デンジの幸せを見守る会副会長サムライソード   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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第五話 マイスウィートブラザーズ嫁

今回の襲撃事件で、公安対魔特異課からでた被害は、総勢3名死亡、重軽傷は合わせて9名。

そして、テロリスト側の死者は50名以上であり、自爆特攻した者の身元確認は現在も進行中でその数はさらに増える見込み。

なにはともあれ、4課から死者が出なかったのだから、なかなかの戦果だろう、とカタナは満足した。

公安対魔特異課は悪魔だけでなく人間からの奇襲を受けても揺るがぬ、という姿勢と強さを内外に見せつけられたのは、4課の者達にもプラスだったらしい。

4課で心折れた者は出ず、全員に負傷手当(臨時ボーナス)と療養休暇が言い渡されて、皆、なかなかハッピーな感じである。

特に、やはり姫野が死なず元気一杯なのが、早川アキや荒井や東山コベニらの精神衛生上よかったらしく、4課は全員が有給休暇を楽しんでいた。

と思いきや、デンジとパワーだけは1課課長の岸辺から地獄の訓練を仕込まれている。

テロリストの主目的が、デンジの心臓だったからだ。

だから標的のデンジと、そのバディのパワーは可及的速やかな戦力増強を求められた…というわけだった。

 

「今回の襲撃事件…何より幸いだったのは、俺の金玉が無事だった(チン魂歌が奏でられなかった)ことだが……―――俺は?俺は訓練しないでいいの?俺も武器人間…とはちょっと違って武器魔人だけど、…新人デビルハンターなんだけど。ちゃんと申請したよな?」

 

マキマが作った昼飯を食いつつ、そんな事を聞かされたカタナは彼女に問うた。

彼女は、いいの、と応えた。

 

「だって、岸辺さんの特訓必要ないぐらい強いでしょ」

 

「んなこたァない。岸辺さんの特殊能力無しの身体能力と格闘の先読みは、そりゃあもうかっこいい。岸辺さんに会いてーよ」

 

「私との時間の方が大事だよね」

 

「え?あ……そーいう理由…?俺の申請が却下されたのって」

 

「カタナの申請を却下したのは私じゃないよ?お偉いさんがね……カタナの戦力計算を見直して、特訓は必要ないだろうって。その分、休養して、万全の状態で仕事してもらいたいんだって」

 

「…ほんとにぃ?」

 

マキマはぷいっと目を逸らした。

そういうふうに支配し思考誘導したのでは?カタナは訝しんだ。

 

「んじゃあ~、さっさと休暇終わらせないといけないのか?」

 

アヒージョをつっつきながら訊くと、マキマは金色の瞳を弧にした。どこか妙に色香漂う、退廃的な瞳の光がカタナの男心を刺激する。

 

「有給は、公安デビルハンターは1年目から25日支給される。2年目には30日、3年目から40日。そして使いきれなかった有給は、20日分まで来年度に持ち越される」

 

有給はね、使わないといけないんだよ。

そんな事を言ってマキマはくすりと笑い、白く細い指で唇をなぞった。

空いた食器を数枚重ねて、手際よく流し台へと持ち去る彼女の背を見送り、カタナは背もたれに深く身を預けて天井を見た。そして呟いた。

 

「うう…美人と過ごすのは嬉しい。嬉しいが…デンジに会いてぇよお…チェンソーに会いてぇよお」

 

美人に求められるのはオスとして本望だったが、どうやらマキマはとてもとても拘束が強くて、そして重たくて、底なし沼で、絡みつくクモの巣だった。

男は、時としてそれを分かっていながら飛び込まないといけないのだ。

デンジよ…にーちゃんも戦うぜ、などと誓うカタナだったが、おっさん(岸辺)に殺され続ける連休を送るデンジがそれ聞いたなら、美女に枯死させられるかもしれない戦いに臨む兄貴分は、不倶戴天の敵認定されてもおかしくはないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テロリスト戦にて、バルエムと沢渡を倒した後、貧血を治すためと称してそこら中に転がるテロリストの死体から血を飲みまくっていたパワー。岸辺との訓練終了後、あえなく彼女のツノが肥大化してしまう。

連休で、イチャイチャおうちデートをしまくる合間にクソ映画鑑賞デートを繰り返し、映画鑑賞の帰りには早川家に寄ってポチタと戯れつつ、「マキマさんって、なんかねーちゃんだな、もう」とデンジに言われて、満更でもない…そんな時を過ごしていたマキマ。

