キャラクターの個性も爆発しているし、とっても素敵。
ヴァターシもっとキャラを見せて欲しい。
まだまだ募集してるのよ。
寒空の下、ゆったりとした速度で馬を歩かせている青年がいた。
ローブのフードを目深に被り、顔は伺いしれないが、身に付けている重厚そうな防具や、
馬鞍の横に鞘ごと付けてある剣は、人の背を有に越える大きさの、分厚いものだった。
この時代に一人歩き。無警戒の愚か者か、それとも腕に覚えのある剣士なのか。
まぁ、その風体が物語っているだろう。
「随分と、歩かせたな。街も近いし、少し休もう。」
路肩に馬を止め、降りる。
そのまま滑らかな動きで、まるで重さなんて感じさせない動きで、剣を鞘ごと背負った。
地面をそのブーツで踏みしめ、音を確かめながら暫く歩く。
そうして見つけた雪を被らず、乾いている土を掘り返し、枯れ葉を敷き詰め、火の魔石を一つ。
火打ち石を打ち付けて火を起こす。
”前世”を明確に憶えている青年からしたらそこまで便利なものでもないが、しかし
この世界においては、画期的で、そして非常に残念なまでに贅沢な魔石の使い方である。
背嚢から干し肉と、日持ちの良いライ麦のパンを取り出す。
スキットルに入れていた白湯を飲みながら、硬い干し肉を咀嚼する。
手製なので味はマシなのだが、"前世"のビーフジャーキーを想起させる味が悪かった。
あの、柔らかい食感を再現するには、技術も伝手も足りないのだ。
「あー、コメが食いたい。もう一度だけ、白飯を腹一杯食いたい。」
フードを外し、ようやく見えたそのカタブツそうな顔に
ガタイも良く大きな身体からは想像できないほど、切実で、素朴な願望だった。
「にしてもこの地方は寒過ぎる。白湯じゃねぇと30秒で凍るってなんだよ。」
もう冷え始めたぬるま湯をちびちび飲みながら、干し肉とライ麦のパンを胃に流し込む。
手をはたきパンくずを落とし、その手で地図を取り出す。
滅多に製図をできる人間がいないので、依頼先の長老にわざわざ頼み込んで作ったものだ。
報酬から天引きされたが、こんな寒空で死ぬかもしれなかったと考えると、
高い買い物ではなかったようだ。
こんな寒い季節に移動しているのには相応の理由がある。
自由都市エルヴィンテ。冒険者の街と呼ばれている。
ここは、"冒険者の街"と言われるには十分な程、人も、物も揃っている。
この世界には、冒険者ギルドから始まり多彩なギルドがひしめき合っている。
その中でも、商人ギルドと、冒険者ギルドが今回の目的だ。
いい加減、フリーランスは厳しいご時世だ。国家間戦争が終わったと思ったら今度は身内同士。
人間っていうのは戦争が好きすぎる。
「ん。」
徐ろに青年は鞘から剣を抜き出し構える。
「出てこい。言っておくが、殺しに躊躇はしない。」
すると、「やぁ済まないね〜。お、落ち着き給えよ、君」
森の方面から、ぴょコリと耳が見えた。その黄金色に白の体毛は、恐らくは獣人だろう。
「わ、私は悪い狐じゃ無いヨー。」
瞳は薄く細められた切れ長で、如何にも「キツネ」っぽい。と言える雰囲気だ。
貼り付けた薄ら笑いは見事なまでの不審者だが、割と本気で動揺しているのが青年にも
伝わっているので、判別がつかない。
「私は商人だ。色んなところを見て回って、様々な珍品名品仕入れているのさ。」
「ほう、そりゃご苦労なこった。護衛も付けずにか?女身一人じゃぁ些か不用心が過ぎねぇか?」
青年はまだ疑念を捨てきれない。この狐の獣人は、確かに商人だろう。
武器らしい武器もなく、コートにたくさん付いているポケットはパンパンに膨らんでおり、
ふと目に入っただけでも、薬草。ポーションの瓶。...怪しい。
「見ての通り、私は狐の獣人でね。...い」
「い?」
「イケるとおもったんだ...隠密行動は得意なのでな。」
「結果は?」
「ダイアウルフの群れに襲われて、命からがらでした。」
青年は思わず破顔した。疑う気力も削がれた。剣を戻して、この小さな客人を座らせる。
しょぼしょぼと分かりやすくしょげているように見えるが、恐らくはある程度演技している。
しかし、大変な目にあったのは事実なのだろう。
(こう、前世の言葉で言えば...人生葉っぱ隊だ。この獣人)
そんな風に、この人物に対しての警戒は解いた。がしかし、青年にはまだ腑に落ちないものがある。
どうしてこの獣人は息を切らしている。
「おい」
青年は焦る。彼が想定した最悪の事態が起きているのなら、自分はまだしも
馬が危ない。それは困るからだ。
「ちゃんと"ヴェニデ印の匂い消し”は、装備したのか?この地方だとあれでないと効かないぞ」
「ーーーはっーはっは!!!」
