デンジの幸せを見守る会副会長サムライソード   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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第一話 犬とチェンソーと刀とヤクザ

彼はどこにでも良く出没する転生憑依者の一人。

憑依先は、サムライソードとなってデンジを襲撃し姫パイを殺すという糞のような大金星をあげる男、モミアゲマンだ。

そこで多くの憑依者がするように、当然彼もその世界の推しキャラの為に、あるいはその推しキャラと仲良しになるために行動を起こした。まずは、主人公にひどいことをする自分の爺さんに無体な仕打ちをやめるよう提言し、そして運命の少年に会いに行こうと、組の若いもんに命じて車を出させた。

まずやったのはたったそれだけだった。

入念な計画などなく、取り敢えずは… とデンジの様子を見に行こうとしただけだった。

たったそれだけの、本来の運命と異なる動きが事態を急転させる。

バタフライエフェクトというやつなのか、それとも別のナニかが起きたのかは分からない。

それによって、まずはデンジにではなく、どこか遠くの別の場所で、別の誰かの動静が変わった。

本来ならば、何らかの方法で捕らえられるか、あるいは洗脳されて、とある武器人間を製造するための材料にされるところだったその悪魔は、何の因果か、傷だらけになりながらも魔手を逃れることとなる。

そして、運命は交差する。

 

(…今なら、まだデンジの父親は生きている。爺さんは、あのクソ野郎のガキでも売り払っちまうか、なーんて言ってっからな)

 

今からこの男…立派なモミアゲを持つ、二流ヤクザ組織の若である彼は、デンジの親父を始末して臓器売買ルートにのせるか、それとも借金のカタとして鉱山送りにでもしようと思っていた。

憑依者でありながらも、ヤクザの御曹司であるモミアゲマンと魂だか意識だかが融合したせいで、なかなかエグいことを平然と考え実行する男へと変貌していた。

車の中から雨が降る外を眺めていた。

景色はどんどん変わり、やがて薄汚いスラム街のような風景となってきて、もうすぐデンジの住む掘っ立て小屋が近いと予感させた。

もうすぐデンジに会える、と思うとワクワクが止まらないモミアゲマンだったが、そんな期待はすぐに押し潰される。

 

 

 

――ヒュウうううう

 

 

 

という音とともに、ナニかがモミアゲマンの車に落下した。

そして、けたたましい音とともに車は潰れて、そして、車中の全員が死んだ。

降ってきたのは、悪魔だ。

刀の悪魔だ。

刀の悪魔は全身傷だらけで、刀は殆ど砕け散り、顔も半分抉られていて、頭部に残っていた折れた刀がモミアゲマンの頭に突き刺さって、それから刀の悪魔の全身がモミアゲマンを押し潰して、刀の悪魔とモミアゲマンはお互いに肉が潰れて血を混ぜあってミンチになって死んだ。

互いの肉と血を混ぜ合い、刀を通して脳と脳が撹拌された、という一連の死に様が、この後起きるイレギュラーの原因だったのかは、誰にも分からない。

神様になら分かったのかもしれないが、この世界にはもう超常的な超自然存在は悪魔しかいない。神様などチェーンソーでばらばらになって消えてしまったのかもしれない。だから、世界には悪魔が溢れかえっているのだろう。

 

「くっそ………いったい、何だってンだ…………あ、あーーーー…い、いてぇ……死ぬかと思った。というか、頭、潰れた感覚まだ残ってるんだが……俺、生き返った?あの感覚は…ショックが見せた幻覚かぁ?」

 

神の奇跡など起こりはしない世の中だが、悪魔がほくそ笑んで運命に悪戯を仕掛けることはよくある。

これも、その一環だったのかもしれない。なにか、超越したような、根源的な存在が玩具で遊ぶようにして、蟻で遊ぶようにして、変わり種の人間と、運命を捻じ曲げることに成功した刀の悪魔を混ぜてみたのかもしれない。

ヤクザの部下の死体と、車の破片とを刀で切り分けながら這い出てきたのは、まさに刀の悪魔と人間の融合物だ。

全身は黒尽くめの大男で、ヤクザコートをなびかせ、軍帽のツバは刀のようで、両腕にも流麗な刀身が刃文を浮かび上がらせる。

 

武器人間。

 

現状、武器を司る悪魔にのみ時折起きる超常現象で、悪魔の力を発動させるスイッチを体のどこかに隠し持つ不死人間。

武器人間は、意識と人格は人間が持つ。

だが、今回の刀の悪魔とモミアゲマンとの場合は少し事情が違うようだった。

 

