デンジの幸せを見守る会副会長サムライソード   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

3 / 7
第三話 ヒロイン魔女

鈴木カタナは一文無しである。

ヤクザ時代に稼いだ現金(現ナマ)は全部デンジ(ポチタ)に譲渡したし、祖父と父をぶっ殺して得る予定だった土地や不動産は全部マキマに没収された。

早川アキとデンジの同居を命じる現場に居合わせた際、カタナがそんな恨み節を込めてマキマに言ったら、

 

「じゃあ私の家に住んだら?」

 

と言われてさすがのカタナも仰天した。

彼の隣にいたデンジも仰天した。

さらに隣にいた早川アキも仰天した。

 

「俺も!!はいはいはい!俺もマキマさん家に住むぅ!」

 

「おまえがマキマさんと同居できるわけないだろ、このバカ!というか、マキマさん…!その鈴木はこのバカよりはマシそうですけど、危険です!」

 

「でも、彼のこと理解しないといけないから」

 

「理解!?理解なら、今までの俺達のように職場とか飲み会だけで充分です!ちょっと不用心で無警戒すぎます!もっと自分の身を大切にしてください!」

 

「俺、俺俺!俺がにーちゃんのエロ魂からマキマさんを守ります!」

 

「お前のほうがエロいだろうが…!見回り中もずっとマキマさんのコト根掘り葉掘り訊いてきやがって!」

 

「ち、ちげー!ツラとナリでよく勘違いされっけど!俺よかにーちゃんの方がエロい!にーちゃんは毎晩ソープに行ってンだぞ!」

 

「ふ…よせやい、デンジ。仕方ねーだろ…俺の股間の妖刀はいつも納まる鞘を探して飢えているンだからよぉ」

 

「マキマさん!やっぱデンジも鈴木もダメだ!こいつらやっぱクズですよ!」

 

スーツ姿の男性三人が、公安デビルハンター東京本部の格式高い課長室で、まるで酔っ払った大学生が如く喚き散らすのをマキマは心で溜息をついて聞いていた。

 

「ちょっと静かにできる?」

 

「「で、できます」」

 

「できねー」

 

マキマに諭され瞬時に大人しくなった若者二人と比べて、二人より多少年季の入った男は、まるで一番ガキのようにマキマに反抗していた。

マキマはまた溜息をついた。

 

「本当に一々突っかかってくる」

 

「おまえに反発すんのは俺のライフワークだ」

 

ギリッ、と早川アキが忌々しそうにカタナを睨む。マキマさんに向かって〝おまえ〟呼びだとぉ…と血管をピクピクさせている。

敬愛する美しい上司に、全く悪びれず反発し、しかもそれなのにマキマが己の自宅に…プライベート空間にこの無礼千万な新人を招き入れようとしているのが、早川アキにはさらに忌々しい。

マキマに言われたから静かにしているが、カタナを睨む視線はジェラシーだけで人を射殺せそうだった。

 

「あんたは美人だが、俺は心通じた女としか同棲しない主義でな。女の誘いを断るのは気が引けるが」

 

このやろおー、と早川アキは殴りかかりたい衝動にかられる。だがグッと我慢。

 

「心通じさせる為に、一緒に住んで互いを理解するんじゃないのかな」

 

えぇぇ?!何言ってるんですかマキマさん!?と早川アキは、青い顔であんぐり口を開けた。

 

「俺と一緒に暮らすと……夜這いするぜ?その覚悟がアンタにあるのか?アンタのアイドル(想い人)以外にキズモノにされていいのか?」

 

貴様ああああ!と早川アキは心で叫んだ。背のカース剣を引き抜きかけた。

 

「ゴールに辿り着けるなら、それぐらい野良犬に噛まれた程度だよ。それに…君にはそれぐらいの価値があると思っているから」

 

えええ!?マキマさん!?と早川アキは顔面中に脂汗冷や汗を滲ませ悲壮な顔となる。

 

(おもしれーヤツ)

 

最初は気に食わない先輩だと思っていたデンジだが、早川アキの百面相を見て評価を改めていた。

 

「ふーーーん。…なら、同棲するか。美人は嫌いじゃない」

 

「じゃあ決まりだね」

 

「ああああああああああああ??!!!」

 

早川アキは項垂れ、力なく膝をついた。

隣でデンジがそんな彼を指さしてギャハハハハと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マキマは鈴木カタナに可能な限り接触を続けていた。

昼飯も一緒にとりたがるし、初任務も彼女直々に特別な悪魔をハント対象としカタナの実力観察目的にバディとして同行したし、普段なら部下に任せる新人への軽い研修なども鈴木カタナには直々に行った。

そういった明らかな特別扱いに、東京本部の公安デビルハンター達は一瞬で噂で持ちきりとなる。

しかもだ。

退社するマキマの送迎車に、話題の鈴木カタナが同乗したというから、噂は瞬時に真実味を帯びて燃え上がった。

 

「そういえば、カタナくんは犬は平気?」

 

「犬は大好きだ。バカで従順で、身内には優しく愛情深いからな」

 

「ならよかった」

 

そしてマキマの清潔で広い、一等地に構えられたプライベート空間にのっそり足を踏み入れたカタナは、犬たちの猛烈な出迎えに頬を緩めて犬たちの腹に顔を埋めた。

ポチタとの共同生活以来、カタナはすっかり犬大好き人間になっていた。

 

「私には警戒心をずっと抱いているのに、犬のことは警戒しないの?」

 

「たとえマキマに支配され操られている哀れな犬でも、犬は犬だし罪はない。全部悪いのはマキマだし」

 

「ひどいね。本人を目の前にして言うなんて」

 

「だって、俺とおまえの仲なら遠慮は無用だろ」

 

「………ふふふ」

 

人の心をズバッと斬るような容赦ない言いようだが、マキマはその言葉に敵意を感じない。

いや、敵対も辞さぬような意思が込められているのは感じるし、悪意とまではいかなくとも、攻撃的な言葉のオンパレードだが、それらは全て……なんというか対等的なモノと感じられていた。

敵意というよりは、競争心。

敵対者というよりは、ライバル。

互いに切磋琢磨するような、そういう同じ高さの目線。

マキマは、前にも感じたそれをやはり感じ得ていた。

そして自然と笑みがこぼれる。

いつものような作られた無貌の笑顔ではない。

薄いながらも、自然な笑み。

 

「…そういう顔して、アンタももっと肩肘張らずに生きていければ、もっとマシだっただろうになぁ」

 

惜しいなぁ、とカタナは、早速マキマのソファーを占拠し寝っ転がりながら犬を撫で回しながら、言った。

 

「逆に君は肩から力を抜きすぎだね。そんなんじゃ足を掬われると思うけど」

 

「そん時ゃ、周りのヤツに頼るし助けてもらうさ」

 

「君の力は、ゾンビの一件やヤクザ屋敷の一件でも分かっています。君が足を掬われる程の危機では、誰も君の役に立てない」

 

「そんなことはない。特に、デンジは…チェンソーは俺の弟分でマブダチだし。あいつは俺ぐらいつえーから」

 

チェンソーマンとマブダチという、あからさまにマウント発言。

マキマの趣味嗜好を知っているがゆえの挑発。

しかもその挑発は、実に気さくに軽い気配で行われる。

マキマは一瞬、眉根を寄せて押し黙ったが以前ほど不愉快をみせなかった。

 

「面白くないジョーク…」

 

「あちゃあ。そうか…俺ってジョークの才能ないのかぁ?」

 

「そうかもね。もう言わないほうがいいんじゃない?」

 

「ヤダ。言う」

 

「くだらない」

 

「そういうくだらない男に勝てないから、こんな事しなくちゃいけないなんて…可哀想なマキマ」

 

「そう思うなら私の支配下に入って」

 

「ヤダ」

 

マキマは料理の手を止めず、振り返りもせず、犬と戯れ続けるカタナに不平不満を述べる。

背後からは、犬の穏やかなかつ賑やかな吠え声と、おっさんの笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは野良犬に噛まれる程度のこと。