満喫し肌艶ツヤツヤ・ストレスフリー状態の魔女から、パワーは哀れにも血抜きを命じられる。

「最近のマキマなんぞ怖くないのう!マキマは雑魚!マキマは雑魚!」と言いふらしまくっていたパワーは久しぶりにマキマの恐ろしさを味わうこととなる。

そして、その間のデンジのバディは〝サメの魔人〟であるビームとなった。

 

「チェンソー様!チェンソー様ア!!」

 

「ぎゃああああ!?触るんじゃねえ!男は嫌いだ!!」

 

溢れ出る忠誠心からデンジに抱きつきボコされる光景を、マキマとカタナは生暖かい目で見守る。

 

「パワーちゃんの血抜き…あんま酷い事しないであげてくださいよ、マキマ……さん」

 

カタナは、一応は仕事中はマキマと一線を引いた態度をとるよう心掛けているが、それもしょっちゅうボロが出る。さん付けもタイムラグが出るのは日常茶飯事だった。

 

「…慣れない事もうやめたら?」

 

そしてそれにマキマはいつも、少しだけ寂しそうに是正要求をする、というまでがいつものパターン。

 

「一応のケジメです」

 

「変なとこでヤクザ気質残ってるんだから」

 

そんな二人のやり取りを、今度はデンジとビームがポカぁんと見守り、そして、デンジは少しずつ不満タラタラの顔となっていった。

 

「はァ~~~~~~……あ~~~~ぁ…いいよなぁ、にーちゃんは」

 

「ん?」

 

「俺ぁ、ツラだけはいいが中身糞なパワーとバディで、パワーの代打が来たと思ったら今度は半裸の野郎だぜ!?なのに、にーちゃんはマキマさんとバディで、しかも一つ屋根の下ってよおおお~~~!マキマさんは、ねーちゃんみたいでイイなって思ってるけどよーー…それとこれとは話が別だぜ!」

 

デンジがカタナの肩にしがみついて揺すってくる。全力でだ。

カタナの頭がガックンガックンと揺れまくった。

 

「なんでにーちゃんばっかモテんだよおおおお!?ソープかぁ!ソープ行ったらモテんのかぁぁ!?」

 

「お、おおおっ、揺゛ら゛す゛な゛デンジい゛い゛い゛い゛」

 

カタナはデンジに糞甘い。

砂糖とミルクをドバドバいれたコーヒーくらいには甘い。

弟分に揺らされるがまま、デンジの不平不満を受け止めている。そして嬉しそうだ。

が、それをマキマは制止した。

 

「デンジくん、やめなさい」

 

「やめまァす!」

 

「く…っ、デンジ!兄貴分である俺より、マキマ…さんのいうことを聞き入れるたぁ!なんてこった!これが寝取られかあ?!」

 

「デンジくんにも素敵な人がきっと現れるよ。それまで、腐らずに頑張って?」

 

「頑張りまぁす!」

 

「そうだぞデンジぃ!マキマ…さん、なんかよりな…おまえにはもっと若くてピチピチのギャルが隣に相応しい!多分な、もうすぐ素敵な人が現れると思うぞ、にーちゃんは!」

 

「カタナ?」

 

マキマがカタナの肩をがっしり掴み、そして奥の部屋へと引きずっていく。

カタナは扉の奥に消えゆくまで、冷や汗を垂らしつつも、サムズアップしデンジへエールの言葉を送り続けた。

それを、デンジとビームは青い顔で見送るしかできなかった。

「やあああああああああ?!」という空にも響き渡りそうな鎮魂歌めいたカタナの叫び声が、公安東京本部の一室から奏でられたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、デンジにもとうとう現れるのだ。

運命の相手というヤツが。

 

(に、にーちゃん…!ポチタ!助けて…!どうしよう、俺……この娘、好きになっちまう!)

 

ニワカの大雨の中、駆け込んだ電話ボックスでたまたま出会った少女。

その子との会話はなかなか弾んで、そして、今は彼女のバイト先のカフェ〝二道〟にて絶賛逢引中。

 

(いや…好きになっていーんだ!だって俺ぁ別に誰も好きな人もカノジョもいねーもん!)