「クソ……俺の上に俺が降ってくるなんて……ツいてねぇのか、ツいてるのか。だが……元々、俺はサムライソードになる展開だったわけだから、こうなるのはもう運命の赤い糸ってやつか…?あーーーー…くそ…くそ、くそ、くそ…俺の心臓が欲しくて、襲ってきた人間ども…あいつらソ連か?マキマか?黒幕は~…まぁいい、どっちでもいい…いつか絶対斬る。全員、全身斬り刻んでやる…絶対にな。だが…違う。今は違う。…デンジ…デンジだ。デンジを見守らねぇと。…あ、でも…下手に手を出して、デンジとポチタが出会わなくなったらどうしよ」

 

刀と人の意識と魂が、混ざり合っていた。

魔人のようで魔人ではない。

武器人間のようで武器人間ではない。

悪魔でも人でもなく、何者でもない。

モミアゲマンに憑依したモノが持っていた知識や経験も、彼らに混ざって濁って染み渡って意識の隅々に散らばっていく。

 

「頭が、ぼんやりする。……デンジ……そうだ…あと、ポチタ。……だけど、あ~~…えーーーと………?そう…マキマだろ?早川家だろ?レゼ……それで?」

 

せっかくのアドバンテージだった未来知識が、運命の先を知っているという事実が、まるで質の悪いビデオを質の悪いブラウン管で昔に観ていたかのように不確かにボヤけていくのを彼は実感する。

 

「メモ……メモんなきゃ、やばい。消えてく……メモ、どこだ……くそ……俺の胸ポケットの、グチャグチャじゃねーか」

 

ヤクザカーに同乗していた構成員達も、身につけていたモノを含めてグチャグチャだ。

どの死体を漁っても、メモもスマホも持っていない。

 

「スマホ?……そうだ、スマホなんて、誰も持っていない。まだ、んなもんねー…。ケータイすら」

 

刀の手で頭をガリガリ掻いて、濁る記憶の中で必死に引き出しを開けていく。

どれが、刀の悪魔の記憶だ?

どれがモミアゲマンの記憶だ?

どれが外の世界からの記憶だ?

なにがこの世界の常識だったのか、どの経験を信じればいいのか。どの価値観が正解か。どの自分がベースとなるべき自分なのか。

 

「ぐ…………………オエーーーーーーーっ」

 

意識が、精神が、魂が、脳みその中がこんがらがり過ぎてサムライソードは吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デンジの眼の前に、ロングコートを着た男が立っていた。

男は、よく見ると若々しいが、上背もあってフケ顔で、しかも額の端には刀の切っ先のような破片がツノのように見えていて、少し前までご立派に生えていたモミアゲは裂け斬れた傷跡が抉り消していた。

男は、「あちゃー」とか言いつつ、デンジの背後の扉の向こうに倒れる、デンジと似た大人を眺めている。

トラブルなく車が到着していれば、きっと間に合っていた。

だが、(刀の悪魔)(モミアゲマン)の上に降ってきて(新しい誰か)が生まれたトラブルのせいで、結局間に合わなかった。

 

「ち、ちが…ちがう。おれ、おれ、ちがうんだ……だって、とーちゃんが、おれを、殺そうと」

 

青い顔で弁明を続ける少年を尻目に、ロングコートを着た男 ――もはや刀の悪魔でもモミアゲマンでもない―― であるカタナ(仮称)は、取り敢えずまず第一にヤるべきことは分かっていた。

 

「大丈夫だ」

 

そう言って、震える少年を抱きしめることだ。

ぎゅううっとしっかり抱きしめて、そして大人の(と言っても、この体の素体であるモミアゲマンの現在の年齢は推定で16歳。まだ青年一歩手前だった。というのは、肉体情報を読み取ったカタナは知っている)安心感と温もりを与え、伝えるのだ。

不安がる子供にはこれが一番だと、モミアゲマンに取り憑いていた上位次元の観測者(転生者)の知識が告げていた。

 

(うわ、くっせ)

 

だが少年は臭かった。

当然だ。

少年は極貧で、台所で浴びる水道シャワーなど3日に1回程度で、全身を洗うチャンスは雨の日ぐらいだ。

だがしかし、カタナはそのくっさい少年ことデンジを抱っこすることに感動していた。喜んですらいた。

別にカタナは同性愛者でもショタコンでもない。

しかし、少年デンジは可愛かった。

カタナに混じった意識は、幼き日のデンジとポチタが戯れる光景に胸をキュンキュンさせていたから、今のカタナがこうなるのも当然なのだろう。

いわゆる、推しとハグ、という状態なのだから。

デンジが落ち着いたのを感じたカタナは、デンジのボサボサ頭を優しくポンポンと撫でてから、徐ろにデンジの親父の死体に近づき、そしてあからさまに救助してみた。

 