ただ、肉体の孔に、皮に包まれた海綿体の肉を突っ込むだけの行為。

知識としては充分に知っていた。

だが、その行為はマキマの価値観を文字通りに破壊した。

どうということはないと確信していた。

チェンソーマンに一切の汚れない体を食べて貰うという夢には些か傷がつくが、それでもチェンソーマンを人間から取り戻し、ずっと彼と一緒にいるためなら、現在最大の障壁である男を籠絡するためなら女の体を使うことぐらい、心底軽い代償であり、手駒を使うのと同じ感覚でしかなかった。

事実、風呂で体を清めて、男が喜びそうな下着を纏って、彼のベッドに這い上がってにじり寄っても彼女の心臓も心も平穏だった。

しかし、彼の大柄な体に包まれるように抱きしめられ、口の粘膜を絡ませて事態は一変した。

今まで知らなかった感覚。

今まで知らなかった感情。

しかしずっと追い求め憧れていたモノ。

最初は僅かな痛み。血が流れ、身が裂けたが、しかし攻撃ではないそれは日本国民に変換されず、マキマだけの傷として刻まれて、そして、その後は、常に理性的であることが支配の悪魔としてもその力の行使にも重要だったが、マキマは初めてチェンソーマンの全てが滅茶苦茶な戦い方と挙動を観た時のように、或いはそれ以上に…彼女は生涯初めてと言っていいぐらいに、理性を失った。

忘我。

法悦。

狂乱。

蕩け、交じる。

常に整っていた長い赤髪が乱れ、汗だらけの額や頬に張り付いてマキマは啼いた。

汗と唾液と粘液が混ざって、熱で溶けて、心と体がバラバラになっていった。

こんなことは初めてだった。

支配の悪魔はどんな悪魔よりも言霊の扱いに長けていたのに、全く意図せぬ声を漏らし、漏らされて、高位の悪魔としての超人的肉体の精緻な操作と掌握は完全に外れて、己の制御の外で男の背を引っ掻き、脚が男の腰に絡みつく。

 

(わたしは、ナニを言った…?ナニを、されてるの?…わからない。ただ、熱い。抱きしめられている。包まれる。…彼を、私の粘膜が包んでいる。彼を中で感じる。わからない…わからない…もう、かんがえられない)

 

金色の瞳が、涙に濡れて、理性の光は消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜以降もマキマは変わらない。

次の日だけ少し歩きづらそうにしていたのを目撃されているが、常に冷静だし、口調はいつだって平静で、己の目的のためならどんな犠牲も厭わない。

あらゆる困難な仕事にも常に余裕を持ってあたり、そして、全ての敵の動きを圧倒的な知性で予測し、手玉に取る。

支配の力を使うまでもなく、盤面を支配するだけの美女だった。

だが、あの夜からマキマの金色の瞳は、無意識に鈴木カタナを追ってしまう。

彼の姿を見かけると、鼓動がほんの僅かに早まって強まる。

体温の上昇も彼女の理性は確認したが、気のせいだ、と彼女は意図的に断じて敢えて取り沙汰しない。

彼を理解するために、意識して彼を観察し共に行動するようにしているが、業務上の理由で彼と離れて行動する時、マキマは気づくと彼の姿を思い浮かべていた。

彼の行動や狙いを考えていたわけではなく、ただ理由もなく彼の姿を思い浮かべていただけだった。

業務中、窓の外を眺める時間が増えた。

余りにも興味のない相手からの電話の時、上の空になってついつい聞き返してしまう事が増えた。

そんな日々があの夜以降、ずっと続いていることにマキマは気付いていない。

いや、敢えて目を逸らしていた。それも強固に。

 

「マキマさん、なんか悩んでます?」

 

そんな事を姫野に言われた時は、マキマはきょとんとした顔をした。

なぜなら、マキマ自身、悩みなどあるわけがない…と信じていたからだ。

それに、マキマの観察力が確かなら、姫野という眼帯をした女は、自分をあまり快く思っておらず、彼女の監視網からも度々自分(マキマ)への愚痴や不満を同僚に漏らしているのを確認していた。