 

マキマのことは確かに最初好きだった。一目惚れで、そして大恩がある。

早川アキという、ちょっと反りが合わない事もあるが気が合う先輩とも引き合わせてくれたし、糞女だがツラはよくて手がかかって、なのに妙に愛嬌があってほっとけないバカなパワーとの日々も楽しい。

幼い頃から自分を気にかけてくれた〝にーちゃん〟とも、同じ職場にしてくれたし、ポチタの食事代だと言って特別手当までくれている。

夜、眠る前に必ずポチタを呼び出して、今日あったことを全部報告して、明日はこんなことがあるといーな、と笑って眠りこけられる…そういう場所をくれた者の一人がマキマだ。

それに美人だし。

それに、大好きなにーちゃんの恋人だし。

自慢のにーちゃんの奥さんとしては、あれほど理想的なサイコーな女はいないだろうとデンジでも分かるし、あんな人が〝ねーちゃん〟になってくれたら、それこそ日本中、世界中に声高に、俺のねーちゃんだぜ、と自慢したいぐらいだ。

正直、お似合いの二人だと思っていて、デンジは大げさにジェラシーを唱えて突っかかったりもするが、それらは全部お遊びと冗談の延長にすぎない。

嫉妬を遥かに超えて、カタナとマキマが仲良くしてくれていると、デンジの心はとても温かくなって満たされて、喜びを感じるのだ。

 

(………じゃー、好きんなっていいじゃん!!)

 

「どうしたの、急にピースして」

 

「あ、いや、へへへへへ、別に!いや、大丈V(ぶい)だなーーーって」

 

「ん~~~~?ふふふ、何それ~~。やっぱデンジくんって……おもしろ~~!」

 

やたら触ってくる、あまりに頻繁なボディタッチ。

覗き込んでくるような、死ぬほど可愛い上目遣い。

オスの弱点をえぐってくるカワイー笑顔。

 

「また明日ね、お客様」

 

「おぅ、また明日ぁ」

 

そして、気づけばデンジは一週間…カフェ〝二道〟に通い詰めていた。

 

「あ!お客様だ!」

 

「昼、食いきた」

 

「一週間も続けてくるほど美味しくないでしょ、ここ」

 

 

 

 

――

 

 

 

「唯一、キンタマだけは読めるんだよ」

 

「アハハハハハ!なんじゃそりゃ!」

 

「…レゼとなら、学校行きたかったかな。なんか楽しそうだし」

 

 

 

 

――

 

 

 

「この英語はなんと読むでしょうか!」

 

「ハイ!知らねえ!」

 

「正解はデカケツです!」

 

「エロ女!」

 

 

 

 

――

 

 

 

「はは!冷た~い!」

 

「俺、あんま泳げないんだよね」

 

「じゃあ教えてあげる。泳ぎ方!」

 

「え!?」

 

「脱ぎなよ。服着てると沈んじゃうよ?」

 

「エ…エッチすぎじゃないすか?」

 

「泳げるようになりたくないの?」

 

「なりたくなってきた…」

 

 

 

 

――

 

 

 

「はっ!ハハ!冷てえ!」

 

「教えてあげる!デンジくんの知らない事、できない事…私が全部、教えてあげる」

 

 

 

 

――

 

 

 

それは、全部全部デンジにとって夢のような日々だった。

幼い頃に、にーちゃんと慕うカタナと出会ってからの日々も、確かに良い日々だった。

ポチタがいて、カタナがいて、勉強もそこそこ教えてくれたし、飲み食いだって困らなくなった。幸せだった。

ゾンビの悪魔にやられても、カタナはすぐに助けてくれたし良い病院まで世話してくれて、心臓病が悪化したら今度はポチタが助けてくれた。

マキマと出会って、公安に入って、早川アキとパワーと出会って、にーちゃんとも一緒に働けて、それに今もポチタと散歩に行けてデンジは自分が恵まれていると実感していた。

だがたった一つ。

たった一つだけ足りないものがあった。

それが、エッチだ!

思春期の迸るパトスの発散先!

エッチなことできる可愛いカノジョ!

それがデンジには圧倒的に不足していた。

だが、今、眼の前に。

カノジョになってくれるかもしれない、超絶カワイー娘がいる。

デンジは最高に夢心地だった。

レゼと二人きりで、絶好の花火丸見えポイントで、祭りの屋台で買った食いもんを食べながら、夜空に花咲く花火を、レゼと見上げた。

最高に良い雰囲気だった。

 

そして…。

 

 

 

 

 

舌を噛み切られて、心臓を要求された。

 

(最っ悪だ!最悪だあああ!?なんで、なんで、俺には…こんな変な女しかよってこねーの!?にーちゃんにはマキマさんっつー、裏切らないチョーいい女がいんのに!)