「図星か!!、えぇい、乗れ!!。」
急いで魔石を回収して火を消し、馬に跨る。同時に獣人を引っ掴んで
自身の前に乗せた。
「どういうことだ?なぜそれでないと効かないのだ?...」
「質問は後だ。街まで
馬の尻を軽く蹴って合図をする。
瞬時に馬は己のテンションを上げ駆け出す。
すると、森の暗がりの奥から狼の唸り声が複数聞こえ、やがてこちらを追って駆け出した。
白い毛皮に赤い瞳孔。狼が魔獣になった、ダイアウルフだ。
「追ってきた!?」
悲鳴を挙げながら青年にしがみつき、振り落とされまいとする獣人。
どうやらことの重大さを理解したようであった。
追いかけっこが始まって数分。いくら戦馬だとしても限界が近づいているのは明白だった。
既に滝のような汗をかいて息を荒げさせている。
ふと、青年の顔が明るくなる。それを彼の胸元で見ていた獣人は彼の目線の先を見て
同じく喜んだ。あと少し、もう少しだ。
「おい、狐の。今から跳ねる。舌噛まないように口は閉じとけよ。」
言うやいなや馬は高く飛び上がり、結界代わりの魔物よけを跨ぎ城門の目前まで来た。
これで助かった、と獣人がほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、
青年は馬から降りた後、剣を抜き出す。
城門を越え、衛兵の制止の呼びかけに彼はこう答えた。
「"誰かがやってくれる"んじゃない。待つくらいなら俺がやるんだよ。衛兵さん。」
ダイアウルフ達は、自ら向かってきた愚かな獲物に目を細めほくそ笑む。
彼らはその爪や牙に裂けぬものはないと思っているのだろう。
「ちょっと、待ち給え!君のせいじゃないし、もう安全だろう!?」
ー
奇妙な青年だった。ダイアウルフから、命からがら逃げた後、歴戦の冒険者と思わしき気配を
近く感じたので、助けを求めようと近づいた。
話し声がするので、だれか仲間がいるのかと耳を済ませた。
仲間がいる。そう言う訳でもないようで、怪訝に思い様子見に徹して近くの藪に潜んでいると
「出てこい。言っておくが、殺しに躊躇はしない。」
あまりにも濃密な、殺気を直に当てられた。恐らく、給水のタイミングが悪かったら粗相していた。
そう思ってしまうほどに、おどろおどろしい殺気だった。
なんとか弁明しようと舌を回すが、動揺で声が震える。
私は、自身の風貌が不審者なのを自覚しているのもあり、心臓が冷える心地だった。
尋問じみた質問をいくつかされ、隠さず答えると、彼は破顔した。
呆れた顔をした。というほうが適切だろうか。商人のくせに、と目で語っていた。
なんだかよろしくないファーストコンタクトになってしまったが、彼は私がここまで来た経緯を
把握した途端、血相を変えて私を馬に乗せた。
どうやら、面倒くさがって新しい匂い消しの香を買い替えなかったのが
駄目だったようだ。恐らく、ダイアウルフを振り切れていなかったとか、
そういったところだろう。捨て置けばいいのに。
助けてもらってなんだが、そう思った。
私だったら、余程の好条件を謝礼に提示されない限り、こうも助けるような事はしない。
街に入れるのだって金がかかる。
だが、彼にはこの世界から摩耗して久しい"善意"と呼ばれる秘宝を持っているのだ。
なのに、あんな殺意を持てるのか。
後は、馬の振動が思っていたより少なくて、驚いたのをハッキリと憶えている。
ダイアウルフは馬よりは遅い。(と言うより、青年の馬が早い。)
しかし、馬で駆け抜けた。その程度で簡単に諦めるなら、
結界線を越えた。もう、あの恐ろしい猛獣の牙で食われに済む。
この束の間の喜びを共有しようと、恩人たる青年に目を向けると
あろうことか剣を引き抜き、あの獣共に向かって歩みを進め始めた。
衛兵も何度も呼びかける。しかし、彼は一言
「"誰かがやってくれる"んじゃない。待つくらいなら俺がやるんだよ。衛兵さん。」
そうきっぱりと言うと、彼は駆け出した。
必死に叫んだ。君のせいじゃない!!。もう間に合ったんだ!!。
ざっと数えるだけで、ダイアウルフは30頭近くいる。
とてもじゃないが一人でさばける数を超えている。
身体中から変な汗が出てくる。心臓は破裂しそうなほどに激しく拍動し
この瞳は確実な情報を得ようと研ぎ澄まされている。
ひどくスローモーションな視界には、先程なんの躊躇いも無く見知らぬ私を助けた
青年の背が見える。時間間隔すらずれるほど鋭くなった私の視界でですら普通の速度なんて
馬鹿げた速さだ。とか、そんな場違いなことを考えながら。
何故だろう。彼のその背中を見ていると、心のどこか...自身の知らないどこかが刺激されて
涙が出てくる。漠然と、嫌だった。
ー