そんな彼女が、マキマを心配するようなことを言い出すとは驚きで、しかもそれが全くの見当違いなのだからマキマはきょとんとしたのだ。

 

「ないよ。…どうしてそう思ったのかな」

 

「えー?だってぇ」

 

毛嫌いしてるはずのマキマを、ニヤニヤとまるで面白い玩具を見つけたような表情で見る姫野。

 

「窓の外見て溜息つくなんて、いつものマキマさんなら絶対しなかったじゃないですか」

 

「…………ちょっと目を休めていただけ。それに…溜息はついていないと思うけど」

 

「ついてましたよ?」

 

ね?と、周囲の別の職員に確認をとる姫野に、巻き込まれた職員達はうんうんと同意してみせた。

マキマは首をやや傾げて、うーん、と唸る。

 

「そんなことしたつもりはないんだけどな………本当に溜息を出してた?」

 

姫野はニヤニヤと、そして周囲の職員達は、中には姫野と同じようにニヤニヤした者もいたが、男性職員達の多くは何故かとても悔しそうな顔で頷いていた。

姫野は、ごほん、とわざとらしい咳払いをしてマキマに耳打ちするように言う。

 

「不肖、私姫野…男の相談なら乗りますが」

 

「……とくに今は必要ないね」

 

「ほー…そうですか。うん、まぁそういうことにしておきます」

 

いつでもご相談お待ちしてますね!とマキマにとってはわけのわからぬ事を言って、姫野は元気よく己に振り分けられた悪魔をバディ(アキ)とともにハントしに出かけていった。

 

(よく分からないな……彼女は何を言っていたのか。……でも、不思議と、なにか妙な…屈辱というか………煩わしさを感じる)

 

そう思いながら、マキマはまたも窓の外を見て、そして無意識に鈴木カタナの姿を思い浮かべて、そして、()()のことを想像すると金色の瞳を微かに爛れて蕩けさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ数日、鈴木カタナは、マキマとバディを組まされて二人で強力な悪魔を退治して回っていた。

同じ期間、デンジと早川アキは見回りをし魔人やら三下悪魔やらを退治した。もちろんデンジへの新人研修の合間に、本来のバディである姫野と本業もしているからなかなか忙しい男だ。

そして、デンジの力を見極めた早川アキは、パワーとバディを組ませることを決定。

マキマもまた、鈴木カタナの正式なバディを選定し、同日、課長室にて宣告とあいなった。

 

「おうおう!ひれ伏せ人間!ワシの名はパワー!バディとやらはウヌか!?」

 

「いや、あっちだ」

 

カタナは弟分を指さした。

 

「む?確かに人間の匂いがせんのう。む~~~?見れば、お主ツノがあるのぉ。…人間の匂いも悪魔の匂いもせぬが?お主は悪魔ではないか?悪魔っぽくないか、ウヌ。これはいきなりワシの活躍アピールの時間の到来か?」

 

「ンなわけあるか。公安の本部でスーツ着てぼーっと突っ立ってる悪魔なんていねーよ。いても一匹ぐらいだろ」

 

マキマがぴくりと反応したが、微か過ぎてアキもデンジも気付いていない。

 

「ふむーー?確かにそんなバカな悪魔はおらんか。それもそうじゃなあ……というと、こっちのバカ面のウヌがバディか!」

 

ぐわっと迫ってくる見た目だけ麗しい美少女に、デンジは色々と「パワー!?名前、パワー!?」とか「つーか魔人なの!?」とか「魔人がデビルハンターなんかやってもいいのか!?」とか「まぁにーちゃんみてーな事もあるしな?」とか若干の混乱が見られたものの、

 

「まぁいいか!よろしくなぁ!!」

 

パワーのおっぱいを見て瞬時に結論を導き出した。

男にとって可愛いことは正義であり、おっぱいがついていることは正義であった。

早川アキは、それを虚無宿す瞳で眺めるだけだった。

 