 

すんでのとこで、潜航していたビームが助けてくれたが、舌と手首を切られて大量出血。

変身するには血が足りない。

そして、ボムガールになったレゼの、爆発を利用したダッシュからはビームの速度では逃れられない。

はやくもチェックメイト。

 

(デンジくん…痛いの、すぐ終わらせてあげるからね。一旦殺しちゃうけど、すぐに復活させたげるから。そしたら……そしたら、一緒にソ連に――)

 

殆ど勝ちつつある状況だった。

だがまだ勝ってない。

逃げ去るデンジとビームを視界におさめつつ、レゼは自分のお宝(ターゲット)を盗んで逃げる泥棒(ビーム)を睨んだ。

その思考が初動の遅れとなった。

 

 

――ズバッ

 

 

レゼの背後の空間が斬れた。

 

「え?」

 

急に、気配が背後に生まれたことに驚愕し、直ぐ様対応しようとしたレゼだが、それより速く黒い腕がぬぅっと現れてレゼの首を締め上げ、そして空間の裂け目へと彼女を引きずり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づくと、レゼは謎の施設にいた。

そこは、無機質で無骨な鉄板に囲まれた大きな大きな部屋だった。

まるで何かの実験施設かのような、現代の闘技場とでもいうべき鋼鉄のドーム。

 

「なにここ……。まるで…」

 

祖国(ソ連)のモルモットの食い合い部屋だ

レゼはそう思った。

爆弾、銃器、なんでもござれで、秘密の部屋のエージェント候補達のモルモット達が殺し合う部屋。そのために、特別に頑丈に作られた鋼鉄の部屋。

自分は夢でも視ているのだろうか。

ターゲットを目前にしながら、急にこんな場所に来てしまうなんて。

それとも、そういう悪魔の能力でここに連れ込まれたのか。

強制ワープの能力だなんて、かなり強力な悪魔の力だろう。

レゼは警戒を解かず、薄暗な鋼鉄のドームの中を見渡していると、

 

『ようこそレゼちゃん』

 

「っ!」

 

ドーム内に声が響いた。

スピーカーから聞こえたのは女の声だった。

 

「誰?私…忙しいから出して欲しいんだけど」

 

『この部屋はね……今はもう皆忘れてしまった〝核兵器〟から、選ばれし者だと思い込んだ人達が逃れる為の施設だったの』

 

「…核兵器…?」

 

初めて聞いた名だが、兵器と付くからにはさぞ強力な武器なのだろう。

しかし…とレゼは優れた頭脳をフル回転させながら思考した。

少しずつ慣れてきた視界と、嗅覚、触覚と、そしてアナウンスによって少し分かってきていた。

ここは地下施設だ。

匂いに蓄積された埃臭さと鉄サビ臭が混じる。

風を感じない。機械的な一定速度の空調のそよ風だけを肌に感じる。

 

「…誰だか知らないけど、地下施設に私を閉じ込めたの?バカみたい。私は〝ボムガール〟…。知ってる…?爆弾には炎と衝撃波が伴うの。衝撃波は、閉鎖空間では反射と屈折で、部屋全体に圧力が発生して、部屋の大きさ次第だけど爆炎がいっぱい酸素を消費して、有害な燃焼化合物で部屋を満たす。密室の爆弾はね…危険なんだよ?…私のためのホームグラウンドをお膳立てしてくれて、どーもありがとう」

 

何らかの方法で拉致された状況、というディスアドバンテージを、レゼは口八丁で巻き返そうとした。

交渉でも闘争でも、初手の優位性を失うというのは痛いものだった。

そんなレゼの心理を見抜いてか、スピーカー越しの声は、ふふふ、と余裕たっぷりに笑う。

声の主の狙いは、地下の密室に閉じ込めることで、レゼに〝貴様に逃げ場はない〟という実感を与え、精神的主導権を握ること。

そして、爆弾が圧倒的優位であるこの場で、〝自分のお気に入り〟の実力を存分に観戦すること。

その2点である。

 

『どんな平和な国であろうと、どんな強大な大国であろうと、核兵器の脅威というのは永遠の悪夢だった。その証拠がここ。あの爆弾があれば、レゼちゃんはもっと強かったかもしれない。でも…もう核兵器を覚えているのは私一人。……ううん……あと、もう二人いるんだ。戦争の悪魔と、そしてね…サムライソード』

 

今、君の眼の前にいるよ。

 

 

 

女の声が言い終わると同時に、施設の照明が全て点灯し、ドーム中を煌々と照らした。

ドームの中央に、ジッと佇む男らしき人物が一人、いつの間にか立っていた。

コートを羽織って、両手から日本刀を生やした怪人である。

 

「サムライ、ソード…!」

 