青年は、死ぬつもりなんてなかった。
30頭ほどいるダイアウルフの群れに突貫しておいてなんだが、これには彼なりに理由があるのだ。
ダイアウルフの最も厄介な特性として、匂いを覚える。というものがある。
これがたちが悪く、取り逃がした獲物を判別し、効率良く狩るための修正なのだ。
つまり、ヴェニデの匂い消しを使っていないあの獣人は、既にターゲットにされている。
このまま別れても、匂いで辿られ、そのまま喰われてしまうだろう。
なので、ここでダイアウルフに、"しつけ"をする。
割に合わないと思わせる。それが彼の目的だった。
「お前等は利口だからな。メリットとデメリットも理解しているだろう。
青年は豪速で近づき、目前にいたダイアウルフの頭をかち割った。
青年の大剣は刃があえて潰されている、鈍器のようなものだが
相手の勢いや自身の力、攻撃を加える場所を考えれば、その質量で断ち切れる。
今回は、相手の口に叩きつけたので、裂ける形になった。
「「「GAAAAARRRRRRR!?」」」
ダイアウルフ達に緊張が走る。
これは狩りでなはい。闘争なのだと理解する。
今目の前で同胞を両断したこの人間は、獲物ではない。正しく挑戦者なのだと。
そこからは早かった。
ダイアウルフ達はその数も、膂力も、牙も扱い方を心得ていた。
しかし、青年も避け方や殺し方も心得ている。
彼のローブは、ダイアウルフの鞣し革を用いている。
彼らの牙は、大抵の獣の皮は喰らい貫けるが、自身の同胞の革に、その牙は通らなかった。
簡易的な盾として機能したのだ。
「鎖帷子を縫い付けたダイアウルフの革だ。お前らには荷が重かろう。」
青年が笑みをこぼす。しかし、額には脂汗をかいている。
相当に無理をしているのだろう。
ダイアウルフのある一頭が、死角から青年に飛びかかる。腕に噛みつき動きを封じようとしたのだ。
普通の戦士ならば肉をそがれ、剣を落としていただろう。
それが、自身より大きく重い剣を片手で振り回すような男でなければの話だが。
軽くも堅牢な霊鉄製の腕当てに、牙は阻まれ、そのまま頭蓋を剣の柄で殴りぬかれ、
あえなく絶命した。その勢いのまま振るい抜き、前にいたダイアウルフを蹴散らす。
しかしその分厚い毛皮故か、なかなか衝撃が吸われてしまい死なないダイアウルフに
青年は必然的に苦戦を強いられた。
着実に限界の近づく青年だが、奮起し一度に3頭ものダイアウルフを袈裟斬りにした。
そのおかげか、ダイアウルフは、数を24に減らしていた。
まだ彼らが帰らないのは、最早挑戦者になったこの人間に、負傷を与えていないからだ。
これは、群れにとって危険だ。早めに叩いてしまおう。
この人間は疲弊している。今しかない。
ダイアウルフの脳はこう導き出した。確かにこの人間は強い。しかし殺せないほどじゃない。
これはどうしようもない事実で、そしてそれは死に直結しかねない。。
青年は変わらず戦う。決して止まっていない。
「うおおおおおおッ!!!!!」
双方、満身創痍。正しく全身全霊のぶつかり合いなのだった。
一方、青年を止めるべく声をかけていた衛兵は、自身の隊を引き連れて戻ってきていた。
未だに耐えている青年に、驚きと無事だったことへの安堵を覚える。
「彼は凄いな。お前たち...この都市の目と鼻の先で、一人の若者が戦っている。俺達の街のためかもしれないし、そこの狐のお嬢さんのためかもしれん。だが、彼に任せっきりは衛兵隊の名折れになる。...分かってるよな??」
「「「おうともよぉッ!!!」」」
「結構。では、突撃せよ!!!ダイアウルフは炎に弱い、マジックアイテムで蹴散らせ!!」
衛兵たちが加勢し、一気にダイアウルフの不利になった。
目に見えて数が減り、ダイアウルフの勢いが落ちる。12頭まで減った時点で
恐ろしい猛獣の群れは撤退を選んだ。
人間の勝利だ。
「青年、この街の衛兵隊として、深く感謝する。君のお陰で、旅人を食うダイアウルフ達を大きく減らせた。」
「いえ、街に入れれば...それ、で」
青年はふと、緊張の糸が切れたように膝をつく。
「青年!?」
衛兵が驚きの声を上げる。
狐の獣人も、遠巻きだったのに急いで青年のもとに駆けつける。
しかし青年はそのまま倒れ込んでしまった。
「おい、大丈夫か!?。そこの商人!、彼の同伴者だったな?。特別に通行料は君の分だけで良いので、彼を早急に教会の治癒の間に連れて行け。見ると、助けてもらったんだろう?彼に。」
衛兵はやや侮蔑の視線と共に、狐の獣人を一瞥した後、彼女の通行料を取った後
領主に報告しに引き上げて行った。
長くなりそうなので分けます。
誤字脱字ありましたら教えて下さいネ。