「パワーちゃんについて、なにか聞きたい事があったら早川くんに聞きな。彼がきみ達を組ませたから。…それで、カタナくんのバディだけどね」

 

私以外務まりそうもないので私のままです、とさらりと言ってのけて、早川アキは瞳に宿す虚空をさらにでっかくして心が宇宙に飛び去りかけていた。

デンジはずっとパワーとドツキ漫才をしており、合間に、「えー!?にーちゃん、ずりーー!!っつっても俺もまぁおっぱいついてるヤツがバディだから…あいこ?」とか言い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタナは、早川家に度々遊びに来る。

お土産はいつもたんまり持ってくるから、早川アキもパワーも悪い顔はしないし、何よりデンジがカタナの来訪を喜んだ。

 

「うおおおお!なんだこのケーキ!うっめぇぇぇぇ!」

 

「やめろウヌは食うな!これはワシのじゃ!ワシのケーキじゃ!」

 

「いつもすまないな、鈴木。安くないだろ、これ」

 

実際の年齢は年上だろうが公安デビルハンターとしては自分が先輩、ということで早川アキはカタナに対してこういう口調だが、カタナとしてはそこに拘りはないし、実際、早川アキは先輩であり、それに鈴木カタナとしての生の始まりは、あの時…車の上に刀の悪魔が落下してきてからだ。

だからそこからカウントするなら実年齢も早川アキが上である。

なんなら、デンジより年下ですらある。

だから先輩後輩、年功序列などカタナにとって殆どどうでもいい事だった。

 

「気にしないでください。このケーキは冷蔵庫にあったやつなんで」

 

早川アキの表情が固まり、動きが止まった。

 

「冷蔵庫…?マキマさん家の、冷蔵庫から勝手に…?」

 

「それ、うまいですよね。マキマ……さんも好きみたいで、良く買い置いてます。しょっちゅう冷蔵庫にあるんですよ」

 

アキの前だからか、マキマを呼び捨てにしない程度の理性と気遣いは出来る男。それが鈴木カタナだった。

だが、マキマの私室の冷蔵庫を好き勝手にできる男、という事実をたぁぁぁっぷり語っているこの会話内容は、それだけで早川アキの心にダメージを与える。その点は気遣いが出来ない男、それが鈴木カタナだった。

ちなみに、デンジの中ではもはやマキマは〝にーちゃんの女〟扱いになっている為、もはやマキマへの恋愛的興味、性的興味は薄れていた。あるとすれば、「にーちゃんはあんなイイ女とヤれていーなー」という羨望と、ちょっとのエロい妄想ぐらいだ。

 

「デンジ、ポチタは元気にしてるか?」

 

訊かれて、デンジは「んあ?」と手と口の周りをクリームでべとべとにしつつ、直後にニパぁぁと笑った。

 

「会う?」

 

「おう、頼む」

 

「おーい、ポチタ~~~~~起きろー」

 

デンジが胸をはだけて心臓付近をぺしぺし叩くと、デンジの胸から垂れ下がるスターターの根本がぐぬぅぅ~~~~っと盛り上がってくる。

 

「おお、いつ見てもキモいのぉ」

 

「…慣れてきたが、確かにショッキングな映像だな」

 

パワーとアキも、ケーキを突きつつ呑気に眺める。

にゅうううううっと、デンジの胸から寒天を絞り出すみたいにマスコット面の四足歩行動物が生えてきて、じゃーーん!という表情で降り立った。尻尾はデンジの胸の中に繋がっていた。

ポチタが飛び出る際には、苦痛とまでいかないが、結構な圧迫感が胸部にあるようでデンジは「ほげえげげげげっ」とアホヅラで唸っていたのがより珍妙さを増している。

 

「ワン!」

 

「…うーん……契約しだいでこんなヘンテコなこと出来るようになるなんてなぁ。やっぱお前、特別製だなぁチェンソー。どうだ?ちゃんとデンジの幸せを見守る会会長をやってるか?」