「おっ!良かったな、坊主!お前の親父生きてるぞ!!」

 

「………え?」

 

大嘘だった。

少年デンジでさえ、一目で 殺しちゃった と理解できるぐらいに頭が割れて血がどっくどくだったが。

なんなら脳みそ漏れてるが。

それでも、カタナは溢れた脳みそを傷跡から注いで、証拠隠滅して、そして、

 

「こいつにゃウチん家が貸した金が4000万?だっけか?あるからな…死なれちゃ困るし、俺がこのまま病院連れてって、んでなぁ……こいつの働くスピードに任せてたら何十年かかっても完済できねーから、悪いが坊主…お前の親父は退院したら鉱山送りにする」

 

いい?

と聞いてみると、少年はコクコクと必死になって頷いた。

これでデンジを幸せにする第一歩はOKかな?とかなんとかカタナは思いつつ、デンジに名刺を渡す。

 

(そうだ。デンジを、幸せにする。それが……俺の義務、だったような、気がする)

「また来る。が、俺が来るまでになんかあったら、この名刺を見せろ。この辺りじゃそれなりに力持ってる紙切れだ」

 

「あ、ありがとーーー…おじ、ちゃん?」

 

「お、おじ…おじィ…?」

 

俺はまだ16歳だぜ呼ぶならおにーちゃんと呼びな坊主、と言いたかったが、よく考えたら16歳だったのはモミアゲマンで、刀の悪魔に至っては1000歳とか2000歳とか(悪魔は誰も自分の年齢なんて数えちゃいないし、地獄の時間の流れは地上とはちょっと違う。考えるだけ無駄なのだ)のレベルであり、もはやモミアゲマンでも刀の悪魔でもない今の自分は〝0歳と数時間児〟なので、16歳を自称するのはやめておいた。

デンジ少年は、まだ生きているらしいピクリともしない父親を担いで、のっしのっしと去っていく男を見送る。

ホッとしていた。

死んだと思っていた父親は、どうやら生きているらしいし、しかもいつも酔っ払っていて自分を殴る蹴るする父がいなくなったのだから。

 

「あ、あのおじちゃんの名前…聞いときゃよかった。……えと、これ……なんて読むんだ?」

 

幼稚園にも通っておらず、親から教育を受けていない6歳児に、読み書きは不可能だった。

だが、あの男が抱きしめてくれた温もりは二度と忘れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌月、デンジの父親の葬儀が行われた。

とてつもなく簡素な葬儀だった。

子供を殴る蹴るする常時酔っ払い男の死を見送ったのは、デンジとロングコートの男だけだった。

本来、ここに借金の催促にくるヤクザの老人……つまりはカタナの祖父は、デンジの一件を孫に任せることにしたようで姿はない。

 

「ごめんな、デンジ。お前の親父、落盤事故で死んじまった」

 

「…うん」

 

大嘘だった。

だってもう死んでいたから、全ての内臓を取っ払われて臓器売買されきったデンジの親父の死体は、ヤクザが懇意にする地元の漁業組合に冷凍庫を貸してもらって保存しておいた。

もうガワだけだがさっき解凍したのだ。だって埋めないといけないから。

葬儀イベントこそが、デンジとポチタの出会いの場なのだから。

 

「これ…お悔やみ料金。あと、お前の親父がこさえた借金だが、残りは1000万ぐらいだ」

 

「うわ、お札いっぱい入ってる。いいの?にーちゃん、ありがとう。……あーーー、えと……前さー、4000万って言ってなかったっけ?すげー安くなってない?」

 

渡された紙袋の中にぎっしり入っている札束は、未だにカタナを純然たる孫と思い込んでいるヤクザの爺さんからのお小遣いだった。

そして、デンジの親父を解体して売った金と、さらに爺さんの孫ラブ具合に付け込んだ ――特に、最近は孫が顔に傷跡が残るほどの大怪我から生存した喜びで甘々になっている―― おねだり大作戦で、デンジに残された借金は-3000万でフィニッシュ。

1000万くらいなら、酷いピンハネをしなければデンジとポチタのデビルハンター業でも何とかなるだろう。

もちろん、カタナは自分も手伝う気まんまんである。

そのために民間デビルハンターの資格もとった。

カタナは、デンジを本来の運命通りにいかせなきゃダメだ!という意識はない。だって、本来の運命はクソ喰らえなのだ。

なんなら、このまま原作ルートには入らず、俺がデンジを引き取って、デンジとポチタと静かに暮すというのも有りだな、とさえ考えていた。

しんみりと父親が埋まっている土塊を眺めているデンジのたわし頭をワシャワシャ撫でていたが、カタナは急いでヤクザカーへと乗り込む。なぜなら、デンジとポチタの出会いの場を汚してはいけないからだ。

