハラハラなシレネ