スキマ妖怪と支配の悪魔   作:時雨オオカミ

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記念日

「ブラック・ユーモアが多すぎて結構食傷気味だったから、意外とアニメ映画もいいなと思ったよ」

「丁寧に描写されてますもんねぇ」

「でも地球破壊爆弾はチェンソーマンに食べてもらったほうがいいと思う」

「フィクションと現実を混同しちゃいけません!」

 

 ◇

 

「無理矢理ハッピーエンドにしてるように見えるとちょっと残念だよね」

「ローマの休日しかり、悲恋は悲恋のまま終わるほうが芸術性としては高いと思いますわね」

 

 ◇

 

「警察と泥棒のコンビはやっぱり王道なのかな」

「公安も悪魔と契約して協力してるじゃない。あなたの作ろうとしている特異課では魔人とのバディも視野に入れてると言いますし、浪漫(ロマン)があるからこそでしょう。そっち方面で広報するのもありなのでは?」

「人に見た目が近い悪魔ならできるだろうけどね……取材とかはあんまり受けるつもりはないけど。恐れられていないと弱くなるから。でも、スカウトとかはできるかもしれない。バディにするなら、親しみを覚える見た目のほうがいいかもしれないもんね」

「契約次第では可能じゃないかしら。人型の悪魔は人間に対してかなり友好的なのでしょう? 本能は置いておいて」

「……一人、心当たりがあるからスカウトは前向きに考えてみるよ」

 

 ◇

 

「バットマン……コウモリの悪魔の心臓を人に移したら再現できるのかな」

「取り返しのつかないごっこ遊びはするものじゃありませんわ」

「それもそっか」

 

 ◇

 

「宮崎駿はほとんど外れないね。映像も綺麗だし」

「私も紅の豚、好きよ」

 

 ◇

 

「エイリアン、嫌いじゃないけど質感がなにか違う気がする。映像は3になってかなり進化してるけど」

「身近に悪魔がいるとねぇ……」

 

 ◇

 

「水と海への憧れの描かれかたが薄っぺらく感じちゃったな。エンディングも、ハッピーエンドかバッドエンドかで人の意見が分かれそう」

「実在する人をモデルにしてるからかしら。ちょっと誇張されて描かれている気がするわね。本人はこの映画を見てどう思ったのでしょう」

 

 ◇

 

「ディズニーはやっぱりすごいね。曲がやっぱり好きだな」

「美女と野獣だと、最後のデュエットが一番好きよ」

 

 ◇

 

 ユカリがマキマと出会ってから一年。

 気になる映画が公開されるたびに映画館へと足を運んでいた二人は、すっかり近くの喫茶店で感想を話すのが癖になっていた。

 

 コーヒーや紅茶を(たしな)みながらああだこうだと批評する時間は、他のどんなことよりも楽しく、仕事に比重を置いた生活をしていたはずのマキマが、休みの日を待ちきれなくなるほどだった。

 

「ああそうだ、お友達一年記念日としてこれをマキマに贈るわね」

「……? 随分と小さいね。中身を見てもいい?」

「あら、期待と違ったかしら」

「そうではないけれど……ユカリのことだから、お酒が出てくるかと思っていて」

「幻想郷特有の地酒もいいとは思ったんだけどねぇ」

 

 マキマが包装紙をといていき、小さな箱を開けるとそこには、紫色から黄色へとグラデーションするような宝石が輝くネクタイピンが光っていた。

 

「綺麗……」

「あなたのスーツに似合うアクセサリーがいいと思って選びました。ネックレスチェーンも付属しているので、それを通せば普段使いもちゃんとできますわ」

「すごいね、プロポーズされてるみたいな気分になる」

「あなたが良ければ攫ってしまいたいくらいには本気で大事なお友達だもの。プレゼントくらい真剣に考えますわ」

 

 冗談のように軽く、しかし冗談でもない。そんな言葉に周囲の喫茶店客が耳をそばだてる。美しい女性同士のじゃれあいのような会話は他者の興味を惹く内容だった。

 