 

「あ…にーちゃん?」

 

「すまねぇなデンジ。俺ぁちょっと忙しくてよ。まだ学生だし、家業の手伝いばっかしてるわけにもいかなくてな」

 

なんだか、しゅん…、とした表情で見送ってくるデンジ少年の姿にときめきながらも、カタナは若権限でヤクザカーを出発させ、そして、ちょっと進んでデンジの姿が見えなくなったところで車を止めさせる。

そして、建物の影から、悪魔と融合してまるで抜き身の刀身のような銀色の波紋模様の瞳に注力し、抜群になった視力でジーーーっとデンジを観察する。

もうすぐ、デンジとポチタの出会いの時だろう。

それを見逃してはならない。

デンジが、何かに気付いたように背後の木へと振り返ったのが見える。

そして、木の陰から犬のような何かが這い出てくるのも見えた。

 

(おお…ポチタぁ!…んでもって、同時に糞チェンソー野郎でもあるぅ…っ、俺ら悪魔の中でも、最悪のイカれ悪魔……くそぉ……嫌いなのに好き)

 

それはまさに生けるマスコットであった。

うわ可愛い。カタナは思った。

いますぐダッシュで駆け寄って頬ずりしたい気持ちをグッと堪えて、デンジとポチタの邂逅を観察し続ける。

まさに、原作ファン歓喜の瞬間。

それに立ち会えるなど望外の悦び。

少年と犬。

こんな黄金色に輝く組み合わせがこの世にあるか?

まさに全俺がスタンディングオベーションだ。カタナはそんな気分だった。

あの金があれば、デンジは目も肝臓も売らないで済むし、なんならデンジを追い込む悪いヤクザは自分の一家なのだから、もはや幼少デンジの脅威は悪魔戦だけだろう。

だがそれも、自分が助力すれば問題ない。

残る関門は、爺さんである。

あの爺さんが欲をかいて、デンジ如きでも悪魔の力を利用すれば結構稼げる、と思って裏稼業のツテを使って得てしまう力が、ゾンビの悪魔だ。

あんなバイオでハザードなことが起きる前に、刀の力で皆殺しにしてもいいが、一応はあんなのでも血のつながった祖父だし、組の構成員も、酷いバカばっかだが、率先して殺して回るのはやはり気が引ける。

そう考えてみると、自分は刀の悪魔要素は薄いのだろうか。

犬と少年が抱きしめ合う光景を眺めながら、そんな埒もないことを考え続けて、そして思い出したように懐からカメラを取り出して、少年と犬を一生懸命撮影していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタナは学生である。刀の悪魔と融合して、力がみなぎってガタイは少し良くなって、元々老け顔だし今では額に刃物破片のツノとか縦に走る刀傷とかありまくりなので、あまりそうは見えないが、公称16歳であるが、実は0歳2ヶ月児だ。

そして、本来の運命と違って割と積極的に学生の身でありながら家業を手伝い、ヤクザがデンジに馬鹿なことを仕出かさないよう監視してもいた。

それに、額のツノと両頬の、かつて祖父や父との血を濃厚に感じさせたモミアゲ部分には刀で斬られたような裂傷痕があって、悪魔の影響を否が応でも感じさせるから、彼が悪魔の影響を受けているのは身内にもすぐバレた。

頭部に悪魔の影響が出るのは魔人の兆候、というのはこの世界、この時代に生きる人間には義務教育レベルの常識で、最初は祖父も父も構成員達も、デビルハンターを呼ぶかどうかで紛糾したようだが、恐る恐るといった様子で祖父や父が彼と話しあいを続けた結果、非常に理性的で人間への害意が無いと確認がとれたし、それに溺愛する孫だし跡取りだし、というコトで、悪魔の力でヤクザに尽くすなら今までと変わらず孫で跡取りで良くない?という結果に終わった。

そういうわけで、カタナは今まで通りにヤクザの若頭として働くこととなる。

 

「ふーむ…このツラのせいで悪魔の影響を隠せなくてちょっと面倒だが……うん、なんか…名作潜入ステルスアクションゲームの毒蛇主人公みたいでこのツノかっけーな」

 

だがこのようにカタナ本人は、外の世界からの知識のゲームを思い出したりして割とこの顔に乗り気であった。

それに、学業とヤクザ業の両立は大変だが、もはや半分刀の悪魔であるカタナはとんでもないタフネスがあるから割と余裕があるし、カタナが一生懸命悪魔の力でヤクザの為に働けば、あの強欲祖父や父親が悪魔契約や銃取引というバカなことを仕出かさないかもしれない……という一抹の希望がまだカタナにはあった。これも全て、デンジの幸福に繋がるならがんばってみようと思えた。