 

「ワゥン」

 

ポチタがドヤ顔で胸を張る。デンジの為に心臓を捧げるほどのデンジジャンキーは伊達ではない。

ちなみにデンジは「なにその会…こわー」と引きつつも、ちょっと嬉しそうではある。

ポチタの頭を撫でつつ、ほれ、とビーフジャーキーを差し出したカタナから、ポチタは はぐっ と歯で受け取るともちゃもちゃ食べだした。

 

「ポチター、食いすぎんなよ。今日の夕食は餃子だからよお!」

 

「ワゥ!?」

 

「でもでもー、じゃーーん!にーちゃんから差し入れのマキマさんお墨付きの高級ケーキもデザートにあんぜ!」

 

「クゥ~~ン!」

 

ポチタは困った顔をしながらも幸せそうである。

この通り、なんとポチタは意識と形を保ったままデンジの体外に排出可能となっていた。

これは、デンジと融合前にポチタが、カタナの肉を毎日少しずつ摂取することである程度力を回復していたことと、そして、契約の際にデンジが〝ポチタを抱っこしたり一緒に飯食ったりしたい。俺の前から消えないでくれ〟と願った事、が要因であるらしい。

もっとも、ポチタ形態で外に出るのは時間的にも距離的にも制約があって、デンジの胸部に埋まっている尻尾がどんなに頑張っても数m程しか伸びず、しかもこの状態はつまり心臓が飛び出ているようなもので、デンジの体にもなかなか負担があるそうで、そんなに頻繁には行えない……と言っている割には、早川家の面々が慣れるくらいにはポチタは出現してるし、なんならデンジがポチタと散歩したがって一緒に近所をお散歩している姿も目撃されている。どういうことだ?やはりチェンソーマンは謎が多い。

カタナは、深い深い溜息をつきながら、(最高かよ、この光景…)と思わずにはいられない。懐に入っているカメラで、今すぐに撮影会を開催したくて堪らなかった。開催した。

 

「うお!?なんじゃ!鈴木が急に撮影しとる!盗撮じゃ!かわいいワシを盗撮しとる!」

 

「ん?あ~~、これはにーちゃんの趣味だぜ。にーちゃんは、よく俺とポチタを撮影すんだ」

 

「おい!勝手に人の家で写真撮りまくるな!」

 

(デンジが笑ってる……ポチタがいる。早川アキも、パワーちゃんもいる…あと、ニャーコも。…最高かよ)

 

弟分達のこの笑顔こそが、己への最大のご褒美である。

鈴木カタナはそう思わずにはいられなかった。

シャッターを押す指は早川アキになにをされても止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

という団らんの光景を、遠くの電線から眺める者がいる。

監視者の視線に、鈴木カタナは心眼で気づいていたが、もはや上司となったそのスパイ動物を意味もなく斬ることは彼はもうしなかった。余程視られたくない悪事を為す時はきっと斬るだろうが。

カラスの目を通して、金色の瞳がジッと彼らを見ていた。

 

(…チェンソーマン…………それに、鈴木カタナ。……彼が、あんな風に笑っている)

 

カラスの嘴が、ギリィ、と歪んだように見える。

本来、嘴には出来ぬ動きのそれは支配する者の力が籠もりすぎたせいで起きた。

カラスの嘴が裂け、血が流れる。

それは不思議な感情だった。

あの、考え足らずのくだらぬ人間、デンジの心臓がチェンソーマンに置き換わっている…と知った時と同じような感覚。

自分に向けぬ笑顔を、彼らに、デンジに、早川アキに、パワーに見せているのを視た時から、それに似た感覚が湧き上がり、そして大きくなり、感情のうねりとなって魂の奥底を掻き乱してくる。

 

(もっと、理解しなければ。彼を。そうしないと、彼を…支配できないから。そうしないと…チェンソーマンを私のものにできないから)

 

ずっとずっと。

ずっとずっとずっと。

金色の瞳は、ひたすらに鈴木カタナを見つめていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。