「嬉しいな。ありがとう、ユカリ。この宝石の色がすごく綺麗。私の目の色と、ユカリの名前の色だね」

「気づきました? アメトリンという、アメジストとシトリンを組み合わせたような色合いの宝石なんです。私たちにピッタリの石でしょう?」

「うん、私が用意したものよりずっといい」

 

 少しばかり自信を無くしたような様子になるマキマに、ユカリが手を差し出す、

 

「渡してください。私にとっては、マキマも記念日を覚えていてくれたのが一番嬉しいことです。あなた、本来はこんなこと覚えもしないでしょう」

「そうだね、普段なら覚える気はあんまりないよ。はい、これ。私からのプレゼント」

 

 細長い箱から出てきたのは上品な扇子だった。

 

「京都のブランド品なんだけど、ユカリはよく扇子を持ってるから好きなのかなと思って、綺麗なのを買ってみたんだ。どうかな?」

「嬉しいですわ。いい香りのする扇子ね、普段使いもできて素敵」

 

 プレゼント交換を終えてお互いに贈られたものを身につける。

 それからはまた映画の話になっていたが、そばにいた客が数人……女性同士のロマンスに目覚めるきっかけになったのは間違いのないことだった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「今日の仕事は海の方面での悪魔捜索です。海難事故が多発していて、人魚のような姿の目撃証言があるそうです。よって、海難事故の半分以上が仮称『人魚の悪魔』によるものだと推定されています。十分に注意をして捜索をしてください」

 

 車中で話すマキマに、ユカリが頷く。

 

「人魚ですか。淡水魚じゃなくて海水魚ならお刺身がいいかしら」

「素人がいきなりお刺身に挑戦すると良くないんじゃないかな。火はちゃんと通さないと」

「ねえ〜佐原ちゃん、これ突っ込んでいいやつだと思う?」

「人魚を食べようとするのはなんか、なんか違うんじゃないでしょうか……」

「あはは! だよね! 私らの上司は変な冗談が多いなあ〜」

 

 今度は蚊帳の外にされず、実力を測る目的もあって同行をする姫野、佐原バディが変な顔をする。

 二人だけの世界に入ってやりとりをするユカリとマキマに引いている様子だった。

 

「シンプルに焼き魚、煮物、なにがいいかしら」

「お酒は現地で用意しようね」

「え、本気で言ってる?」

「冗談ですわ」

「冗談だよ」

 

 姫野の言葉に一斉に返す二人の言葉は、ちっとも冗談のようには聞こえなかった。

 

「海沿いに水族館があるみたい。帰り道に寄って行こうか」

「いいわね。どうせなら楽しまないと」

「いいのかなあ……」

「上司が良いって言っているんだから、いいんだよ姫野さん」

「公安って、意外とアットホームな職場なんですね」

「公安がアットホームなのはなんか違くない……?」

 

 二人のノリに適合してしまった佐原に、一人だけ置いて行かれている姫野が困惑する。暗く落ち込んでばかりいた彼女が立ちなおらざるを得なくなるくらい、ユカリとマキマのノリはおかしなものだった。

 

「ユカリ、また匂いがする。別の悪魔の匂い」

「海難事故。海の中に消える……また、人が消える事件ですね」

「尻尾を掴めると良いんだけど」

 

 海沿いの街を車が走る。

 

「リトルマーメイドで人魚を怖がる人は減っていると思っていましたけど、悪魔がまだ出るくらいには恐れられているのかしら」

「そのうち映画に影響された悪魔もいっぱい出るかもね」

「まさか」

 

 ユカリが笑って流す。

 ジュラシックパークの公開で恐竜の悪魔が出現する、前の年の出来事だった。




幻想郷の人魚もからあげとか言われてるし、ユカリなら食べる方面の話を絶対にするという確信があります。

本作のマキマさんは色々メロ仕草を覚えていっているので、本編に入ったとしたらデンジは大変だな……と思ってます。
そろそろ一方その頃デンジは……みたいなのも見たいな。書くか。マキマさんも見ているでしょうし。
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