だから、自分の精神に混ぜ混ぜになった憑依観測者の知識と経験を元に、刀の悪魔として力を鍛えることにも余念がない。

ヤクザ、勉強、デンジの見守り、それ以外の時間は、きっと本来なら同世代の友人とバカやったり女作って家業の力を背景にやりたい放題遊んでいたのだろうが、今では余暇は全部刀の修行に注ぎ込んだ。

悪魔の力は、どこぞのスタンドと同じく、出来て当然と認識することが重要だ。

その意味では、モミアゲマンと刀の悪魔に混ざってきた第三要素の憑依観測者の知見は大いに役立つ。

まず、刀は万能の兵器であったのだ。

さすがは俺、とカタナは自画自賛し、そして今では誰もが忘れ去った核兵器に思いを馳せて、あんな爆発して毒を撒き散らすしか能のない糞兵器なんかにゃ負けねぇ俺こそが最強の兵器だあんな爆発も毒も刀は斬り裂ける、と胸を張っていた。

刀は凄い。

日本刀は綺麗。

剣なんかザコ。

斧はバカ。

槍はヘタレ。

矢はクズ。

あらゆる刃物の中で刀が最高。

 

「称賛しろ……刀、最高…刀、最高、刀最高……ククククク」

 

なにせ刀は以下のコトが出来ると歴史が証明している。

ソニックブームを放ち、銃弾をはじき、レーザーを捌き、実体なきモノを斬り、魔を払い、闇を照らし、次元を斬り裂き、多重次元屈折現象を起こし、流れ星とか無明逆流れとか三千世界とか九頭龍閃とか凪とかの必殺剣を持ち、そして卍解し、こんにゃくは斬れない。

それが刀である。

深夜、ひっそりとサムライソードの姿となったカタナは、超人的速度で街から遠く離れた郊外の廃墟へとやってきて、確かなイメージとともにそれらを使いこなせるようになる為に訓練に勤しむ。

サムライソードはイメージする。

サムライソードの意識の中には、それらの超常的技の数々が、ハッキリと繰り出される光景が鮮明に浮かんでいるのだ。

脳みそと魂がグチャグチャになった時に、憑依者が保持していた未来知識(原作の細かい流れ)などは掠れて不確かになってしまったというのに、こういう、本筋とは離れた脇道とか雑学とかを覚えているというのは割とある。

映画のように、ドラマのように、アニメのように、まるで経験したかのように、確信めいて刀が走った。

 

 

 

――俺は、虚空を斬れるのか?

 

――俺は、根源的な概念を斬れるのか?

 

――出来る。

 

――出来るのだ!

 

居合の構えから、サムライソードの刀が一閃、光った。

 

 

 

廃ビルが、一閃によって三棟同時に中程から、ずるり、と斜めに滑って堕ちていき、夜空を見れば雲さえも斬れて、上下左右が泣き別れていた。

 

「まずは、3つ」

 

一振りすれば、3つが斬れた。

イメージが湧く。どんどん湧く。そしてどんどん出来るようになる。

チェンソーの悪魔が、法則を引き裂き、存在をバラバラにして消してしまうように、出来ると確信してしまえば出来るのが悪魔だ。

こいつは格下だと思いこめば、支配できてしまうように。

斬れると思えば、何でも斬れる。

奥義は出ると思えば、奥義は出る。

サムライソードという存在が、理を無法に斬り裂く存在になるまでもう少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

このように時折、訓練し、学業をこなし、稼業を手伝い、デンジを連れ出して遊びに出かけたり、ポチタの散歩に一緒に出かけたりする日々が続く。

 

「うおおお!?にーちゃん、これマジでおごってくれんの!?」

 

「おー、マジよ、マジ。遠慮せず食え。俺ぁ金持ってるからな」

 

「ヤクザってすげー!俺、ヤクザになろうかなぁ~~!」

 

「あーーー、まぁそれも悪くないかもなぁ。お前の性格ならあってるかもしれねぇ。まぁその話はおいおい、な。……チェンソー、お前にもおごってやろう」

 

「ワン!?」

 

「フッフッフッ…あのチェンソーに、こうやっておごってやる日が来るとはなぁ~~…なぁチェンソーよ…地べたに頭を擦り付けて俺に感謝してもいいぜぇ?」

 

「クゥゥーーン………グルルルっ」

 

「お、おいおい、にーちゃん?ポチタいじめねーでくれって」

 