レゼの警戒心が数段上がる。

闘争のギアも一気にマックスへ。

ソ連上層部が、日本における最大警戒対象として名を挙げたものは三名いる。一人目は魔女・マキマ。二人目が、岸辺。そして、三人目がこのサムライソードであった。

単純戦闘能力ならば、マキマさえも凌いで危険度断トツのナンバーワン。

曰く、最強の武器人間。

曰く、日本の切り札。

曰く、魔女の刃。

チェンソーマンの心臓を手に入れる際の最大最強の障壁の一つ。

彼の名は、公安に飼われているのが確認されてから、恐ろしく短期間で畏怖とともに世界中に知れ渡った。

だがサムライソードがしでかした事の多くが未確認で、中には噂に尾びれ背びれがつきまくった大げさなものもあるに違いない。そう思えるくらいに荒唐無稽なものも多分にあった。

 

「…ま、噂が本当でも嘘でもやるしかないもんね。早く終わらそう?私…早くデンジくんを迎えに行かなくちゃいけないんだ」

 

重心を落とし、構えた。

サムライソードは変わらず、微動だにせず、ただ静かにレゼを視ている。

向き合う二人の武器人間。

 

向き合う。

 

向き合う。

 

向き合う。

 

レゼはまだ動かない。

 

いや、動けない。

 

レゼの、ボムと化した頬を冷や汗と脂汗が垂れた……ような気がした。少なくともレゼにはそう思えた。

 

(なんなの…?こいつ……なんなの…?私、どうしちゃったの?動けない…。動きたく、ない………なんで…?視えてこない……どう攻めればいいのか、取っ掛かりが、掴めない)

 

レゼの口内が急速に乾いていく。

その時、

 

 

―――ニィィ…

 

 

サムライソードが、剥き出しの歯列を歪めて笑った気がして、それを見た瞬間、レゼは怯えた。

それが合図だった。

弾けたようにレゼは飛んだ。怯えの感情によって、思わず体が動いてしまっていた。

それは自己防衛反応だったのだろう。レゼは思考するより早く動いてくれた肉体に追従し、脚を連続起爆し、その爆発力でロケットのようにかっ飛んで、そして最大火力を初手でサムライソードへと叩き込む。

 

「獲った!!!」

 

サムライソードの人影が、爆炎に呑まれて掻き消え、そしてドーム内が激しく揺れて爆破の衝撃が反響した。

その火力は、22,000ポンドの超大型爆弾相当の威力を誇り、堅牢な軍事施設とて複数棟吹き飛ばせるだけの爆発力を持っている。

まさに、人型サイズの個人が持つには規格外の威力であり、ソ連がレゼを…ボムの武器人間を誇るだけの価値をまざまざと語る。

あの火力の前で無傷で済むモノは、たとえ悪魔とて存在しない。そのようにレゼは確信していた。

欠点といえば、あまりに大量の体力と血を使い、二撃目を即座に撃てない点だ。

しかしそれは些細な問題だ。

一撃で全てに決着をつけるのだから。

 

「はぁ…はぁー……噂のサムライソードも……まぁ実際はこんなもの、かな?…でも、あんなビビっちゃうなんて、私もまだまだだよねー。…あーー、でも…これでもこのドーム、半壊ってとこぉ?…あと何発叩き込めばいいんだろ…」

 

『レゼちゃん、レゼちゃん。油断はよくないよ?』

 

「…?なにを言って――」

 

「――………獲った」

 

静かに、呟くような、男の声がレゼの耳に届いた。

 

「サムライソード…!!!?」

 

声はレゼの背後からした。

振り向けば、そこには無傷のサムライソードが佇んでいた。

 

「高速移動で、避けた…?で、でも…あの爆発なのに…!周囲からの反響する衝撃波と爆炎で、超高速でも避けれるわけが………っ!あっ!?」

 

振り向いた拍子に、レゼの手足が少しずつバラバラになって地に転がった。

 

(斬られて、いた…?うそ……いつ…?)

 

そもそもあの爆発の中で、なぜ無傷なのか。

それもレゼには分からなかった。

 

(分からない…視えなかった……これ、が……サムライソードの、力)

 

デンジくん。

レゼは、薄暗くなっていく意識の中で、無意識にその名を呟いていた。

最後に見た彼の顔が、自分に舌を噛み切られてショックに歪む顔だなんて、あんまりだ。とレゼは思った。もっと、素敵な思い出でデンジとの最後を彩りたかったと。最後に彼に謝りたかったと、そう思った。

 

(まぁ……全、部……自業自得、なんだ、けど…ね………ごめんね、デンジくん……)

 

レゼの意識はそこで途絶えた。

 

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