仲が良いんだか悪いんだかわかんねー、とはデンジの談。

かつてはノコギリの悪魔だったくせに、エンジンを得てからチェンソーになって刃物同盟から抜けて地獄のヒーローに成り上がったチェンソーに、刀は思うところがあるらしい。

融合ショックで、色々と刀の悪魔としての過去の記憶を失っているのに、ぼんやりと〝いがみ合った〟という事実を記憶しているあたり、結構バチバチにやり合ったことがあるのかもしれない。

でも、今の刀の悪魔はデンジと戯れるポチタを見るのは好きだった。

デンジとポチタの、こういう日常はとても大事で守るべきもの、という認識は強く持っていた。

 

(このまま、デンジをうちの組のもんとして育てるのもありかもな)

 

たとえ裏稼業に手を染めたって、カタギの人間を殺さない仕事なんていくらでもある。

カタナの祖父と父親は、女子供に手を出すことを躊躇わない…どころか、無力で安全な獲物、と認識して率先して女子供をいたぶり金のために殺すクズで、その気質が組全体を侵食していたが、それもカタナを中心とした若手メンバーでだんだんと組織改革を行っている。

あと10年もあれば、組を穏便な方法で継承して完全に自分色に染め直すことができるだろう。

目指すは、桐生ちゃんの東城会のようなヤクザだ。

カタナはそういう計画を練っていた。

この計画だと、デンジに、レゼやパワーや早川アキという面々と出会う運命を提供してやれなさそうなルートだが、それでも良いとカタナは思っていた。

あの面々と戯れる日々を間近で見たいという欲求はあるが、デンジとポチタの和気あいあいとした日々をすでにいっぱい見れて眼福だから、早川家は諦めて、ヤクザルートで自分の庇護下で安穏としたヤクザ人生を送らせるのも悪くない。

デンジの幸せを第一に考えるポチタも、すでに同意している計画だった。

 

「ま、焦ることはぁない。取り敢えずは今日は、楽しもうぜ。デンジ、チェンソー」

 

「いえーい!」

 

「ワン!」

 

「明日からは、またデビルハンターしつつ通信制やっからな。楽しんどけ」

 

「うげぇーーー!!?また通信制やんの!?このまえ終わったじゃん!」

 

「小学生のとこが終わっただけだ。お前今幾つだよ」

 

「14!もう毛も生えてっぜぇーー!」

 

「世間では、14歳は中学生ってゆーんだ」

 

「…ちゅ、ちゅーがくせー……っ」

 

「ワ、ワゥ~~っ」

 

大げさに驚くデンジと同じように、ポチタもまた大仰に驚いている。

ポチタかわいい、とカタナは思いつつ、でもこいつチェンソーなんだよな、とニヤけそうになる顔を引き締める。彼の刀の悪魔としての気質が、チェンソーの悪魔を毛嫌いするのだ。

 

「本当は、デンジよぉ…おまえには中学校に行ってもらいてーんだが」

 

「えー?それはいいって。だってガッコーって勉強するとこだろ?俺、勉強嫌いだし…こんな性格だし親もいねーし、ガッコーいったってイジメとケンカだらけだろ…ゼッテーそうなる」

 

それに金稼がねーとな、とVサインをしながらニカッと笑う少年 ――だいぶ大きくなってきた。もうすぐ、青年だろうか―― を見て、カタナは「やれやれ」と小さく溜息をついた。

 

「借金はもう返済終わってんだぜ?学校行く余裕くらいあんだろ」

 

「借金がなくなって、よーやく稼いだ金が全部俺んモンになるんだろー!稼ぐのがマジで楽しいんだよぉ~~今はよぉ~~!それに学歴なくたって俺は将来ヤクザになっから!な!ポチタ!」

 

「ワン!」

 

デンジとポチタ、二人揃って瞳を$マークにしているかのように、手を取り合って小躍り。

それを見ていたカタナは、あれはチェンソー… と自分に言い聞かせながらも、ついついニヘラっと頬を緩めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな日々が続いて、ここ数年、デンジとポチタとカタナは順調に幸せで、すっかり油断していたのかもしれない。

この数年の中で、ポチタに自分の指を斬っては食わせ(カタナは武器人間としての特性も持っているため、変身トリガーをひけば傷は治る)、悪魔の肉を捕食した判定で力を増すことを期待してのことだったが、カタナが魔人でも武器人間でも悪魔でもない存在故か、ポチタの力はそこまで戻っていない。

もっとも、それでも初期よりはだいぶ力も戻っているから、デンジの膂力でポチタチェーンソーを振るってもかなりの火力を叩き出せる程度までは力を増していた。

 

「クソが」

 

サムライソードの姿になって、カタナは呟いた。

祖父だから、という血の温情など、やはり無用の長物であったと確信した。欲深い祖父は、刀の悪魔の尽力もあってこれだけ順調に行っていた組経営にも満足せず、順調に借金を返し終わったデンジを見て、悪魔の力の偉大さをより強く実感してしまったらしい。

自分の孫が悪魔の力で強大な力を得たのは当然だが、あの浮浪犬のデンジまでが悪魔の力でこれほどの力を得るとは。ヤクザの爺さんはそんなことを考えたのだ。

変えられる運命があれば、変わらない運命もある。

ある日、いつものようにデンジの様子を見に行こうと、事務所のヤクザカーを呼び出そうとしたら、爺さんが所有する事務所に電話が繋がらない。そこには構成員が一人もいなかったからだ。

総出でお出かけらしい。

どこぞの組にカチコミでもかけているのか、と思ったが、嫌な予感と嫌な臭いがして急いでサムライソードに変身すると、刀で次元を切り裂いて空間をショートカットする。

目指す場所は、事前に目星をつけていた、組が所有する廃工場だ。

ゾンビ戦を展開できるのはここしかない、という感じの廃工場で、組の息がかかっているものはそこ一件しかない。

そして、空間を切り裂いて繋げて、瞬きするより速く、工場の真上から出現したサムライソードは自由落下しながら、くんっ、と鼻を鳴らして濃厚な悪魔の臭いを感じ取った。

 

「糞ジジイ…俺が引導を渡してやる。それがせめてもの身内の愛情ってやつだ」

 

刀が光った。

廃工場の屋上が綺麗に人一人分切り抜かれて、サムライソードは、すとん、と静かに降り立つ。

 

「ぶあ゛あ゛あ゛~~~」

 

「がぁ゛ぁ゛ぁ゛」

 

「ア゛あア゛ァァア゛あ゛ア゛ああああア゛」

 

そして、周囲は歩く死体だらけ。

 

「デビルハンターは僕ら悪魔を殺すから嫌い!だから殺しちゃうんだ!みんな!バラバラにしてゴミ箱にでも捨てちゃって!!」

 

顔のない頭から脳みそを剥き出しにして、胸からデカい顔を浮かび上がらせて、剥き出しの内臓を触手のようにうじゅるうじゅると伸ばして大量の人間達を使役する悪魔が、そう叫んでいた。

ゾンビの悪魔と、ゾンビとなったヤクザ達が、一人の少年を追い回していた。

少年はデンジで、そして、血を流して必死に逃げていた。

デンジが抱えるポチタからも血がだらだらと流れる。

血を流す二人を、それを見た瞬間、サムライソードは()れた。

 

――キィィィン

 

刀が月光を照らし返し、光が一度、二度、瞬いた。

風を斬る音すら置き去りにして、見えない刃がデンジとポチタ以外を切り裂いた。

瞬きする間よりも僅かのことだった。

 

「あ…え…?えへ?へげ?なん、お、おま…おまえ、だって…悪魔、なの、に、あげげげげげ」

 

全てのゾンビと、ゾンビの悪魔が、ボロボロボロ、と細切れになって崩れていく。

崩れながら、ゾンビの悪魔は、同じ悪魔の臭いを発するヤツを絶望の顔で眺めながら、無数のサイコロ肉片となって地獄へ還った。

ゾンビ達も、全てがもはやサイコロ肉片と化していて、サムライソードは「しまった」と一言呟き、サイコロ肉片達を見回した。

 

「どれが爺ちゃんだ?最後くらい、顔を踏んでやろうと思ったのに」

 

まぁいいや、と肉片を踏み荒らしながら、サムライソードはゆっくりデンジへと近づくと、デンジは心臓を苦しそうに抑えながら血を吐いて、異形へ向かって「来るな…!」と叫ぶ。

 

「デンジ、俺だ。にーちゃんだぜ」

 

「は…?あ…?ええ?そ、その声……ゴホッ、ごぼっ…確かに……どーしたんだよ、その見た目…」

 

「喋るな。怪我をしてるし…体調も悪そうだな」

 

両手の刀を引っ込めて、しゃがみ込んでデンジの顔を覗き込もうとしたが、頭の刀が何とも邪魔だった。

 

(そうだった…デンジは心臓が悪いんだったな。大事な、本来の運命の情報が…ノイズだらけの糞映画を観るみたいな感覚で、抜け落ちていた)

 

サムライソードは、デンジとポチタを抱きかかえる。

 

「…なんか、分かる……見た目全然チゲーけど、ゴホッ…にーちゃんだ………。にーちゃん、ポチタが……俺ぁいいから、ポチタ診てやって…くれ」

 

「大丈夫だ。この程度の傷なら、血を飲ませときゃ治る。問題は……お前だ、デンジ」

 

サムライソードは、デンジを抱えながら跳躍し、そして街一番の大きな病院へと急ぐ。急ぎつつ、デンジへ何度か謝罪を繰り返していた。

すまない、と。

 

「にーちゃんは、助けてくれたろ。…なんで、謝んのさ」

 

「もっと早く、爺さんを殺すべきだった。身内だから、少し躊躇った。躊躇わなきゃ…お前らにこんな怪我させなくて良かったンだ」

 

「……わかる、ぜ……家族、殴ったり、って……イヤだもんな……っ、ゴボっ」

 

ビルを、民家を、何棟か飛び越えて、屋上から屋上を飛び跳ね、夜風を切って駆けていく。

 

(俺は、何でも斬れる。だが、人間の怪我一つ、治せやしない)

 

デンジが受けた傷は、左脇胸。心臓のほど近く。

そしてデンジは心臓が生来弱い。

病院の裏手に着地すると同時に悪魔形態を解除し、そして、この街では割と力を持つヤクザ一家の名を出して、恫喝し、札束を投げて、この少年を治せと叫んだ。

治せなきゃ、この病院の医者達、看護師達、事務員達、全員、その家族まで、罪無き人達を巻き込んで全員に責任を取らせる。そう叫んだ。

夜間にも関わらず、医者達は目を血走らせて集中治療室に薄汚い少年を担ぎ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェンソー…俺達ァ強いはずなのに、デンジ一人幸せにできねぇのかな」

 

カタナは集中治療室手前の待合室に腰掛けていた。

膝にはポチタが今にも泣きそうな顔でいて、カタナは手慰みでポチタをずっと撫でていた。

ポチタが負った傷は、とっくに癒えていた。

デンジが垂れ流れた血は多く、ポチタが飲む分は充分だったからだ。

だが、デンジにそれほどの血を流させてしまったことを、ポチタもカタナも悔いていた。

 

「そもそも、テメーがいつまでもそんな弱っちい姿でいるからだ」

 

「…ワフ」

 

ポチタは弱々しく吠えた。

 

「…すまん。八つ当たりだ。元はと言やぁ俺も悪い。あーーーーーーー、さっさと爺さんもウチの組も斬っとくんだったわーー…」

 

「ワン…」

 

それはそう。ポチタはそう言いたげに小さく吠えた。ここは病院だから、そういう配慮は大事だった。

 

「いや、でもよォ。俺ぁ頑張って人間社会に馴染んで、穏便にデンジを幸せにしてやろーって思ったんだよ。ついでにチェンソー、てめーもだ。感謝しろ。俺って懐が広いよなぁ…やっぱほら俺って刀だからな…刃紋が美しいように、俺の心も美しいのかもしれん」

 

「…」

 

ポチタは今度は吠えなかった。

刀の悪魔がうざくなって無視したのではない。だってここは病院だから、そういう配慮は大事だった。

 

「デンジが退院したら、三人で暮らすか。チェンソー…おめーひとりにゃデンジを任せられんからな。この際、昔のことはお互い水に流して、一緒にデンジを幸せにする会を立ち上げようぜ」

 

「クゥーーン……」

 

小さく唸り、ポチタは悩むように首をうんうんと捻った。

 

「は?金?バカ、おまえ、おまえよりは稼げるからな?爺さん斬ったが、どうせ親父もこの悪巧みに乗ってるにちがいないんだ。ぶっ殺して財産奪うわ。んで、その金で学校に行ってもらう。学校で、デンジには甘酸っぺーー青春を送ってもらうんだ。どうだ?利用できるもんは利用する…なにせ俺達ァ悪魔だからよぉ」

 

「ワン、ワン!」

 

「クククク、そうだろぉ…いい考えだろぉ?デンジにはなあ……毎朝、ジャムとバター塗りたくった食パンを5枚食わせるぜ…?ステーキも、ハンバーグも、唐揚げだって朝から食わしてやる」

 

「わ、わふ!!?」

 

「クククク…それだけじゃない。副菜もデザートもドリンクもつけてやる……望むものを前夜に聞いておいて、次の日の朝に用意しちまうんだ。んで、おかわりもしたい放題だぜぇ…」

 

「キャンキャンキャンッ!」

 

「ククク、クワッハッハッハっ!これが、もはや学生ではない俺の力だチェンソー…!人間社会に溶け込んだ俺とテメーの格の差よぉ!」

 

「ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛っ!」

 

ポチタが悔しそうに唸ったその時、額に青筋をたてたナースさんが鼻息荒く登場した。おっかない顔をしていた。

 

「院内ではお静かにお願いしまぁす!!!?」

 

「「………」」

 

刀の悪魔とチェンソーの悪魔はしゅん…となった。

 

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